コラム
【2024年(令和6年)度】労働保険の年度更新について、社労士が解説
2024年度の労働保険の年度更新手続きを行う時期になりました。
この記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、労働保険の年度更新について、今年度の変更点から手続きの基本知識まで、詳しく解説します。
目次
- 1 2024年度労働保険年度更新手続きの変更点
- 2 労働保険とは
- (1)労働保険の加入条件について
- (2)労働保険の計算方法について
- 3 労働保険の年度更新について
- (1)労働保険の年度更新について
- (2)年度更新の期間について
- 4 年度更新手続きの流れと注意点
- (1)年度更新手続きの流れ
- (2)年度更新手続きの注意点
- 5 年度更新手続きのQ&A
- 6 労働保険の年度更新における電子申請利用のメリット
- 7 おわりに
1. 2023年度労働保険年度更新手続きの変更点
2024年(令和6年分)を申告する際は、下記の変更点に注意して手続きを進める必要があります。
2. 労働保険とは
労働保険とは、労働者災害補償保険と雇用保険をあわせた総称で、これらは給付の内容自体は全くの別物ですが、保険料の徴収はまとめて取り扱われています。
(1) 労働保険の加入条件について
原則として労働者を一人でも使用する事業場は、加入が義務づけられています。例外として、個人経営かつ常時5人未満の労働者を利用する農林業や船員の雇用がない水産業などは、加入が任意となる場合もあります。
また、事業所のカウントは企業単位ではなく、組織としての独立性を持つ事業所ごとに行われます。これは、支店や工場を複数持つ企業は、それぞれの支店や工場が独立した適用事業とみなされ、労働保険の加入義務があることを意味します。
(2) 労働保険の計算方法について
労働保険料額の計算方法は以下の計算式によって求められます。
(労働保険料)=(賃金総額)×(労災保険と雇用保険を合わせた労働保険料率)
労災保険の保険料率は業種によって異なり、0.25%から8.8%の範囲で定められています。民間の生命保険や自動車保険と同様に、リスクが低いとみなされる人ほど保険料が安くなるように、労災保険料も労災発生の可能性が低いと想定される事業では、保険料の負担が軽減されます。
また、今年度は一部の業種において労災保険料率の改定が行われています。労災保険料率を確認する際には、常に最新の情報を参照することが重要です。
3. 労働保険の年度更新について
(1) 労働保険の年度更新について
労災保険料と雇用保険料は、毎月納付を行う健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料と異なり、年に1回まとめて納付をします。この業務を年度更新と呼んでいます。
年度更新の際には、前年度に納めた概算保険料と確定保険料の差額、および当該年度の概算保険料を一緒に納付します。
労働保険料は労働者に支払われた賃金総額に基づいて計算されるため、その年の正確な保険料額は、年度末の最後の給与支払いが完了するまでは確定しません。そのため、当該年度の保険料に関しては、予想されるおおよその額を先に納付し、最終的な金額との差額は翌年に精算する、といった仕組みになっています。
(2) 年度更新の期間について
労働保険の年度更新は毎年6月1日から7月10日となっています。
4. 年度更新手続きの流れと注意点
(1) 年度更新手続きの流れ
① 賃金集計表の作成
対象期間の賃金総額の集計に使用します。賃金集計表は提出の必要はありませんが、申告書作成の基礎となるため、申告後は事業所にて申告書控えとあわせて保管を行います。
賃金集計表は厚生労働省ホームページに掲載されていますので参考にご確認ください。
出典:厚生労働省|主要様式ダウンロードコーナー (労働保険適用・徴収関係主要様式)
② 申告書の受領・記入
毎年5月末までに、事業主宛に申告書が届きます。賃金集計表をもとに申告書へ労災保険、雇用保険それぞれの対象賃金と保険料額を記入します。
また、申告書内で前年度の確定保険料、および今年度の概算保険料の記入欄がそれぞれ設けられています。
③ 申告書の提出・納付
申告書は、金融機関、管轄の労働局、管轄の労働基準監督署、社会保険・労働保険徴収事務センター(年金事務所内)で提出可能ですが、申告書に添付されている領収済通知書(納付書)は金融機関へ提出の上で保険料の納付となります。なお、納付については口座振替や電子納付も可能です。
※ 口座振替を利用の場合は、金融機関への申告書提出は不可となります。
(2) 年度更新手続きの注意点
労働保険の年度更新について注意点があるため解説します。
① 概算保険料額の決定方法について
概算保険料の金額は原則として、前年の賃金総額と同額を支給見込額として算出することが可能です。しかし、申告年度の賃金総額の見込額が前年度の賃金総額の2分の1以下または2倍以上である場合には、予定される賃金総額を算出して納付する必要があります。
② メリット制について
労災保険率は事業の種類ごとの災害状況等に応じて定められていますが、事業所ごとの災害率に差が生じているため、一定の要件を満たす事業所については、当該事業の災害の多寡に応じて、労災保険率または労災保険料を調整します。
実際の保険料率は労働基準監督署等から届く申告書をご確認ください。
5. 年度更新手続きのQ&A
Q:計算対象期間は?
算定期間中(4月1日から翌年3月31日まで)に支払いが確定した賃金は、実際に支払われていなくても算入する必要があります。
例えば、当月末締め翌月15日払いの会社は、5月15日払いから翌年4月15日払いまでの賃金総額で集計します。
Q:計算対象者は?
労災保険は、原則として、常用・日雇・パート・アルバイト等名称や雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金を受けるすべての労働者が対象です。
雇用保険は、原則として、常用・日雇・パート・アルバイト等名称や雇用形態にかかわらず、次の2つの状況を満たす労働者が対象です。
- ①1週間の所定労働時間が20時間以上
- ②31日以上の雇用見込みがある場合
労災保険と雇用保険では労働者の対象範囲が異なる場合があります。あらかじめ対象範囲を明確にし、手続きを行いましょう。
Q:賞与や休業手当も計算対象?
賃金総額とは、事業主が労働者に対して、賞与等の名称に関係なく労働の対償として支払うすべてのものをいいます。したがって、賞与や休業手当も計算対象となります。
Q:納付回数は分けられる?
概算保険料が40万円(労災保険または雇用保険のいずれか一方のみの成立は20万円以上)の場合は、3回に分けての納付(延納)が行えます。2024年の納期限は、第1期7月10日、第2期10月31日、第3期1月31日です。
Q:口座振替の手続きの流れは?
事前に申し込み用紙を厚生労働省ホームページからダウンロード、またはお近くの労働局・労働基準監督署の窓口で入手を行い、金融機関の窓口で提出します。
口座振替納付日が通常の納期限よりも日数にゆとりがある点や、口座引き落としにより納付忘れ・漏れを防げる点がメリットとなります。詳しくは、厚生労働省ホームページや、労働局・労働基準監督署の案内リーフレットをご覧ください。
Q:年度更新手続きを効率的に行う方法は?
労働保険年度更新手続きについては、電子申請を利用することで手続きを効率的に実施できます。
6. 労働保険の年度更新における電子申請利用のメリット
紙で申請を行う場合、事業主は申告書に手書きで記入し、申告書および納付書は窓口へ提出が必要です。手書きの手間だけでなく、窓口へ出向く時間や交通費などのコストも非常に負担となります。申告書は郵送提出もできますが、手書きの手間がかかることには変わりありません。
それに対して、電子申請の利用の場合は窓口を回る手間がなく、申請サイトを通して会社や自宅のパソコンから手軽に手続きが行えるようになります。
小林労務が提供する、電子申請手続きに特化したシステム「e-asy電子申請.com」は、労働保険の年度更新に対応しています。e-asy電子申請.comでは、最初に労働保険番号等の会社基本情報を登録していれば、年度更新の手続きの際に、会社基本情報を再び入力する必要がありません。
さらに、もし異なる項目に入力してしまった場合でも、エラーチェック機能が備わっているため、正しい入力箇所も事前に確認することができ、年度更新手続きが初めての方でも安心してご利用いただけます。
6. おわりに
コロナ禍における雇用調整助成金の影響で雇用保険の財源が圧迫され、雇用保険料率の見直しが続いています。
一昨年と昨年に課題となった年度途中での料率変更は、今年度には解消されました。ただし、集計作業には依然として一定の時間が必要です。チェック機能を備えたシステムを活用しながら申告を行うことが推奨されます。
株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
ProActive 給与管理システム
SCSKが提供するProActive 給与管理システムでは、労働保険の年度更新業務資料出力をはじめ、多様化する人事制度や雇用形態に応じ、様々な報酬計算に対応しています。また、法改正や各種申告制度の変更についても随時対応いたします。
2020年からは、社会保険・労働保険の電子申請義務化に伴い、ProActiveとe-asy電子申請.comの電子申請連携ソリューションを提供しています。
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