コラム

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2018.12.10
人事労務トピックス

「働き方改革関連法」施行に向け、企業は何をなすべきか?

「働き方改革関連法」が2018年6月29日に可決・成立した。同法は、長時間労働の是正や多様な働き方の実現を目的に立法化が進められ、労働基準法や労働契約法など8つの現行法が改正されたものだ。法律の施行に向けて、企業と現場は働き方改革にどう取り組めばよいのか、心理カウンセラーとしてさまざまな企業の現場で社員の相談に乗ってきた浅賀桃子氏に話を聞いた。

1. 36協定の見直しなどを検討する必要あり

労働基準法や労働契約法などの現行法が改正された働き方改革関連法の主な変更ポイントは、残業時間の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、勤務間インターバル制度、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度の導入である。このうち、残業時間の上限規制や年次有給休暇の取得義務化など早いものは来年4月から導入が開始されることになっている。

同法が立法化された背景には、過労死につながるような長時間労働や過重労働を緩和する側面と、テレワークをなど多様な働き方に対応する側面とがある。

働き方改革関連法の中で、長時間労働を抑制するための残業時間の上限規制では、休日労働を含む労働時間が年720時間を上回らないこと、同じく月100時間を上回らないこと、2~6カ月の期間のいずれも月平均80時間未満にすることが明示された。

「残業時間の上限規制で罰則規定が設けられたほか、年次有給休暇の取得や高度プロフェッショナル制度などのいくつかの項目で義務化が盛り込まれています。企業は自社の36協定や就業規則などの社内ルールを再検証し、法律に適合しない部分があれば変更する必要があります」と浅賀氏は話す。

また、一部野党の反対を押し切る形で成立した高度プロフェッショナル制度は、高度な専門的知識(経営コンサルタントや証券アナリストなどを想定)を持つ高収入労働者(年収1075万円以上を想定)を対象に、労働時間管理の対象から外すというもの。柔軟な働き方という観点では、給与額が成果によって決まり、勤務時間に縛られないというメリットがあるようにも見える。

「高度プロフェッショナル制度は、問題点も指摘されています。残業代や休日手当などの割増賃金が支給されないこと、4週4日の休日確保義務が規定されているが理論上は24日連続24時間勤務も成立してしまうこと、対象職種がマーケティングや営業部門にも広がる可能性があること、交通費も年収に含まれることから新幹線通勤する平均的な賃金の社員も対象に含まれてしまう可能性があることなどがその理由です。導入を検討する企業は慎重な対応が求められます」(浅賀氏)

ベリテワークス株式会社 代表取締役 浅賀桃子氏

2. その場しのぎではない、戦略的な働き方改革を

しかし、長時間労働を抑制し、社員のメンタル不調や過労死を防止する本来の意味での働き方改革を実現するためには、法律の個々の項目に対応するだけでは、不十分と言わざるを得ない。

働き方改革関連法の施行に向けて、企業はどのような対応を行うべきなのか。浅賀氏は、「法律が施行されるのを機会に、社内の働く環境を改めて総点検し、メンタル不調や過労死が起きないように体制を整備することが重要です」とアドバイスする。

これまで数多くの企業のカウンセリング業務を支援してきた浅賀氏の経験では、企業がカウンセリング業務を依頼してくるタイミングは、多くの場合、社員が連鎖的に退職したり、業務の中心的な社員が休職してしまったりするなど、何か問題が起こった後であるという。しかし、何か起こってしまった後に対応したのでは、余計な労力や時間を費やすことになりかねない。もし、法律に違反していることが明らかになって、罰則が科されるような事態になったとしたら、企業は計り知れない大きなダメージを受けることになる。

「何か問題が起きた時に、その場しのぎで対応するのではなく、むしろ先を見越して戦略的に働き方改革を推進し、勤怠をきちんと管理して、社員が産業医やカウンセラーと相談できる環境を整えることができれば、メンタル不調や過労死は未然に防止することができます」と、浅賀氏は強調する。

例えば、勤怠管理がきちんと行われていれば、労働時間の実態を把握し、遅刻・欠勤が増えたといった社員のメンタル不調の兆候を事前に察知し、人事部門と現場が連携して問題に対処することができる。また、産業医の専任やストレスチェックがきちんと適切に行われていれば、メンタルに不安を持つ社員は、産業医やカウンセラーと相談しながら、自分の仕事の割り当てを自分自身で適切にコントロールできるようにもなる。

しかし、浅賀氏は、「企業にとって働き方を改革することは、単に過労死やメンタル不調の対策という位置付けだけにとどまるものではない」と力説する。人口減少が続き、人手不足が深刻化する今日、企業にとって働き方の改革は、働きやすい環境を創出するという意味で、企業イメージの向上、さらには、生産性の向上にもつながる戦略的な価値を持っているわけだ。

ベリテワークス株式会社 代表取締役 浅賀桃子氏
<プロフィール>
ベリテワークス株式会社
代表取締役 浅賀桃子氏

ITコンサルティング会社の人事部門に勤務。会社所属では社員が本音で相談できないという立場の難しさを感じ、相談者が気兼ねなくカウンセリングを受けられるように、カウンセラーとして独立、ベリテワークス株式会社を設立した。離職率が高いとされるIT業界をはじめ、さまざまな企業にカンセリング支援を提供している。また、スヌーピーの漫画を活用して親しみやすいカウンセリングを実践するスヌーピー・カウンセラーとしても活動する。

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