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2023.10.24
人事労務トピックス

【2023年(令和5年)度】年末調整の変更点について、社労士が解説

本年も年末調整を行う時期が近づいてまいりました。
年末調整とは、給与の支払を受ける人を対象に、毎月の給与支払の際に控除される源泉徴収税額と、その年の給与総額より算出した税額を比較し、その差額を精算する手続きです。
本年も昨年と同様に大きな変更点はありませんが、年末調整業務を行う前に変更点を確認しておきましょう。

今回の記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、本年の年末調整の変更点について解説します。こちらの内容は動画【年末調整の基礎知識】【年末調整の申告書の記入例】でも詳しく解説しております!

1. 2023年(令和5年)度 年末調整のポイント

今回ご紹介する本年の変更点は大きく3つあります。

• 住宅ローン控除の要件変更
• 非居住者である扶養親族に係る扶養控除の適用要件変更
• 扶養控除申告書に「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」と「寡婦又はひとり親」の欄追加

それぞれ詳しく説明していきます。

2. 【変更①】住宅ローン控除の要件変更

住宅ローン控除の適用期限は2021年(令和3年)12月31日とされていましたが、2025年(令和7年)12月31日までに延長されました。これに伴い、2022年(令和4年)以降に住宅ローンを利用した場合、上限額や控除額が変更となります。(2023年より適用)

(1)適用期限の延長に伴い減税措置の変更

  • 控除率を1%から0.7%に引き下げ
  • 控除期間は新築住宅について原則13年、ただし「一般の住宅」で令和6年以降に居住した場合は10年

(2)省エネ住宅の借入上限額の上乗せ

(3)所得要件の引き下げ

  • 適用対象者の所得要件が3,000万円以下から2,000万円以下へ引き下げ

(4)築年数要件の廃止

  • 既存住宅の要件について、築年数要件が廃止

(5)新築住宅の適用床面積要件の緩和

  • 床面積要件が50㎡から40㎡に緩和(合計所得金額が1,000万円以下)

(6)中古住宅は現行の10年で据え置き

  • ほとんど実務的に影響はないですが、控除率が引き下げられる影響は本年の年末調整より発生しますので、控除額を計算する際は注意が必要です。

3. 【変更②】非居住者である扶養親族に係る扶養控除の適用要件

所得税法の被保険者対象となる親族の要件が変更になりました。国外に居住する「非居住者」の親族のうち、控除の対象となる扶養家族の範囲から「30歳以上70歳未満」の非居住者が除外されます。ただし、30歳以上70歳未満の非居住者でも下記に該当する人は現行の通り扶養控除の対象となります。(令和5年より適用)

① 留学により国内に住所及び居所を有しなくなった者

② 障がい者

③ 扶養控除の適用を受けようとする居住者からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受けている者

①に該当する場合は、扶養控除等申告書の受領時に留学ビザ等の相当書類と送金関係書類を、③に該当する場合は年末調整時に38万円以上の送金を証明する確認書類を提出し適用対象者である証明を行う必要があります。②に関しては送金関係書類のみとなります。

4. 【変更③】扶養控除申告書に「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」と「寡婦又はひとり親」の欄追加

「住民税に関する事項」についての記載は、令和4年までは「16歳未満の扶養親族」についてのみだけでしたが、改正により、「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」と「寡婦又はひとり親」の記載が追加されました。
これは、退職所得における、所得税と住民税の計算の考え方が異なることに起因しています。扶養控除や配偶者控除の適用を受ける場合は、配偶者等の合計所得金額が48万円以下である必要があります。
ただし、所得税の計算では、退職所得は合計所得の額に含めますが、住民税の計算では退職所得の金額は含めません。

上述した通り、住民税では控除適用を受けることができるにもかかわらず、適用されていないケースが多かったため、今回追記されることとなりました。

5. 年末調整についてのよくある質問

非居住者を控除対象扶養親族に記載する場合の注意点を教えてください。
非居住者を控除対象扶養親族に記載する場合、下記の添付(確認)書類が必要となります。
16歳以上30歳未満又は70歳以上親族関係書類
留学留学ビザ等書類、親族関係書類
障がい者親族関係書類
38万円以上の支払38万円送金書類、親族関係書類

※「38万円以上の支払」とは、留学・障害者以外で30歳以上70歳未満に該当する扶養親族を意味します。

合計所得金額の見積額が48万円以下とはどのようなことでしょうか。
1年間の給与収入金額が103万円以下の人となります。
給与所得控除額55万円を控除した金額が合計所得金額の見積額となります。
よく、源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族の所得の見積額を記載しますが、所得と収入を特に考えず、収入を書く方がいるので注意が必要です。
年途中で控除対象扶養親族に変更があった場合どうすればよいでしょうか。
年末調整を行う年の12月31日の現状で判断することになります。
12月31日に子が生まれた場合、控除対象扶養親族には該当しませんが、所得金額調整控除においては、年齢23歳未満の扶養親族に該当するため、対応が必要です。
また、年内に死亡した控除対象扶養親族や控除対象配偶者がいる場合、死去したその年の年末調整では控除対象とすることができます。

6. おわりに

2020年には大幅な税改正が行われました。近年、働き方が多様化しており、これまでの会社員と自営業という単純な働き方の違いだけではなく、会社員と同じような内容の業務を個人事業主として請け負うフリーランスといった働き方も増えてきました。
そこで、働き方の多様化や政府が主導する「働き方改革」をふまえた制度改正が行われています。

一方で、日本社会でも貧富の差が広がっているという問題があります。
所得の高い人から低い人への「所得税の再分配機能」を回復させるため、所得の高い人には増税となるように変更しました。
ただ、子育て世代への配慮として、23歳未満の子どもがいる世帯と介護が必要な家族がいる世帯は、増税の対象外としています。すなわち、「働き方の多様化」「貧富の差」に着目して所得税のバランスを考慮した税改正でした。
2023年もこの思想を引き継ぎ税改正が行われています。人事・総務担当者は、税制改正を理解し、社内対応の準備を進めましょう。

(参考)年末調整とは

前年1月から12月までに支給された給与や賞与から源泉徴収された税額の年間合計額と、年税額を一致させる精算の手続きのことです。
1年間の給与全体にかかる所得税額と、毎月の給与や賞与から源泉徴収された所得税額を比較し、各種控除を鑑み調整します。払い過ぎている場合は差額を還付、支払が足りない場合は差額を徴収します。
この精算の手続きを「年末調整」と呼びます。

株式会社小林労務 上村 美由紀氏

株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀

2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2016年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。

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