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更新日:2022.12.12
公開日:2022.02.22
人事労務トピックス

ISO30414について、社労士が解説

人的資本に関する国際基準の情報開示ガイドラインである「ISO30414」。アメリカの上場企業に対して、2020年に開示が義務化され、日本国内でも大きな注目を浴びていることをご存知ですか。

今回は、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、あらゆる企業が知っておきたい「ISO30414」について、その意味と制定の目的、導入によって期待できる効果、49の開示項目を解説。
さらに、 ISO30414の導入企業例についてもご紹介します。

1. ISO30414とは

ISO30414とは「人的資本に関する情報開示のためのガイドライン」です。
商品・サービス・マネジメントなどの国際規格を制定するスイスの機関・ISO(International Organization for Standardization=国際標準化機構)が、2018年12月に発表しました。
なお、人的資本とは「従業員の技能・能力・資格などを資本と捉える概念」です。

経済産業省は人材価値を最大限に引き出す「人的資本経営」を政策の一つに掲げるなど、国内でも人的資本と、関連するISO30414に注目が集まっています。

2. ISO30414制定の目的

ISOの公式ホームページでは、ISO30414制定の目的を「労働力の持続可能性のサポートのために、組織に対する人的資本の貢献を検討し、透明化すること」と説明しています。

具体的には、ISO30414制定の目的は、以下2つに大別することができるでしょう。

  • • 組織や投資家への人的資本の提示
     企業における人的資本の情報が、組織・投資家などへ向けて透明化されます。
  • • 企業の持続的な成長の促進
     人的資本の現状と影響が明確化されることで、企業の持続的な成長に役立てることができます。

ここからは、ISO30414制定の目的について、それぞれの詳細を見ていきましょう。

(1)組織や投資家への人的資本の提示

ISO30414は、社内報告のみならず「社外(組織や投資家など)への人的資本の情報を提示すること」が大きな目的となっています。

ISO30414が制定される以前は、企業の人的資本を把握する評価軸が定まっていませんでした。そのため、総合報告書の記載のみでは、情報漏れや透明性に欠けるケースもあったと考えられます。しかし、ISO30414が制定され、詳細な指標が定められたことで、国内外の企業の人的資本を定量的に把握・評価することが可能となりました。

(2)企業の持続的な成長の促進

人的資本の有効活用は、企業の持続的な成長に不可欠です。具体的には、社内における人的資本の現状把握とともに、課題を抽出し、有効な対策を講じることが求められます。その際に、ISO30414が役立ちます。
社内で独自に人的資本の評価軸を作る場合、大変な労力を要すると共に、恣意的な内容となってしまう恐れがありました。

しかし、ISO30414が制定され、国際的な評価軸が制定されたことで、漏れや偏りのない、効率的な人的資本の現状把握・課題抽出が可能となりました。

3. ISO30414の導入が義務化される可能性

海外ではISO30414を導入する動きが活発化しており、例えば米国証券取引委員会(SEC)は、上場企業に対して「人的資本の情報開示をヒューマンキャピタルレポートの策定として義務づける」と2020年8月に発表しています。そういった海外での動きを受け、日本国内でも大企業を中心にISO30414に対応する動きも出ています。

ただし、経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本についての日本企業の取り組みを「道半ば」と評価しています。その理由に挙げられるのが、2022年10月現在、国内にISO30414の適用義務や、公的な第三者機関による認証制度がないことです。

2021年改定のコーポレートガバナンス・コードでは「測定可能な目標を設定すべき」「人的資本に関連する育成・戦略・課題などの情報を開示すべき」など、人的資本に関する内容が盛り込まれましたが、あくまでも個々の企業の裁量に任されています。

現在、ISO30414の導入義務はないものの、人的資本に関する情報開示の要請が、国内でさらに高まることは間違いありません。それに伴って、導入義務化や認証制度へ向けた動きが出る可能性も、充分考えられるでしょう。

4. ISO30414の導入で期待できる効果

ISO30414の導入により期待できる効果には、主に以下の2つがあります。

  • • ステークホルダーからの評価が高まる
     透明性の高い人的資本に関する情報提供で、ステークホルダーからの高評価が期待できる
  • • 効果的な人事戦略を立案できる
     人的資本の定量的な把握・コントロールによって、より効果的な人事戦略の立案が期待できる

ここからは、それぞれの詳細について見ていきましょう。

(1)ステークホルダーからの評価が高まる

ISO30414を導入すると、国際基準に則った、透明性の高い人的資本に関する情報をステークホルダーに提供することが可能です。

導入義務のない今の段階から、ISO30414をベースにした情報開示を実施することで「人的資本の重要性を早期からしっかり理解している」「人的資本に関する戦略を積極的に推進している」といった、ステークホルダーからの高い評価が期待できます。 なお、ステークホルダーには、投資家、銀行、取引先企業、就職・転職希望者など、あらゆる利害関係者が含まれます。

これらステークホルダーからの高い評価は、投資・融資・取引・求人など、様々な面で良い影響を及ぼすことでしょう。

(2)効果的な人事戦略を立案できる

ISO30414を導入すると、人的資本の定量的な把握・コントロールが可能となり、効果的な人事戦略の立案ができるようになります。また、ISO30414のような明確な基準がない場合、現状把握が曖昧となり、それに伴う人事戦略も行き当たりばったりのものになる恐れがあります。

効果的な人事戦略を立案・実行することで、従業員(人)という無形資産を社内で定着させ、その価値を高めつつ「企業成長と良好な従業員体験(EX)の好循環」を生み出すことが期待できます。

5. ISO30414に記載されている項目

ISO30414は人的資本の評価軸として、以下のような11領域に、計49項目を設定しています。ここからは、11領域49項目についての詳細をご紹介します。

領域 項目
1. コンプライアンスと倫理 ・苦情のタイプと数
・懲戒処分のタイプと数
・コンプライアンス、倫理関連の研修を終えた従業員の比率
・外部とのトラブル
・外部トラブルのタイプと数、それに対するアクション
2. コスト ・総人件費
・外部人件費
・平均給与と役員報酬の比率
・雇用にかかるトータル費用
・1人当たりの採用費
・採用にかかるトータル費用
・離職にかかるトータル費用
3. ダイバーシティ ・年齢、性別、障害の有無といった労働力のダイバーシティ(多様性)
・リーダー層のダイバーシティ(多様性)
4. リーダーシップ ・リーダーシップへの信用
・管理する従業員数
・リーダーシップの開発
5. 組織文化 ・エンゲージメント、満足度、コミットメント
・従業員定着率
6. 組織の健康・安全・福祉 ・業務上のアクシデント(負傷、事故、病気)で発生した損失時間
・業務上のアクシデントの件数
・業務上のアクシデントの死亡者数
・研修に参加した従業員数
7. 生産性 ・従業員一人当たりのEBIT/利益/売上高
・人的資本のROI(利益率)
8. 採用、異動、離職 ・ポジションごとの候補者の数
・雇用あたりの質
・ポジションを埋めるまでの期間
・重要ポジションを埋めるまでの期間
・将来に対しての現状の人材充足度
・内部充足度
・重要ポジションにおける内部充足度
・重要ポジションの割合
・重要ポジションの空き割合
・内部異動率
・従業員の層の厚さ
・離職率
・重要ポジションの従業員離職率
・退職理由
9. スキルと能力 ・育成にかかる費用
・育成にかける時間や参加率
・労働者のコンピテンシー(高成果へつながる行動特性)の比率
10. 後継者育成 ・後継者の有効率
・後継者のカバー率
・後継者の準備率
11. 労働力確保 ・トータルの従業員数
・フルタイム/パートタイムごとの従業員数
・外部労働力
・休職者の数

(1)コンプライアンスと倫理

昨今重視されるコンプライアンスへの取り組みについての領域です。コンプライアンスと倫理には、以下の5項目が設定されています。

• 苦情のタイプと数
• 懲戒処分のタイプと数
• コンプライアンス、倫理関連の研修を終えた従業員の比率
• 外部とのトラブル
• 外部トラブルのタイプと数、それに対するアクション

これらの項目を開示することで、法律・条例を遵守していること、従業員たちの問題行動リスクが低いことなどが示せます。また、苦情・処分・外部トラブルのタイプを把握することで、必要な対策を講じる足がかりとなります。

(2)コスト

人的資本に対してかかるコストについての領域です。コストには、以下の7項目が設定されています。

• 総人件費
• 外部人件費
• 平均給与と役員報酬の比率
• 雇用にかかるトータル費用
• 1人当たりの採用費
• 採用にかかるトータル費用
• 離職にかかるトータル費用

これらの項目を開示することで、人的資本に対し、企業としてどの程度投資しているかが示せます。なお、人材育成(能力開発)にかかるコストは別領域で記載します。

(3)ダイバーシティ

企業にどのような属性を持つ人材がいるかについての領域です。ダイバーシティには、以下2項目が設定されています。

• 年齢、性別、障害の有無といった労働力のダイバーシティ(多様性)
• リーダー層のダイバーシティ(多様性)

これらの項目を開示することで、企業としてどの程度多様性を受け入れているか、どの程度グローバルな就労整備をしているかが示せます。

(4)リーダーシップ

社長・経営陣といったリーダー層に関する領域です。リーダーシップには、以下3項目が設定されています。

• リーダーシップへの信用
• 管理する従業員数
• リーダーシップの開発

これらの項目を開示することで、リーダーとしての適性や、リーダーシップを発揮するためにどのような取り組みをしているかが示せます。「リーダーシップへの信頼」は、定量化が難しい部分ですが、従業員へのアンケートや1on1ミーティングなどを活用すると良いでしょう。

(5)組織文化

企業と従業員あるいは従業員同士のつながり・帰属意識など、組織風土にも関連する領域です。組織文化には、以下2項目が設定されています。

• エンゲージメント、満足度、コミットメント
• 従業員定着率

これらの項目を開示することで、社内関係の良好さや帰属意識の高さなどを示せます。ただし「エンゲージメント、満足度、コミットメント」が良好であるにも関わらず、従業員定着率が低い場合、合理的な説明がないと、ステークホルダーが不信感を抱く恐れが考えられます。

(6)組織の健康・安全・福祉

働く人の健康・安全・福祉に関する領域です。組織の健康・安全・福祉には、以下4項目が設定されています。

• 業務上のアクシデント(負傷、事故、病気)で発生した損失時間
• 業務上のアクシデントの件数
• 業務上のアクシデントの死亡者数
• 研修に参加した従業員数

これらの項目を開示することで、人的資本を大切にしているか、健康や安全に対する理解を深める取り組みをしているかが示せます。業務上のアクシデントの件数や損失時間が、他社よりも多い場合は特に、優先して対策を講じる必要があります。

(7)生産性

企業の売り上げや利益に直結する、従業員の生産性に関する領域です。生産性には、以下2項目が設定されています。

• 従業員一人当たりのEBIT/利益/売上高
• 人的資本のROI(利益率)

これらの項目を開示することで、前述の「コスト」という投資に対して、どの程度の生産性(リターン)があるかと示せます。
仮に、前述の「コスト」で手厚く投資していても、同業他社などと比較して生産性が上がっていない場合は、その原因をしっかり究明することが求められます。

(8)採用、異動、離職

人材の「入り口と出口」に関する領域です。他領域と比較しても詳細な、以下14項目が設定されています。

• ポジションごとの候補者の数
• 雇用あたりの質
• ポジションを埋めるまでの期間
• 重要ポジションを埋めるまでの期間
• 将来に対しての現状の人材充足度
• 内部充足度
• 重要ポジションにおける内部充足度
• 重要ポジションの割合
• 重要ポジションの空き割合
• 内部異動率
• 従業員の層の厚さ
• 離職率
• 重要ポジションの従業員離職率
• 退職理由

これらの項目を開示することで、各ポストに良質な人材が十分に行き渡っているか、人材がどのような理由でどのくらい離職(退職)しているかが示せます。

(9)スキルと能力

企業の人材育成に関わる領域です。スキルと能力には、以下3項目が設定されています。

• 育成にかかる費用
• 育成にかける時間や参加率
• 労働者のコンピテンシー(高成果へつながる行動特性)の比率

これらの項目を開示することで、人的資本の価値を高めるための企業の積極性が示せます。投資家のみならず、成長やキャリアアップに意欲的な求職者から注目される可能性が高い指標と言えるでしょう。

(10)後継者育成

人材育成の中でも特に、経営者候補の育成に特化した領域です。後継者育成には、以下3項目が設定されています。

• 後継者の有効率
• 後継者のカバー率
• 後継者の準備率

これらの項目を開示することで、持続的な企業経営を意識しているか、将来的な企業発展のビジョンを持っているかが示せます。

(11)労働力確保

正社員のみならず、非正規雇用、外部委託も含めたトータルな労働力を把握するための領域です。労働力確保には、以下4項目が設定されています。

• トータルの従業員数
• フルタイム/パートタイムごとの従業員数
• 外部労働力
• 休職者の数

これらの項目を開示することで、労働力の配置や有効活用の度合いが示せます。

6. ISO30414の導入企業例

ISO30414取得を目指す企業は増えており、国内だけでも数百社が認証取得に向けて動いていると言われています。(2021年末時点)
ここからは、ISO30414を導入した企業の一例をご紹介します。

(1)アセットマネジメント株式会社「DWS」

DWSは、2021年1月に、ISO30414認証を世界で初めて取得した企業です。

DWSはドイツ銀行グループの企業で、資産管理・運用の代行業務(アセットマネジメント)を担います。運用資産残高は100兆円超で、資産運用会社としては世界有数の存在です。

ISO30414の取得によって、投資家からの注目度が高まり、問い合わせ件数も増加といった反響がありました。

このように、早期にISO30414を取得することは、ストックホルダーに対して存在感を高める上で有効な戦略となり得るでしょう。

(2)株式会社リンクアンドモチベーション

株式会社リンクアンドモチベーションは、アジアで初めて、そして世界で5番目にISO30414認証を取得した企業です。

株式会社リンクアンドモチベーションは、20年以上の歴史を誇る、人事・組織コンサルティングのリーディング企業で、ISO30414の認証取得を目指し、社内プロフェッショナル育成を2021年より開始しました。

ISO30414認証取得後は、ISO30414をテーマとしたセミナーを開催するなど、ノウハウを活かして業務展開している印象です。

このように、企業コンサルティングを手掛ける企業などは、いち早く自社でISO30414を導入することで、必要な経験とノウハウ・顧客からの信頼を獲得することが期待できるでしょう。

7. まとめ

ISO30414は、11領域49項目が設定された、人的資本に関する情報開示のガイドラインです。
組織・投資家に対して、人的資本に関する透明性の高い情報提供や、企業の持続的な成長促進を目的に制定されました。
2022年10月現在、日本におけるISO30414の適用義務や公的な第三者機関による認証制度はなく、企業が自発的に導入を検討できる状況です。

しかし、ISO30414の積極的な導入で、ステークホルダーからの評価を高めたり、効果的な人事戦略の立案に役立てたりできるのはもちろん、従業員からの信頼獲得も期待できます。

ぜひISO30414を、より良い企業経営にお役立てください。

株式会社小林労務 上村 美由紀氏

株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀

2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。

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