お役立ちコラム 需要予測モデルの選び方を解説!予測精度を高める方法とモデル別の特徴を紹介

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ビジネスの世界で勝ち抜くために、需要予測の重要性が日々高まっています。適切な需要予測により、在庫の最適化や生産計画の効率化が実現でき、結果として売上向上やコスト削減に貢献します。しかし、多くの企業担当者は「どのモデルを選ぶべきか」「どう精度を高めるか」で悩んでいるのではないでしょうか。本記事では、需要予測モデルの種類や選定ポイント、導入から運用までのプロセスを解説します。

需要予測モデルの重要性とは?

需要予測モデルとは、過去のデータや市場動向などを分析し、将来の需要を予測するために使用する数学的または統計的な手法やアルゴリズムの数理モデルのことです。近年、データ活用の重要性が高まる中で、「勘と経験」に頼った需要予測から、データに基づく科学的な需要予測への移行が急速に進んでいます。

需要予測モデルを導入することの重要性は、以下の点から明らかです。

需要予測モデルを導入するメリット

需要予測モデルを導入することで、企業は具体的に下記のようなメリットを得ることができます。

在庫の最適化による収益性向上

需要予測モデルを導入すると、適切な在庫量を精度高く予測でき、余剰在庫や欠品リスクを抑えることが可能になります。これにより、在庫管理コストが削減され、販売機会損失も低下するため、全体的な収益性が向上します。

企業の意思決定プロセスをデータに基づいたものにする

需要予測モデルを活用することで、経験や直感に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて意思決定を行えるようになります。その結果、企業の戦略や施策がより的確かつ迅速に策定され、競争力の強化につながります。

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予測プロセスの標準化で品質を維持し、業務効率を向上

需要予測プロセスを標準化することで、担当者が変わっても一定の品質を保った予測が可能になります。これにより属人性が排除され、企業全体の競争力強化につながります。

また、将来の需要を正確に予測することで生産リソースの最適配分が生産効率化に寄与します。

代表的な需要予測モデルの種類

需要予測モデルには様々な種類があり、それぞれ特徴や適している状況が異なります。ここでは、大きく分けて「統計的モデル」「機械学習モデル」「定性的予測モデル」の3つのカテゴリーに分類して解説します。

統計的モデル(移動平均法・指数平滑法・回帰分析)

統計的モデルは、過去の販売実績など、時系列の数値データをもとに将来の需要を予測するために使われます。代表的な手法のひとつである移動平均法は、一定期間内のデータを平均化して短期的な需要変動を予測することに適しています。

また、指数平滑法は直近のデータにより重点を置き、季節変動や短期的な傾向変化に素早く対応できます。

回帰分析は、市場動向や広告費、競合状況などの外部要因を考慮し、より広範なデータをもとに将来の需要を予測できる手法であり、外部環境変化が大きい卸売業などでよく活用されます。

機械学習モデル(決定木・ニューラルネットワーク)

機械学習モデルは、大量のデータをコンピュータが自動的に学習・分析し、高精度な予測を実現する最新の手法です。

決定木モデルは、データを段階的に分割し、木構造として表現するモデルです。どのような要素が需要変動に強く影響しているかを視覚的に把握でき、実務での活用が容易です。

一方、ニューラルネットワークは、人間の脳神経回路の仕組みを模倣したモデルであり、非線形で複雑なデータパターンを捉えることが可能であるため、予測精度の大幅な向上が期待されます。

定性的予測モデル(専門家意見・市場調査)

定性的予測モデルは、過去のデータが不足していたり、市場環境が急速に変化したりする場面で効果的です。

専門家へのインタビューやアンケートを行い、その経験や直感を通じて未来の需要を予測します。

また、市場調査を活用すれば、消費者の潜在ニーズや新製品の需要動向など、数値データに表れない定性的な変化を把握できることが特長です。

需要予測モデルの選び方のポイントとは?

適切な需要予測モデルを選ぶことは、予測精度を左右する重要な要素です。ここでは、需要予測モデルの選び方について、いくつかの重要なポイントを解説します。

予測精度に影響を与えるモデル選択基準を決める

需要予測モデルを選ぶ際には、まず予測の目的と意思決定のタイミングを考慮することが重要です。短期的な予測(数日~数週間)なのか、中長期的な予測(数か月~数年)なのかによって、適切なモデルは異なります。短期予測には移動平均法や指数平滑法などのシンプルなモデルが適している場合が多く、中長期予測には季節性やトレンドを考慮できるモデルが必要になります。

次にデータの特性を考慮しましょう。データの量が多い場合は機械学習モデルが威力を発揮しますが、データが少ない場合は統計的モデルの方が安定した結果を出せる場合があります。また、データの質もモデル選択に影響します。ノイズが多いデータの場合はそれに強いモデルを選びましょう。さらに、季節性が強い商品にはホルト・ウィンタース法などの季節性を考慮できるモデルが適しています。

予測の粒度も重要な要素です。商品レベル(SKUレベル)での予測なのか、カテゴリーレベルでの予測なのか、また日次、週次、月次のどのレベルで予測するのか、エリア別、店舗別、全社レベルのどの粒度で予測するのかによって適切なモデルは大きく異なります。例えば、細かい粒度(日次×商品レベル)での予測には、データの変動が大きくなるため、機械学習モデルが適している場合が多いです。

過去データの特性から適切なモデルを設定する

過去データの特性を分析することで、より適切なモデルを選択できます。まず時系列分解を行い、過去データを「トレンド成分」「季節成分」「残差(ランダム成分)」に分解して、それぞれの影響度を把握します。例えば、季節性が強いデータには季節性を考慮できるモデルを選択するべきです。

次に自己相関分析を行い、データに周期性があるかどうかを確認します。強い自己相関がある場合、ARIMA(AutoRegressive Integrated Moving Average)などの時系列モデルが適している可能性があります。

  • ・AR(AutoRegressive): 過去の値を利用して現在の値を説明する部分です。過去のデータポイントを線形に組み合わせて、現在のデータポイントを予測します。
  • ・I(Integrated): データの差分を取って、非定常性を取り除く部分です。これにより、データがより定常的に扱えるようになります。
  • ・MA(Moving Average): 過去の誤差を利用して現在の値を説明する部分です。過去の予測誤差を考慮して、現在のデータポイントを予測します。

さらに外部要因の影響分析も重要です。需要がプロモーションや天候などの外部要因に強く影響される場合、それらの要因を説明変数として取り込める回帰モデルや機械学習モデルが適しています。

例えば、アパレル商品の需要予測では、季節性やトレンドに加えて、天候やイベント、プロモーションなどの影響が大きいため、これらの要素を組み込める機械学習モデルが高い精度を発揮する可能性があります。

モデル導入ツールを自社の状況と比較して検討

需要予測モデルを実際に導入・運用するためには、適切なツールの選択も重要です。

まず技術的要件として、 (1)導入のしやすさ(社内のIT環境との親和性) (2)スケーラビリティ(データ量の増加への対応力) (3)リアルタイム性(予測更新の頻度)

などを考慮します。

次にユーザビリティとして、 (1)操作の簡便さ(専門知識なしでの利用可能性) (2)可視化機能(予測結果や精度の分かりやすい表示) (3)カスタマイズ性(自社業務に合わせた設定)などを検討します。

コスト面では、初期導入コスト、ランニングコスト、予測精度向上によるROIをバランスよく考える必要があります。

ツールの選択肢としては、Excel(表計算ソフト)、専用の需要予測システム、AIベースの需要予測ツールなどがあります。小規模企業や予測業務が限定的な場合はExcelが、中規模企業や予測業務が多岐にわたる場合は専用システムが、大規模企業や予測精度が特に重要な場合はAIベースのツールが適しているでしょう。自社の規模や予測の重要度、利用可能なリソースに応じて、最適なツールを選択することが大切です。

需要予測モデルの導入手順

需要予測モデルを効果的に活用するためには、導入前の準備から運用後の改善まで、段階的かつ計画的なプロセスが重要です。ここでは、導入を成功させるための基本的なステップを4つに分けて解説します。

(1)目的設定と要件定義の明確化

まずは需要予測の目的(在庫最適化、生産計画など)を明確にし、予測粒度や評価指標(KPI)を定めます。これにより、導入後の成果を測定しやすくなります。

(2)データの収集と前処理

過去の販売実績や在庫情報、外部要因データ(天候・イベント等)を収集・整備します。精度の高いモデルには、正確でクリーンなデータが不可欠です。

(3)モデル構築と検証

収集したデータをもとに複数の予測モデルを試し、精度や運用のしやすさを検証。パイロット導入で小規模に成果を確認し、段階的な展開を図ります。

(4)システム導入と継続的な運用改善

本番環境への実装後も、現場担当者の活用を支援しながら予測精度を定期的に評価・改善。モデルの再学習や新たなデータの取り込みで、精度維持と柔軟な対応を実現します。

需要予測モデルの運用プロセス

需要予測モデルは導入して終わりではなく、運用を通じて精度を維持・向上させることが重要です。ここでは、安定した予測精度を実現するための基本的な運用ステップを4つの視点から解説します。

(1)定期的な予測サイクルの構築

予測の実施頻度(日次・週次など)を業務に応じて設定し、予測結果の確認・承認・関連部門との共有体制を整えます。予測精度の安定運用に不可欠なステップです。

(2)予測精度のモニタリングと評価

予測と実績を比較し、MAPE(Mean Absolute Percentage Error)やRMSE(Root Mean Square Error)などの指標で精度を定量的に評価します。低精度領域の特定や改善点の発見に役立ちます。

指標MAPERMSE
概要予測値と実際の値との誤差を計算し、その絶対値をパーセンテージで表したもの。主に回帰分析で使用され、予測値の誤差を測定するもの。
求め方
  1. 1.予測値と実際の値の差を計算する
  2. 2.この差の絶対値を取り、実際の値で割る
  3. 3.結果を 100 倍してパーセンテージに変換する
  4. 4.全てのデータポイントに対してこれを行い、平均を取る
  1. 1.各予測値と実際の値との差を計算し、その差を二乗する
  2. 2.すべての差の二乗の平均を求める
  3. 3.その平均値の平方根を取る

(3)モデルの更新と例外管理

定期的な再学習やパラメータ調整を行い、新たな要因や季節性への対応も必要です。異常値や予期せぬイベントに対する例外処理ルールもあらかじめ整備しておきます。

(4)フィードバックループによる継続的改善

現場の活用状況や結果をもとに改善点を洗い出し、モデル精度だけでなく業務全体の最適化につなげます。「予測→実行→検証→改善」の循環が鍵です。

需要予測モデルの導入・運用で失敗しないための注意点とは?

需要予測モデルの導入・運用において、失敗を避けるためにはいくつかの重要な注意点があります。ここでは、特に重要な3つのポイントについて詳しく解説します。

データの質・量を十分に確保する重要性を理解する

需要予測モデルの精度は、使用するデータの質と量に大きく依存します。十分なデータ量を確保するためには、最低でも1年分以上のデータを用意し、季節性を捉えられるようにすることが重要です。新商品の場合は類似商品のデータを参考にし、データ不足の場合はシンプルなモデルから始めて徐々に拡張するとよいでしょう。

また、データの質の確保も重要です。欠損値や異常値を適切に処理し、データの正確性を定期的に確認する仕組みを作ります。データ収集プロセスの標準化と自動化を進めることで、継続的に質の高いデータを確保できます。

さらに、外部データの活用も検討すべきポイントです。天候、イベント、経済指標などの外部データを取り入れ、競合情報や市場トレンドなどの定性的情報も考慮します。ただし、外部データの信頼性と更新頻度も十分に確認することが必要です。

データの質・量が不十分な状態でモデルを導入すると、「garbage in, garbage out(ゴミを入れればゴミが出てくる)」の原則通り、精度の低い予測結果しか得られません。データ基盤の整備から段階的に取り組むことが重要です。

属人化を防ぎ、継続的な予測精度を維持する仕組みを整える

需要予測業務では、特定の担当者に依存する「属人化」を防ぎ、組織として継続的に予測精度を維持・向上させるための仕組みが求められます。そのためには、標準化されたプロセスの確立が必要です。、具体的には、予測業務の手順書やガイドラインの整備、定型的な報告フォーマットの作成が有効でします。さらに、例外処理の基準や対応方法を明確化にすることも欠かせません

知識の共有と継承は、ナレッジベースを構築・更新を通じて行い、定期的な勉強会やトレーニングが推奨されます。複数の担当者によるクロストレーニングも効果的です。

システム化と自動化については、手作業の部分を最小化し、エラーリスクを減らすことが重要です。データ収集から予測、レポート作成に至るまでのプロセスを自動化します。結果の可視化やダッシュボード化を進めることで利便性を向上させます。

属人化を防ぐことで、担当者の変更や不在時にも安定した予測業務を継続できるようになります。また、複数の視点でチェックすることで、予測の質も向上します。

提供元の実績やサポート体制を慎重に確認する

需要予測システムやツールを外部から導入する場合、提供元の実績やサポート体制を慎重に確認することが重要です。導入実績として、自社と同業種・同規模の企業での実績や、具体的な導入効果(予測精度の向上率、業務効率化の度合いなど)、導入後の課題や解決方法を確認します。

また、サポート体制も重要です。導入時のサポート内容と期間、トラブル発生時の対応時間と方法、バージョンアップや機能拡張の頻度と方針などを事前に把握しておくとよいでしょう。

カスタマイズ性と拡張性については、自社の業務に合わせたカスタマイズの可否、他システムとの連携可能性、将来的な要件変更への対応力などを確認しておくことが大切です。

さらに、提供元の選定もまた、初期導入だけでなく長期的な運用の成否を左右する重要な要素です。複数の候補を比較検討し、デモや試用期間を設けるなど、慎重に進めることをおすすめします。

まとめ:自社に適した需要予測モデルを選ぼう

需要予測モデルは、適切に選択・導入・運用することで、企業の収益性向上や競争力強化に大きく貢献します。本記事で解説したように、需要予測モデルには統計的モデル、機械学習モデル、定性的モデルなど様々な種類があり、それぞれに特徴と適した状況があります。自社のビジネス特性やデータ環境に合ったモデルを選び、適切な導入・運用プロセスを確立することが成功の鍵となるでしょう。

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