コラム
社会保険・労働保険の電子申請義務化の対応方法について、
社労士が解説
2020年4月から社会保険・労働保険の電子申請義務化が始まりました。この記事では、毎月10,000件以上の電子申請を行っている“社労士ベンダー”小林労務が、電子申請義務化の対応方法について解説します。
1. 対象法人と対象手続
2016年12月、官民データ活用推進基本法が成立し、行政手続のオンライン利用の原則化等が政府の取組みとして義務付けられました。デジタルガバメント実行計画をもとに、特定の法人は2020年4月より順次、電子申請の利用が義務化されています。また、義務化の要件に該当しない事業所についても電子申請への移行を促しており、オンライン化は加速すると考えられます。
【特定の法人】
資本金、出資金又は銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が 1億円を超える法人 |
相互会社(保険業法) |
投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律) |
特定目的会社(資産の流動化に関する法律) |
【義務化となる対象手続】
健康保険厚生年金保険 | 被保険者報酬月額算定基礎届 |
被保険者報酬月額変更届 | |
被保険者賞与支払届 | |
労働保険 | 年度更新に関する申告書 |
増加概算保険料申告書 | |
雇用保険 | 被保険者資格取得届 |
被保険者資格喪失届 | |
被保険者転勤届 | |
高年齢雇用継続給付支給申請 | |
育児休業給付支給申請 |
2. 電子申請のメリット
電子申請は、申請書を電子データでインターネット環境を用いて申請することを可能とします。メリットは大きく4つあります。
①いつでも申請可能
役所の開所時間にとらわれず、24時間いつでも、休日でも申請することが可能です。
②どこからでも申請可能
インターネット環境が整っていれば、自宅や職場、遠隔地であっても申請することが可能です。
③手書きする手間の削減
申告書や届出書を手書きする手間を削減できます。訂正があっても、書き直しする手間もありません。
④時間・お金等のコスト削減
自宅や会社から申請することが可能なため、役所へ行く必要も複数の窓口を回る手間もありません。したがって、役所へ行くための交通費や郵送費、人件費を削減することが可能です。
図:電子申請の導入メリット(離職票の提出の場合)
3. 具体的な手続、準備が必要なもの
電子申請をするためには、いくつかの準備があります。外部連携APIシステムを導入するだけでは、電子申請の運用を始めることはできません。
情報セキュリティの確認や、電子申請に必要な電子証明書の取得、個人情報の取扱い規定の策定など、準備する項目は多岐にわたります。組織が大きくなればなるほど準備に数ヶ月以上かかることもありますので、できるだけ早く準備を進めましょう。
【電子証明書】
電子申請を行うには、電子証明書またはgBizIDを事前に取得しておく必要があります。今回は電子証明書に絞ってお伝えします。
電子証明書は、会社の実印に相当するもの、認証局で取得することができます。認証局によって、証明形式や期限や費用に違いがあります。また、電子申請システムによっても制限がありますので、確認のうえ電子証明書を取得しましょう。
また、社会保険労働保険手続きは、年間を通じ都度行われるものとなります。紙での手続の場合には、上長や社長の決裁が必要な会社もあるでしょう。電子証明書は、会社の実印に相当するものとなりますので、取り扱いについては電子証明書取扱規程の作成等、事前に定めておく必要があります。
【情報セキュリティの構築】
従業員情報を利用するうえで、使用するパソコンの環境設定やポップアップブロックの解除等、事前に情報システム部等に確認し、対応します。また、取り扱いが厳格なマイナンバーも申請時に必要になります。どのように取り扱うのかを確認しておきましょう。
【運用フローの構築】
電子申請を導入することで、紙での運用から社内での工程が大幅に変わります。運用フローを見直し、電子申請に係る従業員の教育、すり合わせを進めておきましょう。
【電子申請方法の決定】
電子申請を行って、社会保険労働保険手続をするためには、電子政府の総合窓口にあたるe-Govにアクセスします。
アクセスの方法は2通りあります。
一つは、e-Govに直接アクセスして申請する方法です。申請書類を一つずつ手入力し、添付書類をアップロードする「通常申請」と、申請に必要なデータや添付書類を1つの圧縮ファイルにしてアップロードする「一括申請」が用意されています。
e-Govへの直接申請は、無料で利用できる点がメリットです。一方で、入力箇所・ボタンが複数あり、何を入力すればよいのか分かりにくい点や、入力途中で一定時間経過してしまうとタイムアウトしてしまい、再度、入力またはデータの読み込みをする必要があるなどのデメリットもあります。申請頻度が多い、また一度に多くの申請を行う場合には不向きといってよいでしょう。
もう一つの方法は、外部連携APIシステムを利用して申請する方法です。e-Govのホームページ上でも、外部連携API対応ソフトウェア・サービス一覧が紹介されています。
e-Govへ直接申請する方法を補完する様々なシステムがあります。現在使用している人事給与システムとの親和性を考えながら、自社に合ったシステムを検討するとよいでしょう。
図:電子申請運用までの想定タスク例
4. まとめ
このように、外部連携APIシステムを導入するだけでは、電子申請を始めることはできません。準備する項目は多岐にわたります。
全国に拠点が多い企業や従業員の出入りが多い企業やセキュリティレベルが高くなかなか電子申請を導入できない場合は、社会保険労務士にアウトソーシングをして電子申請義務化に対応する、という選択肢もあります。
何から手を付けてよいか分からない企業は、社会保険労働保険手続の専門家である、社会保険労務士に相談されることをお勧めします。
なお、ProActiveでは、社会保険・労働保険の電子申請における業務効率化を実現します。
ProActive人事給与システムの従業員情報を、e-Gov外部連携APIに対応した「e-asy電子申請.com」へ連携し、手続きの手間を削減することが可能です。ぜひご覧ください。
関連ページ
株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
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