お役立ちコラム 会計システムのリプレイスを成功させるには?目的や進め方、失敗しないためのポイントを解説

  • 業務効率化・自動化
  • 会計・財務

企業の持続的な成長を支えるためには、変化する経営環境に合わせて会計システムを見直すことが不可欠です。現行システムに老朽化や運用面での課題を感じたり、法改正対応に懸念を抱えたりしている企業も少なくありません。会計システムのリプレイスは、単なるシステムの入れ替えではなく、業務プロセス全体を最適化し、企業の競争力を高める絶好の機会です。
この記事では、会計システムのリプレイスを成功に導くために、その目的や進め方、そして失敗しないための重要なポイントを網羅的に解説します。

会計システムのリプレイスとは?

会計システムのリプレイスとは、現在使用している会計システムを新しいものに置き換えることを指します。これは、単なるソフトウェアのバージョンアップとは異なり、多くの場合、システム基盤からアプリケーションまで含めた全体的な刷新を意味します。技術の進化やビジネス環境の変化に対応し、企業の根幹である会計業務のあり方そのものを見直す重要なプロジェクトです。

会計システムのリプレイスが求められる背景

企業で会計システムのリプレイスが求められる背景には、システムの技術的な老朽化だけでなく、働き方の多様化や法改正への対応といった、企業を取り巻く環境の大きな変化があります。
例えば、リモートワークの普及により、場所を選ばずに業務を遂行できるクラウド型システムへのニーズが高まっています。こうした変化に対応できない古いシステムを使い続けることは、業務効率の低下を招くだけでなく、企業の信頼性にも関わるリスクとなり得ます。

課題 具体例
技術的老朽化 サーバーの保守切れ、処理速度の低下、他システムと連携できない
働き方の変化 リモートワークに対応できない、紙の書類が多く出社が必要
法改正 電子帳簿保存法、インボイス制度対応、新リース会計基準など
事業環境の変化 事業拡大で管理項目が増えた、IPO(株式公開)を予定している

会計システムをリプレイスする目的

会計システムのリプレイスは、単なるコストではなく、企業の未来への投資です。明確な目的を持つことで、リプレイスの効果を最大限に引き出すことができます。

業務効率の向上とコスト削減を実現する

新しい会計システムは、手作業で行っていた定型業務の自動化が可能です。例えば、金融機関との連携による入出金データの自動取得や、AI-OCRを活用した請求書の自動読み取り・仕訳入力などが挙げられます。これにより、入力ミスや二重管理の手間が削減され、経理担当者はより付加価値の高い分析業務や企画業務に時間を振り向けられるようになります。また、クラウド型のシステムを導入すれば、サーバーの維持管理にかかるコストや手間を大幅に削減することも可能です。

法令遵守と内部統制を強化する

企業経営において、法令遵守(コンプライアンス)は極めて重要です。特に上場企業やIPO準備企業にとっては、内部統制の構築が必須となります。最新の会計システムは、電子帳簿保存法やインボイス制度といった法改正に迅速に対応できる機能を備えています。また、アクセスログの管理や承認フローの電子化、権限設定の細分化といったIT統制に対応した機能は、不正の防止や早期発見に繋がり、財務報告の信頼性を高める上で不可欠です。

経営状況の可視化と迅速な意思決定を支援する

会計システムは、企業活動の結果である財務データを集約する基盤です。各部署に散在していた販売データや購買データなどを会計システムに一元化し、リアルタイムに連携させることで、経営陣は常に最新の業績を正確に把握できます。部門別や製品別の損益をタイムリーに分析し、経営の意思決定を迅速かつ的確に行うことが可能になります。これは、変化の激しい現代のビジネス環境を勝ち抜くための大きな武器となるでしょう。

会計システムのリプレイスを検討すべきタイミング

会計システムのリプレイスには、適切なタイミングがあります。自社の状況と照らし合わせ、最適な時期を見極めることが重要です。

ソフトウェアの保守サポートが終了する

現在利用している会計システムのソフトウェアや、稼働させているサーバーの保守サポートが終了するタイミングは、リプレイスの最も分かりやすいきっかけです。保守が切れたシステムを使い続けることは、セキュリティリスクの増大や、障害発生時に対応ができないといった深刻な問題に直結します。開発元の都合で保守が終了する場合もあるため、早めに情報収集を開始することが肝心です。

クラウドへの移行でDXを推進する

従来の自社内にサーバーを設置するオンプレミス型から、インターネット経由でサービスを利用するクラウド型への移行は、会計システムの大きなトレンドです。クラウド型システムは、場所を問わずにアクセスできるためリモートワークを促進し、自動でバージョンアップが行われるため法改正にもスムーズに対応できます。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、クラウド移行を目的としたリプレイスを検討する企業が増えています。

法制度や会計基準の変更に対応する

電子帳簿保存法やインボイス制度、国際会計基準(IFRS)への対応など、会計に関連する制度は常に変化しています。これらの変更に既存のシステムで対応しようとすると、多額の改修費用や煩雑な手作業が発生する場合があります。最新の法制度にタイムリーに対応するクラウドシステムへリプレイスすることで、コンプライアンスを確保しつつ、業務負担を大幅に軽減できます。

事業規模の拡大やIPOを準備する

企業の成長に伴い、従業員や拠点、取引量が増加すると、既存のシステムでは機能が不足したり、処理能力が追い付かなくなったりすることがあります。また、IPO(株式公開)を目指す場合、監査法人の監査に耐えうるレベルの内部統制、特にIT統制の整備が不可欠です。監査法人から信頼されるシステムを導入することは、スムーズなIPO準備のために極めて重要となります。

会計システムリプレイスの進め方

会計システムのリプレイスは、計画的に進めることが成功の鍵です。ここでは、標準的な5つの手順に沿って解説します。

手順1:プロジェクトの企画と体制構築

まず、リプレイスの目的とゴールを明確にし、社内でプロジェクトを発足させます。経理部門だけでなく、情報システム部門や、実際にシステムを利用する各業務部門の担当者にも参加してもらうことが重要です。現場の意見を取り入れることで、実用的で使いやすいシステムの導入に繋がります。

手順2:現状分析と要件定義

次に、既存システムの課題や問題点を洗い出し、新しいシステムに求める機能や性能を「要件」として具体的に定義しましょう。例えば、「月次決算を5営業日短縮したい」「ペーパーレス化を実現したい」といった具体的な目標を設定し、それを実現するために必要な機能をリストアップしていきます。この要件定義が、後のベンダー選定の重要な基準となります。

手順3:ベンダー選定と評価

定義した要件を基に、複数のシステム開発会社(ベンダー)に提案を依頼し、見積もりを取得します。機能、コスト、拡張性、サポート体制などを多角的に比較評価し、自社に最適なパートナーを選定します。導入実績や、自社の業種への理解度も重要な選定ポイントです。

手順4:移行計画の策定と実行

選定したベンダーと協力し、詳細な移行計画を策定します。データ移行の範囲と手順、新旧システムのテスト、担当者のトレーニングスケジュールなどを具体的に定めましょう。計画に沿って、システム構築とデータ移行を着実に実行していきます。

手順5:本番稼働と運用・保守

リハーサルや並行運用期間を経て、問題がないことを確認した上で、いよいよ新システムの本番稼働スタートです。稼働直後は予期せぬトラブルが発生することもあるため、ベンダーからのサポートを受けられる体制を整えておくことが重要です。稼働後も定期的に効果を測定し、継続的な改善を図ります。

会計システムをリプレイスする際の注意点

多額の投資と労力を要するリプレイスを失敗に終わらせないために、特に注意すべき点を3つ挙げます。

注意点 具体的な対策
データ移行のリスク 移行データの要件定義を綿密に行う、移行前後のデータ突合を徹底する
業務の中断リスク 段階的な移行や並行運用を検討する、全社員に計画を周知する
新システムの定着 十分なトレーニングを実施する、ヘルプデスクなどのサポート体制を整備する

データ移行のリスクを把握し対策を講じる

リプレイスプロジェクトにおいて、最もリスクが高く、失敗の原因となりやすいのがデータ移行です。過去のデータを新しいシステムに正しく移行できなければ、経営分析に支障をきたしたり、法的に必要なデータを失ったりする可能性があります。移行対象とするデータの範囲を慎重に定義し、移行前後のデータが一致するかどうかを徹底的に検証するプロセスが不可欠です。

業務の中断を最小限に抑える計画を立てる

システムの切り替え時には、一時的に業務が停止するリスクが伴います。この停止期間を最小限に抑えるため、入念な計画が必要です。休日や業務への影響が少ない時間帯に移行作業を実施したり、一度に全ての機能を移行するのではなく段階的に移行したりする方法があります。また、新旧システムを一定期間並行して稼働させ、新システムに問題がないことを確認してから完全に移行する「並行運用」も有効な手段です。

社員への十分なトレーニングを実施する

どれほど高機能なシステムを導入しても、使う側の社員が操作に慣れていなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。新しいシステムの操作方法や、変更後の業務フローについて、十分なトレーニング期間を設け、丁寧に説明することが重要です。サポートデスクを設置するなど、導入後に発生する疑問やトラブルに迅速に対応できる体制を整えることも、新システムの定着を促進します。

失敗しない会計システムの選び方

自社にとって最適な会計システムを選ぶことは、リプレイス成功の最も重要な要素の一つです。ここでは、選定時に確認すべき3つのポイントを紹介します。

選定ポイント 確認事項
IT統制への対応 ログ管理、アクセス制御、承認ワークフローなどの機能は十分か
データ連携 販売管理・購買管理など既存システムとAPI等で自動連携できるか
SOC報告書の有無 クラウドの場合、ベンダーの内部統制を証明するSOC報告書が提供されるか

IT統制に対応しているか確認する

IPOを目指す企業はもちろん、全ての企業にとって内部統制の強化は重要です。選定するシステムが、データの正確性を担保する機能や、ログ管理、アクセス制御、承認ワークフローといったIT統制に貢献する機能を十分に備えているかを確認しましょう。経済産業省が公表している資料なども参考に、機能要件を満たしているかチェックすることが推奨されます。

他システムとのデータ連携は容易か検討する

会計システムは、販売管理システムや購買管理システム、経費精算システムなど、社内の様々なシステムと連携して機能します。これらのシステムとスムーズにデータ連携できるかは、業務効率を大きく左右します。API連携など、人の手を介さずに自動でデータを連携できる仕組みがあるかを確認しましょう。連携できるデータの種類や形式も、事前に確認が必要です。

クラウドサービスの場合はSOC報告書の有無を確認する

クラウド型の会計システムを利用する場合、自社のデータはサービス提供会社(ベンダー)のサーバー上で管理されます。そのため、ベンダーの内部統制が適切に整備・運用されているかどうかが重要になります。この内部統制の状況を第三者機関が評価した報告書が「SOC報告書」です。監査法人から提出を求められることもあるため、SOC報告書を提供してもらえるベンダーを選ぶと安心です。

まとめ

会計システムのリプレイスは、企業の成長に不可欠な戦略的投資です。この記事で解説した目的、タイミング、進め方、そして注意点を踏まえ、自社の課題解決とさらなる発展に繋がるリプレイスプロジェクトを計画的に推進してください。
適切なシステムの選定と慎重な移行プロセスの実行が、プロジェクトの成功を確実なものにします。

その他関連記事