
企業の基幹システム(ERP)導入や刷新を検討する際、「Fit to Standard」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。これは、システム導入を成功に導くための重要なアプローチの一つです。しかし、その意味や、反対の考え方との違いを正しく理解できているでしょうか。この記事では、「Fit to Standard」の反対語にあたる「Fit & Gap」との違い、それぞれのメリット・デメリット、そして自社に最適なアプローチを選ぶためのポイントを分かりやすく解説します。
目次
Fit to Standardの反対語はFit & Gap
システム導入のアプローチには、大きく分けて「Fit to Standard」とその反対語である「Fit & Gap」の2つの考え方があります。これらは、システムと業務プロセスのどちらを主軸に置くかという点で根本的に異なります。
Fit to Standardとは?システムの標準機能に業務を合わせる考え方
Fit to Standardとは、その名の通り「標準(Standard)に合わせる(Fit)」という考え方です。具体的には、ERPなどのパッケージシステムが持つ標準機能に業務プロセスを合わせ、業務改革を進めていくアプローチを指します。
従来は企業の業務に合わせてシステムを大きくカスタマイズすることが一般的でした。しかしFit to Standardでは、改修を最小限に抑え、パッケージに組み込まれたベストプラクティス(先進企業の優良事例を集約した業務プロセス)を最大限に活用することを目指します。
例えば、SCSKが提供するAIネイティブな次世代ERP「PROACTIVE」は、会計・人事・給与・販売管理など基幹業務を幅広くカバーする標準機能を備えています。さらにSaaS型で提供されるため、法改正や制度変更への対応はベンダー側で行われ、常に最新の状態で利用できる点も大きな特長です。
こうした特性を最大限に活かすには、Fit to Standardの導入アプローチが有効です。過度なカスタマイズを避けることで導入期間を短縮できるだけでなく、運用・保守の負荷を軽減し、将来的なアップグレードや機能拡張にも柔軟に対応できます。
PROACTIVEをFit to Standardで導入することにより、企業は業務の標準化と効率化を実現しながら、常に最新テクノロジーを取り入れた経営基盤を維持することが可能になります。
詳細はこちら <Fit to Standard|PROACTIVE|SCSK>
反対語のFit & Gapとは?業務に合わせてシステムを開発する考え方
Fit to Standardの反対語は、Fit & Gap(フィット・アンド・ギャップ)です。これは、まず自社の既存の業務プロセスありきで考え、導入するシステムがその業務に適合(Fit)するかどうかを分析するアプローチです。
そして、適合しない部分(Gap)が見つかった場合、そのギャップを埋めるためにシステムのカスタマイズやアドオン開発を行います。従来の日本のシステム導入では、このFit & Gapが主流でした。自社独自の業務フローを維持できるメリットがある一方で、多くの課題も指摘されています。
ERP活用におけるFit to Standardとは:必要性やメリット、進め方を解説
Fit to StandardとFit & Gapの比較
では、Fit to StandardとFit & Gapには具体的にどのような違いがあるのでしょうか。両者の特徴を比較表にまとめました。
比較項目 | Fit to Standard | Fit & Gap |
---|---|---|
導入アプローチ | システムに業務を合わせる(システム主導) | 業務にシステムを合わせる(業務主導) |
カスタマイズ | 原則として行わない | Gapを埋めるために積極的に行う |
コスト | 低コスト | 高コストになりがち |
導入期間 | 短期間(数か月~) | 長期間(1年以上かかることも) |
業務プロセス | 大幅な変更・改革が必要 | 既存のプロセスを維持しやすい |
保守・運用 | 容易(バージョンアップがスムーズ) | 困難(カスタマイズ部分が足かせに) |
プロジェクト推進 | 経営主導のトップダウン型 | 現場主導のボトムアップ型 |
導入アプローチの違い
Fit to Standardは、業界のベストプラクティスが詰まったシステムの標準機能に業務を合わせるため、経営層が主導するトップダウンでの業務改革が伴います。一方、Fit & Gapは現場の業務を維持することが優先されるため、現場部門の意見を吸い上げるボトムアップ型で進められるのが一般的です。
コスト・期間の違い
Fit to Standardは、システムのカスタマイズにかかる開発費用や工数がほとんど発生しないため、低コストかつ短期間での導入が可能です。対照的に、Fit & GapはGapを埋めるための要件定義、設計、開発、テストに多くの時間と費用を要するため、高コスト・長期間になる傾向があります。
導入後の保守・運用の違い
導入後のメンテナンス性にも大きな違いが現れます。Fit to Standardで導入したシステムは、クラウドサービス(SaaS)であることが多く、ベンダーが提供する定期的なバージョンアップをスムーズに適用できます。これにより、常に最新の機能やセキュリティを享受できます。
しかし、Fit & Gapで大規模なカスタマイズを行ったシステムは、バージョンアップの際にそのカスタマイズ部分が正常に動作しなくなる可能性があり、都度改修が必要です。この結果、システムのブラックボックス化や属人化を招き、いわゆる「レガシーシステム」となってしまうリスクが高まります。
Fit to Standardのメリットとデメリット

ここでは、Fit to Standardのアプローチが持つメリットとデメリットを整理します。
メリット:コスト削減と迅速な導入
最大のメリットは、導入コストと期間を大幅に削減できる点です。システムの機能に合わせて業務フローを設計するため、要件定義や開発にかかる時間と費用を圧縮できます。これにより、変化の速いビジネス環境に迅速に対応することが可能になります。
メリット:業務標準化とベストプラクティスの導入
Fit to Standardの導入プロセスは、自社の業務を見直す絶好の機会です。システムの標準機能は、その業界における成功事例や効率的な業務プロセス(ベストプラクティス)を基に作られています。これに業務を合わせることで、属人化していた業務をなくし、社内全体の業務プロセスを標準化・効率化できるのです。
デメリット:現場部門からの抵抗
一方で、デメリットも存在します。最も大きな課題は、現場部門からの抵抗です。長年慣れ親しんだ業務のやり方を大きく変える必要があるため、「新しいシステムは使いにくい」「今までのやり方のほうが効率的だ」といった反発が起こる可能性があります。これを乗り越えるには、丁寧な説明と経営層の強いリーダーシップが不可欠です。
Fit & Gapのメリットとデメリット

次に、反対のアプローチであるFit & Gapのメリットとデメリットを見ていきましょう。
メリット:既存業務の維持と高い柔軟性
Fit & Gapのメリットは、自社独自の強みとなっている業務プロセスや、特殊な商習慣を維持できる点です。業務のやり方を大きく変える必要がないため、システム導入に対する現場の抵抗が少なく、従業員がスムーズに新しいシステムに移行しやすいという利点があります。
デメリット:コストの増大と開発期間の長期化
最大のデメリットは、コストと開発期間が膨らみやすいことです。Gapを埋めるためのカスタマイズが増えれば増えるほど、費用は高騰し、導入までの期間も長期化します。当初の予算やスケジュールを大幅に超過してしまうケースも少なくありません。
デメリット:システムの複雑化と陳腐化
独自のカスタマイズを重ねた結果、システムが複雑化・ブラックボックス化し、やがて陳腐化(レガシー化)してしまうリスクが非常に高い点も大きなデメリットです。システムの全体像を把握できる担当者がいなくなり、少しの改修にも多大なコストと時間がかかる「塩漬け」状態に陥る可能性があります。これは、多くの日本企業が抱えるDX推進の阻害要因となっています。
自社に合うのはどっち?アプローチの選び方

Fit to StandardとFit & Gap、それぞれの特徴を理解した上で、自社にはどちらのアプローチが適しているのでしょうか。ここでは3つの判断基準を紹介します。
業務プロセスの独自性を考慮して決める
まず、自社の業務プロセスが競争力の源泉となっているかどうかを考えましょう。他社にはないユニークな製造工程や、顧客との特別な関係性を築くための業務フローなど、事業の核となる独自のプロセスが存在する場合は、それを維持できる「Fit & Gap」が適している可能性があります。逆に、経理や人事などのバックオフィス業務のように、多くの企業で共通化できる定型的な業務であれば、「Fit to Standard」で効率化を図るほうが合理的です。
導入スピードやコストを優先して決める
次に、プロジェクトにかけられる時間と予算です。「できるだけ早く、コストを抑えてシステムを導入したい」というニーズが強い場合は、「Fit to Standard」が明確な選択肢となります。一方で、時間やコストをかけてでも、自社の要求を100%満たすシステムを構築したいという場合は、「Fit & Gap」を検討することになります。
将来のビジネス環境の変化への対応力で決める
長期的な視点も重要です。5年後、10年後もビジネス環境の変化に対応し、システムを常に最新の状態に保ちたいのであれば、バージョンアップが容易な「Fit to Standard」が有利です。カスタマイズを多用する「Fit & Gap」は、将来のアップデートが困難になるリスクを抱えていることを認識しておく必要があります。
Fit to Standardを成功させるためのポイント

もしFit to Standardのアプローチを選択する場合、プロジェクトを成功に導くためにはいくつかの重要なポイントがあります。
ポイント①:経営層の強いコミットメント
Fit to Standardは、単なるシステム導入ではなく「業務改革」です。現場からの抵抗が予想される中で改革を断行するには、「なぜこの改革が必要なのか」という目的を経営層が明確に示し、トップダウンでプロジェクトを強力に推進する姿勢が不可欠です。経営層の強いコミットメントが、プロジェクトの成否を分けると言っても過言ではありません。
ポイント②:業務プロセスの見直しと簡素化
システム導入を、既存業務をゼロベースで見直す良い機会と捉えましょう。「今までのやり方」に固執せず、「あるべき業務の姿」とは何かを徹底的に議論し、新しいシステムに合わせて業務プロセスを再設計することが重要です。この過程で、不要な業務をなくし、可能な限りプロセスをシンプルにすることが、成功への近道となります。
まとめ
この記事では、Fit to Standardの反対語であるFit & Gapとの違いを中心に、それぞれのメリット・デメリットやアプローチの選び方を解説しました。Fit to Standardはコストを抑え短期間で導入できる一方、Fit & Gapは自社の業務に合わせやすい柔軟性が特徴です。どちらか一方が絶対的に正しいというわけではなく、自社の目的や状況に応じて最適なアプローチを選択することが、システム導入プロジェクトを成功に導く鍵となります。