コラム
モダナイゼーションとは:意味や手法・成功のポイントをわかりやすく解説
「モダナイゼーション」とは、「古いシステム(レガシーシステム)からの脱却」と「現在活用している情報資産を維持すること」を意味し、DX推進や経済産業省が懸念する「2025年の崖」への対策として有効な手段です。
この記事では、モダナイゼーションの概要、推進すべき理由、主な手法、基本的な手順、成功のポイントなどを解説します。さらに、モダナイゼーションの推進に際してクラウドシステムの導入がおすすめの理由と、クラウドERP(統合基幹業務システム)の導入事例についてもご紹介します。
目次
- 1 モダナイゼーションとは
- (1)DXとの違い
- (2)マイグレーションとの違い
- 2 モダナイゼーションを進めるべき理由
- 3 モダナイゼーションの主な手法
- (1)リプレース
- (2)リライト
- (3)リホスト
- 4 モダナイゼーションの主な手法のメリット・デメリット
- 5 モダナイゼーションの基本的な手順
- (1)対象・目的の明確化
- (2)置き換えるシステムの決定
- (3)予算・人員の決定
- 6 モダナイゼーションを進める上でのポイント
- (1)現在のIT資産を可視化する
- (2)変える箇所と変えない箇所を分別する
- (3)現場の担当者と密にコミュニケーションをとる
- 7 モダナイゼーションはクラウドシステムの導入がおすすめ
- 8 バックオフィス業務にはクラウドERPが最適
- 9 クラウドERP導入によるモダナイゼーションの事例
- 10 まとめ
1. モダナイゼーションとは
モダナイゼーション(modernization)とは、古い基幹システム・業務システムといったいわゆるレガシーシステムを、既存の情報資産を維持しながら、現代的な製品・サービスに置き換えることです。
「モダナイゼーション」は元々「現代化」という意味で、ITの分野においては「レガシーシステムの現代化」を指すようになりました。「システムモダナイゼーション」「ITモダナイゼーション」などと呼ばれることもあります。
モダナイゼーションは、経済産業省が懸念する「2025年の崖」の対策の1つとして、大きな注目を浴びています。
グローバルマーケットにおける競争に負けないためにも、モダナイゼーションの推進が必須と言えるでしょう。
(1)DXとの違い
DXとモダナイゼーションには関連があるため、混同されるケースもありますが、両者の意味は異なります。
DXについて、経済産業省は2020年に発表した「デジタルガバナンス・コード2.0」の中で以下のような定義を紹介しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
引用:「デジタルガバナンス・コード2.0」
一方、モダナイゼーションは「システムの更新・刷新」を指します。つまり、DXはモダナイゼーションを含むより広範な概念と言えます。
(2)マイグレーションとの違い
モダナイゼーションがシステムの「更新」であるのに対して、マイグレーション(migration)はシステムの「移行」を指します。
具体的には、モダナイゼーションでは既存システム(レガシーシステム)を活かしつつ、その構造を変更します。一方、マイグレーションではシステム変更を伴わず、「データベース・アプリケーションをクラウド環境へ移行する」といった取り組みが実施されます。
2. モダナイゼーションを進めるべき理由
モダナイゼーションを進めるべき大きな理由が「2025年の崖」の存在です。
2025年の崖とは「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜(経済産業省)」で示されている言葉です。
DX化を妨げる要因となるような、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムを使用し続けている企業は多く、2025年時点で、21年以上稼働する基幹システムを保有する企業の割合が6割に達すると予想されています。
そしてレポートでは、このような既存システムが残存すると、システムの仕様を把握している人材の引退・サポート終了などの影響もあり、2025年以降に「年間最大12兆円もの経済的損失が発生する」と警鐘を鳴らしています。
この「2025年の崖」への対策として、モダナイゼーションが推奨されているのです。具体的には、以下のようなメリットが期待できます。
- • 既存システムの保守・運用にかかるコストの削減
既存システムの老朽化に伴い、ソフトウェア・ハードウェアの保守・運用を提供するベンダーの選択肢が減る傾向にあり、結果的にコストが増大するケースがあります。モダナイゼーションを実施し機能の整理・刷新を行うことで、保守・運用コストを削減することができ、人的・金銭的リソースをコア業務などに回すことが可能となります。 - • 既存システムの見える化によるブラックボックス化・属人化の解消
老朽化した既存システムは、ドキュメント・マニュアルが整備されておらず、トラブルが発生した場合の対処や原因追究の妨げとなる可能性があります。またこのようなブラックボックス化したシステムでは、業務が属人化してしまっているケースも多く、担当者が休職・引退した場合に業務が停止するリスクもあります。モダナイゼーションの推進は、これらのリスク解消にも役立ちます。
3. モダナイゼーションの主な手法
モダナイゼーションには「リプレース」「リライト」「リホスト」などの手法があります。
(1)リプレース
リプレースは、新システムへの置き換えを意味します。
業務内容に対応した要件定義を新たに実施し、ハードウェアとソフトウェアの両面からシステムを刷新します。
これにより、ビジネスプロセスの標準化を実現し、システムの複雑化・ブラックボックス化からの脱却が期待できます。新たなビジネスモデルへの対応も容易になり、DX推進との親和性も高いと言えるでしょう。
ただし、大規模なシステム移行を伴うため、時間とコストがかかる傾向があります。移行による混乱を防ぐためにも、現場の適切なフォローが必要です。
リプレースは、システムの複雑化・ブラックボックス化が大きな課題となっている企業や、DX推進のための時間・予算が確保できる企業に適した手法です。
(2)リライト
リライトは、既存システムを新しいプログラミング言語(コード)に書き換える手法です。
機能面の変更はないものの、リライトを実施することで、セキュリティ面が改善され、メンテナンスが容易になるほか、処理速度の向上なども期待できます。
なお、リライトに際しては既存システムの分析・解読を行う必要があるため、高い技術力が求められます。
ただし、リプレースなどと比較して低コストで済む可能性があると考えられます。
リライトは、既存システムが古い言語で書かれていることが機能拡張の妨げとなっている企業などに合った手法です。
(3)リホスト
リホストは、既存システムのプログラムを、新たなシステム基盤に移行する手法です。
プログラムの変更は伴わないため、コストを抑えることが可能なほか、移行後の社内の混乱も比較的生じにくいと考えられます。
一方で、ハードウェアのみの取り替えとなるため、既存システムの問題点が引き継がれる可能性があります。また、「他のシステムとの連携が難しい」といった課題が解決しない可能性もあります。
レガシーシステムの延命策という側面も強いため、これを理解した上で採用を検討すると良いでしょう。
リホストは、業務継続性の高さを重視したい企業や、費用を抑えてモダナイゼーションを実施したい企業などに向いています。
4. モダナイゼーションの主な手法のメリット・デメリット
モダナイゼーションの各手法のメリットとデメリットを分かりやすくまとめました。
モダナイゼーションを実施する際には、各手法のメリットとデメリットを理解した上で、自社が重視する要素を明確にし、最適な手法を選択しましょう。
手法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
リプレース | 新システムの再構築を伴うため、プロセス改革などもしやすい | 時間・費用面でコストがかかる傾向がある |
リライト | 低コストで済む場合がある | 高い技術力が必要である |
リホスト | 移行後の社内の混乱を抑えやすい | 変更すべき箇所が引き継がれる可能性がある |
5. モダナイゼーションの基本的な手順
モダナイゼーションを実施する際の基本的な手順は、以下の通りです。
(1)対象・目的の明確化
はじめに、モダナイゼーションを実施する対象と目的を明確化します。
複数の既存システムがある場合は、各システムに何の課題があるのか洗い出し、どの範囲でモダナイゼーションを実施するか検討します。また、どのような解決を目指すのかという目的も明確にします。
対象と目的が明確でない場合、課題の解決につながらない可能性があるほか、時間やコストがかかりすぎる、現場が混乱するといったトラブルの発生も考えられます。
対象・目的を明確化するためには、事前にシステムの現状や自社のIT資産の全体像・活用方法などを可視化し、把握しておくと良いでしょう。
(2)置き換えるシステムの決定
次に、置き換えるシステムと置き換え先・置き換えの手法などを決定します。一例としては「オンプレミスからクラウドに業務システムを移行する」などが挙げられます。
システムの置き換えに際しては、特にセキュリティに対して細心の注意を払うことが必要です。単にシステムを置き換えることを目的とせず「自社の課題解決が実現できるか」「コスト削減・業務効率化につながるか」を念頭に置き、置き換えるシステムを決定していきましょう。
なお、モダナイゼーションの手法にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、最適な手法の選択が求められますが、必ずしも手法を1つに絞る必要はありません。
モダナイゼーションでは複数の手法を組み合わせるケースも珍しくないため、専門家などと相談しながら、自社に適した手法を選択してください。
(3)予算・人員の決定
最後に、予算と人員を決定します。
予算については、モダナイゼーションの範囲が広かったり、短期間で進めたりする場合に高額となる可能性があります。そのため、必要に応じてスモールスタートする、段階的に進める、モダナイゼーションの範囲を狭めるなど、柔軟な対応が求められます。
人員については、モダナイゼーションに対してどのような人材が何人程度必要か試算します。本来の業務に支障が出ず、無理のない範囲で人員を選出し、最大のパフォーマンスが発揮できるように工夫しましょう。社内に選出できる人材がいない場合は、外部人材・外部サービスで補うことも可能です。
リソース(予算・人材)は有限なので、しっかり管理することが求められます。
6. モダナイゼーションを進める上でのポイント
モダナイゼーションを進める際には、以下のポイントを意識してください。
• 現在のIT資産を可視化する
• 変える箇所と変えない箇所を分別する
• 現場の担当者と密にコミュニケーションをとる
上記は、モダナイゼーションを円滑に進め、成功に導くため重要なポイントとなるため、それぞれの詳細を理解しておきましょう。
(1)現在のIT資産を可視化する
既存システムの課題を明確にする上で、IT資産の現状(どのようなソフトウェア、ハードウェアを利用しているか、ソフトウェアのバージョン、ハードウェアの耐久年数、セキュリティ対応など)を可視化することが重要です。
すでにシステムがブラックボックス化している場合であっても、判明しているシステム・ソフトウェア構成などを可能な限り可視化します。
このプロセスを飛ばしてしまうと、対象や目的が明確化できず、また、モダナイゼーションの実施範囲が適切ではなくなる可能性があります。例えば「実際には、システムの半分程度しか使用していないにもかかわらず、すべてのシステムを移行する」などすれば、ムダな費用がかかる上に、根本的な課題解決にも寄与しません。
このように、不要なシステムを把握して整理することもIT資産の可視化では重要です。
(2)変える箇所と変えない箇所を分別する
可視化されたIT資産に対して、すべてを変更するわけではありません。「変える箇所・変えても良い箇所」と「変えない箇所・変えられない箇所」を明確に分別して要件定義します。
変える箇所・変えても良い箇所の例としては、「(許容範囲内の)帳票名簿の出力順」「新規・改修要件」などが考えられます。こうした箇所に対しては、業務への影響を考慮した上で優先順位をつけ、モダナイゼーションのスムーズな進行を図ります。
一方、変えない箇所・変えられない箇所の具体例としては「法制度が関わること」「外部システムとのインターフェイス」などが考えられるでしょう。
「基幹システム周辺の改修は複数回実施しているものの、コア部分の改修は未着手」などのケースでは、企業・事業の将来を考慮した上で、着手すべきかどうかをしっかり判断すべきです。
この他、予算なども含めて総合的に熟考し、モダナイゼーションの適用範囲について適切な判断を下すことが求められます。
(3)現場の担当者と密にコミュニケーションをとる
モダナイゼーションの推進に際しては、現場担当者と密にコミュニケーションを取ることが極めて大切です。
刷新されたシステムを実際に使用するのは現場担当者なので、現場の利用実態をヒアリングするとともに「システムのどの部分を変えて欲しいか」「変えるか変えないか判断がつかない部分をどうするべきか」について意見を求めることが最善です。
刷新されたシステムの機能・仕様変更が業務の妨げとならないように、プロジェクトの初期段階から現場担当者に参加してもらうことが望ましいでしょう。
7. モダナイゼーションはクラウドシステムの導入がおすすめ
モダナイゼーションを進める手段は、自社で所有・管理する「オンプレミス」と、外部サービスを利用する「クラウド」の2つに大別されます。
特に近年、以下のメリットからクラウドシステムの導入が注目を集めています。
クラウドシステム導入のメリット
• ハードウェアの保守・運用が不要
• システムリソースを容易に増やすことが可能
• バージョンアップがスピーディーに、自動的に行われる
クラウドシステムを導入すれば、自社でハードウェアを保有する必要がなく、保守・運用作業が不要となります。
また、オンプレミスでは自社でのバージョンアップ作業が必要ですが、クラウドであれば素早く自動でバージョンアップが実施されます。
さらに、事業拡大に伴ってシステム拡張する際なども、手続き1つで簡単にシステム容量を増やすことが可能です。
このように、IT人材が自社で不足していても、円滑にモダナイゼーションが推進できる点が大きなメリットとなります。
なお、かつてはクラウドのセキュリティ面を不安視する声もありましたが、近年のクラウドサービス事業者はセキュリティ対策に尽力しており、高い安全性が確保されています。
クラウドシステムは、コスト削減と業務効率化が簡単に両立できるため、導入を検討する価値は充分にあると言えるでしょう。
8. バックオフィス業務にはクラウドERPが最適
バックオフィス業務では「業務の属人化」「繁忙期の人材不足」「アナログ作業の多さ」などが課題になりがちです。
これらの課題は、ERP(統合基幹業務システム)の導入により解決できる可能性があります。ERPの導入により、販売情報、在庫情報、財務情報などを一元管理することが可能となり、業務の効率化を実現します。
さらにクラウドERPでは、ERPがクラウド上に設置されているため、各部署や拠点間のスムーズなデータ連携が可能となります。これにより、ハードウェアの保守・運用・バージョンアップ作業などが不要となり、バックオフィス業務の効率化に大きく寄与します。
9. クラウドERP導入によるモダナイゼーションの事例
クラウドERPは、モダナイゼーションの有効な手段として、すでに様々な場面で導入されています。
例えば、三重県内のJA(農業協同組合)の信用事業サポートと、金融サービス提供を実施する「三重県信用農業協同組合連合会」は、2023年にSCSKのクラウドERP「ProActive」を導入しました。
三重県信用農業協同組合連合会では、部署間のデータ連携が不十分で、二重入力による業務効率の低下やメンテナンスコストの増大が課題となっていました。また、法改正の都度システム更新が必要でした。
そこで、ProActiveの導入によって二重入力を削減。円滑なデータ連携により業務効率化を実現しました。また、自動バージョンアップにより、法改正に伴うシステム改修が不要となるなど、メンテナンスコストの軽減も見込まれています。
関連記事:導入事例|三重県信用農業協同組合連合会
10. まとめ
モダナイゼーションは、古くなった基幹システム・業務システムを現在に適した形に刷新することです。
モダナイゼーションの主な手法には、リプレース・リライト・リホストがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、目的や予算などに応じて選ぶと良いでしょう。
また、モダナイゼーションを実施したシステムは、自社で所有・管理するだけでなく、クラウドシステムとして外部で管理する方法もあります。クラウドシステムを導入することで、ハードウェアの保守・運用が不要となり、システム容量の拡張やバージョンアップも迅速に行えます。これにより、手間をかけることなくバックオフィス業務を効率化し、業務の属人化や人材不足といった課題にも対応できます。
現在、様々なクラウドERP(統合基幹業務システム)サービスが提供されています。今回ご紹介した「ProActive」は、国産のERPとして高い信頼を得ています。リリースから30年以上の歴史を持ち、6,600社以上、300以上の企業グループにおける実績があります。
モダナイゼーションを推進する際には、ぜひクラウドERPの導入をご検討ください。
フューチャーブリッジパートナーズ株式会社
代表取締役
長橋 賢吾
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了、2005年東京大学大学院情報理工学研究科修了。情報理工学の博士号取得。英国ケンブリッジ大学コンピュータ研究所訪問研究員を経て、2006年日興シティグループ証券(現、シティグループ証券)にてITサービス・ソフトウェア担当の証券アナリストとして従事したのち、2009年3月フューチャーブリッジパートナーズ(株)設立。経営の視点から、企業戦略の策定、経営管理、IR支援、ITコンサルティング、データを活用した経営の仕組みづくり等を行っている。野原グループ(株)取締役・グループCFO、(株)ジオコード社外取締役、(株)ネットスターズ社外取締役。『ビックデータ戦略』など著書多数。
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