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2023.08.23
人事労務トピックス

【2024年(令和6年)4月施行】労働条件明示のルール変更について、社労士が解説

労働基準法では、労働契約の締結時と更新時に、労働者に対して、労働条件の明示が義務付けられています。その労働条件明示のルールが、2024年4月から改正される予定です。
今回の記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、労働条件明示のルールについて、詳しく解説します。

1. 労働条件の明示とは

労働基準法では、労働条件の明示について「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と規定しています。

(1)労働条件明示のルール

労働条件には労働者に対して絶対に明示しなければならない労働条件と、定めがある場合に明示しなければならない労働条件があります。

絶対的明示事項(必ず明示しなければならないもの)

労働契約の期間に関する事項
期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
退職に関する事項(解雇の事由を含む)

相対的明示事項(定めがある場合に明示しなければならないもの)

退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与などに関する事項
労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
安全及び衛生に関する事項
職業訓練に関する事項
災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
表彰及び制裁に関する事項
休職に関する事項

絶対的明示事項のうち、⑤の昇給に関する事項を除いた事項については、書面を交付することによって明示しなければなりません。しかし、労働者が希望した場合は、FAXや電子メール、SNS等でも明示することができます。

(2)改正の背景

今回、改正が行われる背景として2つのポイントがあります。
1つ目は、使用者・労働者ともに無期転換ルールの認知度に課題があり、更なる周知が必要であることです。

無期転換ルールとは、同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、契約社員やアルバイトなどからの申し込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。

無期転換ルールについては、有期契約労働者の雇用安定に一定の効果が見られていますが、まだ認知度に課題があります。
労働者が無期転換ルールを理解した上で、申し込みを判断できるよう、無期転換申込権が発生する更新時に無期転換申込機会と無期転換後の労働条件について、使用者から個々の労働者へ通知することの義務付けが必要とされました。

2つ目は、職務、勤務地または労働時間を限定した多様な正社員については、ワークライフバランスの確保や優秀な人材の確保・企業への定着の観点から労働契約関係の明確化が必要であることです。

現状、労働条件の明示は、雇入れ時に就業の場所や従事すべき業務を明示すれば問題ないとされており、就業場所や業務内容の変更範囲までは求められていません。
しかし、予見可能性の向上などの観点から、多様な正社員に限らず労働者全般について、労働条件の明示の対象に就業場所や業務の変更の範囲を追加することとなりました。

2. 2024年4月からの労働条件明示の変更点とポイント

変更点は以下の3つです。

  • 就業場所・業務の変更範囲の明示
  • 有期労働契約の契約更新上限の明示
  • 無期転換の申込機会と無期転換後の労働条件の明示

それぞれ詳しく説明していきます。

  • 就業場所・業務の変更範囲の明示について
    労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに、雇入れ直後の就業場所と業務内容に加え、変更の範囲についても明示が必要となります。これは、将来の配置転換などによって変更の可能性がある就業場所・業務内容の範囲を示すことが求められることになります。
  • 有期労働契約の契約更新上限の明示について
    有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、通算契約期間や更新回数の上限を設けている場合には上限を設けている旨と、その内容を明示しなければなりません。

    上限を設けていない場合であっても更新上限を新たに設ける場合や、短縮するような場合には、当該理由を有期契約労働者にあらかじめ説明することが必要となります。
  • 無期転換の申込機会と無期転換後の労働条件の明示について
    有期労働契約が反復更新されて契約期間が通算5年を超えた場合、使用者が有期契約労働者に対して、無期転換の申し込みができることを説明する必要があります。
    今まで周知する義務はありませんでしたが、無期転換申込機会が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件の明示が必要となります。

    また、無期転換後の賃金などの労働条件を決定するにあたり、正社員や無期雇用フルタイム労働者との均衡を考慮した事項(業務内容・責任の程度・異動の有無・範囲など)について、有期契約労働者に説明するよう努めなければなりません。
明示のタイミング 改正予定の明示事項
すべての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時 就業場所・業務の変更の範囲
有期労働契約の締結時と更新時 通算契約期間または更新回数上限の有無と内容
無期転換申込機会が発生する契約の更新時 無期転換申込機会と無期転換後の労働条件

3. よくある質問

就業場所の範囲はどこまで明示すれば良いか。
就業場所については、雇入れ直後と雇入れ後で変更する可能性がある場合、その範囲を明記する必要があります。
会社が移転した場合など、全従業員に対して、改めて労働条件を明示する必要はあるか。
就業の場所に、勤務地を限定して記載している場合は、労働条件を再度明示する必要があります。

4. おわりに

就業場所や業務内容の変更を伴う配置転換は、労使トラブルに発展するケースが多いと考えられます。就業場所や業務内容が労働者のキャリア形成に関わるものであるため、今後は、その可能性について労働者に明示していくことが重要になるでしょう。

株式会社小林労務 上村 美由紀氏

株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀

2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2016年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。

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