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2023.03.06
人事労務トピックス

タレントマネジメントの必要性:実践のポイントや手順、成功事例を紹介

タレントマネジメントという概念は1990年ごろから存在するため、目新しさは感じないかもしれません。しかし近年、日本では仕事に対する価値観や市場の変化、働き方改革などさまざまな要因から、組織にとって必要な戦略として注目を浴びています。

ここではタレントマネジメントについておさらいしつつ、具体的な実践手順やスムーズに取り入れる方法、実際の成功事例を紹介します。タレントマネジメント導入までの全体像を掴み、ポイントを押さえて実践することで効率的な導入が可能です。これからタレントマネジメントを取り入れたい企業の方や、実践したがうまくいかないという方もぜひ参考にしてください。

1. タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは、社員が持つタレント(英語で能力やスキルの意味)を一元的に管理し、それぞれのスキルを活かせる人員配置、またはスキルを最大化するための人材開発を行うことです。タレントマネジメントの最終的な目的は企業の価値向上や事業拡大ですが、これらの目標に対して人事戦略の視点から実現を目指すための手法をいいます。単に社員の能力やスキルを向上させることだけが目的ではなく、組織全体の成長を目的とした人事施策であることが特徴です。

タレントマネジメントとは、1990年代に欧米で生まれた概念で、2000年代に入ってからマッキンゼーなどの大手企業が積極的に導入したことで広く知れ渡るようになりました。2011年ごろから日本でも注目され導入する企業が少しずつ増え始めました。
当初は替わりがいないような稀な能力を持つ人材を取り込むことが重要視されていましたが、現在ではいかに現場のニーズに合ったスキルをもつ人材を確保するかが重要課題になっています。
また現在日本で注目されるようになった背景として以下の要素が挙げられます。

• 少子化による人員確保の難化:労働力減少のため少ない人員で最適・最大化する必要性
• グローバル競争:外国語が堪能な人材確保の必要性
• 技術革新:特にITに特化した人材確保の必要性
• 働き方改革の推進:在宅やリモートワークなど柔軟でありながら最大に能力を発揮できる環境の必要性

2. タレントマネジメントの導入効果

タレントマネジメントを導入することで、具体的に以下のような効果が期待できます。これらの相乗効果で結果として、売上・業績の向上、ひいては企業価値の向上につながっていきます。

【タレントマネジメントの導入効果】
1.従業員のモチベーション向上
2.社内活性化
3.顧客満足度向上
4.育成コスト削減

(1)従業員のモチベーション向上

スキルを的確に把握・評価することで、従業員のモチベーションアップが見込めます。また能力に応じて適正な業務に就くことで、パフォーマンスを上げやすく、成果を出しやすくなります。従業員の意欲と満足感、自己肯定感などが上がることは、業績にも結びつく重要なポイントです。

(2)社内活性化

満足感や充実感、仕事への愛着、企業への信頼などから、やりがいを持って仕事に取り組むようになることが期待できます。生き生きとしたメンバーが多い会社では、自然と社内のコミュニケーションが活性化します。部署間や経営層と従業員の関係が良好であれば、目標達成のために強い協力関係を築きながらプロジェクトを遂行することができます。

(3)顧客満足度向上

タレントマネジメント導入による満足度やモチベーションの向上は、社員の定着率に影響する可能性が高いです。離職率の高さは企業イメージの悪化にもつながりかねませんし、担当者が次々と変わることは取引先を不安にさせる要因の一つになるでしょう。
従業員の定着によって、顧客や取引先と長期的に良好な関係を築くことができます。また業務パフォーマンスを上げることもできるため、顧客からの信用も高くなり、顧客満足度も高くなるといえるでしょう。

(4)育成コスト削減

タレントマネジメントを導入することで、社内で適正な人材を発掘することができるようになります。

新しいプロジェクトのたびに外部からの人材採用を行うことがなくなり、採用コストを削減できるでしょう。また社内の人材のスキルや能力を把握していれば、どの人材に対してどのような教育を行えば良いのか分かるため、育成コストも最小限に抑えることができます。
また、適材適所に人員を配置することで、ミスマッチによる離職の減少も期待できます。新規採用には多大なコストがかかるため、定着率を上げることは無駄なコストを減らすことにつながるのです。

3. タレントマネジメントの実践手順

タレントマネジメントを実践するには、以下のような手順を踏んで導入することが一般的です。

【タレントマネジメントの実践手順】
1.目的を明確にする
2.社員の能力・スキルを把握する
3.自社が抱えている課題を洗い出す
4.人材採用・人材育成を行う
5.適正な人材を配置する
6.評価・改善する

(1)目的を明確にする

タレントマネジメントを導入する目的を明らかにしましょう。例えば、人材配置の最適化、戦略的な育成計画の立案などが挙げられます。目的を明確にするためには、社内の課題や問題点をピックアップした上で、優先順位をつけることがポイントです。
目的は必ずしも人事の視点から設定しなければならないものではありません。経営陣と相談しながら、経営的な視点で適切な目的を設定しましょう。

(2)社員の能力・スキルを把握する

社員のスキルや能力を把握するには、経歴・職歴など基本的な情報のほか、個人が掲げる目標や自己評価、これまでに参加したプロジェクト、その成果など、あらゆる情報を集めて総合的に評価する必要があります。
これらの情報を関連部署間で共有し、常に最新の情報に更新できる状態を整え、スキルや能力を可視化することがポイントです。
このようなスキル・能力の管理は、システムを導入すれば、必要な人材の検索や、評価・部署による絞り込みが行えるため非常に便利です。

(3)自社が抱えている課題を洗い出す

次に自社が抱えている課題を洗い出し、課題を改善するために必要なスキルを抽出しましょう。社内で既に雇用している人材を活用することが理想的ですが、現状のままではスキルが不足していることもあります。足りないスキルを補うために、人材を育成するのか外部から採用するのかを、スケジュールやコスト面から判断しましょう。

(4)人材採用・人材育成を行う

自社に必要なスキルや人材像が掴めたら、スキル確保のための育成や採用を計画立てて行います。

特に人材の育成は、数年かかるため長期的なスパンで考えなければなりません。
計画を立て、計画通りに育成できているか進捗状況を随時追いかけられるような仕組みを構築することが重要なポイントです。必ずしも計画通りに行くとは限らないため、必要に応じて調整しながら目標へ近づけます。
育成状況を確認するために、定期的にアンケートを行う、面談の機会を設けるなど工夫しましょう。アンケート結果や面談内容なども、タレントマネジメントシステムにデータとして蓄積できるようにすると効率的です。

一方で長期的に育てるための時間やコストが割けないのであれば、採用活動を行うのも一つの手でしょう。外部から人材を採用する場合も、マネジメント戦略に基づいて採用の戦略を練る必要があります。採用活動は、求人広告から応募の受付け、書類選考、複数回にわたる面接など多くのプロセスを踏むことになります。

時間をかけて育成するのか、コストをかけて新しく人材を採用するのか、優先順位を明確にして検討しましょう。

(5)適正な人材を配置する

育成の進捗状況や本人の意欲・評価などを参考にして、人材配置を行います。ここで重要なのは、配置した人材が現場で想定したスキルをしっかりと発揮できているかどうか、本人のモチベーションやスキルの向上ができているかを確認することです。ここでの確認事項も今後の人材配置において有益な情報となるため、随時確認し、タレントマネジメントシステム内にデータとして蓄積します。

(6)評価・改善する

適正な人材を配置した後は必ずモニタリングを行い、必要に応じて育成計画や教育体制の見直しを行います。評価と計画の見直し、改善のサイクルを繰り返し行うことで、着実に従業員のスキルを向上させます。

4. タレントマネジメントをスムーズに実践するポイント

タレントマネジメントは従業員ありきで進めるものなので、必ずしも計画通りに進むとは限りません。できるだけスムーズに実践するためには、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。

【タレントマネジメントをスムーズに実践するポイント】
1.人材に対する認識を見直す
2.人材の評価基準を見直す
3.システムの導入を検討する

(1)人材に対する認識を見直す

タレントマネジメントを行う際は、経営層や人事管理者が人材に対する認識を見直す必要があります。人材を単なる労働力として捉えるのではなく、会社全体の財産であると認識することが大切です。
タレントマネジメントは従業員ありきで行われるため、従業員と企業との間の信頼関係が重要です。企業の方針や戦略に共感し、同じ目標に向かって意欲的に取り組んでもらうには、社内の円滑な上下関係や協力関係が必要不可欠でしょう。
そのためには経営陣や部署のリーダーが従業員に対して、温かい目を向け真摯に向き合う必要があるのです。場合によっては、最適なツールを活用して経営の意志を社員にタイムリーに伝えたり、1on1ミーティングなどでリーダーと従業員との意思疎通を図ったりすることも重要です。

(2)人材の評価基準を見直す

タレントマネジメントで重要になるのが、人材を正しく評価できているかという点です。研修に参加した回数のみを評価基準にしていては、本質的な育成につながっているのかどうかが判断できません。
研修に参加した結果、どのような変化、成長、成果が見られたかなど、本人の姿勢や意欲もしっかり評価するようにしましょう。そもそも評価が正しくなければ、適正な人材を育てることはできません。評価基準が正しいかどうか定期的に見直し、ブラッシュアップしていく必要があります。
タレントマネジメントの成果がうまく出ている場合でも、時代の流れや目指すべき目標の変化などから、評価基準を変更しなければならないケースもあるでしょう。

(3)システムの導入を検討する

すべての従業員のスキルを管理し、アップデートする作業はかなり労力のいる作業です。エクセルなどで管理することも可能ですが、タレントマネジメント業務の作業効率が悪く、通常業務を圧迫しているようでは本末転倒です。
タレントマネジメントシステムを活用すれば、以下のようなことができるようになります。

• 必要なスキルや所属の絞り込み検索
• 進捗状況が一目で分かる
• 全体のバランスを見ながら評価の厳しさを調整できる
• 共有相手によって項目を非表示にできる

他にもさまざまな便利な機能があり、業務を効率化することができるでしょう。

5. タレントマネジメントの導入成功事例

では実際にタレントマネジメントを導入して成功した事例をいくつか紹介します。

(1)ニトリホールディングスの事例

業界 製造物流小売業
事業の概要 グループ会社の経営管理、並びにそれに付帯する業務
従業員数 18,984人(※2022年2月期)

【ニトリの取り組み】
ニトリでは配転教育という取り組みを行っています。
配転教育とは、全社員が数年おきにさまざまな部署・職種への異動を経験し、いくつもの専門性を身につけることを目的としています。同じ部署で何年も働き続け専門性を身につけるのは日本に多いスタイルですが、同じ業務を何年も繰り返しても得られる知識には限界があるという考えのもと、さまざまな専門性を組み合わせて、新たな可能性を生み出す人材を育成できる画期的な制度です。

実際にニトリは、33期連続増収・増益を達成していることでも有名です。
一人の社員がどの程度の付加価値を生み出しているかを示す指標があり、日本の企業では1人あたり1,000万円ほどが平均です。対してニトリでは従業員1人あたり約2,200万円程度の付加価値額を生み出しているという結果が出ています。

(2)楽天グループの事例

業界 インターネット関連サービス
事業の概要 Eコマース、フィンテック、デジタルコンテンツ、通信など様々なサービスを展開
従業員数 28,261名(2021年12月31日時点)

楽天グループでは、「勝てる人材、勝てるチームを作る」という基本目標に立ち返ることを意味する「Back to Basics Project」を推進しています。
楽天グループは採用、育成、定着の3つの柱を強化しています。

• 採用:採用プロセスの改善や採用ブランディングの強化
• 育成:週1回を原則とするマネージャーと部下の1on1ミーティングの全社導入
• 定着:従業員のパフォーマンスがより正当に反映されるよう、評価・報酬制度を刷新

管理職が正しくフィードバックを行えるような管理職向けの研修の実施などに力を入れ、ミーティングでは結果だけでなくプロセスをしっかりヒアリングして評価するようにしています。さらに、長期就労者を対象にした退職金制度の新設、在宅勤務制度や時差通勤制度の拡大、フレックス制度の導入など、従業員のニーズに真摯に向き合っています。

またプロジェクトの一つとして、異なるバックグラウンドを持つ多様性に富んだ従業員一人ひとりが最大限に力を発揮できるような制度や環境づくりを目指しています。実際に、楽天グループの従業員数はここ数年増加しており、従業員国籍数も70カ国を超えるなど、著しく成長しています。

6. まとめ

タレントマネジメントの実施によって従業員のスキルを最大化し、最適な業務に配置することで、企業を大きく成長させることができます。またシステムを導入することで、効率的にタレントマネジメントを行うことができるでしょう。
タレントマネジメントは重要な戦略ですが、同時に全従業員の情報を管理するため、労力の大きい業務でもあります。システムをうまく活用しながら、最小限の労力で効率よく人材の最大化・最適化を行いましょう。

7. 「ProActive」と「HRBrain」の連携

人事評価やモチベーション管理などのフロント業務については「HRBrain」を活用し、人事情報のデータベースならびに給与計算などのバックオフィス業務については「ProActive」を活用することで、人事評価から人材データ活用、タレントマネジメントが可能な「HRBrain」と、人事情報のデータベースならびに給与計算などが可能な「ProActive」、それぞれのサービスの強みを活かし、さらなる人事労務業務の効率化が可能になります。

HRテック領域の拡充により、人事労務業務の効率化を支援~SCSKとHRBrainが販売代理店契約を締結~

図:ERP「ProActive」とクラウド型人財管理システム「HRBrain」の連携

図:ERP「ProActive」とクラウド型人材管理システム「HRBrain」の連携

森本千賀子

森本千賀子

獨協大学外国語学部卒業後、現リクルートキャリア入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、CxOクラスの採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に株式会社morich設立、複業を実践し2017年に独立。現在もNPO理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数、日経電子版の連載など各種メディアにも執筆。2男の母の顔も持つ。

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