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2023.02.17
ERPノート

ERPシステムの導入手順と導入に成功するコツ:メリット・デメリットも紹介【ERPノート】

ERPシステムと聞くと、主に大企業が導入するシステムで、膨大な運用負担がかかるイメージがあるかもしれません。しかし近年では、中小企業向けのERPパッケージが登場し、従来よりも圧倒的に運用負担が軽減しています。
導入のハードルが下がったことから、規模を問わずさまざまな企業にERPシステムが浸透しており、企業にとって欠かせないシステムとして注目されています。

ここではERPシステム導入のメリット・デメリットのほか、具体的な導入手順や失敗しないための注意点について解説します。ERPシステムの導入を考えているが具体的にどのように進めて良いかわからない、自社に合うパッケージの選び方がわからない、という方はぜひ参考にしてみてください。

1. ERPシステムでできること

ERPは、Enterprise Resource Planning(エンタープライズ・リソース・プランニング)の略で、日本語では総合基幹業務システムとも呼ばれます。ERPシステムは、「ヒト・モノ・カネ」に関する膨大なデータを蓄積し、一元管理できるものです。
産業分野に関わらず、あらゆる企業において必要となる以下のような業務で活用することができます。

【EPRシステムでできることの例】
・財務会計
・管理会計
・予算管理
・販売管理
・債権債務管理
・購買管理
・生産・在庫・物流管理
・人事給与

情報の管理だけでなく、企業の経営をサポートするような機能も備わっており、合理的に経営活動を進められるシステムとして、現代の企業にとって欠かせないシステムの一つになりつつあるのです。

2. ERPシステム導入の手順

ERPシステムを導入する場合、「業務に合わせてシステムを構築する」という方法と、「システムに合わせて業務を調整する」という方法があります。それぞれにメリットがあるため、どちらを採用するかは企業によって異なります。
ここでは、あくまで一例となりますが導入の手順をご紹介します。

【ERPシステム導入手順】
1.導入の目的を明確にする
2.自社に合う製品を選ぶ
3.契約を結ぶ
4.要件定義
5.設計・開発
6.テスト
7.リリースに向けた準備
8.リリース・運用

(1)導入の目的を明確にする

ERPを導入する目的や、ERP導入によってどのような成果を得たいのかということを明確にしましょう。例えば、企業の意思決定をスピードアップしたい、情報共有を効率的に行いたいなどです。
なぜなら目的によって選ぶべきERPシステムが異なるためです。この目的がブレてしまうと、製品選びが難航するだけではなく、導入後も期待した成果が得られないどころか逆に業務が滞るなど、せっかくのERPシステムの恩恵を受けられない可能性があります。

まずは企業方針や経営計画と現状を照らし合わせて、自社の課題を洗い出します。すべての課題改善を目指すとキリがなく、時間やコストが膨大になってしまうため、優先順位をつけて目的を整理しましょう。
明確な目的の設定が、ERPシステムをスムーズに導入するために重要です。各部署・現場・経営層と広く社員を交えて話し合いの場を設けることが大切でしょう。

(2)自社に合う製品を選ぶ

ERPシステム導入の目的が明確になったら、目的に合うERPシステムの製品を選定します。
ERPシステムといっても機能や提供する業務範囲、導入形態やサービス内容はベンダーによってさまざまです。基本的にはベンダーの担当者と話し合いをしながらシステム導入に至る場合が多いでしょう。

各製品の紹介ページを比較しながら、ベンダーや製品情報を収集しましょう。一社に絞るのではなく、自社の目的と合いそうな製品を複数選び、それぞれに対しRFP(提案依頼書)を発行すると、ベンダー側が適切なシステムの提案を行います。RFPはできるだけ正確でわかりやすい情報を記載することで、ベンダー側も、よりニーズに合う製品を紹介しやすくなるので、しっかりと内容を精査しましょう。

実際にERPシステムを選ぶときのポイントを紹介します。

【選び方のポイント】
・目的に合った機能があること
・費用
・業界に特化した機能があるか
・担当者の質

目的に合った機能があること

目的達成に必要な機能があるかどうかを基準に製品を選定します。合う製品が見つからない場合は、目的の設定が厳しすぎるケースもあるので、再度見直しを行いましょう。
目的によって向いているソフトウェアの種類も異なるため、どの程度の規模で導入するのか、適用範囲なども考えておくことがポイントです。

【ソフトウェアの種類】
オールインワン型:企業内で必要な一連の業務をトータルで一貫して行えるERP
業務ソフトウェア型:特定の業務に対してのみ導入できるERP
コンポーネント型:既存のシステムに新たなシステムを追加・拡張するERP

オールインワン型は、企業内のあらゆる業務内容をカバーできるので、部門間の連携強化や企業としての意思決定を迅速化したい場合におすすめです。一方で改善したい業務が明確である場合や部署をまたがない業務には、業務ソフトウェア型を導入する企業が多いでしょう。コンポーネント型は機能を後付けでき自由度が高いため、特殊な業務に適用したい場合に有効です。

費用

ERPシステム導入の費用は、導入形態によって大きく異なるため、それぞれの特徴を理解したうえで慎重に検討する必要があります。
自社内に独自のシステムを構築するオンプレミス(パッケージ)製品の場合、ソフトウェアのライセンス費用、導入サポート費用、自社にマッチした機能の開発費用に加えてハードウェアの調達や設置場所などが必要です。高額になる代わりに、自社のニーズに対して正確に合うように、自由に機能をカスタマイズできることは大きなメリットです。
一方、ネットワーク経由で利用するクラウド型の場合、導入のための初期費用が抑えられ、ハードウェアOSなどのITインフラの運用負荷がかからない代わりに、自社の仕組みに応じたカスタマイズはほとんどできません。

業界に特化した機能があるか

ERPシステムはあらゆる分野の幅広い業務に対応するものですが、特定の業界や業務を対象にしたERPシステムもあります。
自社の業界に特化した製品であれば、業界ならではの機能やかゆいところに手が届くような便利な機能を搭載していることがあります。自社とマッチするものを選べば、より業務の効率化を図ることができるでしょう。

担当者の質

営業担当やコンサルタントなど、ベンダー側の担当者がいかに自社の業務を理解しているかという点も、ベンダーを選ぶうえで非常に重要であると言えます。特にオンプレミス型の場合は自社にあった機能をベンダーと協力しながら開発していくことになります。いかに自社にフィットする機能を作り出せるかは、自社の業務内容と開発機能をすり合わせる段階でのベンダー側の理解力が大きく影響するといっても過言ではないのです。
これらはベンダーの実績を確認するだけでなく、複数のベンダーにRFPを提出しどのような提案をもらえるかという視点からも比較することができます。提案内容に客観的な視点があるかどうか、自社の業務を把握したうえで的確な提案をしているかどうかを見定めましょう。

(3)契約を結ぶ

各社の提案に目を通し、必要に応じてより詳細なプレゼンテーションを依頼するなどし、製品への理解を深めたうえで、依頼するベンダーおよび製品を選定・契約を結びます。

契約を結んだ後は社内で話し合いの場を設け、具体的なスケジュールや目標をしっかり共有しましょう。関係部署のトップやシステム担当者など、強いリーダーシップを持ったチーム体制を整えることも重要です。

(4)要件定義

ERPシステムに、どのような機能を搭載したいのか、実際の業務内容を分析しながら決定する作業が必要です。
日本のベンダーのシステムであれば、日本の標準的な経営・運用業務に適した機能が初めから搭載されているケースが多いですが、必ずしも自社の業務内容に合致するとは限りません。
そのためERPシステムの導入によって業務内容が変更になるものや、逆に変更が不要な業務などを洗い出していきましょう。変更が必要になる業務に対しては、さらに機能を追加すべきなのか、優先順位を考え判断しましょう。
このようにして、最終的にどのような機能を搭載したシステムを開発・導入するのかを決定します。

(5)設計・開発

要件が決まれば、ベンダーがシステムの設計や開発を行います。
開発が完了するまでに、進捗状況などを確認しつつ社内向けの新しい業務のマニュアル作成や社員の教育、システム移行に必要な社内調整などを進めておきましょう。
社内でも話し合いを進める中で生まれた疑問などがあれば、都度ベンダーへ相談することでより一丸となって、より良いシステムに仕上がっていきます。

(6)テスト

開発工程終了後、社内で以下のようなテストを行い、機能に問題がないか確認する作業に入ります。

【テストの種類】
・単体テスト:1つの機能が単体で正常に作動するかを確認するテスト
・結合テスト:2つ以上の機能を連携した時に正常に作動するかを確認するテスト
・総合テスト:完成に近い状態で正常に作動するか、既存システムとの連携などを確認するテスト
・UAT:ユーザーが本番稼働時のシナリオを実施し、業務観点で不都合などが無いか確認するテスト

これらのテストを行いつつ、最大限に負荷をかけても耐えられるかどうかなど、イレギュラーシーンに対応するテストなどを行い、リリースに備えます。テストに問題があればその都度修正を行い、システムの完成を目指します。

(7)リリースに向けた準備

テストが異常なく完了したら、いよいよリリースに向けて必要な準備を行いましょう。
導入直後は、慣れるまでは操作方法やエラーの発生など、トラブルが起こりやすいです。これらのことで作業効率が一時的に落ちてしまう可能性がありますが、できるだけ最小限にできるよう、問題発生時の対応マニュアルや操作方法の指導などを事前に徹底しておくとよいでしょう。トラブル時に対応する窓口を設置しておくことで、社員の不安やストレスを軽減することもできます。

(8)リリース・運用

製品を導入したら、正常に運用できているかなどを確認しながら慎重に進めていきましょう。自社のシステム担当だけでは手に負えないケースもあるため、ベンダーのサポートを受けながら定着を目指します。
ある程度慣れてきたら、導入効果などをしっかり検証しましょう。ERPを導入する目的をしっかり果たせているか、データを検証しながら確認することも大切です。導入に必死になるあまり、導入すること自体が目的になってしまわないように気を付けましょう。

3. ERPシステム導入に成功するコツ

ERPシステムの導入に失敗すると、かえって作業が増えてしまい作業効率が悪化するなど、社内で混乱が起きてしまう可能性もあるため、十分に注意が必要です。
ERPシステムの導入に成功するためには、以下のコツをしっかり抑えておきましょう。

【ERPシステム導入のコツ】
1. 全社共有を徹底する
2. スモールスタートする
3.業務全体を熟知しているリーダーを立てる
4.機能と業務のギャップへの対応を検討する

(1)全社共有を徹底する

ERPシステムは、社内全体に関わるケースが多いです。そのため各部署内で認識のばらつきがあると、導入時の混乱は避けられません。また導入目的や導入スケジュールなど重要項目を決めるときは経営層だけでなく、実際にシステムを操作することになる現場の社員の声をしっかり反映できる体制が必要です。
社内での共有がうまくできていないと、不適切な機能を導入してしまったり、うまく運用できないなど無駄なコストが発生したりすることになります。できるだけスムーズに導入するためには、全社員が共通の認識を持ち一丸となって取り組むことが大切です。

(2)スモールスタートする

ERPシステムには多くの機能がありますが、一気にすべての機能をフル活用することは、混乱を招く結果になりかねません。まずは一部の機能を実験的に導入し、少しずつ機能に慣れていくことができます。一つの機能に対して問題なく運用ができるようであれば、少しずつ導入する機能を増やしていくことで、無駄なコストを最小限にしながら社員にとってもできるだけ負荷を抑えて導入することができるでしょう。

(3)業務全体を熟知しているリーダーを立てる

ERPシステムの導入を行うチームを立ち上げる際のポイントは、必ず関係部署すべての部署の社員を含めることです。各部署で部署内の事情があり、さまざまな意見が出てくることが想定されるためです。こうした意見をうまくまとめ、自社にとって有益な結論を導き出すために、チームのリーダーは業務の全体を把握している人が好ましいでしょう。

(4)機能と業務のギャップへの対応を検討する

ERPシステムの導入に伴って、これまでの業務内容から変更になるものと、特に変更が必要ないものとがあります。
例えばERPシステムだけでは対応が難しいような独自の作業手順などがある場合、その業務をERP機能で補えるようにさらに機能を開発するのか、機能に合わせて作業自体を変更するのかを判断する必要があるのです。
費用をかけて機能を追加するか、業務をパッケージに合わせて変更するかは、優先度の高さや費用とのバランスで決めることになります。対象の業務が企業の利益に直結する要素で費用をかける価値があるものかどうか、という点も切り口の一つでしょう。

4. ERPシステムを導入するメリット

EPRシステムの導入を迷っている場合は、メリットとデメリットをしっかり理解した上で判断しましょう。まずは、ERPシステムの導入によってどのようなメリットがあるのかを紹介します。

【ERPシステム導入のメリット】
1. 業務の効率化
2. 情報の共有が簡単
3. データ分析に活用できる

(1)業務の効率化

ERPシステムは冒頭でも述べた通り、「ヒト・モノ・カネ」に関する膨大なデータを蓄積し、一元管理できることが大きな特徴です。そのため、具体的には以下のような点で業務を効率的に行うことができます。
データ集計が自動で行える、部署ごとに格納している資料を探したり、送受信したりする必要がない。
また、個別に管理していたデータを一つの場所で管理でき、共有できるメンバーを部署の隔たりなく設定できることに加えて、入力したデータはリアルタイムで反映されるので、漏れや重複防止にも役立つでしょう。
このようにデータ管理に使っていた時間を短縮し、重要な業務へ注力することもできるようになります。社内の業務効率を上げることは、生産性向上、ひいては売上の向上にもつながるのです。

(2)情報の共有が簡単

一元管理しているデータに対し、必要に応じて共有先を設定できます。部署に関係なく同じデータを共有できることも大きなメリットです。会議のたびに必要な書類を探して印刷、もしくは関係者に転送などといった手間が不要になります。いつでも必要なデータをシステム上で取り出せるため、時間や資源のロスも少なくて済みます。
また社内全体のデータを管理できるため、会社全体としての意思決定もスピーディに行えるでしょう。現代の競争社会ではスピードを求められるシーンが多く、意思決定が早いことは現代のビジネス社会で勝ち残るために必要な要素の一つです。

(3)データ分析に活用できる

会社内には多くの情報が存在していますが、ERPシステムでは蓄積したデータを一元管理でき、さまざまな分析に応用することができます。集計や分析も自動的に行えるため、これまで分析にかかっていた集計作業や分析方法の決定など多くの煩雑な作業を効率的に行える点は非常に大きなメリットといえます。
データを分析することで、例えば売上・コスト・工数・在庫・人事など、どこに改善の余地があるのか、どこがボトルネックとなっているのかなど、改善点をいち早く把握することも可能になります。
このように現状を把握して改善すべき部分を素早く知ることは、経営陣にとっても欠かせない要素です。

5. ERPシステムを導入するデメリット

ではERPシステムの導入にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。ERPのデメリットを事前に知っておくことで、導入後のミスマッチへの対策をとることができます。

【ERPシステム導入のデメリット】
1. 導入・運用・保守に関するコストがかかる
2. データを整理する必要がある
3. システム運用のための教育が必要

(1)導入・運用・保守に関するコストがかかる

ERPシステムを導入するためには、サーバーの構築やライセンスの購入費用などの初期費用がかかります。また製品によってはサーバーやネットワークなどの運用・保守コストが必要になる場合もあります。オンプレミス型かクラウド型か、どのような導入形態を選ぶかによって変わります。

開発費とは、自社に適合させるためのカスタマイズや機能拡張のための費用です。1つの機能を追加するだけでも多額の費用がかかります。クラウド型ではカスタマイズができないことが一般的ですが、ベンダーによってはある一定範囲内でカスタマイズができるケースもあります。
コスト面か機能面どちらを重視すべきなのか、予算や達成したい目的などと照らし合わせて決めるようにしましょう。

(2)データを整理する必要がある

ERPシステム導入にあたって、これまで管理してきたデータを一度整理し、社内で集計方法や入力方法を統一する必要があります。同じデータでも、部署によって管理方法が異なることも多いのではないでしょうか。
データが重複していたり、違うルールで入力されていたりすると、正しく集計できません。これではせっかく分析などを行っても、効果的に活かすことは困難です。

(3)システム運用のための教育が必要

ERPシステムを正常に運用するためにも、社員に対する教育は欠かせません。操作方法や入力ルールなどだけではなく、情報セキュリティに関する教育も必要でしょう。
特にオンプレミス型で社内にネットワークを構築する場合は、信頼性の低いサイトへのアクセスなど、リスクを犯さないように指導することも大切です。ログの監視やファイルの暗号化などもセキュリティ保護対策としておすすめです。

6. まとめ

この記事では、ERPシステム導入のメリット・デメリットのほか、詳しい導入手順やうまく導入・運用するためのコツを紹介しました。必要な機能や問題点を洗い出したうえで自社に合う製品を選ぶこと、導入時に起こりうることを具体的に想定しながら、先回りをして対応策を立てておくことが重要です。

今やERPは企業にとっても、売上やコスト削減につながる欠かせないシステムの一つとなりつつあります。IT化やDX化が頻繁に取り上げられる今こそ、ERP導入についてじっくりと検討してみてはいかがでしょうか。

青井 真吾

AOIS Consulting株式会社
代表取締役
青井 真吾

大学卒業後はIT企業に入社。システムエンジニアとして大手企業向けのERPシステム開発を経験。
その後は、フリーのITコンサルタントとして、人材派遣会社の基幹システムの開発およびERPシステムの導入、不動産会社の商業施設での販促システムの導入、自動車メーカーでコネクティッドカー開発のプロジェクト管理、SIerでのSalesforceの導入、ファッション業界の企業でSalesforceと連携する周辺システムの導入を経験。
現在は法人化し主に企業のシステム開発プロジェクトを支援。

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