コラム

BPaaSとは:BPOとの違いや日本における市場規模、活用事例について解説
人手不足解消や業務効率化、コスト削減を目指す企業にとって、アウトソーシングおよびBPO(Business Process Outsourcing)は欠かせない選択肢となっています。しかし、企業を取り巻く環境変化や働き方の多様化などを背景に、SaaS(Software as a Service)の普及や生成AIなどの最新テクノロジーの進化が続く現在、人的リソースを主軸とした従来のBPOでは柔軟性に課題があるのも事実です。
そこで注目されているのが、BPOとSaaSを掛け合わせた新しいビジネスモデルであるBPaaS(Business Process as a Service)です。
BPaaSは、2009年に外資系コンサルティング企業によって定義づけられた概念とされています。業務プロセスの一部を外部委託する点では従来のBPOと同じですが、クラウドサービスを活用しながらデータやノウハウを集約・蓄積できるなどの特徴があります。
BPaaS提供事業者を選ぶ際には、顧客のニーズやビジネス環境の変化に合わせてサービス内容を柔軟に変化させる能力があるか、またサービスの価値を最大化できるかを見極めることが重要な比較ポイントの一つです。
SaaSなどのクラウドサービスを活用しながら、自社に最適な業務プロセスを構築できるBPaaSは、人手不足解消や業務効率化、コスト削減を目指す企業にとって、今後ますます重要な選択肢の一つとなることが予想されます。
この記事では、BPaaSの概要や特徴、市場の動向・活用事例について詳しく解説します。
目次
- 1 BPaaS(ビーパース)とは
- (1)BPaaSとBPOの違い
- (2)BPaaSとSaaSの違い
- 2 BPaaSの市場規模
- 3 BPaaSが注目されている背景
- (1)SaaSの普及と発展
- (2)各業界の人材の不足
- (3)ビジネス環境の変化に適応するためのスピード感と柔軟性の追求
- 4 BPaaSを導入するメリット
- (1)スケーラビリティが高い
- (2)コストを削減できる
- (3)業務効率が改善できる
- (4)社員がコア業務に専念できる
- 5 BPO/BPaaS活用事例
- (1)業務量、業務コストの削減
- (2)業務量の削減、人事関連業務の一元管理
- 6 BPaaS導入時の注意点
- (1)セキュリティリスクが高まる
- (2)ベンダーロックインになる可能性がある
- (3)既存システムと連携できない可能性がある
- 7 BPaaSの今後の展望
- 8 まとめ
1. BPaaS(ビーパース)とは
BPaaS(ビーパース)は「Business Process as a Service」の略で、従来のBPOとSaaSの要素を組み合わせたビジネスモデルのことを指します。これは、業務プロセスの一部を外部企業にアウトソーシングし、クラウドサービスを活用しながら自社に最適なビジネスプロセスを構築し、人手不足解消や業務効率化、コスト削減などを図るものです。
BPaaSの主な特徴は次のとおりです。
BPaaSはSaaSと組み合わせることで効率性が高く、SaaS機能の最大活用や複数SaaSとの連携を構築しながら、専門性の高い人材に丸ごと請け負ってもらえる手段として注目されています。
(1)BPaaSとBPOの違い
BPaaS(Business Process as a Service)とBPO(Business Process Outsourcing)は、どちらも業務プロセスを外部に委託するサービスです。しかし、サービスの提供方法や形態に違いがあります。
BPaaSは、クラウドを活用して業務プロセスを効率化し、システムと人材を組み合わせてサービスを提供します。そのため柔軟性が高く、コスト効率も良いのが特徴です。ただし、単にシステムと人材が揃っていれば良いという話ではありません。BPaaSを導入する企業にとって“最適なシステム・SaaS”と、それらを活用できる知識・経験を持つ人材が必要です。
人材を委託して直接業務を行うという点ではBPaaSもBPOも同じですが、BPOは人的リソースの活用が中心となります。サービスによっては、業務の指示や管理は発注元の責任となるケースも見られます。
(2)BPaaSとSaaSの違い
BPaaS(Business Process as a Service)とSaaS(Software as a Service)は、どちらもクラウド技術を活用したサービスです。しかし、サービスの提供内容に違いがあります。
BPaaSは、SaaSの機能を活用しながら、業務プロセス全体を最適化することを目的としたサービスです。 ソフトウェアに加えて、業務プロセスそのものを外部に委託し、標準化・自動化を推進できる点が特徴です。
一方、SaaSは特定のソフトウェアの機能をクラウド上で提供し、企業の一部業務を効率化することを目的としています。
2. BPaaSの市場規模
BPaaS市場は2023年に約633億ドルと評価され、2028年までには929億ドルに達する見込みです。これは年間平均成長率(CAGR)8.0%での成長を意味します。
さらに2032年には市場規模が1,328億ドルに拡大するとの予測もあります。
【日本と海外の比較】
BPaaS市場はグローバルに急成長しています。クラウド技術の普及やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、今後も継続的な成長が見込めるでしょう。
3. BPaaSが注目されている背景
BPaaSが注目されている背景には、次のような理由が考えられます。
- • SaaSの普及と発展
- • 各業界の人材の不足
- • ビジネス環境の変化に適応するためのスピード感と柔軟性の追求
(1)SaaSの普及と発展
BPaaSが近年注目を集めている背景には、SaaSの普及と発展が大きく関係しています。
SaaSの普及は、インターネット技術の発展によって加速しました。情報収集や分析・マーケティングなどの一連の企業活動をクラウド上で一元化できるようになりつつあります。このようなSaaSの発展により、企業はITインフラを柔軟に利用できるようになりました。
クラウド技術が普及することで従来のBPOよりも幅広い業務を外部委託できるようになり、BPaaSのようなサービスの実現が可能になったのです。
(2)各業界の人材の不足
BPaaSが注目されている背景には、深刻化する人材不足の問題があります。
なかでも、経理部門は専門性の高さから人材確保が難しく、業務の属人化やブラックボックス化が深刻になっています。
経理部門には専門的な知識が必要であるため、人材育成に時間がかかります。しかし、社員を教育する時間の確保が難しく、経理人材は補充が難しい状況にあるのが現状です。また、経理部門には「管理機能」だけでなく、財務データなどの分析に通じた戦略の立案・推進で企業価値向上に貢献するなどの「企画機能」との両立が期待されている背景もあり、適材適所の実現が難しく人材不足を加速させています。
このような状況下で、BPaaSは業務プロセスと人的リソースの最適化を図ることができ、経理部門の人材不足解消に役立つと期待されているのです。
(3)ビジネス環境の変化に適応するためのスピード感と柔軟性の追求
近年、企業は業務効率の向上やビジネスモデルの変革が求められており、DXを加速させることでスピード感と柔軟性を持ってビジネス環境の変化への対応を目指しています。
BPaaSは、次のような理由からビジネス環境の急激な変化にも対応できると期待されています。
4. BPaaSを導入するメリット
BPaaSを導入するメリットは、主に4つあります。
- • スケーラビリティが高い
- • コストを削減できる
- • 業務の効率化を図ることができる
- • 社員がコア業務に専念できる
それでは具体的に見ていきましょう。
(1)スケーラビリティが高い
BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とは、経理や人事などのバックオフィス業務や、自社に専門的なノウハウが不足している業務を、外部の専門企業に委託することです。
BPaaSのメリットの一つは、柔軟なスケーラビリティを持つことです。スケーラビリティとは、システムやサービスが、処理能力や容量などの要求の変化に対して、柔軟に拡大または縮小できる能力のことを指します。たとえば、繁忙期には処理能力を増強し、閑散期には縮小することで、常に最適なリソース配分を実現できます。
また、スケーラビリティが高いことにより、新サービスの立ち上げや突発的な需要の増加にも、すぐにシステムを拡張して対応可能です。
(2)コストを削減できる
BPaaSを導入することでコストを大幅に削減可能です。コストを削減できる主な理由は次のとおりです。
このように、最小限のリソースで高いパフォーマンスを得られるようになり、結果として企業全体のコスト削減につながります。
(3)業務の効率化を図ることができる
BPaaSは業務効率改善にも役立ちます。主な理由は次のとおりです。
BPaaSを活用することで、専門企業のノウハウとシステムを活かした業務効率化の実現が可能です。業務プロセスの最適化や自動化・データ活用により、企業は生産性や競争力の向上が期待できます。
(4)社員がコア業務に専念できる
BPaaSを導入することで、社員はルーチン業務から解放され、より付加価値の高い業務(コア業務)に集中できるようになります。主な理由は次のとおりです。
BPaaSを活用することで、社員はノンコア業務から解放され、より付加価値の高い業務に専念できるようになります。これにより、社員それぞれが個々の能力を最大限に発揮することができるようになるため、組織全体の生産性向上が期待されます。
5. BPO/BPaaS活用事例
BPaaSの活用事例を2つ紹介します。
- • 業務量、業務コストの削減
- • 業務量の削減、人事関連業務の一元管理
BPaaSの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
(1)業務量、業務コストの削減
中部テレコミュニケーション株式会社は、人事給与BPOサービスを活用し、業務量を50%削減しました。業務の複雑化や法令改正対応などのシステムメンテナンスに課題を抱えていましたが、定型業務をアウトソースすることで、コア業務に集中できるようになりました。また、スキル継承がしにくい専門業務の品質も保てるようになりました。さらに、社会保険の手続きや年末調整の業務全般、住民税に関する処理なども対応してもらえるので、人事給与の担当者の負担は大きく軽減されています。
(2)業務量の削減、人事関連業務の一元管理
シーバイエス株式会社は、SaaSによるBPOサービスを活用して人事・給与業務をアウトソーシングし、効率化を実現しました。以前は業務ごとに複数社に依頼していたため、データ管理が煩雑でした。しかし、同等以下のコストでアウトソース先を一社に集約し、人事データベースによる一元管理を実現しました。この結果、約1.5人相当の工数削減を実現。また、入力や確認といった単純作業が減り、人事が本来力を注ぐべき業務に集中できるようになりました。
6. BPaaS導入時の注意点
BPaaSを導入することにより業務効率化やコスト削減などが期待できますが、注意しなければならない点もあります。
- • セキュリティリスクが高まる
- • ベンダーロックインになる可能性がある
- • 社員からの反発が起こる可能性がある
BPaaSは、メリットや注意点を考慮して導入を検討するようにしましょう。
(1)セキュリティリスクが高まる
BPaaSを活用することにより、セキュリティリスクが高まるおそれがあります。一例として、次のようなことが挙げられます。
【BPaaSを活用することによるセキュリティリスク(一例)】
• 情報漏洩
- BPaaSでは特定のデータを外部企業が扱うことになるため、第三者への情報漏洩のリスクがある
• 不正アクセス
- BPaaSはインターネットを利用したサービスであるが故に、外部から不正アクセスを受けるリスクがある
このようなセキュリティリスクを回避するためには、自社のセキュリティ対策を十分に行うほか、サービス提供会社のセキュリティ対策も把握しておくことが重要です。
(2)ベンダーロックインになる可能性がある
ベンダーロックインとは、一つの企業(ベンダー)の製品やサービスに依存してしまい、他への切り替えが難しくなる状態のことをいいます。BPaaSは業務プロセスをクラウド上で行うため、サービスの提供の仕方によってはベンダーロックインに陥る可能性があります。
具体的には、独自性の高いシステムや技術に依存したBPaaSを利用した場合や、自社の業務プロセスに合わせて高度にカスタマイズされたBPaaSを利用する場合、また大量のデータをBPaaSベンダーのシステムに蓄積している場合などはベンダーロックインのリスクが高まります。
ベンダーロックインの回避には、次のような対策を取るとよいでしょう。
【ベンダーロックインを回避するための対策】
- • 複数のベンダーを組み合わせてシステムを構築する
- • オープンスタンダード(特定のベンダーに依存しない標準規格)にもとづいた技術やプロトコルを活用する
- • データ移行を容易にするための計画を事前に立てておく
- • ベンダーとの契約時に、解約や移行に関する条件を明確にしておく
また、自社SaaSを持たない提供企業のBPaaSを導入する場合、ベンダーロックインとなる可能性は低いと言えます。
(3)社員からの反発が起こる可能性がある
BPaaSを導入することにより、社員からの反発がある可能性があります。理由は次のとおりです。
【BPaaSを導入することによる社員からの反発が起こる可能性の理由】
• 業務プロセス変更への抵抗
- BPaaSを導入すると新しいシステムや手順への適応が求められ、事業部社員にも手順フローの変更などの対応を強いることになったり、新しいフローとなることで一時的なミスが発生しやすい環境になったりするなど、社員からの反発が起こるおそれがある
• BPaaSへの理解不足
- BPaaSを導入するメリットを正しく認識していないため、当事者意識やモチベーションが生まれない
社員がBPaaSを認識していない状態で導入しても、新システムの使い方を覚えたり、導入に伴う業務の引継ぎが発生したりするなど使いこなせるまでに時間を要し、スムーズに運用されないおそれがあります。そのため、現在の業務プロセスの課題を洗い出し、導入目的やメリットを社員としっかり共有することが、BPaaS導入のポイントです。
7. BPaaSの今後の展望
これまでは既存業務へのスイッチングコストが低い中小企業中心だったBPaaS導入が、今後は大企業にも広がると考えられています。手頃なコストで高度な技術が利用可能になり、業務効率化やデータ分析の高度化を目指す企業が利用しやすくなったからです。
BPaaSはAIやIoTと容易に連携できる特性を持っています。連携することで、プロセスの自動化やリアルタイムなデータ処理が実現しやすくなります。その結果、企業はさらなる生産性向上を実現することができるでしょう。
8. まとめ
近年、企業を取り巻く環境は急速に変化し、業務効率化とコスト削減の両立が求められています。BPaaSは、従来のBPOとSaaSの長所を組み合わせた新しいソリューションとして注目を集めています。SaaSの活用により柔軟な運用が可能で、人材不足の解消や業務効率化に繋がると期待されています。
BPaaSには、コスト削減やスケーラビリティの向上といったメリットがある一方で、セキュリティリスクやベンダーロックインの可能性がある点には注意が必要です。これらのリスクを適切に管理しながらBPaaSを有効に活用していきましょう。

メリービズ株式会社(https://merrybiz.co.jp/)
代表取締役
山室 佑太郎
1991年生まれ、長崎県長崎市出身。東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科在学中より、エムスリー株式会社にて製薬会社へのマーケティング支援に従事。その後、総合系コンサルティングファームを経て、2015年メリービズ株式会社へ参画。経理/会計業務のオンラインアウトソーシングサービス『バーチャル経理アシスタント』の立ち上げを担当。2016年10月より同取締役に就任。COOとして、事業戦略の立案推進などに従事。2022年2月より代表取締役に就任。
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