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2021.05.25
経理財務トピックス

国税局OBの税理士が解説する「消費税インボイス制度」
前編 - 消費税インボイス制度の概要

2023年10月1日から導入される適格請求書等保存方式(以下、「消費税インボイス制度」といいます)では、消費税仕入税額控除(課税仕入れ)を行う場合の要件がより厳格になります。本稿では消費税インボイス制度の概要について解説します。
(著:SKJ総合税理士事務所 所長 税理士 袖山 喜久造 氏)

1. 消費税インボイス制度の仕組み

消費税の税の負担者は、課税資産の譲渡又は役務の提供を受けた消費者となります。事業者は消費者から受け取った消費税を国や地方に納税する義務が生じます。消費税の確定申告においては、課税期間中に受け取った消費税から、その課税期間中に支払った消費税を控除することができます。これを仕入税額控除、もしくは課税仕入れといいます。
納付する消費税額の計算方法は、消費税法において様々な計算により算出することができますが、原則的な計算方法としては仮受消費税から仮払消費税を控除した金額が納付消費税額となります。
これは、支払った消費税は他の事業者が納税することが前提となりますが、すべての事業者が消費税の課税事業者とは限りません。消費税の納税を免除されている事業者やそもそも事業者ではない取引の相手方に支払った場合でも、その取引自体が消費税の課税取引であれば支払額に含まれる消費税相当額を算出し仕入税額控除を行うことができます。そうすると消費者が支払ったはずの消費税は納税されないことになります。現在の消費税法においては、帳簿への所要事項の記載と保存や、書面の請求書等(3万円以上の支払金額の場合のみ)の保存が仕入税額控除の要件となっていますが、支払先が消費税の申告を行っているかどうかについては要件とはされていませんでした。
このような現制度を改善したのが消費税インボイス制度です。課税仕入れを行う場合、所要事項を記載した帳簿の保存、適格請求書の保存が適用要件とされます。適格請求書を発行するためには、事前に適格請求書発行事業者の登録を行う必要があります。登録時に発行された登録番号を含んだ所要事項を記載した請求書等が適格請求書となり、取引に際し取引の相手方の求めに応じ必ず交付することが必要となります。適格請求書発行事業者は消費税の納税義務者となり、必ず消費税の確定申告を行うことになります。

2. 課税仕入れの適用要件

前項で述べたとおり消費税法においては、課税事業者が国内において行う課税仕入れについては、課税仕入れ等の税額に係る所要事項が記載されている帳簿及び請求書等を保存しない場合には適用されません。消費税インボイス制度導入後は、課税事業者が国内において行う課税仕入れについては、政令で定められているものを除き、所要事項の帳簿への記載と保存のほか、支払金額に関係なく適格請求書等発行事業者が交付する適格請求書が保存されていないと課税仕入れの適用を受けられなくなります。
なお、現行消費税法では、課税仕入れの要件である請求書等は書面の請求書等が該当することになりますが、これまでデータで受け取った請求書については、書面の請求書を受領できないことにやむを得ない事情があると判断されてきました。消費税インボイス制度において課税仕入れの要件とされる適格請求者は、書面又は電磁的記録(データ)により交付や保存ができるように措置されています。データで発行又は保存される適格請求書のことを電子インボイスといいます。

3. 適格請求書等の記載事項

適格請求書等に記載が必要な事項は、「適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」、「課税資産の譲渡等を行った年月日」、「課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容」、「課税資産の譲渡等に係る税抜価額若しくは税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率」、「課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額として税率の異なるごとに合計された消費税額等」、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」となります。
なお、1枚の適格請求書等にこれらすべての事項が記載されていなくても、関連する見積書や納品書等のほかの書類と合わせて保存することにより必要な記載事項を確認することができれば適格請求書等の保存があるものとされます。
なお、適格請求書等発行事業者が、小売業などの不特定でかつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業を行う場合には、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます 。適格簡易請求書は、請求書等の交付を受ける事業者の氏名又は名称の記載は必要ありません。また、適格請求書の記載事項のうち、「税率ごとに区分した消費税額」又は「適用税率」はどちらかの記載となります。
また、仕入割戻しなど支払金額が後日変更される場合には、どの支払いについて対価の返還が行われるかを明確に記載した適格返還請求書を発行及び保存することが必要となります。

4. 適格請求書等の保存義務

(1)受領した事業者の保存義務

消費税インボイス制度においては、課税仕入れの要件として適格請求書等を受領した事業者(買い手側)が書面又は電子インボイスのデータを保存しなければ適用を受けることができません。
書面の適格請求書は書面で保存することのほか電子帳簿保存法第4条第3項の規定によりスキャナで読み取り、一定の要件を満たしたスキャンデータで保存することも可能です。電子インボイスは、電子帳簿保存法施行規則第8条第1項の規定に従った保存が必要です。電子インボイスについては次回のコラムで詳しく解説します。

(2)発行事業者の保存義務

消費税インボイス制度においては、適格請求書の発行事業者(売り手側)は、書面の適格請求書の控え又は交付した電子インボイスのデータ保存義務を課しています。
また、適格請求書の記載要件を満たしていない請求書等を事業者に交付した場合、ほかに交付した書類等により適格請求書の記載事項が確認できる場合の当該書類の控え又は当該書類の交付に代えて交付した書類のデータについても保存することが必要となります。

(3)適格請求書の保存場所と保存期間

課税仕入れの適用を受けようとする事業者は、帳簿及び請求書等を整理し、当該帳簿については消費税確定申告書の申告期限の翌日から、請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の消費税確定申告書の申告期限の翌日から起算し7年間、これを納税地又は取引に係る国内の事業所等で保存することになります。

5. 適格請求書発行事業者の登録手続き

適格請求書を発行しようとする課税事業者は、納税地を所轄する税務署長に適格請求書発行事業者の登録申請書(以下、「登録申請書」といいます。)を提出し、適格請求書発行事業者の登録を受けなければ、適格請求書等の発行ができません。

(1)適格請求書発行事業者の登録手続き

適格請求書の登録を受けられるのは、消費税課税事業者に限られています。適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者は、納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出する必要があります。登録申請書は、令和3年10月1日から提出することができます。登録申請書は、令和5年3月31日までに提出をしなければなりません。
なお、消費税の免税事業者については、適格請求書発行事業者の登録を行うことはできませんが、消費税課税事業者選択届出書を提出し課税事業者に該当することとなった場合には登録することが可能です。
登録申請書の提出を受けた税務署長は、適格請求書発行事業者登録簿に法定の事項を登載し登録を行い、登録を受けた事業者に書面で通知を行います。
登録申請書を提出し一旦登録簿に登載された事業者は、その後免税事業者に該当することとなった場合であっても原則として課税事業者となります。適格請求書発行事業者の登録を取り消す場合には、適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書を、当該取り消したい課税期間の開始の日の前日の31日前までに納税地を所轄する税務署長に提出する必要があります。

(2)登録簿の公表

登録申請書の提出を受けた税務署長は、申請書の審査後、適格請求書発行事業者に該当する場合には、提出者の氏名又は名称及び登録番号等を適格請求書発行事業者登録簿(以下、「登録簿」といいます。)に登載します 。登録簿に登載されている事項については、相手方から交付を受けた請求書等が適格請求書等に該当することが確認できるように公表されることが国税庁に義務付けられています。

SKJ総合税理士事務所 所長税理士 袖山 喜久造

SKJ総合税理士事務所
所長 税理士
袖山 喜久造

税理士・SKJ総合税理士事務所所長。中央大学商学部会計学科卒業。平成元年東京国税局に国税専門官として採用。都内税務署勤務後、国税庁、国税局調査部において大規模法人の法人税等調査事務などに従事。国税局調査部勤務時に電子帳簿保存法担当情報技術専門官として納税者指導、事務運営などに携わる。平成24年にSKJ総合税理士事務所開業を経て現職。

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