スペシャル対談 テクノロジーで磨き上げる
変革のスピードと経営の高度化
~住友商事CDO・CIOと語る 不確実な時代に描く企業経営の未来~

  • 住友商事株式会社様

    執行役員 CDO・CIO DX・ITグループ長

    巽 達志 氏

  • 執行役員 PROACTIVE事業本部長

    菊地 真之 氏

不確実性が高まる現代のビジネス環境において、多くの企業が変革の岐路に立たされている。しかし、言わずもがな、すべての企業が変革に取り組むわけではない。「変わるか、立ち止まるか」。この選択は企業の未来を左右する。日本を代表する総合商社の住友商事もまた、その波に晒されてきた。そこで同社が下した決断とは。「デジタルで磨き、デジタルで稼ぐ」のキーワードを掲げ変革を決断し、取り組みを牽引してきたCDO(最高デジタル責任者)・CIO(最高情報責任者)を務める執行役員 DX・ITグループ長の巽達志氏が、同社を支援するSCSK の執行役員 PROACTIVE事業本部長の菊地真之氏と語り合った。

必要とされるのは不測の変化へ俊敏に対応できる力

菊地氏 住友商事は2018年からデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを続けていますよね。DXに取り組むようになった背景にはどのような課題があったのですか。

巽氏 当社のDXは18年にCDOを設置し、DXセンターを立ち上げたのが始まりです。その当時、すでにデジタル技術がビジネスや業務のあり方に大きな変化の波をもたらし、旧来のモデルだけでは不十分で、デジタル技術を駆使した新たなビジネスモデルが求められる状況にありました。

総合商社である当社は、元々商売人の集合体であり、デジタル技術をどうビジネスに活用するかについては、一部の進んでいるビジネスでしか検討が進んでいない状況でした。我々のDXの取り組みは、そんな状況を打開することが最初の目的です。18年からの3年間は、DXの必要性・重要性に対する全社的な理解を深める啓発活動に力を注ぎました。現在は、この取り組みを事業の強化や稼ぐ力の向上といった実際の成果へと結びつけるフェーズに突入しています。当社のDX戦略は「デジタルで磨き、デジタルで稼ぐ」段階にあるといえます。

菊地氏 巽さんはCDOとCIOを兼任されていますよね。最近増えているこの体制ですが、これもまたDX戦略の1つということでしょうか。

巽氏 そうですね。デジタル技術自体もビジネスにインパクトを与える変化を繰り返しています。代表例が生成AI(人工知能)です。こうした技術の急速な進化は、業務やビジネスのあり方を一変させつつあると同時に、不確実性へさらに拍車をかける要因でもあります。当社のDXはそうした革新技術をいち早く取り込み理解を深めることで、ビジネスの強化に生かす取り組みでもあるのです。

また、最近のトレンドとして、ERPなどの従来のITシステムにさまざまなデータが蓄積されており、そのデータを使っていかに経営を高度化していくかを考える必要性が高まっています。その際に、コーポレートITの側面が強いERPをDXのような攻めの取り組みと融合させ、データ生成から活用までを一気通貫で見るべきであるという考えから、当社では2年前からこの2つのポジションを統合しています。この統合により、全社のデジタルとITの責任者として、より包括的な視点でDXを推進しているのです。実際に、商社業界でも5社中4社がCDOとCIOの役割を統合しており、データを軸にしたデジタル活用による経営の高度化には不可欠な体制だと考えています。

菊地氏 経営の高度化において、AIを組み合わせたデータ活用は、我々も非常に重要なテーマだと認識しています。AIは、業務に携わる社員一人ひとりの役割に応じて、業務や業界固有の構造や経営課題を考慮し、情報提供や支援内容を最適化します。このようなパーソナライズされたデータ活用により、社員はそれぞれの利用シーンに応じて必要な情報へ迅速にアクセスできるようになります。その結果、経営においてより的確な判断と迅速な行動を実現することが可能となり、組織全体の生産性向上や競争力強化に繋がります。

昨年11月には当社が提供するPROACTIVEをリブランディングし、業務・業界に特化したオファリングにより経営の高度化を提供したのもこういった背景です。業務標準型オファリング(Fit to Standard)、業界特化型オファリング (Best Practice)、それにAIを組合せることで業務とITのシナジーを最大限発揮できる環境を提供しています。

激変する商社のビジネスモデルと2つの変革テーマ

菊地氏 先ほど、住友商事のDX戦略は「デジタルで磨き、デジタルで稼ぐ」段階にあるとおっしゃいました。その状況について詳しく聞かせてください。

巽氏 最近ではDXというところから、デジタルやAIを使ってどう変革するかとテーマが少し広がっています。ここでは2つの軸があります。

1つは、デジタル技術によって事業を強化して価値を高めること、つまり事業そのものの「磨きと稼ぎ」です。当社には、鉄鋼、自動車、輸送機・建機、都市総合開発、メディア・デジタル、ライフスタイル、資源、化学品・エレクトロニクス・農業、エネルギートランスフォーメーションの9つの事業グループがあり、その傘下にビジネスユニットとして合計43のSBU(Strategic Business Unit)が存在します。これらのSBUは、現在デジタル・AI技術の活用によって売上増加、効率化、生産性向上など相応の成果を上げつつあります。

もう1つの軸が、デジタル・AI技術とデータを使った経営の高度化です。その背景として、当社を含めた商社のビジネスモデルはこの20年で大きく様変わりしています。かつては住友商事という単体の会社で、営業担当者のほとんどがトレーディング業務を行っているというビジネス形態が長らく続いていました。ITの観点からも、基幹システムであるERPもそのような業務を前提に開発されたものでした。

しかし、00年代以降は事業投資と事業開発、つまり新しいものを世の中に創出して社会へ実装していくことがビジネスの中心をなすようになりました。そこでは新規事業への投資判断や事業ポートフォリオマネジメントの高度化が必須となっています。経営の仕組み、経営のやり方に変革が求められている状況であり、そこへいかに対応できるかどうかがDX戦略上の重要なテーマになっています。

菊地氏 VUCA時代ともいわれる近年では、物事の不確実性が高まり、不測の変化がさまざまに引き起こされています。そんな時代への対応力を強化する狙いもあるのではないですか。

巽氏 もちろんあります。世界のあらゆるところでビジネスを行っている当社としては、昨今の地政学的リスクによる影響は大きく、いつ不測の事態が起きても不思議はありません。ゆえに企業には、さまざまな変化に俊敏に適応できる能力が必要とされ、それにはデジタルとデータの有効活用が不可欠です。

菊地氏 不確実性の高まりや労働力人口の減少といった課題に対応するためには、AIを活用した高度な経営判断や業務の効率化・自動化が必要不可欠ですね。

「デジタルで稼ぐ」投資判断におけるAI活用

菊地氏 経営の高度化に向けたデジタル活用としては、具体的にどのような取り組みを推進していますか。

巽氏 主な取り組みは生成AIの活用です。具体的には、生成AIに当社の今までの投資判断に関する社内資料や投資案件の実績データを読み込ませ、新規案件を検討する際に関係者がいつでも簡単に生成AIにアクセスして使えるアプリケーションを開発しました。この仕組みは、投融資委員会の委員全員が使えるようになっています。

もちろん、最終的に判断を下すのは人間であり、生成AIはあくまでデジタルアシスタントです。しかし、投資の議論のために必要な多岐にわたる情報を人に代わって収集してくれる働きによって、我々人間たちは議論の質を高めていくことができます。

また、経営判断という点はもちろんですが、生成AIは日頃の仕事のやり方を高度化・効率化し、よりクリエイティブな仕事へシフトする効果も大きいですね。当社では2024年から約9000人の従業員全員が生成AIを使えるようにしていますが、年間で12万時間相当の業務時間削減が見込まれています。

菊地氏 それにはアクションにつながるAI活用(アクショナブルAI)が重要な考え方ですね。

巽氏 SCSK PROACTIVEはそれを実現しているということですよね?

菊地氏 はい、そのとおりです。「特定の製品の売上高の伸び悩み」という課題に対して、AI が異なる観点で横断的にデータを分析し、「他の製品と比較して受注から出荷までの時間が長いため、顧客満足度が低下している可能性がある」といった形でダッシュボードに表示することで、問題の本質を素早く把握し、次にとるべき具体的な改善策を提案するなどが可能です。実行プロセスにおいてもAIエージェント同士が連携し、必要なタスクを自動化していくことが可能です。このような仕組みで、不確実性の高い現代でも、より迅速で成功確度の高い企業経営が可能になると考えています。

いずれは、AIが複数の戦略パターンをシミュレーションし、経営へのインパクトを可視化し、その戦略を実現するためのKPIを達成できるよう実行支援をするところまでを自動化することを目標としています。

変革の実行力とスピードをさらに加速する

菊地氏 住友商事では取り組みを今後どう強化し、発展させる計画ですか。

巽氏 我々の目前の課題は「デジタルで稼ぐ力」をどう高めていくかです。そのためには、多様な技術や知見を組み合わせて、新しいビジネスや新しい価値を創らねばなりません。

そこでは、かつてのように各事業それぞれの垂直的な視点と取り組みだけでは限界があり、産業や業界を超えた発想と連携が必要とされます。これは、既存事業をデジタル技術で強化するよりも難度の高い取り組みである一方、43のSBUを通じて多様な業界に向き合ってきた総合商社である当社が大きな優位性とユニークネスを持っている領域であり、デジタルの取り組みとして最もやりたいことです。

さらに、こうした世界観を実現するには、CDO/CIOである私だけでなく、SBUそれぞれがデジタル技術を活用した新たな価値創造の戦略を描き実行に移すことが必要になってきます。

菊地氏 巽さんのおっしゃった産業横断の考え方は強く共感します。実は、PROACTIVEが業界特化のオファリングを提供している背景にも、この理念が深く根付いています。不確実な時代において、SIer(システムインテグレーター)としても、特定業界のベストプラクティスを確立し、それを他業界に横展開することが不可欠だと考えているからです。

ある特定業界の企業が、過去に経験のない課題と直面したとしても、その課題は他業界の企業がすでに乗り越えてきたものである可能性が大いにあります。そこで、ある業界のベストプラクティスを他の業界の企業に適用することで、その企業の課題を解決するソリューションをクイックに提供できるはずです。なぜITを使うのかといえば結局のところスピードです。ですから、スピード感を持ちながら最大限効果を出していく、テクノロジーを使って拡大していくかというところをお客様とやるべきですし、そういう存在であるべきだと思っています。

PROACTIVEの「業界特化型オファリング」では、卸・商社、製造、建設、サービス業向けのベストプラクティスと組み合わせ、各業界が抱える特有の経営課題に対してワンストップで解決策を提供します。先日も、業界特化の取り組みとして商社・卸売業向けテンプレートの提供開始を発表しました。今後は、製造業や建設業など、他業界への機能拡張を積極的に推進していきます。

巽氏 住友商事としても、デジタル技術と各業界のビジネスに精通したIT企業と連携すれば、デジタル技術で新たな価値を創出するのも、それをスケールして効果を最大化するのもスピーディーになります。

昨今の市場環境は先行きが見えず、かつてのように「これをやれば目指すべき到達点にたどりつける」という時代ではなくなっています。デジタルの取り組みというジャーニーにおいても、時に右へ左へと迷いながら進んでいくことはありますが、大きな方向性を誤らないようにしなければなりません。

その中で大切なのは、アイデアないしは案件を形にする実行力とスピードを増すことです。そこは我々もまだ大きなチャレンジがあり、SCSKにはそうした期待に応えられるパートナーであり続けてほしいと思っています。

※著作・制作 日本経済新聞社 (2025年日経電子版広告特集)。 
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