コラム
社労士が解説! 働き方改革時代の労務管理⑤
短時間正社員制度の概要とメリット、デメリット
企業にとっては従業員を確保するために、働く側にとっては働き方の多様化の実現のために、短時間正社員制度が注目されています。今回は短時間正社員制度の概要とメリット、デメリットについて、次回は短時間正社員制度を導入する場合の手順について解説します。(多田国際社会保険労務士事務所 所長 多田智子)
目次
1. 短時間正社員制度とは
短時間正社員制度とは、元々は育児や介護をはじめ様々な制約によって就業の継続ができなかった人々の就業の継続や就業を可能とするための働き方と捉えられていました。
しかし近年では、働き方に対するニーズの多様化が進んだことで、様々な働き方を検討する必要がでてきました。「介護で週1日だけ6時間勤務を希望しているものの、現時点で会社には正社員制度しかないためパートにすべきか」「メンタル不調を発症し休職した社員を、復帰と同時にフルタイム勤務にするのは心配。パートは本人が拒否をしているがどうするか」「仕事に関する資格を取るために学校に通いたいが時間的な余裕がないため、しばらく1日6時間勤務にしたい。雇用形態はどうするか」といったことです。そうした状況において一つの解決策になりえるのが、短時間正社員制度です。
短時間正社員は育児の期間等、一時的に利用するもの以外に、短時間正社員を恒常的に運用する方法もあります。
例えば、大手の衣料販売店で、「恒常的な人材不足により、フルタイム正社員と有期雇用アルバイトの間で責任を持って仕事をしてくれる人材が必要。週3回以上働ける人材を販売職限定の短時間正社員として責任ある仕事を任せることで、今まで育児介護等で思うように能力を発揮できなかった従業員が現場で活躍するようになった」。大手の不動産会社で、「事業規模拡大のため複数の新規出店に向けて人材確保が急務となり、採用力強化のため、入社から短時間正社員として採用。仕事に関する資格保有者等や男性からの応募もあった」等、人材戦略としての導入も考えられます。
2. 短時間正社員に関する政府の見解
日本政府は働き方改革の根本として一億総活躍社会を創っていくため、名目GDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロという目標を設定しています。これを実現するための計画(一億総活躍プラン)には経済成長の妨げとなる労働供給の減少や将来に対する不安の解消へ対策を推進するとして、子育ての環境整備や女性の活躍、介護の環境整備改善、難病等の治療と職業生活の両立等を取り組みの方向としています。
また、企業側においては1995年をピークに生産年齢人口が8,716万人から2018年には7,484万人に減少しており(総務省「人口動態調査」による)、労働力不足が深刻化しつつあるため、時間に制約がある人材の確保や活用が必要になってきています。このような国内情勢においても短時間正社員は有効的な手段であると考えられます。
短時間正社員の定義について、厚生労働省の「短時間正社員制度 導入マニュアル」では以下のようにされています。
- フルタイム正社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い正規型の社員であって、次のいずれも該当する社員のこと
- ① 期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している
- ② 時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等
※フルタイム正社員…1週間の所定労働時間が40時間程度(1日8時間・週5日勤務等)で、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結した正社員
<その他の労働条件>
【待遇】同種のフルタイム正社員と同一の時間賃率、賞与・退職金等の算定方法
【社会保険(健康保険・厚生年金保険)】適用…短時間正社員であれば、所定労働時間の長短にかかわらず被保険者資格を取得することになっている(日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」)
3. 導入のメリット・デメリット
短時間正社員制度の導入には、以下のようなメリットが考えられます。
<企業のメリット>
- ① 意欲・能力の高い優秀な人材の確保
- ② 従業員の定着率の向上(離職率低下)
- ③ 採用コストや教育訓練コストの削減
- ④ 従業員満足度の向上
- ⑤ 外部に対するイメージ向上
- ⑥ 同一労働同一賃金法改正への対応
- ⑦ 無期労働契約への転換の対応
<従業員のメリット>
- ① ワークライフバランスの実現(育児・介護・自己啓発やボランティア活動の参加・副業等)
- ② 処遇の改善
- ③ 長時間労働の解消
<社会のメリット>
- ① 仕事と育児の両立の実現を通じた、少子化への対応
- ② 仕事と介護の両立の実現を通じた、高齢化への対応
- ③ 労働力人口減少への対応
- ④ 労働生産性の向上
このように導入メリットは、人材確保や活用に留まらず、法改正の対応や日本の将来の範囲まで及びます。一方、以下のようなデメリットも考えられます。
<企業のデメリット>
- ① 仕事の都合に応じた人の配置が困難
- ② 賃金を始め、退職金などの処遇の複雑化
- ③ 顧客対応の社内の連絡体制や責任体制やその他環境の整備
- ④ フルタイム正社員への負担増
<労働者のデメリット>
- ① 短縮した労働時間分の賃金減少
- ② 制度の対象者の範囲等によっては同僚、上司の理解を得られにくい
- ③ 仕事にかけられる時間が少ないため、業務によってはフルタイム正社員よりも努力が必要
メリット、デメリットの双方が考えられますが、これは各企業の状況により異なります。長年「正社員」と言えば、「フルタイム」「残業可」とされてきた企業にとっては導入のハードルが高く感じられるかもしれません。あらかじめ考えられるデメリットや課題を事前洗い出し、労使間で十分に話し合って解決することが重要です。
次回のコラムでは、短時間正社員制度を導入する場合の手順について解説します。
多田国際社会保険労務士事務所
所長 社労保険労務士
多田智子
2002年社会保険労務士事務所を開設。
06年に法政大学大学院イノベーションマネジメント専攻にてMBA取得。
同校にて修士論文「ADR時代の労使紛争」が優秀賞を受賞。経営方針から直結する人材戦略、グローバル化への対応をお客様と共に実現することを目指す労務分野に特化した社会保険労務士事務所。
http://www.tk-sr.jp/corporate/office_manager.html
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