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2021.03.10
経理財務トピックス

国税局OBの税理士が解説!
令和3年度税制改正における電子帳簿保存法改正「5つのポイント」

令和3年度税制改正大綱のなかで「電子帳簿等保存制度の見直し」が示されました。この内容について、国税局OBの税理士でSKJ総合税理士事務所所長の袖山喜久造氏が、SCSKのWebセミナーで講演しました。電子帳簿保存法の改正内容の正しい見方と注意すべきポイント、経理業務の影響と対策について、袖山氏の講演をダイジェストで紹介します。

1. 電子帳簿保存法の改正ポイントの概要(令和3年度税制改正)

今回の電子帳簿保存法(以下、電帳法)の改正には、大きく5つのポイントがあります。

ポイント1:電帳法承認制度の廃止

これまで、電子保存が認められている書類、帳簿などを電子データとして保存する場合、電帳法第四条に基づいて、開始予定日の3カ月前までに所轄の税務署に申請する必要がありましたが、今回の改正で、この申請が不要となります。
帳簿は、令和4年1月1日以降開始する事業年度分から適用されます。また貸借対照表、損益計算書などの決算関係書類、契約書、請求書、納品書、見積書、注文書などの取引関係書類の控えなどについても、令和4年1月1日以降作成されるものであれば、届け出なしに電子化、保存できます。さらに書面で受領した領収書などの取引関係書類についても、令和4年1月1日以降受領したものは、税務署の承認なしにスキャナ保存を開始してよいことになります。

ポイント2:優良電子帳簿制度の創設

この制度は、「記録事項の訂正・削除の事実を確認できる」「取引年月日、勘定科目、取引金額のほか、帳簿や書類の種類に応じた主要な記録項目で検索できる」など、従来定められていた電帳法の適用要件を満たしていることを担保するものです。
届け出なしに電子化、保存できるようになったものの、電帳法に則った電子データの保存が行われていることが必須であり、適正な保存方法で電子化されていることで「優良電子帳簿制度」が認められます。そのことを事前に届け出ることで、事後の税務調査において当該帳簿の記載事項に係る追徴税額が発生した場合、過少申告加算税を5%減免されます。

ポイント3:国税関係書類のスキャナ保存の要件の緩和

訂正削除ができない、または訂正削除の履歴が残るシステムでデータを保存している場合は、タイムスタンプ付与が不要となりました。これにより、従来タイムスタンプを利用していたユーザーは、そのコストが不要になります。
また、契約書・請求書・納品書・注文書などの、取引に直結する重要な書類のスキャナ保存において、入力期限を「業務サイクル後速やかに入力する」に統一しました。これまでは書類によって「3営業日以内」「7営業日以内」といった期限が設定されていましたが、改正によりすべての書類を約67日以内に入力すればよいことになりました。
さらに、適正事務処理要件が廃止されます。この要件は「内部統制要件」とも呼ばれるもので「入力にあたっては2名以上の体制で原本確認する」「定期的に検査を行う」「検査で不備があった場合は訂正をする」といったことです。ただし、法令上は廃止されましたが、企業には不正が発生しない、しっかりした内部統制の仕組みづくりが欠かせないことには変わりありません。
加えて、検索項目が「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目に限定されます。これまでは、これ以外にも、書類の種類によって「関係の深い主要項目名」などが検索できなければなりませんでした。これがシステム構築、運用において高いハードルとなっていましたが、今回大幅に緩和されました。

ポイント4:電子取引データの厳格な保存

電子取引に関わるデータの保存について、書面出力により整理保存する場合の書面保存が不可となりました。これまで電子取引に関わるデータは書面出力して保存することも許されていましたが、令和4年1月1日以降行われる電子取引については、書面保存は無効になります。
例えば、従来、請求書などをメールでやり取りをしており、他の紙の請求書などと一緒に出力して保存していたというケースがあるでしょう。そうした場合、メールでやり取りした請求書は電子データとして保存しなくてはなりません。

ポイント5:罰則規定

今回の改正では、国税関係帳簿書類および電子取引データについて、電帳法の要件に従って保存されていない場合には、税法上保存義務がある帳簿書類として取り扱えません。これまでは、電帳法の要件に従っていない場合でも、データがあれば「必要な帳簿がない」ことにはなりませんでした。しかし、今後は「電帳法の要件に従った保存がされていない場合には、税法上保存義務がある帳簿書類として取り扱わない」ことになり、各種申告が取り消されてしまいます。
また、スキャナ保存および電子取引データの改ざん等により不正計算がされている場合には、重加算税を10%加重されます。データの改ざん等による不正計算はこれまでも35%の重加算税が課せられており、合計45%の重加算税が課せられることになります。

2. 電子帳簿保存法改正による経理業務への影響と対策

では、今回の改正への対応に際し、企業はどのような対策が必要でしょうか。
今回の改正により、紙で受け取った取引書類などを電子化する際の届出が原則不要となり、データの訂正、変更について「要件に見合ったシステム」で運用する場合にはハードルが低くなりました。しかし、メールやEDIなどでやり取りしていた取引関係書類は、書面化するのではなく、電子データとして保存しなくてはなりません。
つまり、メールやウェブなど電子的に受け取った書類も、紙で受け取った書類も一元的に管理できる仕組みが必要となるということです。これは契約書などの書類も同様です。受け取った形式を問わず一元的に管理ができるかどうかがポイントになります。
一元管理という点では、取引関連書類と会計仕訳の明細データなどを関連付けて保存し、検索しやすくする必要があります。こうすることで、明細から証憑データ、書類データの検索性を高めるだけでなく、その逆も可能になります。
経理業務を合理化、効率化しようという場合には、電帳法の改正に合致することを念頭に置き、効率的なドキュメント管理ができるかという視点でシステム選定をすることが大切です。

3. 改正ポイントに対する解決策①:スキャナ保存

スキャナ保存における機器とシステムの要件は、システム、入力機器、出力機器のそれぞれの要件があります。
システム要件では、入力時情報・解像度・階調・大きさ情報などが確認できることは改正後も必要です。また訂正削除データの事実や内容が分かるようにすることと、スキャニングし原本と確認した入力者情報の確認ができることが必要です。責任の所在を明確にするため、管理者か実際に作業した人かが分かるようにしておきます。
さらに証憑画像データと仕訳明細データの紐づけも必要です。なぜかというと、伝票や仕訳のユニークな番号で整理しておかなくてはならないためです。加えて、検索機能として日付・金額は範囲指定できること、さらに今回の改正で「取引先」も検索項目になります。
入力機器の要件は、改正前から引き続き、解像度200dpi以上で入力し、スマホ等のカメラは387万画素以上、カラー画像は赤青緑各256階調となっています。
出力機器の要件も同様に、14インチ以上のディスプレイ、カラープリンターで4ポイントの文字が認識可能の製品を使う、整然とした形式及び明瞭な状態で出力することが要件となっています。
さらに運用面の要件としては、今回の改正で、入力期限が、取引に直結する重要な書類のスキャナ保存において、約67日以内に入力するということになりました。また、複数人によるデータと原本の確認手順要件も廃止されました。

改正によってスキャニングによる書類運用がやりやすくなっても、データ改ざんが簡単にできる体制では、まったく意味がありません。そこでスキャナ入力に関する社内規程の整備や、入力体制・定期検査方法・改善体制についてのルール改定をするなど、企業独自の取り組みが欠かせません。定期検査報告書、事務処理不備報告書などの書面も用意しておくべきでしょう。

4. 改正ポイントに対する解決策②:電子取引データの保存

「電子取引に係る電磁的記録」の保存要件では、保存場所について、データの送付側、データの受信側の双方が保存しておくとされています。ただ、送信者、受信者双方がクラウド基盤などによって双方で確認できる体制であれば問題ないと考えています。
保存期間は原則7年間です。ただし青色申告、連結申告での繰り越し欠損金の控除では最長10年間の控除が利用できるため、その場合は最長で11年4カ月の保存が必要となります。

法令上の要件としては、「送信者側のタイムスタンプ付データを送信・受信者側は検証機能がある」「取引情報の授受後、遅滞なくタイムスタンプを付与・保存担当者情報を確認できる」「訂正削除できない(または訂正削除履歴が保存)システムでデータを授受および保存している」「社内規程において正当な理由がない訂正および削除の防止に関する事務処理規程を備え付け・運用ができている」という4つの措置のいずれかを実施すればよい、ということになります。
たとえば、クラウドを活用した電子取引システムなどで取引書類授受などを行っていて、この仕組みが訂正削除履歴を保存しているシステムに該当すれば、電子取引に関わる電磁的記録の保存要件を満たしていることになります。
また保存要件では、システムの概要等関係書類(マニュアル)の備付、見読性を確保したうえでデータの閲覧ができること、そして書類の種類に応じて日付、金額、取引先に関する検索機能を確保していることが挙げられています。

5. 法令に対応できる社内体制とルール作りによりDXを推進

経理業務が電子化され、ペーパーレス化が進めば、経理担当者がテレワークで仕事でき、長時間労働の解消にもつながり、人材の確保もしやすくなります。そのためには電子データの一元管理ができ、電帳法の要件を満たしたソリューションが欠かせません。最新の法令に対応できる社内体制、ルール作りを行うことでDXの足掛かりを築いていけます。
ここまで述べてきたように、今回の改正では電子化のハードルを低くするものになっていますが、一方で、企業としてはガバナンスやコンプライアンス確保のために留意すべきシステム面での機能が求められています。これらの機能を効率的に導入でき、安定的な稼働が可能なシステム選びを進めていきたいものです。

6. ニーズに応じて多様な導入方法が可能な「ProActive」

SCSKのERP「ProActive」は、改正された最新の電帳法にもスムーズに対応できます。オンプレミス環境へのパッケージ導入、セキュアなデータセンターによるマネージドサービス、導入やシステム更新に手間のかからないSaaSサービスという3つの導入形態があり、自社のニーズに合わせて選ぶことができます。
また、「会計帳簿検索ソリューション」「ドキュメント管理ソリューション」といった多様なニーズに対応したさまざまなアプリケーションと連携できるのもメリットです。さらに、証憑の電子化に「AI領収書読み取りソリューション」を利用し、カメラなどで撮影した領収書の画像をテキストに自動変換し、経費システムへ連携する、といった活用もスムーズに行えます。
このように「ProActive」は厳格なデータ保存を実現するだけでなく、導入実績豊富なアプリケーションとスムーズに連携することで、業務改善、効率化、法令改正などに柔軟に対応できます。

SKJ総合税理士事務所 所長税理士 袖山 喜久造

SKJ総合税理士事務所
所長 税理士
袖山 喜久造

税理士・SKJ総合税理士事務所所長。中央大学商学部会計学科卒業。平成元年東京国税局に国税専門官として採用。都内税務署勤務後、国税庁、国税局調査部において大規模法人の法人税等調査事務などに従事。国税局調査部勤務時に電子帳簿保存法担当情報技術専門官として納税者指導、事務運営などに携わる。平成24年にSKJ総合税理士事務所開業を経て現職。

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