コラム
温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた基礎知識から企業の取り組みポイントを解説
SDGsが重視される時代となり、温室効果ガス削減は、企業にとって必須の課題となりました。
温室効果ガス削減への取り組みは、今や世界的な企業評価基準の一つであり、ブランドステータスでもあります。また、SDGsのための技術は、世界での利益追求競争においても価値を高めており、企業の優位性となりえます。
そこで今回は、国内外における温室効果ガス削減に関する現状や算定プロセス、温室効果ガス削減のためのステップや企業の取り組みのポイントについてご紹介します。
目次
1. 温室効果ガス(GHG)とは
温室効果ガス(GHG)とは、地球の温暖化現象を引き起こす気体のことです。温室効果ガスには、太陽光からの赤外線を吸収し、再び放出することで大気を暖める性質があります。そのため、大気中の温室効果ガス濃度が増加すると、地球表面の温度は上昇します。
日本では、温室効果ガスとして、以下の7種類が「地球温暖化対策の推進に関する法律」で定められています。
- 1. 二酸化炭素
- 2. メタン
- 3. 一酸化二窒素
- 4. ハイドロフルオロカーボン(このなかで政令に定めるもの)
- 5. パーフルオロカーボン(このなかで政令に定めるもの)
- 6. 六ふっ化硫黄
- 7. 三ふっ化窒素
2. 世界の温室効果ガス(GHG)排出量
下記の表の通り、中国、アメリカ、インドの上位3か国で世界の二酸化炭素(CO2)排出量の半分以上を占めています。日本は、上位3か国およびロシアに次いで5位であり、世界的には大排出量国の1つです。
なお、このデータには「化石燃料以外に由来する二酸化炭素」や「他の温室効果ガス(メタンなど)」が含まれていないため、注意が必要です。
順位 | 国名 | 二酸化炭素(CO2)排出量 |
1位 | 中国 | 105億2,300万トン |
2位 | アメリカ | 47億100万トン |
3位 | インド | 25億5,200万トン |
4位 | ロシア | 15億8,100万トン |
5位 | 日本 | 10億5,300万トン |
世界計 | 338億8,400万トン |
※1万未満は切り捨て
出典: GLOBAL NOTE 世界の二酸化炭素(CO2)排出量 国別ランキング・推移(BP)
国別の温室効果ガス排出量は、過去10年間で順位に変動がありません。この点からも、日本における温室効果ガス排出量の削減のための対策を強化すべきであると言えます。
3. 日本の温室効果ガス(GHG)排出量
日本の温室効果ガス排出量は、2020年まで7年連続で減少を続けています。
この減少傾向は、2013年以降、再生可能エネルギーの拡大や原発の再稼働により、電力由来の二酸化炭素排出量が減少していることが主な要因です。2020年においては、コロナ禍による消費の減少・製造業の生産量の減少・旅客/貨物の輸送量の減少なども大きく影響しています。
(1)排出量の推移
日本における2020年度の温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量の総計は、前年比で6000万トン減少して、11億600万トンでした。
日本の温室効果ガス排出量は、2013年以降、順調に減少を続けています。しかし、排出量において世界5位であることからも、より一層の努力を続けていく必要があると言えるでしょう。
(2)排出量の割合(内訳)
日本の温室効果ガス排出量の内訳は、以下の表の通り、二酸化炭素が9割を占めています。そのうち8割以上が燃料の燃焼や電気、熱の消費で発生していますが、これは再生可能エネルギーの拡大などにより、近年減少傾向です。非エネルギー起源では、製造業における製造プロセス、特にセメント製造工程等で二酸化炭素が排出されています。
メタンの排出源は、水田の土壌に生息するメタン生成菌の作用や家畜の腸内発酵、廃棄物の埋め立てなど、一酸化二窒素の排出源は、燃料の燃焼、廃棄物の焼却などが挙げられます。
代替フロン等4ガスのうち、ハイドロフルオロカーボン類が2005年より年々増加し、現在ではメタンを追い抜いて2番目に多くなっています。これは、オゾン層破壊物質の代替として、冷蔵庫・エアコン・スプレーなどで冷媒として使われるようになったためです。
日本の温室効果ガス(GHG)排出量 割合(2020年度)
温室効果ガス(GHG) | 排出量(シェア) | ||
二酸化炭素(CO2) | 10億4,400万トン(90.8%) | ||
エネルギー起源 | 9億6,700万トン(84.1%) | ||
非エネルギー起源 | 7,680万トン(6.7%) | ||
メタン(CH4) | 2,840万トン(2.5%) | ||
一酸化二窒素(N2O) | 2,000万トン(1.7%) | ||
代替フロン等4ガス | 5,750万トン(5.0%) | ||
ハイドロフルオロカーボン類(HFCs) | 5,170万トン(4.5%) | ||
パーフルオロカーボン類(PFCs) | 350万トン(0.3%) | ||
六ふっ化硫黄(SF6) | 200万トン(0.2%) | ||
三ふっ化窒素(NF3) | 29万トン(0.03%) | ||
合計 | 11億5,000万トン |
4. 温室効果ガス(GHG)の削減目標
日本政府は、温室効果ガスの削減目標として、「2050年にカーボンニュートラルを実現する」と宣言しました。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を同じにして、プラスマイナスゼロにすることです。
また2021年4月に「2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目標値として、さらに50%まで達成できるように挑戦していく」と表明し、同年10月にはこれを踏まえて地球温暖化対策計画が改訂されました。
地球温暖化対策計画(改定後)
温室効果ガス(GHG) | 2013年排出量実績 | 2030年排出量目標(削減率) | |
エネルギー起源CO2 | 12億3,500万トン | 6億7,700万トン(-45%) | |
部門別 | 産業 | 4億6,300万トン | 2億8,900万トン(-38%) |
業務その他 | 2億3,800万トン | 1億1,600万トン(-51%) | |
家庭 | 2億800万トン | 7,000万トン(-66%) | |
運輸 | 2億2,400万トン | 1億4,600万トン(-35%) | |
エネルギー転換 | 1億600万トン | 5,600万トン(-47%) | |
非エネルギー起源CO2、メタン(CH4)、一酸化二窒(N2O) | 1億3,400万トン | 1億1,500万トン(-14%) | |
代替フロン等4ガス(HFCs等) | 3,900万トン | 2,200万トン(-44%) | |
合計 | 14億800万トン | 6億7,700万トン(-46%) |
出典: 環境省 地球温暖化対策計画 概要
5. 企業が温室効果ガス(GHG)排出量を把握する重要性
地球温暖化対策計画(改訂版)で策定された削減目標を達成するには、各分野において企業が各々しっかりと取り組むことが必要です。
また、パリ協定から生まれたSBT (Science Based Targets)では、企業のサプライチェーンまで含めた温室効果ガス削減目標が設定されています。2022年8月1日現在、SBTi (SBTイニシアチブ)に参加する日本企業は289社(認定取得:233社、コミット:56社)となっています。
サプライチェーン排出量とは、事業活動に関係するすべての温室効果ガス排出量で、3つの区分があります。
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
出典: 環境省・経済産業省 サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ
近年Scope1、2に加えてScope3の排出量が注目されるようになりました。環境省では、国内の企業に対して、サプライチェーン全体の削減努力を呼びかけています。SBTiに参加する日本の大手企業では、サプライヤーなどに目標値の設定を求めています。
6. 企業がサプライチェーン排出量を算定するためのステップ
俯瞰的にサプライチェーン排出量を把握することで、削減対象の特定と、その特徴を理解することができ、効果的・長期的な削減計画の策定が可能になります。
また企業がサプライチェーン全体を削減対象範囲と考えることで、企業間での連携がしやすくなり、より合理的な削減方法をとりやすくなるでしょう。SBTでは、サプライチェーン排出量の全体に関連する企業の協力体制を推奨しています。
サプライチェーンの排出量を算定するためのステップは次の通りです。
企業がサプライチェーンの排出量を算定するためのステップ
(1)目的の設定
まず、算定目的を設定します。方法と精度によってコストがかなり変わってくるため、事業の特性などをよく把握して、適切に設定しなければなりません。
具体的には、「自社のサプライチェーン排出量の全体像把握」、「サプライチェーン排出量の削減箇所の特定」などが挙げられます。
(2)対象範囲の確認
サプライチェーンのどこに削減対象があるのか、基本ガイドライン(環境省・経済産業省)に沿って選別します。この段階で、サプライチェーンにおける企業間の協力体制を確立することで、温室効果ガス排出量削減のためのビジネス効率化も実現できます。
(3)カテゴリーの分類
基本ガイドラインにあるScope3の15カテゴリーに照らし合わせ、選定した対象範囲をカテゴリーに分類します。対象範囲のなかで見落としがないように注意が必要です。各カテゴリーにまとめることで、温室効果ガス削減のための対策コストも軽減することができます。
(4)カテゴリーごとの算定
算出方法は、2種類あります。
① 関連企業から排出量データを受け取る
②「排出量=活動量×排出原単位」で算定する
主流となる②の方法では、しっかりとしたデータ収集が必要です。データ収集項目とデータ収集先を整理することで、作業効率が向上します。
目的や計画を実現するだけの排出量の削減ができているかについても検証します。
7. 温室効果ガス(GHG)削減のための企業の取り組みのポイント
温室効果ガス削減に向けて、最も重要なポイントは、特に排出量の大きい領域などから、削減対象を正確に把握することです。次に、削減対象に対して、どこまで削減するのか目標数値の設定が必要です。
また、カテゴリー別に効率的な削減方法を選定してコストを軽減することや、期間内に実現可能な計画にすることも大切です。
温室効果ガス(GHG)削減に向けた企業の取り組みのポイント
企業内全体の排出量に加えて、セクション別でも把握することにより、効率的に温室効果ガスを削減できます。このプロセスを取り入れた製品が、多くの企業で検討、導入され始めています。例えば、三井住友銀行のCO2排出量算定・削減支援クラウドサービス「Sustana」では、作業に時間がかかるCO2排出量の算定や、削減計画の立案・修正・活動プロセスの管理まで一連の業務をクラウド上で作業できます。
8. まとめ
より効率的に温室効果ガス削減を実現するためには、排出量に関する数値を、常に可視化しておくことが重要です。企業内のすべての温室効果ガス排出量を認識するシステムやサポートツールを活用することで、世界の温室効果ガス削減の動きに合わせた効率的な企業運営を計画的に実現できるでしょう。
国立研究開発法人 国立環境研究所 主任研究員
藤野 純一
東京大学大学院工学系研究科博士学位取得。国立研究開発法人主任研究員などを経て、2019年度より現職。日本低炭素社会研究プロジェクト(平成16~20年度)やアジア低炭素社会研究プロジェクトの幹事(平成21~25年度)として携わり、また、中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会専門委員として、2050年までに二酸化炭素排出量を大幅削減する「低炭素社会」のシナリオ作りに携わる。 さらに、「環境未来都市」構想有識者検討会委員として、自治体を支援、未来都市のコンセプトづくりに携わった経験も有し、国際的、国内的にエネルギー・環境問題、SDGsを中心に多方面で活躍している。
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