経理業務の効率化や働き方改革の推進が求められる中、クラウドシステムを活用した経理業務の見直しに注目が集まっています。しかし、「クラウド化と言われても、具体的に何をすれば良いのか分からない」「導入するメリットは本当にあるのだろうか」といった疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。この記事では、経理業務におけるクラウド活用の基本から、具体的なメリット・デメリット、そして導入を成功させるためのステップまで、分かりやすく解説します。
目次
クラウドシステムを活用した経理業務の見直しとは?
経理業務にクラウドシステムを活用することは、単なるツールの導入にとどまらず、業務プロセス全体を見直し、より効率的で柔軟な体制へと変革していく取り組みでもあります。
まずは、クラウドシステムの基本的な仕組みと、なぜ今、多くの企業が導入を進めているのか、その背景を見ていきましょう。
そもそもクラウドシステムとは
クラウドシステムとは、従来のように自社サーバーやPCにソフトウェアをインストールして利用する形(オンプレミス)とは異なり、インターネット上のサーバー上にあるソフトウェアやサービスを利用する仕組みを指します。利用者は、PCやスマートフォン、タブレットなどのデバイスとインターネット環境さえあれば、時間や場所を問わずにアクセスして業務を行うことができます。
経理業務では、会計ソフトや経費精算システムなどをクラウド型サービスとして利用するケースが一般的です。
| 比較項目 | クラウド型 | オンプレミス型 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 低い(または不要) | 高い(サーバー購入費など) |
| 導入期間 | 短い | 長い |
| 保守・運用 | ベンダー側で実施 | 自社で実施 |
| アクセス場所 | インターネット環境があればどこでも | 社内ネットワークなど限定的 |
| 法改正対応 | 自動アップデートで対応 | 自社で対応が必要 |
なぜ今、経理業務へのクラウド活用が注目されているのか
経理業務におけるクラウド活用が注目される背景には、いくつかの社会的・技術的な要因があります。第一に、働き方改革の推進です。テレワークやフレックスタイムなど、多様な働き方を実現する上で、場所を選ばずに業務を行えるクラウドシステムは不可欠です。第二に、電子帳簿保存法やインボイス制度といった法改正への対応です。クラウド型のサービスは、法改正に合わせて自動でシステムがアップデートされるため、企業は複雑な法要件にスムーズに対応できます。 さらに、人手不足が深刻化する中で、手作業の多い定型業務を自動化し、生産性を向上させる必要性が高まっていることも大きな理由です。
経理業務にクラウドシステムを活用するメリット

経理業務をクラウド化することは、企業に多くのメリットをもたらします。ここでは、代表的な4つのメリットについて具体的に解説します。
人的ミスの削減と業務標準化
手作業でのデータ入力や転記作業は、ヒューマンエラーが発生しやすい業務の代表例です。経理業務をクラウド化し、銀行口座やクレジットカードの明細と自動連携させることで、仕訳入力などの手作業が大幅に削減されます。これにより、入力ミスや計算ミスといった人的ミスを防ぐことが可能です。 また、システムに沿って業務を進めることになるため、業務プロセスが標準化され、特定の担当者にしか分からない「属人化」のリスクを低減させる効果も期待できます。
コスト削減の実現
クラウドサービスは、自社でサーバーを構築・運用する必要がないため、高額な初期費用を抑えることができます。 また、システムのメンテナンスやアップデートはサービス提供事業者が行うため、保守・運用にかかる人件費も削減可能です。さらに、ペーパーレス化が進むことで、紙代や印刷代、書類の保管スペースといった物理的なコストの削減にも繋がります。
場所を問わない柔軟な働き方の実現
インターネット環境さえあれば、オフィスだけでなく自宅や外出先からも経理システムにアクセスできるようになります。これにより、経理担当者のテレワークが可能になり、柔軟な働き方を実現できます。 災害やパンデミックといった不測の事態が発生した場合でも、事業を継続しやすくなるというBCP(事業継続計画)の観点からも大きなメリットです。
迅速な経営状況の可視化
クラウド会計ソフトは、リアルタイムで経営データを集計・分析する機能に優れています。売上や費用などの数値をダッシュボードで常に確認できるため、経営者は迅速かつ正確な意思決定を行うことができます。月次決算の早期化にも繋がり、経営判断のスピードを加速させることが可能です。
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経理業務においてクラウドシステムを活用するデメリット

多くのメリットがある一方で、経理業務におけるクラウドシステム活用にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。導入を検討する際には、これらの点も十分に理解しておくことが重要です。
ランニングコストの発生
クラウドサービスは、初期費用を抑えられる反面、月額や年額での利用料(ランニングコスト)が発生し続けます。利用する機能やユーザー数によって料金プランが異なるため、自社の規模や必要な機能を見極め、コストパフォーマンスを慎重に比較検討する必要があります。
インターネット環境への依存
クラウドサービスは、その名の通りインターネットを介して利用するため、安定した通信環境が不可欠です。 通信障害が発生した場合や、インターネット接続が不安定な環境では、システムにアクセスできず、業務が完全に停止してしまうリスクがあります。信頼性の高いインターネット回線を確保するとともに、万が一のオフライン時にも対応できる業務フローを検討しておくことが大切です。
セキュリティリスクへの懸念
企業の財務情報という機密性の高いデータを外部のサーバーに預けることになるため、その運用には高いセキュリティが求められます。情報漏洩や不正アクセスといったリスクは常に存在します。そのため、サービスを選定する際には、提供事業者がどのようなセキュリティ対策を講じているかを十分に確認することが極めて重要です。データの暗号化、アクセス制限、二要素認証など、堅牢なセキュリティ体制を持つ信頼性の高いサービスを選ぶ必要があります。
経理業務クラウド化の進め方

クラウドシステムの導入を成功させるためには、計画的にステップを踏んで進めることが重要です。ここでは、具体的な4つの手順に分けて解説します。
手順1:現状の業務フローと課題を洗い出す
まず行うべきは、現状の経理業務を可視化することです。請求書の発行から入金確認、経費精算、仕訳入力、決算業務に至るまで、どのような手順で、誰が、どれくらいの時間をかけて行っているのかを詳細に洗い出します。その上で、「どこでミスが発生しやすいか」「どの作業に時間がかかっているか」「何が属人化しているか」といった課題を明確にします。
手順2:導入目的と要件を明確にする
次に、洗い出した課題をもとに、クラウド化によって「何を解決したいのか」という目的を具体的に設定します。「月次決算を3日短縮する」「ペーパーレス化率を80%にする」「テレワーク可能な体制を構築する」など、具体的な目標を立てることで、導入すべきシステムの要件が明確になります。必要な機能、連携したい他のシステム、予算などを具体的に定義しましょう。
手順3:クラウド会計ソフトを選定する
設定した目的と要件に基づき、複数のクラウド会計ソフトやERPを比較検討します。各サービスの機能、料金、操作性、セキュリティ、サポート体制などを多角的に評価します。 無料トライアル期間などを活用して、実際に操作感を試してみることが非常に重要です。現場の担当者の意見も取り入れながら、自社にとって最もフィットするサービスを選びましょう。
手順4:導入計画を策定し、実行する
導入するサービスが決まったら、詳細な導入計画を策定します。データの移行方法、従業員へのトレーニング、旧システムからの切り替え時期、トラブル発生時の対応などを具体的に計画します。 一部の部門からスモールスタートで導入し、効果を検証しながら全社に展開していく方法も有効です。導入後は、定期的に効果測定を行い、改善を続けていくことが成功の鍵となります。
クラウド会計ソフト選びで失敗しないためのポイント
数多くのクラウド会計ソフトの中から、自社に最適なものを選ぶことは容易ではありません。ここでは、選定時に特に注意すべき3つのポイントを解説します。
自社の業務内容との適合性を確認する
クラウド会計ソフトは、それぞれに得意な機能や特徴があります。例えば、特定の業種に特化した機能を持つものや、特定の外部サービスとの連携に強いものなど様々です。自社の業種や事業規模、独自の商習慣などに合った機能を備えているか、将来的な事業拡大にも対応できる拡張性があるかを確認することが重要です。
十分なセキュリティ対策が講じられているか確認する
前述の通り、セキュリティはクラウドサービスを選定する上で最も重要な要素の一つです。ISO27001(ISMS)などの第三者認証を取得しているか、データの暗号化やアクセスログの管理、不正侵入検知システム(IDS/IPS)などの対策が講じられているかを確認しましょう。サービス提供事業者のプライバシーポリシーやセキュリティに関する情報をウェブサイトなどで入念にチェックすることが不可欠です。
サポート体制の充実度を確認する
システムの導入時や運用中にトラブルが発生した場合、迅速かつ的確なサポートを受けられるかどうかは非常に重要です。電話やメール、チャットなど、どのような問い合わせ方法があるか、対応時間はどうなっているか、導入支援のサービスはあるかなどを確認しましょう。特にITに不慣れな従業員が多い場合は、手厚いサポート体制が整っているサービスを選ぶと安心です。
まとめ
経理業務におけるクラウドシステムの活用は、単なるコスト削減や業務効率化に留まらず、働き方改革の推進や迅速な経営判断の実現など、企業経営に多大なメリットをもたらします。この記事で紹介したメリット・デメリット、そして導入のステップを参考に、自社の課題解決と成長に繋がるクラウド化の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。