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更新日:2023.01.10
公開日:2021.08.23
経営・ビジネス用語解説

従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)とは:向上の重要性・企業事例

顧客体験(CX、UX)と共に近年重視される「従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)」。実は、会社の業績向上や、良質な人材確保にも不可欠であることをご存知ですか。
今回は、全ての企業が理解しておくべき概念「従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)」について、その意味と注目を集める理由、向上によって期待できる効果・方法、企業事例を解説します。

1. 従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)とは

従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス:EX)とは「従業員が働くことで得る、様々な経験」です。

従業員体験に似た言葉に顧客体験(CX、UX)がありますが、こちらは「商品やサービスの購入利用によって得る体験や価値」を意味します。
顧客体験は、顧客満足度(CS)を考える上で重要な概念ですが、従業員体験は「働く従業員の満足度を考える上で重要な概念」と言うことができるでしょう。

具体的には、仕事で得られる達成感や社内での評価はもちろん、スキルアップなどによる働きがい、オフィス内のデザインなどを含めた職場環境やカルチャー、残業時間の多さ、福利厚生を含めた待遇、ワークライフバランスへの意識なども従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)に含まれます。

2. 従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)が注目を集める理由

従業員体験が注目を集める背景には、以下のような労働市場の変化とそれに伴う課題があります。

  • • 労働力人口の減少
     限られた従業員のパフォーマンスを最大限に発揮したい
  • • 転職の一般化
     良い人材の離職率を防ぎ、定着させたい

これらの課題解決のカギとして、従業員体験が注目されているのです。ここからは、従業員体験が注目を集める詳しい理由を、それぞれ見ていきましょう。

(1)労働力人口の減少

国内の労働力人口は2012年より増加傾向を示してきましたが、2020年からは減少に転じています。
内閣府も、現在の超高齢化・人口減の状況が続いた場合、労働力人口が「2030年には5,683万人、2060年には3,795万人まで減少する」との見解を示しています。

労働力人口の減少に対しては、DX化の推進などとともに「限られた従業員のパフォーマンスを最大限に発揮すること」が求められます。
そして、従業員のモチベーションを向上させる環境を整備する上で、従業員体験を考慮することが不可欠なのです。

(2)転職の一般化

2019年、経団連会長が「今後、企業が終身雇用を続けるのは難しい」と述べました。実際に、2019年以降のコロナ禍に入るまでは、転職者数は増加傾向でした。
下記データを見ると、転職者が年間300万人前後もおり、日本国内において転職がすでに一般化していることがわかります。これは「人材の流動性が高まった状態」を意味し「従業員がいつ離職してもおかしくない状況」と言えるでしょう。そのため、企業は優秀な従業員の離職を防ぎ、定着させることが大きなミッションとなっています。

働き手自身に「ここで働きたい」と強く思ってもらうためにも、豊かな従業員体験の提供が求められています。

3. 従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)の向上で期待できる効果

従業員体験の向上で企業が得られるメリットには、以下のようなものがあります。

  • • 人材が確保できる
     離職率の低下や従業員の定着が期待できる
  • • 業績が向上する
     従業員の満足度・やる気が向上し、業績に反映される

このようなメリットは、以下の調査研究結果から、実際のデータとして裏付けられています。

ここからは、従業員体験の向上で期待できる効果について、それぞれ見ていきましょう。

(1)人材確保

価値ある従業員体験が提供される職場は、従業員にとってかけがえのない場所です。そのような職場で働いている従業員は、少々の問題が発生しても簡単に離職することはないでしょう。
また、離職者が出ても、速やかな人材確保が期待できます。

実際に、上表の調査結果「従業員数の水準」を見ると、雇用管理施策(評価・キャリア支援)の実施年数に比例して、従業員数がしっかり確保できていることがわかります。

(2)業績向上

従業員体験の向上によって、従業員のモチベーションがアップすると、会社の業績にも良い影響が生じます。従業員たちが、さらなる評価やキャリアアップを求めて、より意欲的に仕事に取り組むようになるためです。

実際に、上表の調査結果「売上高営業利益率の水準」「売上高の水準」を見ると、雇用管理施策(評価・キャリア支援)の実施年数に比例して、高い売上・利益を確保していることがわかります。
特に、売上高営業利益率の水準においては、10年以上前から施策を実施する企業と実施していない企業を比べると、10%超の差が生じています。

4. 従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)を高めるための取り組み

従業員体験を高めるためには「各従業員が、働くことを通じて何を求めているか」を把握した上で、有効な施策を講じなければなりません。従業員体験を高めるための具体的な取り組み例は、以下の通りです。

  • 1. 従業員アンケート
  • 2. 1on1ミーティング
  • 3. エンプロイー・ジャーニー・マップ
  • 4. タレントマネジメント

ここからは、各取り組みの詳細を見ていきましょう。

(1)従業員アンケート

従業員にアンケート調査を実施し、職場環境をどのように感じているのかを確認します。
そして多くの従業員が好ましく感じている部分は拡充しつつ、人間関係や働き方でのストレス・課題などが確認できた場合は、その改善方法を考えます。

従業員アンケートは、職場環境の現状の全体像が把握するとともに、従業員体験の施策の優先度を考える上でも有益です。

(2)1on1ミーティング

上司と従業員が1対1で話し合いの場を設けます。

従業員アンケートが職場環境の全体像を把握するのに適しているのに対し、1on1ミーティングは従業員個々の考えをヒアリングするのに最適です。

的確な問いによるヒアリングをもとに、従業員それぞれに対する細やかな配慮が可能となるほか、1on1ミーティングそのものが信頼関係構築の場となるため、定期的な実施によって従業員体験を高めることが期待できます。

(3)エンプロイー・ジャーニー・マップ

エンプロイー・ジャーニー・マップの導入を検討する企業もあります。
応募者が自社を知り、入社して従業員として働き、退職後はそれぞれ別のフィールドで活躍するというプロセスの中で、従業員がどのような経験をすると、どんな気持ちを持つのかなどを1枚のマップに整理するものです。
エンプロイー・ジャーニー・マップ導入の大きなメリットは「従業員の経験・インサイト・成長が可視化できること」です。

前述の従業員アンケートと1on1ミーティング後に、エンプロイー・ジャーニー・マップを導入することで、 視覚的に共有・検討可能な状態に落とし込むことができるようになります。

(4)タレントマネジメント

タレントマネジメントとは「企業が掲げた目標達成のための人材マネジメント」を意味します。
具体的には、最大限に従業員のパフォーマンスを発揮してもらうための、育成・配置戦略ということができます。

従業員の得意分野を伸ばし、さらに磨きをかけるとともに、適材適所の配置で活躍できる場を提供する――これは、企業の業績アップのみならず、やりがいという大きな従業員体験を提供することにもつながります。

経営戦略に合わせて、人材育成・配置の短中長期的な目標を設定するとともに、各タレント(人材)の詳細をしっかりと把握した上で、マネジメント計画を策定してください。

5. 従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)向上に取り組む企業事例

従業員体験向上というと、新しいことのように思えますが、実はそうではありません。多くの企業が継続的に取り組んでいる「働き方改革」と同様の考え方だと言えるでしょう。厚生労働省が運営する働き方改革特設サイトには、数多くの事例が掲載されており参考になります。

前述の厚労省の調査(今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業報告書(平成28年3月))でも、従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)の取り組みを実施している企業では、「経営ビジョンがあり従業員に浸透している」「採用では会社の理念に合う人材であるかどうかを考慮している」としている割合が高くなっています。つまり、まずは会社のビジョンや理念を明確にすることが重要だと言えそうです。

(1)西精工株式会社

(出典)厚生労働省:西精工株式会社

西精工株式会社は、家電や自動車に使われるナットをメインとして製造・販売する企業です。徳島県で創業後、およそ100年の歴史を有し、日本でいちばん大切にしたい会社大賞中小企業庁長官賞(2013)、ホワイト企業大賞(2017)など、国内で高い評価を獲得しています。

そんな同社では、従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)向上につながる取り組みとして「評価基準の見える化(役割、スキル、目標管理)」とともに給与体系を見直したほか、コミュニケーションツールを通じて社長と社員が対話することで、エンゲージメント向上を図っています。

同社のように、評価基準をわかりやすくすることで、従業員も注力すべき方向性を定めやすくなり、働きがいにつながりやすくなるでしょう。

(2)株式会社スープストックトーキョー

(出典)厚生労働省:株式会社スープストックトーキョー

株式会社スープストックトーキョー(Soup Stock Tokyo)は、食べるスープ専門店として、都内を中心に全国展開する企業です。設立25周年が目前の現在も、女性たちを中心とする多くのファンから、高い支持を獲得し続けています。

そんな同社では、従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)向上につながる取り組みとして「生活価値拡充休暇」を用意。年12日の休みが取得できるこの制度と併せて、年間で計120日の休日休暇取得を就業規則で定めました。この他、副業・兼業を認める「ピボットワーク制度」、勤務時間を5段階・30分刻みで選択できる「セレクト勤務制度」など、様々な施策を設けています。

同社のように、柔軟で余裕のある働き方を後押しする施策は、従業員体験をより豊かで良質なものにすることが期待できるでしょう。

(3)株式会社ピアライフ

(出典)厚生労働省:株式会社ピアライフ

株式会社ピアライフは、不動産売買や賃貸を手がける仲介・管理会社です。創業より30年以上、地域密着企業として、事業展開してきました。

そんな同社では、従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)向上につながる取り組みとして、12項目にわたるワークアメニティを設定。海外バカンス、温泉旅行、年2回の賞与・決算賞与、就業者とその家族への誕生日プレゼント、各種休暇の拡充など、手厚いアメニティ内容となっています。
この取り組みの結果、月100時間にのぼることもあった残業時間が、7~8時間程度に減少しました。

同社のように、従業員体験を高める各種報酬を見える形で設定することは、確実なモチベーションアップにつながり、業務効率の向上が期待できるでしょう。

6. まとめ

従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)は、労働市場の変化を背景に注目を集めるようになりました。
従業員体験が向上すると、人材確保や業績向上にもつながるため、必要な戦略や施策をしっかり講じることが望ましいです。

7. 従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)向上を実現するProActiveとは?

SCSKが提供するERP「ProActive」では、目標管理システムやタレントマネジメントシステムなど、従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)の向上を図れる仕組みを整えています。また、人事評価やモチベーション管理などのフロント業務については「HRBrain」を活用し、人事情報のデータベースならびに給与計算などのバックオフィス業務については「ProActive」を活用することで、人事評価から人材データ活用、タレントマネジメントが可能な「HRBrain」と、人事情報のデータベースならびに給与計算などが可能な「ProActive」、それぞれのサービスの強みを活かし、さらなる人事労務業務の効率化が可能になります。

HRテック領域の拡充により、人事労務業務の効率化を支援~SCSKとHRBrainが販売代理店契約を締結~

図:ERP「ProActive」とクラウド型人材管理システム「HRBrain」の連携

図:ERP「ProActive」とクラウド型人材管理システム「HRBrain」の連携

森本千賀子

森本千賀子

獨協大学外国語学部卒業後、現リクルートキャリア入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、CxOクラスの採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に株式会社morich設立、複業を実践し2017年に独立。現在もNPO理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数、日経電子版の連載など各種メディアにも執筆。2男の母の顔も持つ。

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