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2024.04.30
人事労務トピックス

人事労務担当者必見!2024年(令和6年)度法改正について、社労士が解説

2024年度の法改正では、労働者の保護を強化する変更が導入された一方で、実務担当者が見落としがちな多くの変更点があるのではないかと考えています。
この記事では、今年の法改正の中でも特に人事労務担当者が注目すべき4つを紹介します。

1. 人事労務担当者がかかわる2024年度の主な法改正について

法令名 施行日 概要
労働基準法 2024.4.1 裁量労働制における対象労働者の要件の増加
障害者雇用促進法 2024.4.1 障害者雇用率の引き上げ
労働基準法 2024.4.1 労働条件明示のルール変更
労働基準法 2024.4.1 トラックドライバーの時間外労働上限規制(2024年問題)
2024.4.1 平均賃上げ率5.24%の高水準(3回目中間集計時点)
健康保険法・厚生年金保険法 2024.10.1 社会保険適用拡大
健康保険法 2024.12.8 マイナンバーカードと健康保険証の一体化(健康保険証の廃止)

今回は、上述した中から、青字の4つの法改正について、詳しく解説していきます。

2. 裁量労働制における対象労働者の要件の増加

裁量労働制を採用している企業は一部ではありますが、その実務への影響は大きいため、ここで詳しく紹介します。

裁量労働制とは、労働時間と成果が直接比例しにくい特定の業務を行う労働者に適用される制度です。具体的には、専門的な業務や企画開発などがこれに該当します。
この制度では、労使が協定を結び、実際に働いた時間にかかわらず、協定で定めた時間を労働時間として扱います。

裁量労働制の導入により、労働者は業務の効率化を図り、自らの労働時間を短縮しようとする意識が育ちます。
これは、労働者のモチベーションの向上や企業の生産性のアップにつながる可能性があるため、多くの企業がこの制度を採用しています。

しかし、今年の4月に裁量労働制の適用基準が見直され、新しいルールが加えられました。変更の理由は、裁量労働制が従業員の長時間労働を招くという問題が以前から指摘されていたためです。

裁量労働制には、労働時間の柔軟性から生産性が向上するメリットがありますが、労使協定により定められた時間が労働時間とされるため、実際の業務がそれを超えた場合でも、適切な残業代が支払われないデメリットも存在します。

また、この制度の対象となる業務は専門性が高く、長時間労働に陥りやすいという性質を持っています。
そのため、労働者の負担が増大するリスクがあり、法改正を通じて裁量労働制の適用基準が厳格化されたのです。

<労使協定にて定める必要がある項目(専門型裁量労働制の場合)>

  • 制度の対象とする業務
  • 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
  • 対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が対象労働者に具体的な指示をしないこと
  • 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置
  • 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置
  • 制度の適用にあたって労働者本人の同意を得ること
  • 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
  • 制度の適用に関する同意の撤回の手続き
  • 労使協定の有効期間
  • 労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中及びその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること

今回は裁量労働制の中でも専門型裁量労働制について解説します。緑字で示している部分について、改正後は追加で定める必要があります。

これに伴い、労使協定の書式も更新されました。黄色の箇所が新しい様式で加わった項目です。
今年度から、あるいは継続して裁量労働制を導入する企業は、新しい様式を確認し、提出する必要があります。

3. 障害者雇用率の引き上げ

現在、障がい者の法定雇用率は2.3%であり、従業員人数が43.5人以上の企業には障がい者の雇用が課せられています。
障がい者の社会参加をさらに促進するため、今年から法定雇用率が2.5%へと引き上げられました。

この変更により、従業員人数が40人以上の企業も雇用義務の対象となります。
新たに対象となる企業は、障がい者を適切に雇用するための体制を整えることが求められます。

対応策の一環として、まずは業務の棚卸を行い、障がい者が力を発揮できる職務を検討し、マニュアルの作成に着手することが考えられます。
さらに、テレワークや在宅勤務の導入により、特に身体障がい者の負担を軽減するなど、柔軟な働き方を支援する企業側の取り組みが重要です。

4. 社会保険適用拡大

短時間労働者の社会保険の加入義務の範囲は以前から徐々に拡大しています。
直近では2022年10月の法改正で「501人以上」から「101人以上」の事業所へと拡大しましたが、2024年の10月より、「51人以上」の事業所へとさらに拡大します。新たに社会保険の加入義務が発生する労働者に対する対応が必要です。
実務担当者は以下の準備が求められます。早めの対応を心がけ、適切な手続きが行えるようにしてください。

<加入対象者を把握する>

社会保険の加入の対象となるのは、以下の全ての要件を満たしている方になります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること
  • 所定内賃金が月額88,000円以上であること
  • 2か月を超える雇用の見込みがあること
  • 学生ではないこと

<対象労働者に対して周知し、個別にコミュニケーションを図る>

新たに加入対象となる短時間労働者に対し、法改正の内容をメールなどで周知をし、さらに個々の労働者に対し面談などを通して意向を伺う必要があります。
社会保険に加入することのメリットは以下になります。

① 保険料額は会社と折半できる

厚生年金保険料と健康保険料は、労働者と事業主が半分ずつ折半して支払います。そのため、国民健康保険と国民年金を全額自己負担していた労働者の場合は、負担が軽減される可能性があります。

② 利用できる健康保険の制度が増える

病院で治療を受ける際、療養給付金として自己負担分(3割)が支給されるのは、被保険者であろうと被扶養者であろうと同じです。しかし、被保険者となることで、「傷病手当金」や「出産手当金」を受け取る資格が得られます。

詳細は下記の記事をご覧ください。

5. 労働条件明示のルール変更

現在使用している労働条件通知書や雇用契約書が最新の法改正に対応しているかどうかの確認が必要です。
法改正によって、求職者を募集する際に企業側が明示しないといけない事項として以下の3点が追加されました。

  • 従事すべき業務の変更の範囲
  • 就業場所の変更の範囲
  • 有期労働契約を更新する場合の通算契約期間や更新回数の上限の有無

改正前は、労働者を雇い入れる際に、その時点での業務内容や就業場所を記載するだけで十分でした。
しかし、法改正により、転勤などによって業務内容や就業場所が変更される可能性がある場合、その可能性のある範囲をすべて記載する必要が生じました。

詳細は下記の記事をご覧ください。

6. おわりに

今回は、2024年度の法改正から、特に企業の実務担当者が理解しておくべき重要なポイントを数点選び、詳しく紹介しました。
人事労務に関連する法律は頻繁に改正が行われる分野であるため、今回の改正に留まらず、今後も継続的に最新の法改正情報を収集し、適切に対応していくことが企業には求められます。

株式会社小林労務 上村 美由紀氏

株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀

2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2016年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。

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