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2021.04.27
人事労務トピックス

高年齢者就業確保措置について、社労士が解説

2020年3月31日、雇用保険法等の一部を改正する法律の成立により、高年齢者雇用安定法が改正され、同改正法は2021年4月1日から施行されました。
この記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、2021年4月1日から施行された「高年齢者就業確保措置」について解説します。

1. 改正の背景

少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、労働力の担い手不足への懸念が指摘されています。そこで、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、労働環境整備を図ることが必要になり、今回の改正に繋がったと考えられます。

2. 改正の内容

現行制度は、事業主に対して、65歳までの雇用機会を確保するため、

  • ① 65歳までの定年引き上げ
  • ② 定年廃止
  • ③ 65歳までの継続雇用制度の導入

のいずれかを講ずることを義務付けていました。
今回の改正の内容は、事業主に対して、65歳から70歳までの高年齢者の就業機会を確保するため、

  • ① 70歳までの定年引き上げ
  • ② 定年廃止
  • ③ 70歳までの継続雇用制度の導入
  • ④ 高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  • ⑤ 高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に次の事業に従事できる制度の導入
    • a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
    • b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

のいずれかの措置を講ずる努力義務として規定されました。
④及び⑤の雇用によらない措置(創業支援等措置)のみを高年齢者就業確保措置として講じる場合には、労働基準法等の労働関係法令が適用されないため、その措置に係る事項を記載した計画について労働者の過半数を代表する者等の同意を得て、当該計画を労働者に周知する必要があります。

雇用確保措置

3. 改正により、企業に求められる対応

企業としては、まず、高年齢者就業確保措置導入の有無の決定をする必要があります。その有無を決定するためには、自社における労働者が65歳以後も就労することを希望しているかを把握し、当該措置の導入を決定した場合の人件費増などを検討しなければなりません。

その後、労使間で協議し、上述にあげた高年齢者就業確保措置の選択を行います。①70歳までの定年引き上げ、②定年廃止、③70歳までの継続雇用制度の導入、を選択した場合は、就業規則等の変更をし、労働基準監督署に届け出なければなりません。
一方で、④または⑤を選択した場合は、計画を作成し、過半数労働者等の同意を得て、周知するなどを行う必要があります。

70歳までの就業確保措置を検討するにあたり、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現するため、65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して支援する助成金がありますので、利用するのも一つの手段です。

4. 「70歳定年」または「70歳までの雇用延長」を導入している企業事例

2021年の施行に先んじて、すでに「70歳定年」または「70歳までの雇用延長」を導入している企業をご紹介します。

事例①:未来工業株式会社 -他社の一歩先を行く70歳定年制を導入-

電設資材の製造販売を手掛けてきた「未来工業株式会社」は、あらゆる面で他社の一歩先を行くユニークな取り組みが多く、その一環として、2006年の改正高年齢者雇用安定法の施行を目前に「70歳定年制」を他社に先がけて導入しました。高年齢社員の肉体と視力への負担を軽減するために「夜勤から日勤への転換」を行っています。また、危険を伴う機械操作から組付けへの配置転換を行うなど、社員が「どのような働き方を望んでいるか」を把握した上で対応しているようです。

事例②:エフコープ生活協同組合 -65歳定年制導入の半年後、さらに70歳に定年を引き上げ-

九州最大の生活協同組合である「エフコープ生活協同組合」は、2016年に定年を65歳に引き上げ、その半年後には、さらに引き上げて「70歳定年制」を導入しました。社員から「65歳以降も働きたい」という意見が挙がったこと、急速に進む人手不足への対応が求められていたことがきっかけとなったようです。また、定年引き上げに併せて、50歳以上のフルタイムスタッフ全員のキャリア研修を実施しています。

事例③:有限会社八千代運輸倉庫 -賃金制度見直しやドライバーの職種転換により高齢社員を戦力化-

八千代運輸倉庫では、広島県安芸高田市にある本社のほか、4つの事業拠点を持ち、運送業、倉庫業、自動車整備業、燃料販売業と物流に関わる事業を多角的に展開しています。
慢性的な人手不足により、65歳定年、70歳までの継続雇用延長とともに、賃金を見直し、昇給や役職登用も可能としました。また、社員の高齢化に対応するため、遠距離運送中心から近距離運送への業態の切替えなどを実施しています。

参考:独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」

5. おわりに

現行までは、65歳までの雇用確保措置が事業主の義務となっていましたが、今回の改正における70歳までの就業確保措置は努力義務とされています。
しかし、法律においては、まず努力義務規定が設けられ、一定期間後に義務規定に展開されることがあります。
そのため、高年齢者就業確保措置に関する規定が、一定期間後、義務規定化されることも想定されます。
したがって、今のうちに可能な限り、高年齢者就業確保措置を講じていくことが望ましいと言えるでしょう。

株式会社小林労務 上村 美由紀氏

株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀

2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2016年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。

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