コラム

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2020.03.05
人事労務トピックス

社会保険の電子申請が、2020年4月から特定の法人で義務化。
電子政府化の背景とは?

2020年4月から特定の法人を対象に、社会保険などの一部手続きにおいて、電子申請が義務化されます。今回のコラムでは、その概要について解説するとともに、電子政府化に関する大きな流れについて紹介します。

1. 電子申請の対象法人と手続き

社会保険などの手続きにおける電子申請が義務化される対象となるのは、資本金、出資金又は銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人、相互会社(保険業法)、投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律)、特定目的会社(資産の流動化に関する法律)となっています。

また、義務化される手続きは以下のとおりです。

健康保険
厚生年金保険
被保険者報酬月額算定基礎届
被保険者報酬月額変更届
被保険者賞与支払届
労働保険 継続事業(一括有期事業を含む)を行う事業主が提出する以下の申告書
・年度更新に関する申告書(概算保険料申告書、確定保険料申告書、一般拠出金申告書)
・増加概算保険料申告書
雇用保険 被保険者資格取得届
被保険者資格喪失届
被保険者転勤届
高年齢雇用継続給付支給申請
育児休業給付支給申請

これらは、2020年4月以降に始まる事業年度から適用されます。社会保険労務士や社会保険労務士法人が、対象となる特定の法人に代わって手続きを行う場合も含まれます。

2. 電子申請の方法

現在、電子申請手続きには、いくつかの方法があります。1つは、複数ある電子証明書を発行する認証局のうち、政府が提供している電子政府の総合窓口サイト「e-Gov」から、1件ずつ申請する方法です。

2つ目は、連記式・CSVファイル添付方式です。これは日本年金機構が無料で配布している届書作成プログラムを利用して電子媒体届書ファイルを作成し、e-Gov電子申請のウェブページで申請する際に添付ファイルとして設定します。一件の手続で複数人の対象者分を申請できるのが特徴です。
(参考:https://www.nenkin.go.jp/denshibenri/e-gov.html

     

3つ目は、外部の事業者が作成した連携用の有料API対応専用ソフトから申請する方法です。こちらは、e-Gov電子申請の画面ではなく、ソフトウェアから直接申請できるのが特徴です。複数件の手続きを一度に申請できます。

3. 電子政府化の動き

2017年3月の規制改革推進会議で、日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会の長が参加して「事業者目線での規制改革、行政手続の簡素化、IT化の一体的推進」という観点から、2020年3月までに行政手続コストの 20%以上を削減することを決めました。また、行政手続コスト削減の3原則として、行政手続の電子化の徹底(デジタルファースト)、同じ情報は一度だけの原則(ワンスオンリー)、書式や様式の統一を掲げています。電子申請の義務化はこうした動きに沿ったものと言えます。

また、同会議では、中小企業における人手不足の解消、長時間労働の是正が求められる中で、中小企業に影響が大きい分野における取り組みを深掘りしています。このことから、今回の電子化の動きが、大企業のみにとどまるものではないことが推測できます。

2020年9月には、e-Govがリニューアルを予定しています。具体的には、内容をより分かりやすくするための「ユーザーインターフェイスデザインの変更」、利用者別のe-Govアカウントを創設し、申請状況の検索や確認、基本情報、行政機関から発出された公文書などの通知の管理に対応した「マイページの導入」などです。

4. 電子申請にまつわる今後の課題

電子申請は、いつでも、どこでも使えて、郵送時間がかからないなど、既存のさまざまな課題を解決します。一方で、今後顕在化が予測される新たな問題点にも注目しておく必要があります。

行政手続のオンライン化を推進するため、いわゆる「行政手続オンライン化関係三法」が成立し、施行されていますが、制度面など課題もまだ残っています。例えば、電子文書の「真正性」が紙と同様なものとして扱われるようになったものの、手続きによっては個人情報を専用線以外の方法で受け取れないため、自宅で交付を受けられないものがあるといったことです。このほかにも、個人情報や端末の安全性確保といたセキュリティ確保にまつわる課題や、インターネットとビデオカメラを用いたサポート体制を組もうとした際の技術的な課題などもあります。

また、今後は決済にまつわる技術的な整備も不可欠になっていきそうです。ワンストップで完結する行政手続を実現するためには、手数料支払いもPCやスマホを使って完結できる必要があります。行政機関のウェブサイトや金融機関のサイト間で、認証情報をスムーズかつ安全に連携できるようなシステムを実装する必要が出てくるでしょう。

いずれにしても、電子政府化の動きが着々と進んでいることは確かです。企業は、こうした動きをとらえ、対応する必要がでてくるでしょう。

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