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2024.06.10
ITトピックス

カーボンニュートラル達成にはIT活用が不可欠!企業の取り組み事例も紹介

カーボンニュートラルは、ビジネスの世界においてどのような重要性を持つのでしょうか。近年、温室効果ガスの排出量削減に努めない企業は市場から排除される時代がくる、とも言われています。実際に、欧米を中心に規制が広がっているのが現状です。
この記事では、カーボンニュートラルが企業の事業活動にどのような価値をもたらすのかを探ります。また、カーボンニュートラルの推進においてITがどのように利用されているかについても詳しく解説します。

1. カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、CO2やメタン、フロンガスなどの温室効果ガスについて、人間社会における排出量と吸収・除去量を合計してゼロにすることです。

カーボンニュートラルへの具体的な取り組みは、1997年の『京都議定書』で始まりました。この議定書により、日本は6%の削減を含む6種類の温室効果ガスの削減義務を負いました。2015年に「パリ協定」が合意され、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して2°C、努力目標として1.5°Cに抑えるという目標が定められ、先進国だけでなくすべての国が温室効果ガスの削減に尽力することが採択されました。

2018年には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が「IPCC1.5°C 特別報告書」を公表し、2°C上昇では1.5°Cに比べて深刻な温暖化影響が出ること、1.5°C実現には2050年あたりにカーボンニュートラルを実現する必要があることを示しました。すでに世界各地での気候変動の影響が顕著になってきていたこともあり、2020年10月末から11月に英国で開催されたCOP26の議論を経て1.5°C実現が世界共通目標になりました。

2020年10月、日本政府は「2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す」と宣言しました。この目標は、EUやアメリカ・カナダ・イギリスといった国々も共有しており、特に、EUの加盟国であるドイツでは、カーボンニュートラルの目標達成期限を前倒しして2045年に設定し、環境問題への先駆的な取り組みを進めています。
また、達成年の違いはありますが、中国やインド、ブラジルはじめグローバルサウスでもカーボンニュートラルの実現を宣言するようになっており、世界全体の問題になっています。

2. カーボンニュートラルの重要性

カーボンニュートラルへの取り組みが不十分な場合、地球温暖化は加速し、気温や海水温度の上昇、生物における多様な品種の絶滅、そして食糧不足など、深刻な問題に直面する可能性があると報告されています。

温暖化現象を解決するためには、人間の経済社会のなかの科学技術的な構造や消費文化、法規制などをすべて改善する必要があります。具体的には、電力や資源の消費に関わる社会・経済システムを見直し、廃棄物や汚染をゼロにすることを目標とするサーキュラーエコノミーへの移行が重要です。そのためには、社会・経済システム全体の総合的な再構築が不可欠となります。

次世代が豊かな自然環境で永続的に安心して生活できるように、経済社会を大きく変革していくことが重要となります。

3. 企業に求められる脱炭素経営とは

脱炭素経営とは、温室効果ガスの排出量を、できるだけ早いタイミングでゼロにすることを目標とし、経営方針に取り入れることを指します。

温室効果ガス削減に関して、製品の製造工程での電力使用や加工方法に至るまで、低炭素化を推進しています。現在、製品が市場に出る際には、その製造過程で発生したCO2排出量をカーボンフットプリントとして明示することが一般的に求められるようになっています。

CO2排出量が多い製品は、特に欧米を中心にビジネス取引から除外される動きが強まっています。将来的にはカーボンプライシングの導入や炭素税が徴収される可能性があるため、企業は早期に脱炭素経営を取り入れることの重要性が増しています。

脱炭素経営のステップは、下記のとおりです。

脱炭素経営の第一歩は、自社の事業運営におけるCO2の排出源とその量を把握することです。この情報を基に、脱炭素経営の具体的な目標と方針を明確に設定する必要があります。

例えば、「自社製品のカーボンフットプリントを表示して商品のブランド価値を高める」や「製造工程を詳細に分析し、消費電力を削減して事業のコストを低減する」といった戦略が挙げられます。

次に、現在のCO2排出量とその変動要因を正確に理解することが重要です。事業者は測定データを基に、削減対策を施す具体的な排出源を特定する必要があります。

最後に、自社のCO2排出実態に基づいた具体的な削減計画を策定します。
CO₂排出量を削減するにあたり、原材料の変更、製造機器の更新、製造工程の統合など、効率化や合理化を進める必要があります。
計画を立てるだけでなく、実施を通じて定期的に計画を見直し、改善を継続することが重要です。

4. カーボンニュートラルへの取り組みによる企業メリット

カーボンニュートラルへの取り組みは、脱炭素経営を通じて企業経営の健全性を向上させるだけでなく、様々なメリットをもたらします。これには、経営姿勢が外部から高く評価され、結果として知名度や認知度が向上することなどが含まれます。

(1)企業のイメージが向上する

脱炭素経営に取り組むことにより、企業は環境への配慮が評価され、国内外からのイメージが大きく向上します。この取り組みは、特に環境に敏感な市場や消費者層からの支持を集め、企業競争力を高めることに寄与します。

(2)光熱費や燃料費を削減できる

脱炭素経営により、企業はCO2排出量を削減し、それに伴い電力消費や燃料使用を効率化します。これにより、光熱費や燃料費の大幅な削減が可能になり、長期的なコスト削減に繋がります。

(3)知名度・認知度が向上する

脱炭素経営を積極的に行う企業は、その事例がメディアに取り上げられたり、PR活動を通じて知名度が高まることがあります。また、SBTiなどの国際的な組織へ加盟すれば、業種を超えて幅広い領域まで認知度を広げられるでしょう。

(4)社員のモチベーションが向上する

企業が環境問題への取り組みを積極的に行うことは、社員のモチベーション向上にも寄与します。日本総合研究所の調査によると、環境を考慮した職場は社員の意欲を高めることが示されています。

(5)人材獲得力が向上する

社員だけでなく、就職希望者にとっても環境配慮を行う企業は魅力的です。
日本総合研究所の調査によれば、特に若年層の間では、環境に配慮する企業への就業意欲が半数以上に高いことが明らかになっています。新卒採用の現場では、「エシカル就活」という言葉が使われるほど、環境への配慮を行う企業に対する関心が高まっています。

(6)好条件で資金調達できる

ESG投資は世界的に盛んになり、国内でもその傾向は今後さらに拡大すると見込まれています。
金融機関の中には、脱炭素経営を行う企業に特化した融資を実施しているところもあります。株式市場では、脱炭素経営への評価が高まり、株価の安定性にも有利な影響を与えています。また、政府による補助金などの支援策が設けられていることから、経済的なメリットがあります。

5. カーボンニュートラル達成に向けた企業のIT活用

経済産業省が公表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020年12月)においては、「カーボンニュートラルの実現には様々な用途においてデジタルトランスフォーメーションが必要である」と明言されています。

サーキュラーエコノミーは、「人間社会が廃棄物や汚染をゼロにすること」を目標に掲げています。この目標達成のために、AIをはじめとするデジタルトランスフォーメーション技術がカーボンニュートラルへの移行において重要な役割を果たしています。

では、企業においてどのような側面でDXが重要な要素として機能するのでしょうか。

具体的には、以下の3つの観点から考えることが大切です。

企業においてDXが重要な要素として機能する場面

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

(1)消耗品や廃棄物の削減

紙の書類管理は、印刷から製本に至るまでのコストが発生し、書類の保管や検索にも時間がかかります。
データをクラウド上で管理することで、印刷コストや紙代、収納スペースを削減できます。さらに、データを一元管理することで、必要な情報にいつでもどこからでも簡単にアクセス可能になります。

(2)原価管理の作業の自動化・省力化

製品の原材料や製造プロセスに関するデータをクラウド上で一元管理することで、原価管理の作業を自動化し、省力化することが可能です。
販売管理、在庫管理、購買管理などの分野でも、日々蓄積されるデータを基に、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用しながら、在庫の効率的な管理から生産管理まで、事業の運営を効率的に行うことができます。さらに、歴年の販売データを分析することで、将来の販売予測を立てることも可能になります。

(3)ICTで人やモノの移動にかかる負荷の軽減

ICTとは、パソコン・タブレット・スマートフォンなどで情報の伝達を行う技術です。ICT活用により、遠隔地の支社や本社間での物理的な移動が不要になり、オンラインでの会議実施が可能になります。これにより、出張コストの削減と業務効率の向上が図れます。

6. ITを活用した企業のカーボンニュートラルの取り組み事例

カーボンニュートラルへの取り組みにおいて、ITの活用は不可欠です。書類のペーパーレス化などのデジタルトランスフォーメーションの推進は、コスト削減だけでなく、環境負荷の軽減という大きな価値ももたらします。

実際にITを活用してカーボンニュートラルに取り組んでいる企業の事例をいくつか紹介します。

出典: 環境省|中小規模事業者向けの脱炭素経営導入 事例集

(1)オンラインで各拠点の電気消費量を取得|株式会社パブリック

株式会社パブリックは、1973年に香川県観音寺市にて一般廃棄物の収集運搬業を創業しました。その後、産業廃棄物処理業に進出しながら、四国全域に事業を拡大しています。
現在の事業領域は、廃棄物の収集運搬、廃棄物の処分およびリサイクル、エコステーション管理、吸引・高圧洗浄作業、計量証明事業、指定管理業務です。

① ITを活用したカーボンニュートラルの取り組み

同社は、13拠点の事業所と4つの子会社に対して、精緻なデータ収集を実施するための徹底したレクチャーを行いました。その結果、17拠点から燃料に関するデータをオンラインで正確に収集できる体制が整いました。
電力データの収集には、四国電力の『よんでんコンシェルジュ』サービスを活用し、オンデマンドでのデータ取得をオンラインで行っています。これにより、より正確でタイムリーなエネルギー管理が可能となりました。
正確なデータの把握は、CO2排出量の削減対象を明確にし、どのようなアプローチで取り組むかを多角的に検討する基盤となります。

② カーボンニュートラルの取り組みにおけるメリット

株式会社パブリックは、地域の人々と共により良い未来の創造に取り組む企業として活動しています。競争が激しい業界の中で、勝ち残るために「選ばれる企業」になることを目指し、脱炭素経営への取り組みに踏み出しました。

この脱炭素経営への取り組みが高く評価され、地方公共団体からの多くの仕事の依頼が寄せられるようになりました。CO2排出量の効果的な削減は、優先順位、実施の難易度、予算を慎重に考慮して、最大の効果をもたらす施策を選ぶことが重要です。電力使用量を大幅に削減したことで、企業の運営効率を大幅に向上させました。

(2)GPS動態運行管理システムの導入|株式会社スタンダード運輸

続いて、株式会社スタンダード運輸の事例を紹介します。
株式会社スタンダード運輸は、1964年に有限会社川里運送として創業したのちに、タカラスタンダード株式会社東京営業所の開設に合わせて専属輸送を開始しました。現在の事業領域は、輸送業務・共同配送業務・倉庫業務・リサイクル事業・レンタカー事業です。

① ITを活用したカーボンニュートラルの取り組み

株式会社スタンダード運輸は、温室効果ガス排出量を算定するシステムを導入し、CO2排出量の計測を開始しました。より高い算定精度を実現するために、事業所ごと、時系列ごとにデータを確認し、比較を行っています。

さらに、GPSを活用した動態運行管理システムを導入し、エコドライブの効果的な実施を目指しています。エコドライブの成績が優秀な社員には、モチベーションを向上させるために表彰制度や給与アップの制度が用意されています。
また、同社のWebサイトでは、CO2排出量に関する情報を毎月公開し、PR活動を行っています。加えて、LED照明や電気自動車(EV)トラックなどの省エネ製品を積極的に導入しています。

② カーボンニュートラルの取り組みにおけるメリット

株式会社スタンダード運輸は、情報収集に細心の注意を払いつつ、着実な成果を目指して小規模からカーボンニュートラルへの取り組みを進めてきました。このアプローチにより、費用対効果が高い施策に絞ることができました。
さらに、荷主や協業する他社を含む各ステークホルダーと協力し、不要な配車や移動を排除することで、CO2排出量と労働時間の削減を同時に達成しています。

この取り組みは、「カーボンフリー輸送」というキーワードを通じてPR活動にも活かされており、脱炭素社会における運送業の新しいモデルとして提案されています。

(3)サーバーのクラウド化やテレワークの推進|株式会社NTC

最後に紹介するのは、株式会社NTCの事例です。
株式会社NTCは、情報通信分野における情報サービス業として、主にシステム開発をメインとしています。具体的な事業領域は、情報通信等システムの総合コンサルテーション、コンピュータと情報ネットワークに関するソフトウェアの開発、コンピュータと情報ネットワークを用いたシステムの製造および販売などです。

① ITを活用したカーボンニュートラルの取り組み

同社は以前からISO14001を活用し、ペーパーレス化と省エネ化を推進してきましたが、さらにサプライチェーン全体のCO2排出量を削減することが重要であると判断し、脱炭素経営に踏み出しました。
専門家やNTTデータ社との議論を通じて、効率的な電力使用策を模索し、週末の待機電力を削減するためにモニターの待機電力削減や、自動販売機をエコモデルに更新しました。
また、テレワークの継続や再生可能エネルギーの電源への切り替えも、CO2排出量削減の対策として取り入れられています。

② カーボンニュートラルの取り組みにおけるメリット

サプライチェーンの発想から考えを発展させ、テナントオフィスのオーナーなどと協議することで、CO2排出量削減に関する方策を策定しています。
その結果、テレワークの導入やフリーアドレス制によるオフィスエリアの集約など、電力削減に効果的な措置を講じることができました。
さらに、CO2排出量削減を目的としたパートナー企業との連携を強化し、企業競争力の向上にも寄与しています。またパートナー企業向けの勉強会を開催することで、連携する企業間での競争優位を確保することに成功しています。

7. まとめ

世界中でカーボンニュートラルへの取り組みが加速するにつれ、ZEH(ゼロエネルギーハウス)、ZEB(ゼロエネルギービル)、EV自動車、エコバッグなど、経済社会の構造が大きく変化しています。
欧米を中心に、カーボンニュートラルに取り組まない企業とのビジネス取引を見直す動きが広がり、その影響は国内にもおよぶ可能性があります。

また、「廃棄物・汚染ゼロの状態を目指す」だけでなく、「資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、新しい産業や雇用の創出」までを含む、新たな経済システムのサーキュラーエコノミーの考え方を組み込む必要もあります。
ZEBやEV自動車などは、この目標に貢献するデジタルトランスフォーメーション(DX)の具体例です。

このようなグローバルな動向は、企業が持続可能なビジネスモデルへと移行するための強い動機となります。日本国内の企業も国際的な基準に適応し、カーボンニュートラルな未来を目指す取り組みを加速させる必要があります。この過程で、デジタルトランスフォーメーション(DX)と先進的なITソリューションの活用が、エネルギー効率の向上、運用コストの削減、そして新たな市場機会の捉え方において中心的な役割を果たすことになるでしょう。

 国立研究開発法人 国立環境研究所 藤野 純一

国立研究開発法人 国立環境研究所
主任研究員
藤野 純一

東京大学大学院工学系研究科博士学位取得。国立研究開発法人主任研究員などを経て、2019年度より現職。日本低炭素社会研究プロジェクトやアジア低炭素社会研究プロジェクトの幹事として携わり、また、中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会専門委員として、2050年までに二酸化炭素排出量を大幅削減する「低炭素社会」のシナリオ作りに携わる。さらに、「環境未来都市」構想有識者検討会委員として、自治体を支援、未来都市のコンセプトづくりに携わった経験も有し、国際的、国内的にエネルギー・環境問題、SDGsを中心に多方面で活躍している。

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