お役立ちコラム マルチモーダルAIとは?シングルモーダルAIとの違いや活用方法について解説

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従来のAI分析ツールでは、テキスト、画像、音声など異なる形式のデータを個別に処理することが主流で、情報を横断的に捉えることが困難でした。そのため、データ全体に潜む深いインサイト(洞察)を見落とし、戦略的な意思決定の機会を逃してしまうケースも少なくありませんでした。こうした“データのつながり”を把握しづらいという課題を解決する技術として注目されているのが、複数のデータ形式を統合的に処理できる「マルチモーダルAI」です。生成AIや自動運転といった先端分野で活用が進むこの技術は、企業におけるデータ活用のあり方にも変化をもたらし始めています。この記事では、従来のシングルモーダルAIとマルチモーダルAIの違いに加え、その具体的な活用方法について、わかりやすく解説します。

1. マルチモーダルAIとは

マルチモーダルAIとは、さまざまな種類の情報を同時に処理できる人工知能(AI)です。文章や画像、音声など、複数のデータ形式を統合して分析し理解する能力を持っています。
この技術は、人間の五感に基づいた情報処理に似ており、より深い理解や推測を可能にします。
マルチモーダルAIの主な特徴は次のとおりです。

マルチモーダルAIの特徴

マルチモーダルAIは、さまざまなデータを統合して処理することで、より高度な分析や予測を実現する新しいAIの枠組みともいえます。

2. マルチモーダルAIとシングルモーダルAIの違い

マルチモーダルAIとシングルモーダルAIには、次のような違いがあります。

シングルモーダルAI マルチモーダルAI
定義 ・1種類のデータのみを処理するAIのこと
・一例として、文章データだけを扱う、または画像データだけを扱うことが挙げられる
・文章、画像、音声など、複数の異なる種類のデータを同時に処理できるAIのこと
・これにより、データ間の相関関係を理解し、より複雑なタスクを実行できる
処理能力 ・単一のモードに特化しているため、特定のタスクに対しては高い精度を持つ
・一方で、他のデータ形式との関連性を理解するのは難しい
・複数のモードを統合して処理するため、より深いインサイトや精度の高い結果を得られる
・画像と文章を組み合わせた情報の生成や、音声と映像の同時解析が可能となる
活用例(一例) ・文章から音声を生成する
・画像を解析して情報を抽出する
・自動運転車においてカメラ映像とセンサー情報を統合して運転判断を行う
・医療分野で画像診断と患者の音声データを組み合わせて診断を行う

このように、シングルモーダルAIは特定のデータ処理に特化しているのに対し、マルチモーダルAIは複数のデータ形式を統合して処理をすることで、高度な分析や判断が可能です。

3. マルチモーダルAIの歴史を簡単に紹介

マルチモーダルAIの歴史は30年以上に及びます。
この歴史を4つの段階に分けて紹介します。

  • • 初期段階:単一方向の処理が主流
  • • 発展期:画像と自然言語の双方向処理が可能
  • • 統合期:複数モダリティの同時処理による精度向上
  • • 最新動向:大規模言語モデルとの統合

初期段階:単一方向の処理が主流

マルチモーダルAIの研究が始まったのは、機械学習が注目を集めていた1980年代後半に音声と映像を統合する先行研究が始まり、1990年代に“multimodal” という概念が広まったと言われています。この頃の研究は、音声と視覚情報を統合して文章に変換する単一方向の処理が主流でした。

発展期:画像と自然言語の双方向処理が可能

ディープラーニングの進化により、2014〜2016 年に画像キャプション生成(Show and Tell, 2015)や VQA(Visual Question Answering, 2015)といったタスクが登場し、画像と言語の双方向処理が実用レベルで実現しました。

統合期:複数モダリティの同時処理による精度向上

2014 年以降の研究では、視覚・言語・音声を同一モデルで同時学習する試みが加速。たとえば2016 年の “Show, Attend and Tell” に代表されるアテンション機構の導入により、モダリティ間の対応関係を精緻にとらえられるようになり、性能が大幅に向上しました。

これに伴って、文章に表情の画像を組み合わせ、感情を伴う表情変化を持つアバターの研究が始まりました。ユーザーの入力に応じてアバターの表情を変化させることで、人間らしいコミュニケーションを目指しました。

最新動向:大規模言語モデルとの統合

2023年にGPT-4が画像入力をサポートし、マルチモーダル化が進みました。さらに、2023年12月にはGoogleがGeminiを発表し、文章や画像・音声・動画など多様なデータ形式を処理可能な生成AIとして注目を集めています。

大規模言語モデルがマルチモーダル対応となったことにより、生成AIのさらなる発展に期待が高まっています。

4. マルチモーダルAIだからできること

シングルモーダルAIでは不可能な処理も、マルチモーダルAIであれば可能なケースは多く見られます。

本章では、マルチモーダルAIだからこそできることを3つ紹介します。

  • • 異なる種類の情報間の関係性把握
  • • 高度なコンテンツ生成
  • • より人間らしい理解

異なる種類の情報間の関係性把握

マルチモーダルAIは、異なる種類の情報間の関係性を把握する能力に優れています。これは、複数のデータ形式(文章、画像、音声など)を同時に処理し、それぞれの関係を理解することで実現可能です。

  • 【具体例】
  • • 画像の中の物体が何と呼ばれているか、音声の内容が画像でどのように表現されているかなどを理解できる
  • • 映像データと音声データを組み合わせることで、単独の映像だけでは判断できない状況(映像と映っていない周囲の音声・キャラクターの動きとセリフなどの組み合わせ)をより正確に認識できる

高度なコンテンツ生成

マルチモーダルAIは、異なるデータ形式を統合的に処理することで、シングルモーダルAIでは実現できない高度なコンテンツ生成が可能です。

  • 【具体例】
  • • 文章からの画像生成や画像から文章による説明の生成など、創造的なタスクを実行できる
  • • カメラ映像と音声データを組み合わせて、より安全で正確に処理を実行できる

より人間らしい理解

マルチモーダルAIは、人間の情報処理方法に近いアプローチを取っているため、「より人間らしい理解」を実現することが可能です。

  • 【具体例】
  • • 会話の中で、言葉だけでなく、相手の表情や声のトーンを理解することで、より正確な意図を把握できる
  • • カメラ映像から場所を認識し、音声で人の声のトーンを理解することで、その場所に適したBGMを再生する
  • • カメラ映像とセンサー情報を統合することで、車両の周囲の状況を把握して危険を察知したり、安全な運転を判断したりできる

ただし、マルチモーダル AI の導入に際しては、以下のような課題への対策が不可欠です。

  • • プライバシー:映像・音声データの収集は個人情報保護法や GDPR への対応が求められる
  • • バイアス:モダリティ間の不均衡がモデルバイアスを助長しやすい
  • • リアルタイム性能:複数モダリティを同時処理するため、レイテンシーがボトルネックになりやすい

5. マルチモーダルAIの活用方法

マルチモーダルAIの主な活用方法を、業態別に紹介します。

  • • 商社
  • • 流通
  • • 卸売
  • • 製造
  • • 建設

商社

商社におけるマルチモーダルAIの活用例の一部を紹介します。

市場分析とトレンド予測 ・市場からのビッグデータ(ニュースやSNS・消費者レビューなど)を分析して次のトレンドを予測し、市場開拓のチャンスにつなげる
書類作成業務の効率化 ・定型フォーマットへの情報の自動入力や、過去の事例からの文章生成を行うことで、稟議書や契約書の作成時間を大幅に短縮する
サプライチェーン最適化 ・マルチモーダルAIを活用して、文章データ(配送状況レポート)や画像データ(倉庫の在庫状況)・センサーデータ(温度、湿度、位置情報)を統合的に分析することで、サプライチェーンの効率化と最適化が測れるようになる

マルチモーダルAIの導入は、商社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる重要な要素のひとつです。これにより、業務効率化や新たな価値創造を実現し、競争力向上が可能になるでしょう。

流通

流通におけるマルチモーダルAIの主な活用例は次のとおりです。

物流の最適化 ・輸送データ、在庫データ、顧客の注文データなどを統合して分析し、物流の最適化を図る
・リアルタイムの交通情報を取り入れることで、最適な配送ルートの選定も可能になる
倉庫の自動化 ・倉庫にAIロボットを導入して、従業員がピッキングした商品を運ぶ作業を自動化すると、倉庫内の生産性向上と従業員の負担軽減が期待できる

このように、流通業界ではマルチモーダルAIを活用することで、物流の最適化や倉庫の自動化などを実現することが可能となるでしょう。

卸売

卸売におけるマルチモーダルAIの活用例は次のとおりです。

需要予測と在庫管理 ・マルチモーダルAIを使用して、小売店からの受注データ・消費者のトレンド・天候情報などを統合的に分析し、より正確な需要予測を行うことで、在庫管理を最適化する
顧客対応の強化 ・文章データ(メールやチャット)や音声データ(電話)などを分析して顧客対応を自動化・高度化し、顧客満足度向上に繋げる
マーケティング戦略の強化 ・顧客の行動データや市場トレンドを分析し、ターゲットを絞ったマーケティングキャンペーンを展開するためのインサイトを提供できることにより、効果的なプロモーション活動が可能となる

卸売では、マルチモーダルAIが業務の効率化や顧客サービスの向上・マーケティングの強化に貢献し、競争力を高めることが期待されています。

製造

製造におけるマルチモーダルAIの主な活用例の一部を紹介します。

異常検知と予防保全 ・振動センサーや温度センサー・音声データなど複数のデータソースを統合して分析することにより、機械の異常を早期に検知する
・故障が発生する前のメンテナンスが可能になるので、故障によるリスク軽減や作業員の安全確保にもつながる
品質管理の向上 ・製品の画像データとセンサー情報を組み合わせて、品質検査を自動化する
・目視検査に比べて高精度な検査が可能となり、不良品の流出防止につながる

製造業では、マルチモーダルAIを活用して、機械の故障から起こる故障リスクの軽減や品質管理の向上および、業務効率化や作業員の安全確保に役立てることが可能です。

建設

建設業におけるマルチモーダルAIの主な活用例の一部を紹介します。

施工管理の効率化 ・現場写真、図面データ、工程表、作業日報などを統合的に分析し、進捗状況を可視化することで、工期管理や人員配置の最適化が可能になる
・現場の映像やセンサーデータをもとに、遅延リスクや安全上の問題を早期に察知することもできる
安全管理の高度化 ・作業現場の映像や音声、センサーデータをリアルタイムで分析することで、転倒・衝突・接近などの危険予兆を検出し、即時にアラートを出すことが可能
・過去の事故報告書や作業記録を学習させることで、リスクパターンの予測や対策立案にも活用できる

マルチモーダルAIの導入により、建設現場における「見える化」と「即時判断」が進み、安全性向上と業務効率化を同時に実現することが期待されます。

6. マルチモーダルAIとERPを連携するメリット

ERP(Enterprise Resource Planning)は、企業の多岐にわたる業務を統合的に管理するシステムです。
マルチモーダルAIとERPを連携するメリットを2つ紹介します。

  • • データを統合することで深層分析ができる
  • • 業務プロセスを自動化できる

データを統合することで深層分析ができる

マルチモーダルAIとERPを連携することで、データ統合による深層分析ができるようになります。
一例として、次のようなことが挙げられます。

多様なデータの統合的分析 ・文章や画像など異なる種類のデータを同時に処理できる
・ERPに蓄積された売上・在庫・生産量などの数値データと、製品の不良品画像・顧客からの問い合わせ内容などを統合的に分析することで、従来は見逃していた重要な経営インサイトを導き出せるようになる
分析精度の飛躍的向上 ・複数のデータソースを組み合わせることで、AIによる高度な分析が可能になる
・販売データと顧客フィードバック、生産ラインの映像を統合分析することで、需要予測や品質管理の精度を大幅に向上できるようになる
迅速かつ根拠に基づく意思決定 ・リアルタイムでのデータ統合分析により、経営者や管理者は迅速かつ正確な意思決定を実行できる
・市場の急激な変化にも即応した戦略的アプローチが実現可能となる
先進的なリスク管理 ・AIの高度な異常検知能力を活用することで、不正取引や生産上の異常を早期に発見できるようになる
・これにより、企業のリスク管理体制の強化が可能になる

このように、マルチモーダルAIとERPの連携によるデータ統合は、企業の競争力を高める重要な戦略的ツールです。従来の分析手法では得られなかった深層的な経営インサイトを引き出し、データ主導型の意思決定をサポートします。

SCSKでは、経営や業務の課題解決を支援するAIセントリックなデジタルオファリングサービス「PROACTIVE」を提供しています。このサービスは業務特化型と業界特化型の二つのアプローチを採用し、各企業が解決する固有の課題に対応する仕組みを備えています。中核となるPROACTIVE AIは、一歩先を行く経営示唆を提供し、業務の高度化と効率化を実現するアクショナブルAI です。業務や業界に特化したAI機能により、特有の課題を把握し、分析と予測を支援します。また、マルチAIエージェント機能により、データ定義や分析、運用・施策実施の各工程にAIが関与することで、専門知識がなくても高度な経営判断を可能にします。さらに、業務特化生成AIによる操作補助等を活用することで、業務プロセスの効率化・自動化を実現します。

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業務プロセスを自動化できる

マルチモーダルAIは、従来人間が手作業で行っていた複雑な業務を自動化し、企業の生産性と効率性を劇的に改善することが可能です。たとえば、次のようなことが挙げられます。

経費精算の自動化 ・自然言語による指示のみで経費精算処理を完結することができる。
領収書の画像から情報を読み取り、データベースに自動登録することで、手入力によって発生しがちなミスも未然に防ぐことができる。
顧客問い合わせの自動分類 ・文章ベースの顧客の問い合わせを高度に分析し、最適な担当部署へ自動振り分けを実現する

このように、マルチモーダルAIは単なる技術革新にとどまらず、ERPとの連携によって企業の業務プロセス全体を根本的に変革する力を発揮します。繰り返しや複雑な作業を自動化することで、従業員はより創造的で戦略的な業務に集中できるようになるのです。

7. まとめ

マルチモーダルAIは、文章、画像、音声など多様なデータを統合的に処理し、人間のような高度な理解と柔軟な対応を可能にする革新的な技術です。従来のシングルモーダルAIでは困難だった異なるデータ間の関係性の把握や、より人間らしい理解を実現し、多くの産業で実用化が急速に進んでいます。
特に、ERPとの連携によって、企業の深層分析や業務プロセスの変革を促し、競争力を大幅に向上させる可能性を秘めています。
今後のビジネスにおいて、マルチモーダルAIは単なる効率化のためのツールにとどまらず、新たな価値を創出する鍵となるでしょう。

梅田祥太朗

株式会社みずほ銀行、株式会社ワークスアプリケーションズを経てAI inside 株式会社へ入社。 2019年4月より同社執行役員CROとしてビジネスを管掌し、IPOを実現。 その後東京大学エッジキャピタル(UTEC)のベンチャーパートナーとして出資先の支援に従事。 2021年10月、株式会社HashPortに取締役COOとして参画し、ブロックチェーン・NFT事業のBtoBビジネスを推進。 2022年4月、Web3.0 × IoTスタートアップ「iMAMIRAi株式会社」を創業。 同年6月にイタリア製オートバイの輸入業を営む株式会社うえさか貿易を事業継承し、同社代表取締役社長に就任。 2023年4月よりスマートSCM SaaS「RECERQA」を開発、iMAMIRAi株式会社から「株式会社リチェルカ」へ社名変更。

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