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2022.09.16
専門家解説(経理財務編)

わかる!管理会計の基本:公認会計士が解説

企業会計には、「財務会計」と「管理会計」があります。財務会計は、経営状態を外部の利害関係者に公表するために作成が必須とされる一方、管理会計は自社の経営状態を把握するためのもので、その作成は任意となっています。パンデミックの影響やDXの加速などにより市場経済の不確実性が高まる中、意思決定を迅速化するためにも、管理会計の重要性がますます高まっています。そこで今回は、「監査法人」「証券会社」「ベンチャー企業」「会計コンサル」の4つの視点で会計に携わった経験を持つ公認会計士・川口宏之氏がわかりやすく解説します。

1. 管理会計とは

管理会計とは、英語ではManagement Accountingと書き、自社の経営に活かすための会計のことを指します。ちなみにManagementは、「管理」と訳されますが、「経営」という意味もあります。この用語からも分かる通り、管理会計は、会社経営者が会計数値を適切に管理することで、経営をより良くするために使われるものなのです。

ビジネスは意思決定の連続です。例えば、「広告宣伝にいくらお金を使うか?」「社員を何人採用すべきか?」「商品Aと商品B、どちらの販売を強化すべきか?」「業績不振な事業から撤退すべきか否か?」など、様々な選択が次から次へと迫られます。その意思決定を正しく行えるかどうかがビジネスの成功と失敗を分けると言っても過言ではありません。

その場の勘で何となく意思決定を行っている会社と、データ(会計数値)に基づき合理的に意思決定を行っている会社とでは、当然、成功確率は大きく異なります。

もちろん、ビジネスに“絶対”はありません。時には誤った意思決定を下して、大きな損害を被ってしまうこともあるでしょう。しかし、組織運営は合議制で行われますし、上場企業であれば外部株主との関係を良好に保ち続ける必要もあります。

データに基づく意思決定を繰り返し行うことで、意思決定のための判断材料が徐々に蓄積され、周囲からの賛同も得やすくなります。仮に、意思決定に明確な根拠(合理性)もなく、ヤマ勘で行っていたら、経営者としての資質が問われ、経営の責任問題にも発展します。

2. 管理会計の目的

企業は、永続的に売上・利益を伸ばし、より多くのキャッシュを獲得して企業価値を向上させることが求められます。では、そのためには何をすれば良いのでしょうか?

人は得てして、目の前のことばかり意識が向いてしまいます。例えば、新しい製品・サービスを開発する、営業をかけて顧客をどんどん増やす、コストを極限まで削減する、などです。

しかし、経営者が真っ先にやるべきは、自社の現状を客観的に把握することです。今の立ち位置や現状の経営課題を可視化することで、初めて打ち手を考えることができるのです。この作業がすっぽり抜け落ちてしまったら、どんな打ち手であっても効果が限られてしまいますし、場合によっては経営がかえって悪い方向に進んでしまう恐れもあります。

管理会計の目的は、経営者や管理者が、自社の経営をより良い方向に進めるために会計数値を活用することにあります。そのために、現状を把握し、将来の計画を立案し、その実行結果を振り返り、次の経営戦略を練る、というPDCAサイクルを回しているのです。

3. 管理会計の主な要素

管理会計には様々な手法がありますが、ここでは、「予算管理」「原価管理」「経営分析」「資金繰り管理」の4点についてお伝えします。

(1)予算管理

企業はあらかじめ経営目標を達成するために、経営方針や経営戦略に基づいて事業計画を立案し、それをもとに翌年度の売上や費用について予算を立てます。売上であれば商品別、顧客別など、費用であれば勘定科目別で予算編成を行います。通常は部門別に予算を分けて、それを月次展開します。そして、毎月の売上や費用の実績を照らし合わせて、進捗状況を管理します。もし予算と実績に大きな乖離がある場合、その原因を追究し、必要に応じて何らかの対策を講じます。

(2)原価管理

製品単位当たりの利益は、売値から製造原価を差し引いた金額です。製造プロセスに無駄な作業や仕損品があると、原価が増えて利益が少なくなってしまいます。

例えば、自動車1台当たりの部品はおよそ2万点あります。各部品のコストが100円増えただけで、利益の半分以上が吹き飛んでしまう計算になります。

そこで、あらかじめ基準となる標準原価を設定し、実際に発生した原価が標準原価を上回っていないかどうかをチェックします。仮に大きな原価差異があれば、その原因を調査したうえで、製造プロセスの見直しなどが行われます。

このように、当初想定した通りに製品を製造しているかどうかは、製造業にとっては非常に重要な問題です。もちろん、原価には、部品や原材料だけでなく、労務費や製造経費も含まれます。そのため、製造業に限らず、システム開発などのプロジェクト管理においても原価管理の考え方が応用されています。

(3)経営分析

経営分析は、各種経営指標を算出することで、主に安全性、収益性、成長性などを確認することを言います。

財務基盤に懸念がないかどうかを把握するために、自己資本比率や流動比率などの安全性の指標を使って客観的にチェックします。

また、収益性(稼ぐ力)があるかどうかを測るため、営業利益率の計算や、どのくらいの売上を達成したら黒字になるのか、という損益分岐点分析を行います。

さらに、会社が順調に成長しているかどうかを見るために、売上高成長率などの計算を行います。

これらは、同業他社との比較をすることで、業界内での優劣が把握でき、経営戦略を立案するのに有益な情報となります。

(4)資金繰り管理

会社は、たとえ利益が出ていたとしても、手元の資金が底をついたら倒産してしまいます。これがいわゆる黒字倒産です。黒字倒産にならないためにも、顧客からの入金、仕入先等への支払い、設備投資、税金の納付など、資金(キャッシュ)がどのタイミングでどのくらい増減するのかをあらかじめ予想し、必要があれば銀行からの借入れを行うなどして、手元資金が枯渇しないようコントロールする必要があります。

通常は、月次で資金繰り予定表を作成しますが、資金繰りが厳しい会社は日次で資金繰り予定表を作成・運用します。

管理会計の主な4要素

図:管理会計の主な4要素

4. 管理会計と財務会計の違い

企業会計には、管理会計のほかに財務会計があります。どちらも、企業の取引を会計数値に置き換えて、企業の実態を明らかにするものですが、両者は報告相手やその目的が異なります。

管理会計は、内部報告会計とも呼ばれ、主に社内の利害関係者(経営者や管理職など)向けに、経営意思決定を行うことを目的として使われるものです。社内予算や部門別損益計算書などが代表的な管理会計です。

管理会計はあくまで内部向けの会計なので、決められたルールはありません。予算との乖離がないかどうか、どのようにすればより多くの利益を獲得できるのか、商品別・事業別の業績を把握したうえで、次にどのような打ち手を取るべきなのか、などの経営意思決定のために、各社が目的に応じて会計数値を駆使しているのです。

これに対して、財務会計は、外部報告会計とも呼ばれ、主に社外の利害関係者(株主や債権者など)向けに会社の実態を伝えることを目的として使われるものです。外部公表用の財務諸表(貸借対照表や損益計算書など)が代表的な財務会計となります。

財務会計は、外部向けであることから、統一的なルールの下で運用することが求められます。そのため、会計基準に従って取引を記録して、決められた様式に沿って財務諸表を作成しなければなりません。

管理会計と財務会計の違い

図:管理会計と財務会計の違い

5. 管理会計のメリット

管理会計は、財務会計と異なり、決められたルールや法的な義務もありません。したがって、管理会計を行うかどうかは会社の自由です。しかし、優良企業と呼ばれる会社は、ほぼ例外なく優れた管理会計の仕組みを活用しています。

具体的な管理会計の手法や、どこまで精緻に管理するのかは業種によって異なります。また、同じ業種であっても、その会社が置かれている現状や今後の目標などによっても、管理会計の内容は実に様々です。

財務会計が、決まりきったルールに従わざるを得ないのに対して、管理会計はある意味、クリエイティブな業務と言えます。数字の出し方一つで、経営上の重要な意思決定を左右することもあります。また、従業員のモチベーションを大幅に高めることもあれば、逆にやる気をそいでしまうこともあります。

このように、管理会計は経営の中枢を担う重要な分野であり、結果が会社の業績にダイレクトに反映される、実にやりがいのある仕事と言えます。

6. 管理会計の理解におすすめの本

ここからは、管理会計の内容理解に役立つおすすめの書籍を紹介します。

①『ケースで学ぶ管理会計』(同文舘出版)

トヨタ自動車、日本航空、サムスン電子、ソフトバンクなど、名だたる企業の事例を紹介しながら、マネジメントに役立つノウハウが多数収録されています。管理会計の理論と実践を同時に学ぶことができる一冊です。

②『今から始める・見直す 管理会計の仕組みと実務がわかる本』(中央経済社)

管理会計担当者が、現場レベルで実践するための手法が記載されています。予算管理のためのExcelフォーマット例や、他部署から情報収集するためのコミュニケーション手法、経営陣に管理会計資料を提出する際の留意点など、現場で活かせるノウハウが豊富に載っています。

7. 管理会計を実現するための方法

管理会計を実現するには、会計データの収集・加工がカギを握ります。データ量がそれほど多くなく、管理する数値が多少粗くてもいいのなら、Excelを活用するのをおすすめします。Excelであれば実質コストもかからず、運用中に細かな修正をその都度することも容易にできるからです。

しかし、会計データが膨大にあり、より精緻に、よりスピーディに管理会計を実践するには、Excelでは限界があるため、管理会計システムの導入が必要になります。規模や目的に応じてそれなりのコストが発生しますが、一定規模以上の企業であればシステム活用は必須と言えるでしょう。

8. ProActiveの管理会計システム

SCSKのERP「ProActive」では、財務会計に加えて管理会計も用意しています。予算と実績の対比をリアルタイムに把握でき、企業全体、グループ企業、部門、プロジェクト、勘定科目に加え、その他各種セグメント別の管理が可能です。また、期間別・会社別・セグメント別のB/S(貸借対照表)、P/L(損益計算書)やグループ企業別の豊富な管理帳票を標準装備し、多面的なアウトプットで「マネジメント・アプローチ」を支援。これにより、経営状態を全体・個別に診断することができます。

9. まとめ

管理会計によって、事業別、部門別、サービス別、製品別などに情報をまとめ、分析していくことが可能になります。これにより、財務諸表上では見えていなかった、サービス別・製品別の利益状況や、債権の回収状況など、企業が直面している問題が明らかになります。ここで得られたデータを基にした意思決定により、次なるアクションや改善策、会社の方向性などが見てくるはずです。

公認会計士 川口 宏之

公認会計士
https://kawaguchihiroyuki.com/
川口 宏之

2000年より、国内大手監査法人である監査法人トーマツにて、主に上場企業の会計監査業務に従事。その後、証券会社、ITベンチャー企業の取締役兼CFOを経て、会計専門のコンサルタントに転身。現在は、会計を分かりやすく伝える研修・セミナー講師として活動する。著書に、『決算書を読む技術』(かんき出版)『いちばんやさしい会計の教本』(インプレス)などがある。『週刊税務通信』や『プレジデント』などの連載・寄稿も多数あり。

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