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2023.04.18
人事労務トピックス

「男女の賃金差異」公表義務化について、社労士が解説

2022年7月8日の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、「女性活躍推進法」とします。)の制度改正により、常時雇用する労働者が301人以上の事業主を対象として、「男女の賃金差異」が情報公表の必須項目になりました。
今回の記事では、人事労務のエキスパートとしてさまざまなサービスを全国に展開する小林労務が、「男女の賃金差異」公表義務化、ならびに公表義務化にあたり企業が行うべき諸事項について解説します。

1. 「男女の賃金差異」公表義務化とは

(1)「男女の賃金差異」公表義務化とは

公表義務とは、女性活躍推進法の改正に基づき、2022年7月8日から常時雇用労働者301人以上の事業主を対象に、男女間賃金格差の開示が義務付けられたものです。
女性活躍推進法とは、2016年4月1日に施行された法律です。“女性の職業生活における活躍を重点的に推進し、男女の人権が尊重され、かつ、社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力のある社会を実現すること”を目的とし、“女性の個性と能力が十分に発揮できるように職業生活と家庭生活の円滑かつ継続的な両立”が可能となることを基本原則として定めています。

また、この法律の実効性を確保するために、労働者数が101人以上の企業には、「一般事業主行動計画の策定等」として「女性の活躍状況の把握と課題の分析」や、それらを踏まえた「数値目標と取り組み内容を表した行動計画の策定・社内通知」「都道府県労働局への届け出」「女性の活躍に関する情報の外部公表」等を義務付けています。

(2)制度改正の内容について

2022年7月8日からは、常時雇用の労働者数301人以上の企業に男女の賃金の差異の項目が追加されたことにより、公表義務の範囲が拡大しました。
なお、「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の公表等における解釈事項について(法第20条・省令第19条等関係)」(厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課、2022年12月28日改訂)によると、公表された情報に誤りがあった場合や公表義務があるにもかかわらず公表しなかった場合に、労働局は当該一般事業主に対して報告を求め、又は助言、指導もしくは勧告をすることができるとされています。

また、勧告を受けた事業主が従わなかったときは、その旨を公表することができるとされています。なお、情報の公表を行わなかったことそのものに関する罰則は設けられていませんが、労働局から求められた報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処せられるため注意が必要です。

(3) 義務化された背景

上述において、「男女の賃金差異」公表義務化について紹介しましたが、なぜ、男女の賃金格差の公開が義務付けられたのか、その背景についてみていきたいと思います。
労働者が性別により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備することは重要な課題であるとし、男女雇用機会均等法の施行により男女均等取扱いの法的枠組みは整備されました。そして、法整備の進展に伴い、企業において女性の職域が拡大し、管理職に占める女性の割合が上昇傾向にあるなど女性の活躍が進んでいます。
しかし、他の先進国と比べると日本における男女間賃金格差は、依然として大きい状況にあります。

こうした男女間賃金格差の縮小を図るため、2022年7月8日に女性活躍推進法に関する制度改正が行われました。その結果、一般事業主行動計画の一部として、情報公表項目に「男女の賃金の差異」を追加すると共に、常時雇用労働者301人以上の事業主に対して、当該項目の公表が義務付けられることとなりました。

2. 「男女の賃金差異」公表義務化にあたり企業が行うべきこと

(1)対応事項

企業が対応すべきことは「ポジティブ・アクション」の推進と「情報公表への準備」が考えられます。
「情報公表への準備」は、(2)以降で詳細を紹介します。

男女間の賃金格差を是正するためには、性別問わず誰もが活躍できる場を広げるための取り組みである「ポジティブ・アクション」も重要な要素となるでしょう。
「ポジティブ・アクション」とは、男女間における雇用に関する均等な機会及び、待遇確保への支障となる事情を改善することを目的として、女性労働者に対して行う措置をいいます。たとえば、女性のキャリア形成上、出産・育児が不利益にならない制度を検討することや、女性の管理職を増やす等の取り組みがあげられます。

(2)情報公表への準備

「情報公表への準備」として、男女の賃金格差を算出することがあげられます。男女の賃金差異は、男性の賃金に対して、女性の賃金の割合をパーセントで示します。そして、男女別を前提として、「全労働者」・「正規労働者」・「非正規労働者」の3区分に分けた公表が必要となります。

(3)公表時期と公表イメージ

2022年7月8日以降、最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要があります。例えば、3月末に事業年度が終了する場合、翌年の6月末までに実績を公表しなければなりません。
公表例は次の通りとなります。公表は、厚生労働省が運営しているデータベースや自社のホームページでも可能です。

(4)人事・給与情報の管理

2. (2)で男女別の賃金の集計について触れましたが、賃金は「賃金台帳」や「源泉徴収簿」などをもとに算出します。さらに、労働者を「男性」・「女性」、また、「正規労働者」・「非正規労働者」の4種類に分類したうえで、4種類の労働者それぞれについて、事業年度の総賃金と人員数を算出することが求められます。

今回の改正は、301人以上の企業が対象ですが、今後、300人以下の企業も対象となる可能性があります。上述の通り、男女別の賃金の算出には事務的な負担や、賃金データや人員の算出に時間を要することが想定されます。

今後を見据えて、自社の状況把握を適切に効率よく行うために、人事給与システムの導入をご検討されてはいかがでしょうか。

3. おわりに

近年は、同一労働同一賃金、男女の賃金格差など「賃金」に関する待遇が注目を集めています。今回、男女の賃金格差の開示が義務となったことで、不合理な性差別はもとより、男女の賃金格差をそのままにしている企業はブラック企業と印象付けられかねない懸念が残ります。
一方で、女性活躍を推進する企業が社会から高い評価を得られる時代へと変化しています。改めて、女性活躍推進法と取り組むべき対応について知識を深め、“男女の人権が尊重されていること”、“女性の職業生活と家庭生活の両立”といった観点から、自社の状況把握と課題の改善に取り組むことが肝要です。

株式会社小林労務 上村 美由紀氏

株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀

2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。

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