スペシャル対談 データとAIの積極活用で加速。
金融インフラ企業が目指す「変革の本気度」

  • 日本取引所グループ(JPX)様

    JPX常務執行役CIO

    田倉 聡史 氏

  • 執行役員 PROACTIVE事業本部長

    菊地 真之 氏

株式市場の社会インフラとしての役割を超え、みずからも上場企業として企業価値向上の「変革」に挑む日本取引所グループ(JPX)。経営基幹業務の信頼性を強化しつつ、市場ニーズに応えて新たな事業を生み出す「総合金融プラットフォーム化」に取り組む。その変革の実現を支えるのが、SCSKのテクノロジーだ。データとAIの力で変革を加速する両社の挑戦について、JPX常務執行役CIOの田倉聡史氏とSCSK執行役員PROACTIVE事業本部長の菊地真之氏に語ってもらった。

「ネバーストップ」から「レジリエンス」強化へ

菊地 本日はありがとうございます。最初にぜひお伺いしたいのが、2020年に発生した東京証券取引所のシステム障害です。これは御社が推進している変革への取り組み、「総合金融プラットフォーム化」への大きな転機になったのではないかと拝察しているのですが、当時どういった障害が起こり、どのような対応を進められたのでしょうか。

田倉 ありがとうございます。少しご期待と違うかもしれませんが、「arrowhead(アローヘッド)」というシステムは、私たち一企業のシステムではなく、社会インフラとして非常に重要なものです。ですから、私たちが求める価値、つまり「市場を絶対に止めてはいけない」という思いは一貫して変わっていません。

ただ、その思いが強すぎた結果、障害対応が硬直化し、かえって仇となりました。私たちはこれまで、システムを止めないための施策を何度も重ねてきたのですが、「これだけやったから止まらない」という過信があったのかもしれません。

本来、システムの可用性は99.999%と設定しており、0.001%は止まることを想定していました。にもかかわらず、止まることに対する備えが、「止めない」ことへの執着と比べてアンバランスだったと反省しています。この経験を通じて、「止めない」努力に加え、止まった際の迅速な復旧、つまり、レジリエンス(復元力)の重要性をあらためて認識しました。

菊地 万が一の際、俊敏に復旧する仕組みに重きを置くようになったということですね。

変革の原動力となった「一本足打法」からの脱却

菊地 それでは、変革を進めるうえで、このご経験から得られた教訓はありますか。

田倉 市場運営はもちろんJPXの根幹であることは間違いないものの、純粋に経営上の観点で見て、市場運営の“一本足打法”、すなわち市場の景気に左右されやすい経営になっていないか、と改めて考えることとなりました。経営が景気で大きく変動するのでは、経営者の存在意義が問われてしまいます。ですから、ポートフォリオを広げなければいけないという思いは、もともと社内にありました。

2018年には、役員と若手、中堅が集まるオフサイトミーティングで、「もしGAFAM のようなメガプラットフォーマーが株式取引に参入したら、JPXの存在価値は保てるのか」というテーマで議論しました。この危機感が、その後の変革の原動力になったのだと思います。

菊地 そのような経営に対する「危機感」の流れで、JPX総研が設立されたのですね。

田倉 はい。「株の一本足打法」から脱却するために、2021年にJPX総研を立ち上げました。全従業員約1200人のうち250人を異動させ、基幹業務と並ぶ「新たな収益の柱」として情報サービスを位置づけました。これは経営としての相当な覚悟の表れです。

菊地 その新しい情報サービスにおいて、ITが担う役割はやはり蓄積された「データ」をどう活用していくか、ということでしょうか。

田倉 まさにその通りです。取引所の基幹業務を通じて蓄積されたデータをいかに「売り物」にしていくか。日本のインフラを支えるマーケット運営者として、日本の市場におけるデータをより幅広く提供することで、マーケットを豊かにしていく……。これが長期ビジョンである「Target(ターゲット)2030」の「グローバルな総合金融・情報プラットフォームに進化する」という目標につながっています。

「既存事業」と「新規事業」を両立させる工夫とは

菊地 既存事業を守りつつ、新規事業も育成するということですね。これらを両立させるために、どんな工夫をされましたか。

田倉 我々はITマスタープランで、これまでの伝統的な業務と、新しい変革にチャレンジする領域を定義し、まずはこの2つを明確に分けて取り組みました。

新規事業を担うJPX総研については、あえて本社から物理的に離れた場所に設置しました。これは既成の価値観に縛られず、新しいことを推進するためです。本社にいると、どうしても「マーケットを守る」という強い価値観の影響を受けてしまいます。もちろん、それは重要なことで悪いことではありません。ただし、ちょっとした変更やプラスアルファ的な要素では、むしろ、既成概念にとらわれず、自由に取り組んでもらったほうがよいと判断したわけです。

菊地 なるほど。ものすごく、わかります。実は、私どもの商品・サービスであるERP(Enterprise Resource Planning)のようなシステムについても、似たような側面があります。私どもがお客様に提供してきたERP「PROACTIVE」は、30年超の歴史がある中で、「変わらないことが正義」といった価値観というか思い込みが一部あり、これが成長阻害につながっていた面があるからです。それが「企業文化」のように常態化してしまうと、事業成長の機会を阻害してしまうという負の側面が出てきてしまいます。

田倉 自分たちが「正しくあらねばならない」という思いが強すぎて、どうしても外部のものを入れることを嫌う文化はありました。しかしいまは、他のプラットフォームと連携して、我々がリーチできなかったお客様に情報が届けられるなら「いいじゃないか」と、積極的に協業を仕掛けています。

経営の変革を促す「AIとデータ」の力

菊地 JPXさんの変革を支えるうえで、やはり、ITというテクノロジーの活用は重要な要素でしたか。

田倉 おっしゃる通り。データのクラウドへの移行や、構造化データと非構造化データを一つにまとめるなど、さまざまな切り口でのデータの活用と提供を可能にするには最新のテクノロジーが必要です。

長年、経営基幹業務においては、SCSKさんのERP「PROACTIVE」を活用していますが、2024年にはリブランディングされたAIネイティブな次世代型ERP「PROACTIVE」への移行を進めています。ここでは、蓄積されたデータとAIの掛け合わせによって「リアルタイムな経営情報を可視化できる」という効果には大いに期待しています。

菊地 ありがとうございます。従来のERPは、会計、人事給与、販売管理といった企業活動に関するデータを統合して管理するという発想の下につくられていました。しかし、蓄積されたデータを活用しきれていないというケースもありました。データがあって、可視化もできるが、さまざまなメッシュで組み合わせて経営施策に活用するには、いわゆる「スーパーExcel職人」のような専門家の手を借りる必要がありました。

これは本当のデータの活用にはなっていないですし、データを加工・分析する間に、情報はどんどん古くなり、リアルタイムな経営判断にはつながりにくいという課題があったのです。

SCSKでは、そうした課題を打破するために、昨年、長年培ってきた自社の知的財産である「ProActive」「atWill」「PImacs」を統合し、新生「PROACTIVE」として、大きくリブランディングしました。この「PROACTIVE」は、AIネイティブなERPを核に、社内外の膨大な情報を統合・分析し、「次に打つべき一手」につながる質の高い「示唆」を導き出します。これにより、お客様は、煩雑な分析から解放され、データが示す客観的な選択肢をもとに戦略を練るという、本来の役割に集中できます。

具体的には、ERP内に蓄積された社内データだけでなく、市場環境、生産状況、原材料の市況、天候といったあらゆる外部データともリアルタイムで掛け合わせることが可能です。

田倉 そもそも1カ月遅れのデータでは、経営も迅速なアクションが取れません。「PROACTIVE」への移行は、JPXにとって変革を推進するための重要な基盤になります。

菊地 私たちの強みはさまざまなお客様との開発・導入・運用を通じて得られた実践的なノウハウです。これらは単なる業務知識ではなく貴重な知的財産です。この知的財産を、具体的な「業務・業界特化型オファリングサービス」として体系化し、お客様に提供しています。

たとえば、お客様の業務要件を分析できるような業務特化型のデータや、お客様の業界ごとに必要とされるデータを、私たちのほうでも準備しますし、外部からも取り込んでもらえる仕組みを準備しています。これによりさらなる経営判断の高度化や業務の効率化が実現できます。

変革のカギは「経営のコミットメント」と「新しい価値創造」

菊地 先ほどもお話ししましたが、JPXさんの変革のきっかけと同様、私どもの事業本部も、これまでの約30年間、「変わらないことが正義」という価値観や思い込みに陥っていた部分がありました。しかし、ここへ来て、私は経営トップから「とにかく、この30年間をすべてぶっ壊すつもりで、大胆に取り組んでくれ」と命じられ、昨年はかなり大きな決断もしました。

これは、あえて「技術負債」と「文化負債」を捨てて、新しいことにチャレンジするためです。この経験を通じて、社員の思考の硬直化が解け、「このままではいけない」と潜在的に感じていた人たちが、自発的に新しい技術や取り組みを始める文化が生まれました。

また、もう一つ、JPXさんの取り組みとSCSKの改革には共通点があります。それは「経営のコミットメント」と、それを組織全体に浸透させるためのトップみずからの行動が重要ということです。JPXさんは変革を加速するために「AI推進委員会」を立ち上げるなど、AIの活用にも熱心な企業として知られています。その「AI推進委員会」には、CEOがみずからトップとして率先して参加されていると聞いております。これは素晴らしいエピソードだと思います。

田倉 そもそも変革とは、単にオペレーションが変わっただけで終わらせてはいけないということです。単に業務の効率化とか自動化ということだけじゃなくということですね。そこに「新しい価値」が生まれることを目標にしないと、本当の意味で成功したとはいえないだろうと思います。

菊地 まったく同感です。たとえば、私たちの事業においても、単にERPの機能が便利になったり、UI(User Interface)が改善され使いやすくなるだけでは不十分で、お客様と一緒に新しい価値をつくれたという実感がなければなりません。だからこそ、PROACTIVEのミッションとして、「ビジネスを動かす一歩を、共に創る」を掲げています。データとテクノロジーを駆使して経営資源を最大限に活かした意思決定を後押しすることで、お客様の変革に寄り添っていきたいのです。

そして、変革を本当に成功させるには、経営層が危機感を持ってみずから発信し行動することが不可欠だと思います。その姿勢が組織に浸透し、社員の共感と自発的な挑戦を生み出すことで、硬直化を打破する推進力となります。それは単なる持続的成長に留まらず、企業が常にチャレンジを続けていく力の源泉になるはずです。

私たちSCSKも、PROACTIVEという製品に限らず、人材面でもテクノロジー面でもいろいろな挑戦を重ねていきたいと考えています。

出典元:2025年9月30日公開 DHBRオンラインタイアップ広告掲載

日本取引所グループ(JPX)様

その他の特集記事