
建設業は今、大きな変革の時を迎えています。深刻化する人手不足、2024年から適用が開始された時間外労働の上限規制(通称「2024年問題」)、そして依然として残るアナログな業務慣習。これらの課題に直面し、多くの経営者や現場責任者の方が、日々の業務に追われながらも「何とかしなければ」という強い問題意識を抱えているのではないでしょうか。
しかし、具体的に何から手をつければ良いのか、効果的な方法が見つからない、とお悩みの方も少なくないはずです。
この記事では、そんな建設業界の皆様に向けて、業務改善を成功させるための具体的なアイデアやITツールの活用法、そして成功のポイントを網羅的に解説します。この記事を読めば、自社の課題を解決し、生産性向上と働き方改革を実現するための道筋が見えてくるはずです。
目次
建設業で業務改善が急務とされる背景

建設業界は今、大きな変革の岐路に立たされています。これまで業界の課題とされながらも、抜本的な対策が取られてこなかった問題が、いよいよ待ったなしの状況となっているからです。なぜ今、これほどまでに業務改善が急務とされているのでしょうか。その背景には、避けては通れない3つの大きな要因が存在します。
深刻化する人手不足と高齢化
建設業界では、慢性的な人手不足が深刻な課題となっています。特に若年層の入職者が少なく、就業者の高齢化が進行しているのが現状です。国土交通省のデータによると、建設業就業者のうち55歳以上が約36%を占める一方、29歳以下はわずか12%に留まっています。
このままでは、ベテラン層の大量離職によって技術の継承が途絶え、事業の継続すら危ぶまれる事態になりかねません。限られた人材で品質を維持し、事業を成長させていくためには、業務の効率化が不可欠です。
出典:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」
時間外労働の上限規制への対応
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。これにより、原則として月45時間・年360時間という上限を超えて従業員を働かせることができなくなり、違反した場合には罰則が科されます。
長時間労働が常態化していた建設業界にとって、この規制は働き方の大きな転換点となりました。規制への対応は一朝一夕で完了するものではなく、今もなお業務の見直しや工夫を続けている現場も多く見られます。
限られた労働時間の中で、これまでと同等、あるいはそれ以上の成果を上げるためには、従来のやり方にとらわれない業務プロセスの見直しや、生産性向上を見据えた業務改善が求められています。
旧来のアナログな業務慣習
建設業界には、紙の図面や日報、電話やFAXといった、古くからのアナログな業務慣習が根強く残っています。これらの慣習は、情報の伝達に時間がかかったり、書類の保管・管理に多大な手間を要したりと、業務効率を著しく妨げる一因となっています。
複数の企業が関わる重層下請け構造の中で、正確な情報を迅速に共有するためには、こうしたアナログな慣習から脱却し、デジタル技術を活用した業務改善を進めることが求められています。
建設業の業務効率が低い会社の特徴
業務改善の必要性を感じていながらも、なかなか成果に繋がらない企業には、いくつかの共通した特徴が見られます。自社に当てはまる点がないか、確認してみましょう。これらの特徴を理解することが、改善への第一歩となります。
非効率な会社の特徴 | 具体的な状況 |
---|---|
情報共有の遅延 | 現場の進捗状況が、紙やExcelの報告書で数週間遅れて共有される。 |
業務の属人化 | 特定のベテラン社員しかできない業務が多く、その人がいないと仕事が止まる。 |
アナログな管理 | 大量の紙の契約書や図面、写真を事務所で保管・管理している。 |
情報共有がリアルタイムで行われない
工事の進捗や予算の消化状況、スケジュールの変更といった情報は、プロジェクトを円滑に進める上で極めて重要です。しかし、これらの情報共有が電話や紙、Excelなどを通じて行われていると、リアルタイム性に欠け、関係者間での認識のズレが生じやすくなります。
情報の共有が遅れると、問題の発見や意思決定が遅れ、結果として手戻りや工期の遅延につながり、プロジェクト全体の生産性を大きく低下させてしまうのです。
業務が特定の個人に依存している(属人化)
建設業では、専門的な知識やスキルが求められる業務が多く、特定の熟練技術者に業務が依存してしまう「属人化」が起こりやすい傾向にあります。
「あのベテランがいなければ、この仕事は進まない」という状況は、一見するとその個人の能力の高さを示しているように見えますが、企業にとっては大きなリスクです。その担当者が不在になった場合に業務が停滞するだけでなく、知識やノウハウが組織全体で共有・蓄積されず、若手人材の育成も進まないため、企業の持続的な成長を妨げる要因となります。
紙ベースの書類管理から脱却できない
建設現場では、見積書、契約書、設計図面、施工図、各種申請書類、安全管理書類、工事写真など、日々膨大な量の紙の書類が発生します。これらの書類を紙で管理していると、保管スペースが必要になるだけでなく、必要な書類を探し出すのに時間がかかったり、紛失や劣化のリスクがあったりします。
また、現場と事務所、あるいは元請けと下請け企業の間で書類を物理的にやり取りする必要があり、大きな手間と時間のロスにつながっています。ペーパーレス化に対応できないことは、業務効率化を妨げる大きな壁と言えるでしょう。
建設業における業務改善の具体的なアイデア5選

課題を認識した上で、次に取り組むべきは具体的な改善策の実行です。ここでは、多くの建設企業が実践し、効果を上げている5つの業務改善アイデアを紹介します。自社の状況に応じたヒントとして、参考にしていただければ幸いです。
ITツールを導入して情報共有を円滑化する
コミュニケーション不足や情報共有の遅れを解消するために、ITツールの導入は最も効果的な手段の一つです。ビジネスチャットツールや工事情報共有システムなどを活用することで、関係者全員がいつでもどこでも最新の情報にアクセスできるようになります。
これにより、現場と事務所間の連絡がスムーズになるだけでなく、図面や写真、書類の共有も容易になり、認識の齟齬や伝達ミスを防ぐことができます。結果として、意思決定の迅速化や手戻りの削減に繋がり、生産性が向上します。
業務プロセスを見直し無駄な作業をなくす
日々の業務の中には、慣習的に行っているだけで、実は不要な作業や重複している作業が隠れている場合があります。まずは業務内容を可視化し、どこに無駄や問題が潜んでいるのかを洗い出すことが重要です。
例えば、「この書類作成は本当に必要か」「この承認プロセスは簡略化できないか」といった視点で業務フローを見直すことで、作業の効率化が期待できます。削減可能な作業を特定し、優先順位をつけて改善に取り組むことがポイントです。
外注可能なノンコア業務を切り出す
自社の従業員が、より専門性が高く付加価値の高いコア業務に集中できる環境を作ることも重要です。そのためには、事務作業や書類作成、積算業務といったノンコア業務を外部の専門家に委託(アウトソーシング)することも有効な選択肢です。
「自社でやるのが当たり前」と考えていた業務でも、外注することで、結果的にコスト削減や品質向上につながるケースは少なくありません。自社のリソースを最適に配分する視点で、業務の切り出しを検討してみましょう。
BPOを活用して、人財をコア業務へ集中。変化に強い企業になる
現場と事務所間の移動時間を削減する
現場監督や技術者は、複数の現場を掛け持ち、事務所と現場を何度も往復することも珍しくありません。この移動時間は業務時間に含まれるため、大きなコストとなっています。
Web会議システムやウェアラブルカメラを活用して「遠隔臨場」を行えば、事務所にいながら現場の状況をリアルタイムで確認し、指示を出すことが可能になります。これにより、移動時間を大幅に削減し、その時間を別の重要な業務に充てることができます。
従業員のスキルを平準化し多能工化を進める
業務の属人化を防ぎ、組織全体の対応力を高めるためには、従業員のスキルを平準化することが重要です。特定の従業員しかできない業務をなくし、複数の従業員が同じ業務を行える「多能工化」を目指します。
具体的な取り組みとしては、定期的な研修や勉強会の開催、マニュアルの整備、ベテランの技術を動画で記録して教育資料として活用する、といった方法が挙げられます。スキルの平準化は、急な人員不足にも柔軟に対応できる体制を築き、業務の停滞を防ぎます。
業務改善を力強く推進するITツール
業務改善のアイデアを実現するためには、ITツールの活用が欠かせません。ここでは、建設業の様々な課題解決に役立つ代表的なITツールを紹介します。自社の目的に合ったツールを選ぶ際の参考にしてください。
ITツール | 主な用途・メリット |
---|---|
ビジネスチャット | リアルタイムなコミュニケーション、写真や書類の簡単共有 |
工事情報共有システム | 図面、工程表、写真など、プロジェクト情報を一元管理 |
ウェアラブルカメラ | 遠隔からの現場確認、若手への技術指導、安全パトロール |
ドローン | 高所や危険箇所の点検、測量、工事進捗の空撮 |
RPA | データ入力や書類作成などの定型的な事務作業を自動化 |
ビジネスチャットツール
電話やメールに代わるコミュニケーション手段として、多くの企業で導入が進んでいます。プロジェクトごとやテーマごとにグループを作成でき、関係者間での情報共有が迅速かつ正確に行えます。テキストだけでなく、写真や図面ファイルも簡単に共有できるため、現場の状況報告や確認作業が格段にスムーズになります。
工事情報共有システム
土木や建築の施工に関するあらゆる情報(図面、工程表、写真、書類など)を、クラウド上で一元管理・共有するためのシステムです。関係者全員が常に最新の情報にアクセスできるため、「言った言わない」のトラブルや、古い図面を使ってしまうといったミスを防ぎます。書類の回覧や承認もシステム上で行えるため、ペーパーレス化と業務効率化を同時に実現できます。
ウェアラブルカメラ
作業員のヘルメットなどに取り付けることで、作業者目線の映像をリアルタイムに共有できるツールです。事務所や別の場所にいる監督者やベテラン技術者が、遠隔で現場の状況を正確に把握し、具体的な指示を出すことが可能になります。新人教育や安全管理、遠隔臨場など、幅広い用途で活用が期待されています。
ドローン
従来は人の手で行っていた高所や広範囲の現況確認、測量、工事の進捗確認などを、安全かつ効率的に行うことができます。特に、人が立ち入るのが危険な場所の点検や、災害状況の把握において大きな力を発揮します。ドローンが撮影したデータは3Dモデルの作成などにも活用でき、建設DXを推進する上で重要なツールとなっています。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
PCで行う定型的な事務作業を、ソフトウェアのロボットが代行して自動化する技術です。例えば、日報からのデータ転記、請求書の作成、各種システムへの入力作業などを自動化できます。これにより、事務作業の負担を大幅に軽減し、従業員はより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。
【事例で解説】RPAのメリットを活かす、ERPとの連携とは?
建設業の業務改善を成功させるためのポイント

業務改善は、ただやみくもにツールを導入したり、制度を変えたりするだけでは成功しません。成功のためには、計画的に、そして組織全体で取り組むことが重要です。ここでは、業務改善を成功に導くための4つの重要なポイントを解説します。
解決すべき課題の優先順位を明確にする
業務改善に取り組む際は、まず自社が抱える課題をすべて洗い出し、可視化することがスタート地点です。その上で、「何から手をつけるべきか」という優先順位を決めることが重要です。すべての課題を同時に解決しようとすると、リソースが分散し、どれも中途半端に終わってしまう可能性があります。「最も影響が大きい課題は何か」「最も早く効果が出る施策は何か」といった観点から優先度をつけ、的を絞って取り組みましょう。
スモールスタートで効果を検証する
いきなり全社的に大規模な改革を進めようとすると、現場の混乱を招いたり、失敗したときのリスクが大きくなったりします。まずは特定の部署や特定のプロジェクトで試験的に導入してみる「スモールスタート」が有効です。
小さな範囲で試すことで、課題や効果を具体的に把握でき、本格導入に向けた改善点を見つけ出すことができます。PDCAサイクルを回しながら、少しずつ改善の輪を広げていくことが成功への近道です。
経営層がリーダーシップを発揮する
業務改善は、現場の従業員だけの努力では限界があります。経営層が「なぜ業務改善が必要なのか」「会社としてどう変わっていきたいのか」というビジョンを明確に示し、全社を巻き込んでいく強いリーダーシップが不可欠です。経営トップが本気であることを示すことで、従業員の意識も変わり、改革への協力体制が生まれやすくなります。
導入後の効果測定とフィードバックを行う
施策を実行したら、それで終わりではありません。「計画通りに進んでいるか」「期待した効果は出ているか」を定期的に測定し、評価することが重要です。例えば、「ツールの導入によって、書類作成時間がどれくらい短縮されたか」「残業時間がどれくらい削減されたか」などを数値で把握します。そして、現場の従業員からのフィードバックを収集し、見つかった課題を次の改善策に活かしていく、という継続的な取り組みが成功の鍵を握ります。
建設業界のDXを支援するオファリングサービス
PROACTIVE Construction
PROACTIVE Constructionは、SCSKが提供するAIネイティブな次世代型ERP「PROACTIVE」を中核として、建設業界の業務の標準化、効率化、そして経営判断の迅速化を支援するオファリングサービスです。見積、原価、工程、人員などの業務データをクラウド上に一元管理し、統合プラットフォームを通じて迅速な情報共有と多軸分析を実現します。
また、建設業特有の商習慣や法規制に対応するため、歩掛り計算、分割請求、前払金保証などの機能を標準搭載し、柔軟なマスタ設定と伝票レイアウトで取引先・協力会社の要求にも即応します。
さらに、公共工事統一コードや出来高管理など業界標準の業務フローをテンプレート化し、承認・アラート・進捗ダッシュボードを搭載することで、不正防止と手戻り低減を実現し、現場と本社の情報齟齬をなくします。
PROACTIVE Constructionは、建設業界の業務効率化と品質向上を支援し、DXを通じて企業の競争力向上に寄与するサービスです。
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まとめ
建設業における業務改善は、もはや避けては通れない重要な経営課題です。人手不足、働き方改革への対応、旧来の慣習といった課題を乗り越え、企業が持続的に成長していくためには、ITツールなどを活用した生産性の向上が不可欠です。
この記事で紹介した業務改善のアイデアやITツール、成功のポイントを参考に、まずは自社の課題を洗い出し、できるところから改善の一歩を踏み出してみてください。その小さな一歩が、企業の未来を大きく変えるきっかけとなるはずです。