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2024.08.05
人事労務トピックス

ウェルビーイングとは:意味・定義や構成要素、人事政策における使い方について解説

多様化する価値観や働き方が変容している昨今、「ウェルビーイング」が注目されています。とはいえ、ウェルビーイングという言葉は聞いたことがあるものの、意味を詳しく知らない方もいるのではないでしょうか。

この記事では、ウェルビーイングの意味や重要性、また企業が人事政策においてどのように取り入れるのかを解説します。

1. ウェルビーイングとは?意味・定義を簡単に解説

ウェルビーイング(well-being)とは、「良い(Well)」と「状態(Being)」を組み合わせた言葉で、身体的、精神的、社会的に満たされている状態を指します。日本語では「幸福感」「充実感」「心身の健康」などと言い換えられます。

日本で1951年に公布されたWHO(世界保健機関)憲章で、スーミン・スー博士が定義した「健康(Health)」では、以下のように定められています。

出典:公益社団法人 日本WHO協会 | 世界保健機関(WHO)憲章とは

ウェルビーイングについての唯一の定義は現在のところ存在しませんが、上記の定義がおおむねウェルビーイングを表現していると考えて良いでしょう。

2. なぜウェルビーイングは注目されている?

近年、世の中的にウェルビーイングが注目されていますが、なぜでしょうか。

主な理由は、次の3つです。

  • • 価値観が変化してきている
  • • 働き方改革が推進されている
  • • 健康経営が推奨されている

(1)価値観が変化してきている

社会全体で健康や幸福に対する意識が変化してきています。

従来は経済的成功や物質的な豊かさが重視されていましたが、現代ではより健康で充実した生活を求める声が高まっています。社会的に個人の幸福度や生活の質が重要視されるようになったことに伴い、ウェルビーイングへの関心も高まっているのです。

(2)働き方改革が推進されている

日本における働き方改革をはじめ、世界的に働き方に関する改善が様々な国で推進されています。具体的には、フレキシブル・ワークの実践やテレワークの導入など柔軟な働き方を重視する動きが広がっています。

労働環境の改善やストレスの軽減、ワークライフバランスの向上が企業や政府の重要な目標となっており、その一環としてもウェルビーイングが注目されています。

(3)健康経営が経済産業省より推奨されている

健康経営とは、経済産業省が定義するように、従業員の健康管理を経営視点で戦略的に実践することです。企業が従業員の健康と幸福を支援し、組織のパフォーマンスを向上させる取り組みを指します。

4. ウェルビーイングの重要性

ウェルビーイングは、個人の幸福感だけでなく、組織のパフォーマンス向上にも重要です。現代のビジネス環境では、その重要性が高まり、多くの企業が従業員のウェルビーイング向上に取り組んでいます。

(1)ウェルビーイングがもたらす個人のメリット

具体的には、以下のようなメリットが挙げられます。

ウェルビーイングによる個人のメリット

• 健康の増進
適切な栄養摂取や適度な運動、十分な睡眠を確保できている状態を保てるので、健康の増進に繋がります。また、定期的な健康チェックなど健康意識を向上させる活動も含まれるため、病気や体調不良のリスクが低減します。
 
• 幸福感の増大
ストレスを適切に管理して心身のバランスを保つことで、ポジティブな感情や満足感が高まるため、幸福感が増大するとされています。
 
• パフォーマンスの向上
ストレスや不安が減ることで集中力や創造性が高まり、また良好な健康状態を保てるため体調不良や病気による欠勤が減り、集中して業務に取り組むことが可能です。

こういったメリットを生むことから、個人の生活の充実を図るためにはウェルビーイングが欠かせません。

(2)ウェルビーイングがもたらす組織のメリット

具体的なメリットは以下のとおりです。

ウェルビーイングによる組織のメリット

• 生産性の向上
従業員個人の健康状態や幸福感を向上させるだけでなく、仕事の質を高め、良好なワークライフバランスを保てるようになるため、仕事に対するモチベーションが上がり、組織としても生産性向上が期待できます。
 
• 離職率の低下
企業が従業員の心身の健康と幸福の向上を目指してウェルビーイングプログラムを導入することで、従業員のニーズや要望に応えられるコンテンツを提供でき、離職率を下げることができます。
 
• ブランドイメージの向上
従業員が健康で幸福を感じられている企業は、社会的にも好感度が高い傾向にあります。また、ウェルビーイングプログラムを積極的に導入している企業は社会貢献度が高いと評価されやすいので、ブランドイメージも向上するでしょう。
 
• コスト削減
従業員の健康管理やストレス対策に積極的に取り組むことで、病気や労働災害の発生率が低下し、医療費や労働補償費用を削減することができます。また、離職率が低下することで採用や研修にかかるコストも削減できます。結果として、企業全体のコスト削減につながります。

4. ウェルビーイングを構成する5つの要素

ウェルビーイングの捉え方にはいくつかあります。特に心理的側面に注目した代表的なものとして、ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマンによって提唱された「PERMA(パーマ)の法則」があります。

「PERMA」とは、以下の5つの要素の頭文字を取った指標です。

出典:JPPA | 日本ポジティブ心理学協会(jppanetwork.org) | ポジティブ心理学とは

5つの要素の詳細は、それぞれ以下のとおりです。

ポジティブ感情 ポジティブ感情は、喜び、幸福、楽しさなどのポジティブな感情を指します。ウェルビーイングを高めるためには、日常的にポジティブな感情を感じることが重要です。
エンゲージメント エンゲージメントは、集中して取り組むことや没頭することを指します。自分の興味や能力に合った活動に取り組むことで、充実感や満足感を得ることができます。
関係性 良好な人間関係は、家族や友人、同僚などとの良好な関係を指します。支え合い、助け合い、共感することで、心の安定や幸福感を得ることができます。
人生の意味や目的 意味や目的は、自分の人生に意味や目標を見出すことを指します。自分の行動や生活が意味を持っていると感じることで、幸福感や満足感が高まります。
達成感 達成感は、目標を達成したときの充実感や満足感を指します。自分の努力や成果を認められることで、自己肯定感や幸福感が向上します。

これらの要素をバランスよく取り入れることで、個人や組織のウェルビーイングを向上させることができます。

5. 【取り組み事例】人事政策におけるウェルビーイングの導入方法

ここからは、企業の人事政策において、ウェルビーイングはどのように使われるのか解説していきます。

前提として、ウェルビーイングは一人ひとりの違いに応じて適切に実施されなければなりません。また、社員間で格差が生じないように配慮することも重要です。

(1)健康促進プログラムの導入

健康促進プログラムは、従業員の健康を維持・増進するための取り組みです。例えば、定期健康診断の実施、ストレスマネジメントの研修や相談窓口の設置、運動プログラムの提供などが含まれます。

健康促進プログラムの具体的な例をご紹介します。

出典:
厚生労働省 | 標準的な運動プログラム(健康増進施設)
厚生労働省| 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 厚生労働省| 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

(2)ワークライフバランスの支援

過重労働が慢性化してしまうと、上述したPERMAの「M」が失われてしまいます。そのため、仕事と私生活のバランスを保てるよう、良好なワークライフバランスを維持できるような支援が企業に求められます。

ワークライフバランスの支援策として、厚生労働省は以下のような施策を提示しています。

出典:厚生労働省 | 仕事と生活の調和

従業員の満足度や企業のパフォーマンスを向上させるために、こういった施策を積極的に取り入れましょう。

(3)継続的なキャリア開発の機会提供

仕事にやりがいを感じられないと、上述したPERMAの「E」が損なわれてしまいます。ウェルビーイングを重視している企業では、従業員のエンゲージメントを高めるために、継続的にキャリア開発の機会を提供していることが多いです。

具体的には、以下のような機会が提供されています。

出典:厚生労働省 | 仕事と生活の調和

厚生労働省の公式サイトでも企業によるキャリア開発の取り組み例を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

(4)メンタルヘルスのサポート体制の整備

従業員のメンタルヘルスをサポートすることも重要です。

具体的には、従業員に対してメンタルヘルス教育を行ったり、カウンセリングの機会を設けたり、定期的にストレスチェックや健康診断の場を設けたりなどの施策が挙げられます。

また、フレックスタイム制度やリモートワークなどの柔軟な労働環境を整備することも、従業員のストレス軽減につながります。

(5)コミュニケーションとコラボレーションの促進

上述したPERMAの「R」に見られるように、職場において良好な人間関係を構築することも重要で、そのためにはコミュニケーションとコラボレーションの促進が必要です。

コミュニケーションとコラボレーションは、どちらも人と人との関わりを表す言葉ですが、それぞれ意味合いが異なります。コミュニケーションが情報を共有し、理解し合うための基本的なプロセスなのに対して、コラボレーションはより良い成果を生み出すために、互いにアイデアを出し合いながら協力し合うことです。

コミュニケーションは、コラボレーションの土台となるものです。メンバー間のコミュニケーションを通じて、共通の目標を共有したり、役割分担をしたりすることが可能になります。その上で、コラボレーションによってさらに良好な関係性を構築し、良い成果を生み出すことで達成感を得ることができます。その結果、新しい視点や考えが生まれるかもしれません。

ウェルビーイングにおいては、定期的な上司と部下の個別面談やチームミーティングといったオープンなコミュニケーション環境を構築することが求められます。

(6)社員の声を聴くフィードバックシステムの構築

効果的にウェルビーイング重視の人事施策を設計・実行するためには、単に制度を導入するだけでなく、社員の声を積極的に聞き、各種人事制度や政策へのフィードバックを取り入れることが不可欠です。

フィードバックシステムの主な活用方法としては、以下が挙げられます。

<ウェルビーイング施策の策定・評価>

  • 社員アンケートの実施
  • 社員との個別面談の実施
  • 複数社員とのフォーカスグループインタビューの実施
  • 社員による提案制度の導入 など

<ウェルビーイング施策の改善>

  • 社員から収集したフィードバックの分析
  • 分析結果に基づいた施策の改善
  • 社員に提供する人事制度や政策へのフィードバック など

6. ウェルビーイング施策における課題と対策

人事政策においてウェルビーイングは重要ですが、いくつかの課題があります。以下に、対策とともに主な課題を解説します。

(1)課題① 経営層の意識改革の必要性

多くの経営層は、ウェルビーイングについて単に身体的健康という捉え方に留まり、定期健康診断の実施や個人による健康管理で十分だと認識し、人事政策への投資に消極的な場合があります。

しかし実際のところは、従業員の身体的な健康だけでなく、モチベーションや生産性、創造性、離職率など組織全体のパフォーマンスに影響を与える重要な要素です。また、単なるトレンドではなく持続的な取り組みが求められるため、経営層は「一時的なプロジェクト」ではなく、組織文化あるいは経営戦略として捉える必要があります。

この課題を解決する対策としては、経営層に組織全体で取り組むウェルビーイングの経営理念や成功事例を学べるセミナーやワークショップに参加してもらう、などが考えられます。人事部門に一任するものではなく、経営層をはじめ現場部門、労務部門など組織全体で連携し推進していくことが重要です。

(2)課題② 実現方法の不明確さ

ウェルビーイングは、先述したように個人やライフステージによって異なる価値観やニーズを持つため、画一的な指標や評価方法で測定・評価することは困難です。

さらに、ウェルビーイングは健康、ワークライフバランス、ストレスマネジメント、キャリア開発など、幅広い取り組みを包括しています。すべての取り組みを網羅しようとすると、焦点がぼやけ、活動が目的化する懸念があります。形式的なアンケート調査や意見交換会では具体的な改善策につながらず、評価結果を共有しない場合、モチベーションが低下する恐れもあります。

これを防ぐためには、対象と目的を明確化し、評価指標を絞り込み、定期的な評価とフィードバックを行う必要があります。具体的な対策は以下のとおりです。

出典:経済開発協力機構(OECD) | Better Life Index 日本の測定結果

(3)課題③ コストの制約

サポート体制の整備やシステム構築などにコストがかかります。これらは一度導入すれば終わりではなく、継続的に運営していく必要があるので、ランニングコストも発生します。

最大の課題は、投資効果の測定と評価が難しい点です。生産性向上の要因はウェルビーイング以外にも多く、一つひとつの効果を判別するのは困難です。そのため、経営層や人事部門にとってコストを正当化する根拠を示すことが難しくなります。

限られた予算の中で最大の効果を上げるには、コスト削減と効果最大化の両立が必要です。例えば、従業員同士がサポートし合う仕組みを構築すれば、外部サポートへのコストを減らせます。

また、すべての施策を一度に導入するのではなく、段階的に進めることでコストを分散し、負担を軽減することも可能です。

7. ウェルビーイングを中心に据えた未来の職場ビジョン

ウェルビーイングを中心に据えた未来の職場ビジョンを実現するためには、長期的な視点に立った政策の推進が必要です。経営層と人事部門が連携し、組織全体でウェルビーイングに取り組むことで、従業員の幸福と組織の成長を両立できるでしょう。
企業にとって持続的な成長を支える重要な戦略となりますので、組織文化に浸透させるために、経営層がリーダーシップを見せることが必要です。

長期的な展望としては、従業員の幸福度の向上だけでなく、企業の持続的な成功にも貢献するような施策を構築していきましょう。

ユースキャリア研究所 代表 日本キャリア開発協会 理事 法政大学大学院キャリアデザイン研究科・目白大学大学院心理学研究科 講師 博士(心理学)、キャリアコンサルタント、公認心理師 高橋 浩

ユースキャリア研究所 代表 日本キャリア開発協会 理事
法政大学大学院キャリアデザイン研究科・目白大学大学院心理学研究科 講師
博士(心理学)、キャリアコンサルタント、公認心理師
高橋 浩

大学卒業後、NECグループの半導体設計会社に入社。半導体設計、品質管理、経営企画、企業内キャリアカウンセリングに従事。その後、博士号を取得し、ユースキャリア研究所を設立。現在は、大学講師、行政や大手企業でのキャリアカウンセラー、キャリア開発研修講師を務め、キャリアに関する調査・研究活動も行っている。主な著書は『セルフ・キャリアドック入門』(共著)、『社会人のための産業・組織心理学』(共著)他多数。

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