コラム
社労士が解説! 働き方改革時代の労務管理⑥
短時間正社員制度を導入する場合の手順
前回は、多様化する働き方に対応するための短時間正社員制度の概要とメリット、デメリットについて解説しました。今回は、実際に短時間正社員制度を導入する場合の手順について解説します。(多田国際社会保険労務士事務所 所長 多田智子)
1. 短時間正社員制度の現状と今後の展開
現状、法定を上回る短時間正社員制度の企業導入率については、厚生労働省の平成27年の調査※1によると、「未導入(61.3%)」、「一時(育児介護)型のみ導入(17.3%)」、「一時(育児介護)型+それ以外の類型、あるいは一時(育児介護)型以外の類型導入(16.6%)」となっています。
一方で、今後の短時間正社員制度の利用意向について、調査対象企業の従業員の回答は「利用したい(継続利用を含む)(69.4%)」、「利用したくない(26.6%)」となっており、利用を希望する理由としては、「仕事と育児を両立させたいから(66.1%)」が最も多く、次いで「時間的な余裕がほしいから(33.1%)」、「仕事と介護を両立させたいから(18.7%)」となっています。
※1:平成27年度厚生労働省委託事業 「パートタイム労働者活躍推進企業支援事業 短時間正社員制度導入支援事業 実施調査報告書」
これらの調査にも表れているとおり、労働者の確保・活用のために多様な働き方に応える方法の一つとして、短時間正社員制度は有効であると考えられます。
2. 短時間正社員制度を導入する場合の手順
以下で、短時間正社員制度を導入する場合の手順を紹介します。(厚生労働省 「『短時間正社員制度』導入マニュアル」)
(1)短時間正社員制度導入の目的を明確化し、対象者の決定をする
どのような従業員を対象に、何を目的とした制度とするのかによって、制度の内容が変わってきます。あまり対象を限定しすぎると、制度対象外である従業員が制度利用者への協力に前向きになれず、せっかくの制度が利用されないことが懸念されます。最近では多様な人材活用を目的に最初から制限を設けない企業もありますが、徐々に対象者を広げていく方法もあります。
(2)短時間正社員に期待する役割(職務内容、適用期間、利用回数、労働時間等)を検討する
対象者や目的によって異なりますので、各々検討する必要があります。例えば、フルタイム正社員への復帰を前提としている場合、仕事の「質」はフルタイム正社員と同等で「量」を減らすといった設定が考えられます。(例:フルタイム正社員が育児介護等の期間による短時間正社員制度の利用)
適用期間・利用回数については、例えば育児目的であれば長期間、介護であれば短期間を複数回必要と考えられます。労働時間については1日の所定労働時間を短縮するか、勤務日数を少なくするか、もしくは両方があります。どの程度の時間短縮であれば円滑な業務遂行が可能か、または社員のニーズに応えられるかといった観点でできる限り柔軟にし、利用しやすい制度とすることが重要です。職務内容によっては、フレックスタイム制や裁量労働制の適用も考えられます。
(3)短時間正社員の労働条件(人事評価、賃金、教育訓練、異動、出張等)について、検討する
期待する役割が決まったら、それに合わせて労働条件を検討します。人事評価の対象となる目標設定については、基本的にフルタイム正社員と同じ評価基準・要素で行い、「質」的な目標は変えず、「量」的な目標を労働時間に合わせて減らすことが考えられます。評価者においては、短時間勤務への偏見がないように、仕事の効率やプロセス、適正な目標に対する達成度等を見て、公正に評価することが重要です。
賃金について、基本給はフルタイム正社員の支給額を労働時間に比例して減額するのが一般的です。諸手当については、各手当の趣旨や支給基準を踏まえて検討し、労働時間等に関係なく支給するものがあります。例えば、通勤手当や食事手当は労働日数に応じますが、扶養手当や住宅手当は手当の趣旨から減額しないことが原則と考えられます。役職手当や資格手当については、与えられた役職等を全うできているのであれば減額せず等の対応が考えられます。短時間正社員制度を利用したくないと考える人の理由として、前述の「パートタイム労働者活躍推進企業支援事業 短時間正社員制度導入支援事業 実施調査報告書」では、「基本給が下がるから(30.2%)」と「手当や退職金の受取額が減るから(24.4%)」が上位を占めており、賃金については慎重に検討する必要があります。
教育訓練については、期待する役割にもよりますが、フルタイム正社員と同様に実施することが重要です。異動や出張、時間外労働については後で問題にならないよう、同意を前提にするかどうか等を決めておく必要があります。その他、特別休暇や慶弔見舞金の適用範囲についても検討をしておく必要があります。
(4)将来的なフルタイム正社員への復帰・転換について、検討する
短時間正社員制度の適用後にフルタイム正社員に復帰・転換するかどうかは、対象者や目的によって異なります。例えば、元々フルタイム正社員であった人が短時間正社員制度を利用する理由が発生し、短時間正社員になった場合は理由が消滅もしくは制度利用期間満了後、復帰すると考えられます。入社時に短時間正社員として採用された場合、フルタイム正社員に転換もしくは短時間正社員の継続等となります。
(5)短時間正社員規程の作成
1~4が決まったら、それを就業規則に明文化することで、トラブルを未然に防ぐことができます。多くの企業ではフルタイム正社員とは別冊の規程を作成しています。規定する項目としては、「目的」「制度の対象者」「利用期間・回数」「利用方法」「フルタイム正社員への復帰・転換」「労働時間・勤務日」「休暇」「賃金(月例給与・賞与・退職金・手当等)」「社会保険・労働保険」が考えられます。
(6)申請書等の書式準備
利用時や利用終了時に提出する申請書を準備します。
(7)従業員に周知する(周知内容)
周知内容としては「制度導入の目的」「制度内容」「制度利用に当たっての留意点」「制度利用の際の事務手続き」が考えられます。また、管理職に対しては、制度利用前後の職場マネジメント上、「仕事の配分」や「適正な人事評価」を周知する必要があります。
短時間正社員制度の導入後は広く利用されることが重要です。導入をしても社員の理解が不足している場合は利用が妨げられます。適切な方法としては、全社員に対する説明会の実施が望ましいと考えられますが、難しい場合は管理監督者のみに対して説明会を実施し、管理監督者から従業員に説明する方法も一案です。また、パンフレットやマニュアルを作成することも有効です。
以上、短時間正社員制度について説明してきました。人生100年時代にはワークライフバランスのライフに重点を置き、多様な働き方をする時期があります。短時間正社員制度は、その一助になることでしょう。
多田国際社会保険労務士事務所
所長 社労保険労務士
多田智子
2002年社会保険労務士事務所を開設。
06年に法政大学大学院イノベーションマネジメント専攻にてMBA取得。
同校にて修士論文「ADR時代の労使紛争」が優秀賞を受賞。経営方針から直結する人材戦略、グローバル化への対応をお客様と共に実現することを目指す労務分野に特化した社会保険労務士事務所。
http://www.tk-sr.jp/corporate/office_manager.html
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