コラム

ヘッダー画像
2022.06.27
ERPノート

クラウドERPについて知っておきたい基礎知識を解説【ERPノート】

昨今、オンプレミスで運用していたERP(Enterprise Resource Planning)をクラウドへと移行する企業が増えています。つい数年前までは、情報セキュリティの観点からERPのクラウド移行を避けていた企業も多く見られましたが、現在では、多くの企業でクラウドへのERP移行が検討されるようになりました。そこで今回は、クラウドERPの導入メリット・デメリットを紹介するとともに、製品検討や導入時の注意点などについて、基礎知識を解説していきます。

1. クラウドERPとは何か?

クラウドERPとは、クラウド上で運用されるERPシステムのことです。クラウドの種類には、インフラやミドルウェア含めたソフトウェアの管理をすべてサービス事業者が行うSaaS(Software as a Service)型や、ソフトウェア管理をユーザーが行うPaaS(Platform as a Service)型、インフラもソフトウェアもユーザーが管理するIaaS(Infrastructure as a Service)型があります。

図:SaaS型、PaaS型、IaaS型の違い

SaaS型 クラウド上のソフトウェアを利用できるサービス。ソフトウェアのバージョンアップは、サービス事業者側で行うため常に最新機能を利用できる。
PaaS型 クラウド上のプラットフォームを利用できるサービス。ハードウェア、ミドルウェア、OSなどが用意されており、そのプラットフォーム上でアプリケーション開発が可能。
IaaS型 クラウド上の、ハードウェアなどのリソースを利用できるサービス。ITインフラを必要なときに必要なだけ利用できるため、自社でハードウェアの調達・管理が必要ない。

図:SaaS型、PaaS型、IaaS型の違い

上述したようにSaaS型は、サービス事業者がインフラやソフトウェアを管理するため常に最新機能を利用できるほか、システム運用者の負担を減らすこともできます。一方、さまざまなカスタマイズを行ってERPシステムを構築・運用してきた企業にとっては、自由度が低く、従来どおりのシステム運用ができないといった懸念もあります。

2. クラウドERPとオンプレミス型ERPの違い(ERPの種類)

オンプレミス型ERPとは、自社内に構築したITインフラ環境にERPパッケージをインストールして利用する形態のシステムを指します。

これに対してクラウドERPは、サービス事業者が提供するデータセンター上でERPシステムを運用します。IaaS型やPaaS型の場合は、サービス事業者が提供するインフラを利用して、自社所有のERPシステムを利用します。SaaS型の場合は、サービス事業者のERPシステムを月額課金などで利用します。導入のための初期費用が抑えられ、ハードウェアやOSなどのITインフラの運用負荷がかからない点が特徴です。

オンプレミス型ERPでは、ネットワークやハードウェアといったインフラの調達や更新管理、ソフトウェアの更新管理も含めて、基本的には自社で行う必要があるため手間がかかりますが、自社のニーズに合わせて自由に機能を開発・実装できるのが大きなメリットです。

数年前までERPシステムは、セキュリティ上の懸念からクラウドで利用しづらい傾向にありました。しかし、サービス事業者側で厳しいセキュリティ規格の採用や、脆弱性を排除するためのバージョンアップが都度行われることにより、管理・運用負担を減らしながら安心して利用することができるようになっています。

(参考)
ERPについて知っておきたい基礎知識を解説【ERPノート】

図:SaaS型とオンプレミス型のERPの違い

図:SaaS型とオンプレミス型のERPの違い

3. クラウドERPの利用状況

株式会社矢野経済研究所の調査によると、国内のERPパッケージライセンス市場規模の推移・予測について、2016年から2023年までのCAGR(年平均成長率)4.1%で成長を維持し、2023年までに1392億円に成長すると予測しています。

新型コロナウイルスの感染拡大、働き方改革の推進、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速といった背景を受け、老朽化したオンプレミス型ERPのリプレイスによって維持運用にかかるコストを削減し、IT投資の拡大やデータ活用の柔軟性の向上を図ろうとする企業が増えています。

そもそもERPの導入が進み始めた1990年代には、自社オリジナルのERPシステムを一から開発する、フルスクラッチという手法で構築するケースがほとんどでした。その後、ERPベンダーが提供するERPパッケージを利用することが主流となり、それらの製品がさまざまなクラウドサービスに対応できるようになりました。こうした製品の進化もクラウドERPへの移行を後押ししています。

4. クラウドERPのメリット、デメリット

このようにクラウドERPのニーズは高まっていますが、実際にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

メリット

<メリット① 導入・維持コストや運用負荷を低減>

オンプレミス型のERPシステムの場合、5年~7年ごとにハードウェアの更新を行う必要があります。しかし、クラウドERPを活用することで、ハードウェアの導入時や維持管理にかかる負担を大きく減らすことができます。

また、クラウドERPにより、従来オンプレミス型で行っていたような新しくソフトウェアをインストールし直したり、テストを繰り返したりといった、ソフトウェア更新の手間を大きく軽減できます。さらに、グローバルの会計基準や国内のさまざまな制度改正などへの対応も基本的には不要となります。

中小企業庁が2018年4月に公表した「2018年版 中小企業白書」によると、会計業務と勤怠管理業務でクラウドサービスを導入することで、月次処理の人日削減割合の平均値が2.6割になるとのことでした。この結果から、クラウドサービス導入が、バックオフィス領域の省力化や生産性の向上に貢献していることが分かります。

<メリット② 新しい働き方への対応>

クラウドERPを利用することで、時間や場所にとらわれないシステム運用が可能となり、リモートワークにも対応しやすくなります。

もちろん、オンプレミス型でもリモート操作をすることができますが、リモート環境の構築が別途必要となり、それにはコストも時間もかかるため現実的とは言いきれません。しかし、クラウドERPを活用すれば、負担を最小限に抑えながら安全なリモート運用が可能となり、働き方改革にも貢献することができます。

<メリット③ セキュリティ強化やBCP対策が可能>

クラウドERPを利用することで、セキュリティ強化やBCP対策が実現するというメリットもあります。

これまでセキュリティ面では、自社システムで運用する方が安全だと言われていましたが、最近では、専門家の視点で常に最新の脅威対応を行う必要があるため、クラウドサービスの方が安全だという見方も出てきました。また、サービス事業者が有する複数のデータセンターを利用してデータの安全を確保した方が、災害発生時などの有事の際でも事業継続が可能になり、BCP対策としても有効だという認識が広がっています。

デメリット

オンプレミス型のERPシステムについて何の不満もないユーザーにとっては、クラウドERPに移行した場合、いくつかの不満が出る可能性はあります。

<デメリット① カスタマイズが難しい>

ユーザーの利便性を考え、さまざまなカスタマイズを施したオンプレミス型のシステムをクラウドに移行する場合、いくつかの機能が利用できなくなる可能性があり、それにより業務が停滞し、生産性が著しく低下してしまうリスクが出てきます。

クラウド移行の際にはこうした事態が起きないよう、事前に業務の棚卸しや多くの関係者を交えた検討活動をしておくことが重要です。

<デメリット② サービス事業者への依存>

障害時の復旧など、有事の際はサービス事業者に依存する形になります。基本的にERPシステムでは、会計、販売、人事、給与、生産、物流、在庫など、企業活動の根幹をなす各業務を扱うため、サービス事業者の総合力や対応力を踏まえて選定することが大切です。

<デメリット③ インターネット環境が必須>

インターネット経由で利用するため、オフライン環境下ではシステムにアクセスすることができません。そのため、万が一、通信障害が発生したケースを想定しておく必要があります。

図:クラウドERPのメリットとデメリット

図:クラウドERPのメリットとデメリット

5. クラウドERPを検討する上でのポイント

クラウドERPを選択する際には、以下のような点に注意する必要があります。サービス事業者に問い合わせて疑問を解消しておくことや、利用規約やSLA(Service Level Agreement: サービス品質保証)などを十分に確認しておく必要があります。

<ポイント① 機能の過不足>

SaaS型のクラウドERPではカスタマイズが難しいため、搭載されている機能が自社の業務に適合するのかを確認しておく必要があります。

<ポイント② サービスレベル>

サーバーの稼働率やメンテナンス停止の有無など、安定して稼働できるのかを確認しておきましょう。また、障害が発生したときの責任の所在の切り分けを把握しておく必要があります。

<ポイント③ セキュリティ>

セキュリティ対策に一定の基準を設け、第三者機関による認証などを取得しているかを確認し、信頼性が高いサービス事業者を選定しましょう。また、クラウドERPへのアクセス権限と社内権限との間に整合性がとれるかも重要です。

<ポイント④ データの保全>

データはどこに保管されるのか、バックアップはどうなっているのか、契約終了時にデータがどうなるのかなどを確認しておきましょう。

図:クラウドERPの検討における4つのポイント

図:クラウドERPの検討における4つのポイント

6. オンプレミス型からクラウドERPへリプレイスする際のポイント

ここからは、クラウドERPへ移行する前に確認、検討しておくべきポイントを解説します。

<ポイント① ERPシステムの全体構造を把握しておく>

組織によっては、オンプレミスで利用しているERPパッケージに対し、さらに別のソフトウェア製品を連携させているケースがあります。この場合、クラウドERPにそのソフトウェア製品が対応しているのか事前にチェックしておく必要があります。まずは、連携しているシステムも含めた自社のERPシステムの全体構造を把握しておくことが重要です。

<ポイント② 移行方針を決める>

クラウドERPへの移行にはいくつかのパターンがあります。

1つは、オンプレミスで利用しているERP製品と同じベンダーの製品を使い、そのままクラウドにシステム移行するというものです。ただし、クラウド型では提供していない機能もあるので、サービス事業者や現場担当者、IT担当者でのすり合わせが必要です。

もうひとつは、オンプレミスで利用しているERP製品とは違うベンダーのクラウドERPに移行するケースです。この場合は、より詳細な業務の棚卸しが必要となります。まず、現状の業務を見直し、必要な機能をピックアップ。そして、それらの機能を提供しているクラウドサービスを選定し、検討を重ねていきます。

<ポイント③ 既存業務を洗い出し、利用用途を明確化>

例えば、会計・財務パッケージなどを個別に導入していた場合は、クラウドERPへの移行を機に、既存の業務を販売管理や顧客管理、人事といった新しく追加される機能に合わせる必要が出てきます。

これに対応するには、まず各担当部門が現在の業務の問題点を洗い出し、システム化によってどれだけ解決できるかを検討します。その際に、業務そのもののフローを変えていくことも大切です。これによって、業務の標準化や属人的な作業の削減が実現できるはずです。このような入念な準備によって、スムーズなクラウド移行が実現します。

(参考)
コンサルタントコラム①  基幹システム刷新前にIT部門が合意しておくべき3つのポイント

7. クラウドERPのトレンド

ここからは、クラウドERPにおける機能トレンドについて見ていきます。

<トレンド① RPAやAIの搭載>

最近では、クラウドERPにRPA(Robotic Process Automation)やAIを活用した新しい機能が盛り込まれるようになりました。

RPAを使って手作業による定型業務を自動化し、人的ミスの削減や業務の効率化を実現。また、AI-OCR(Optical Character Recognition:光学文字認識)で、手書きの文字を読み取ってデータ化したり、AI分析で決算数値を予測したりと、さまざまなことが実現できるようになっています。

<トレンド② APIを使ったクラウド連携>

API(Application Programming Interface)と呼ばれる仕組みによって、さまざまなクラウドサービスをERPと連携させられるようになっています。

例えば、API連携によって財務会計だけでなく、製造ラインの情報や顧客データ、人事データなどをすぐに取り込めるようになっています。また、ERPから他のシステムへデータを提供し、自由に分析ができる環境も整えられるようになりました。

<トレンド③ UI/UXの向上>

近年、一般消費者向けのアプリケーションだけでなく、基幹システムやERPといったエンタープライズ領域においても、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)が注目されています。一般的に、クラウドERPでは個別にUI/UXをカスタマイズすることは難しいのですが、項目の名称や並び順を変更するなどの機能を持つサービス事業者も存在します。

8. クラウドERPの導入事例

<株式会社オギノ:給与業務の効率化と、法改正に対応するシステム基盤の構築を実現>

実際にクラウドERPを導入し、さまざまなビジネス効果を上げている事例も出てきました。

例えば、山梨県内を中心にショッピングセンター、スーパーマーケットなど、49店舗を展開する株式会社オギノでは、従来独自のシステムを利用していたため、給与や社会保険に関連する法改正の都度、システム改修が必要となっていました。また、ホールディングカンパニーが設立されることもあり、グループ会社管理への対応が急務となっていました。

そこで、トータルコストの安さや優れた操作性、標準機能の網羅性などを評価し、クラウド型ERP「ProActive」へのシステム移行を決定。

これにより、法改正対応プログラムが自動的に更新され、法改正対応のためのコスト負担や人的負担を考える必要がなくなりました。また、16時間かかっていた給与計算業務が最短で6時間に短縮され、給与業務全体で見ると2営業日の短縮が実現しました。

(参考)
ProActive 導入事例一覧

9. 運用フェーズにおける注意点

クラウドERPを利用するということは、自社の要望をシステムに容易に反映できないということを意味します。そのため、以下のように、サービス事業者との関係に気を配る必要があります。

  • バージョンアップや機能追加、変更などの情報をタイムリーに入手できるようにしておく
  • ユーザー会などがあれば積極的に参加して、よりよい使い方を模索する
  • 機能拡張などの要望があれば、サービス事業者に相談する
  • 急なサービス停止に備えて、サービス事業者のビジネス状況を注視し、他サービスへの乗り換えも考慮しておく

10. まとめ

今回は、クラウドERPの基本的な知識について解説しました。

システム導入の際に、クラウドをまず検討するという「クラウドファースト」の流れのなか、クラウドERPを検討する企業は今後さらに多くなるでしょう。ただし、ここまで見てきたように、クラウドERPには多くのメリットがありますが、デメリットがあるのも事実です。クラウドなのか、オンプレミスなのか、ハイブリッドなのか、自社にとって最適な方法を選ぶことが、企業力の強化にもつながります。

11. よくある質問

質問1:セキュリティ面についての不安

多様な重要データを社外で保管するクラウドERPについては、これまでセキュリティ不安がささやかれてきました。しかし、サイバー犯罪の手法が高度化するなか、オンプレミス型システムの安全性が不安視されるようになり、一般の企業が自力でシステムを守ろうとするよりも、ITの専門家が運営するクラウドシステムの方がはるかに安全である、という評価が出始めています。

実際、最新のセキュリティインシデントについての情報を迅速に把握し、そのための対策を的確に取っているケースが多く見られます。

もちろん、ユーザー側もこうした評価を知った上で、利用するサービス事業者に対し、データ保護などの具体的な施策について常にチェックを行っていくことが求められます。

質問2:費用の相場について

クラウドERPの費用相場は、利用方法などによって違いがあるので一概には説明できません。しかし、サービス事業者によっては、企業規模やユーザー数、利用形態から、導入費用の概算や毎月の利用料を算出できるサービスを提供していることもあります。

なお、SCSKでは、「ProActive C4」について月額利用料シミュレーターを提供しています。利用予定のシステム、ユーザー数などを登録することで、月額利用料を簡単に試算できます。

月額利用料シミュレーター

嶋田秀光氏

嶋田秀光(青山システムコンサルティング)
https://www.asckk.co.jp/

医療システムのSEを経て、2007年青山システムコンサルティングに入社。医療システムのみならず、小売業、製造業、サービス業など多種多様な業界でのIT戦略コンサルティングに従事。青山システムコンサルティングは、特定の製品・サービスに縛られず「公正中立」な立場から提案をすることをモットーとする独立系コンサルティングファーム。

関連ページ

関連コラム

Contact us

ご興味を持たれた方、まずはお気軽に
お問い合わせください!