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2021.09.13
経営・ビジネス用語解説

コーポレートガバナンス:企業経営の透明性・公正性を担保し、企業価値を向上させる【知っておきたい経営・ビジネス用語解説】

コーポレートガバナンスの重要性が高まっています。2015年にコーポレートガバナンス・コードが上場企業に適用され、さらに2021年6月には多様性、ESGなどをキーワードにした改訂が加えられました。ますます重要性が高まるコーポレートガバナンスについて、解説します。

1. コーポレートガバナンスとは? 求められている背景

コーポレートガバナンスは、「企業統治」と訳されます。一般的に、企業経営を管理監督し、不正行為を防止する仕組みととらえられがちですが、それだけではありません。東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」※1には、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と記載されています。

つまり、コーポレートガバナンスは、単に企業経営の透明性・公正性を担保することだけではなく、それを前提に企業価値を増大させ持続的な成長を続けるための仕組みだということです。

コーポレートガバナンスが求められている背景には、株式会社が元来抱えている構造的な課題を是正する狙いがあります。

株式会社は法人格としても株主としても有限責任で、経営者にはエクイティ(株主資本)の拠出が求められていません。個人が負う責任に限界があるにもかかわらず、大規模化して社会的に多大な影響を及ぼすことができます。株式会社に内在する責任の所在の曖昧さがもたらす課題を解決するのが、コーポレートガバナンスです。

2. コーポレートガバナンスの目的

コーポレートガバナンスの目的は、主に以下の2つです。

不祥事の防止

情報開示を適切に実施し透明性を確保することや、株主などの利害関係者に説明する責任を果たすことで、不祥事の発生を防止します。企業の不祥事とは具体的に、不正会計や違法証券取引などを指します。こうした事態を防ぐため、社外取締役や社外監査役などを組織に組み込んで透明性を確保します。

企業価値の長期的な向上

企業競争力を向上させ、企業価値を増大させ持続的な成長を続けることも目的です。東京証券取引所は、コーポレートガバナンス・コードの目的について、リスク回避に主眼を置くのではなく、経営者の健全なリスクテイクを後押しすることを志向する、としています。また、中長期保有の株主と会社との間の建設的な対話により、それぞれの会社において中長期的な企業価値向上を図ることが期待されています。

3. コーポレートガバナンス・コードとは

ここ数年のコーポレートガバナンスにおける大きな動きとして、2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが上場企業に適用されたことが挙げられます。

コーポレートガバナンス・コード制定の基礎となった2014年6月閣議決定の日本再興戦略では、日本企業の生産性が欧米企業に比して低く、特にサービス業をはじめとする非製造業分野の低生産性は深刻であること、またグローバル企業も市場環境への対応が遅れて苦戦を強いられているという認識を共有。その上で、グローバルスタンダードの稼ぐ力を得る必要があるとしました。その手段としてコーポレートガバナンスの強化で経営者のマインドを変革し、グローバル水準の株主資本利益率(ROE)達成を1つの目安にするとしました。

コーポレートガバナンス・コードはその後、2018年6月と2021年6月に改訂されました。2018年6月に、取締役会の「多様性」について新たに「ジェンダーや国際性」という説明を追加、取締役会の経営トップ(CEO)の選解任について、客観性・適時性・透明性のある手続きの確立という原則が追加されました。さらに、2021年は、取締役会の機能発揮、中核人材における多様性、サステナビリティをめぐる課題への取り組みの拡充などを求めています。

取締役会の機能発揮
  • ・プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)
  • ・指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)
  • ・経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
  • ・他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任
企業の中核人材における多様性の確保
  • ・管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
  • ・多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表
サステナビリティを巡る課題への取組み
  • ・プライム市場上場企業において、TCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
  • ・サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示
上記以外の主な課題
  • ・プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任又は利益相反管理のための委員会の設置
  • ・プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進

表:コーポレートガバナンス・コード 2021年6月改訂の主なポイント

(出典)日本取引所グループ:改訂コーポレートガバナンス・コードの公表、2021年6月11日

4. コーポレートガバナンスを強化する方法

コーポレートガバナンス・コードでは、「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」という5つの基本原則を定めています。この5原則を踏まえた上で、コーポレートガバナンスを強化するには以下のようなことが考えられます。

内部統制の強化

透明性のある情報開示と財務状況の報告という点で、内部統制とコーポレートガバナンスには深い関連性があります。

社外取締役、監査役、委員会の設置

経営陣が引き起こす不正を防ぐには、外部の視点からの監視が効果を発揮します。そこで、社外取締役や監査役による委員会を設置するといった方法が用いられます。

執行役員制度の導入

取締役と別に選任され、業務執行の責任と権限を持つのが執行役員です。経営における意思決定を担う取締役と分けることで、管理体制を強化できます。

社内での判断基準の明確化

業務遂行や意思決定における社内の判断基準を明確にしておくことが、ガバナンスのベースになり得ます。

CEOが参加しない形式で取締役会を実施

CEO(最高経営責任者)の意見が実質的な決定事項になるといった状況にある場合は、CEOが参加しない形式で取締役会を実施するといった方法もあります。

5. コーポレートガバナンスによる企業価値向上事例

一般社団法人日本取締役協会では、東京証券取引所第一部上場企業2,000社以上の中から「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」を2015年度から毎年選定しています。これは、金融庁や経済産業省などの後援のもと、コーポレートガバナンスを用いて中長期的に健全な成長を遂げている企業を後押しする目的で実施されているものです。

2020年度の大賞にはキリンホールディングスが選出されました※2。その受賞理由は、積極的な社会貢献を実践することで企業の成長と財務的価値の拡大に取り組んでいる。また、社会が求める価値によって社会に貢献するという企業目的を明確にし、その実践にあたり多様性に富んだスキルの高い外部人材を経営に招き、透明性の高いガバナンス体制を構築していることが評価されました。

また、Winner Companyには、取締役会では毎回3-4時間、社外も積極的に参加してフランクに活発な議論が行われているアドバンテストと、ガバナンス委員会を設置し、ガバナンスの向上に向けて持続的努力をしているテルモの2社が選ばれています。

※1 東京証券取引所:コーポレートガバナンス・コード、2021年6月11日

※2 日本取締役協会:コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2020 受賞企業発表、2021年1月7日

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