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コラム

2020.12.14 ♦トピックス♦

コンサルタントコラム⑥
失敗するM&AとグループIT投資の共通点

投資理論の基本

投資の話題なので、まず、証券投資理論の一つである「ポートフォリオ理論」をご紹介したい。理論と聞くと、非常に難しい印象を受けるかもしれないが、基本原理はいたってシンプルである。

ポートフォリオ理論は、「投資家はリスクを回避したがる」という前提を置いている。少し噛み砕いて表現すると、「同じリターンが期待される投資対象が二つあった場合、リスクが少ないほうを選ぶ」ということなのだが、さらに理解を深めていただくために、具体的な例を二つ提示したい。

例1 子供のお小遣い

親が子供にお小遣いを渡すとき、子供に二つの提案を用意したとする。一つ目は、親の手のどちらか一方で300円を握り、もう一方で100円を握り、子供がどちらかの手を選ぶというもの。二つ目は、親はそれぞれの手に200円を握る(つまり、絶対に200円貰える)というもの。一つ目のやり方で300円を貰える確率は50%で、100円を貰える確率は50%である。二つ目のやり方は100%の確率で200円がもらえる。感覚的にお分かりだと思うので細かい計算は割愛させていただくが、一つ目も二つ目も期待されるリターンは同じ200円である。ところが、リスクについては、二つ目の方はゼロであるが、一つ目の方は高いと感じていただけるだろう(リスクは標準偏差で示され、二つ目のリスク値は100円である)。

「投資家はリスクを回避したがる」という前提に基づくポートフォリオ理論の世界では、子供は二つ目のやり方を選ぶことになる。

例2 投資先の良い組合せ

次は、投資先の良い組み合わせ例である。二つの投資先があって、「一定期間経過後のリターンが同じであり、かつ、期間中の値動きが異なる(一方が上昇したときにもう一方が必ず下降している)。」というケースは、リスクが相殺されて、安定したリターンが得られる投資になる。リスクを回避したがる投資家はこの組み合わせを好むという理屈だ。

値動きが異なることを、統計学を基にして発展した金融工学では、「負の相関」と表記する。反対に、値動きが一緒なのは、「正の相関」である。一般的に「分散投資」が推奨されるが、やみくもに投資先を分散しておけば良いという話ではなく、「投資先の組み合わせが、負の相関にあって、それぞれプラスのリターンが期待される」というところがポイントである。

なぜ投資で失敗するか?

理屈はお分かりいただけたと思うが、これが実際の投資の世界になると、この通りにはならない。損を取り戻そうと一発逆転を狙ったり、自分だけが特別な投資情報を得たと思ったりして、割りの合わないハイリスク・ハイリターンの投資に手を出してしまうことは、往々にして起こり得る。また、投資額が投資家にとって少額の場合、遊び半分でハイリスク・ハイリターンに投資することもあるだろう。当選確率が天文学的に低いと知ってはいても、年末ジャンボ宝くじを買ったことのある人は少なからずいるはずだ。

こうした計画外の判断を防ぐため、投資信託などの他者の資産を預かって運用する機関投資家は、「投資目的(どれだけのリターンを狙うか)」や「投資限度額(あるいは損失発生予想額)」を定め、それらを遵守した運用となっているかを組織的に監視している。

事業投資戦略のパターン

事業会社によるM&Aや大型の新規事業投資(以降、「事業投資」という。)では、ポートフォリオ理論の前提である「リスク回避」はさほど重視されず、既存事業とのシナジー効果を期待した、リターン向上に重きを置いた事業投資戦略が主流になる。

リターン向上を重視した事業投資戦略は3つに分類できる。

一つ目は、既存事業へ追加投資する事業投資戦略である。同業者の既存事業を買収することができれば川上の産業には購買力を活かしたコストダウンを要請しやすくなるし、川下の産業には値上げ要求をしやすくなるといった利点を享受できる。成長期や成熟期にあるマーケットでシェアを引き上げたい場合に有効な戦略である。留意点は、社員の給与水準や福利厚生が違う場合、低い方に合わせるのは難しいので、結果、販管費や労務費の支出割合が増えやすくなることである。

二つ目は、既存顧客に提供可能な異業種の製品を調達する事業投資戦略である。鉄道会社が駅に商業施設を開発したり、携帯会社が決済サービスを提供したりする例があてはまる。この戦略は既存事業での顧客囲い込みを目的としていることが多い。既存製品やサービスの差別化が難しい状況で、自社のシェアや売上を引き上げたい場合に有効な戦略である。

三つ目は、既存事業のリソースや製品を活かしながら異業種マーケットに進出する事業投資戦略である。カメラのフイルムメーカーが画像処理の技術を活かして医療機器を製造したり、個人消費者向けECサイトが潤沢なコンピュータ資源を使って法人向けクラウドサービスを始めたり、釣糸メーカーが樹脂加工の技術を活かしてベッドを製造したりする例があてはまる。この戦略では既存事業よりも収益性が高いケースが多く観察できる。既存マーケットの成長性が低く、自社のシェア向上も難しい場合に有効な戦略である。

もちろん、リターン向上を重視せずリスクを回避したいならば、既存事業とは「負の相関」にある異業種事業への投資が有効であり、これが四つ目の事業投資戦略になる。子供向け出版を本業にしている企業が、既存事業は衰退すると判断し、老人ホーム運営企業などの異業種に投資するケースが実際にある。このケースでは、既存事業とは事業内容が違うので、M&Aで事業運営ノウハウごと手に入れつつ、買収先を別会社のまま存続させることが多い。

長期的な成長戦略の重要性

一つの投資案件に多額の資金を投じることも多い事業投資の場合、一度決めた投資判断の方向転換は容易ではない。したがって事業投資では、投資の基本である「長期投資」の原則を、キャピタルゲインが目的の株式投資よりも大事にしなければならないと言えるだろう。

同様に、IT基盤も容易に方向転換できるものではないので、長期の利用期間を想定した投資判断が大事になる。

事業投資でもIT投資でも、ポートフォリオを構築する際は、「投資目的(長期的な成長戦略)」「投資限度額(予算)」「長期投資(長期の利用期間)」といった観点で一定の基準を作っておかなければ、いずれ足並みが乱れることになる。「どこに投資しようか?」や「IT基盤を何にしようか?」を考えるまえに、「投資目的(長期的な成長戦略)」について議論を深めることをお勧めしたい。

もし、投資目的が、既存マーケット(あるいは既存顧客)との関係をより強めようとするものであれば、事業投資戦略のパターンは一つ目の「既存事業への追加投資」と二つ目の「既存顧客に異業種製品を提供」が有力な候補となる。IT投資は、カスタマーエクスペリエンスを支えるIT基盤を重視するべきである。また、投資目的が、既存リソース(あるいは既存製品)との関係をより強めようとするものであれば、一つ目の「既存事業への追加投資」と三つ目の「既存リソースを活かした異業種マーケット進出」が有力な候補となる。この場合、IT投資はサプライネットワークやそれを支えるIT基盤の共通化を重視するべきである。そして、投資目的が、既存事業と関係のない異業種にチャレンジしようとするものであれば、四つ目の「異業種事業会社の買収」が有力な候補となる。この場合、IT基盤や社内規程などの組織インフラは、必要最低限の範囲で共通化するのが良いだろう。

M&A戦略とグループIT投資戦略を、企業の長期的な成長戦略と一致させないと、現場に対して非常に大きな負担を強いることになり、M&A実行前に想定した正のシナジー効果が得られないどころか、負のシナジー効果が表面化することになる。

業務やIT基盤の共通化とグループIT部門の関係

ITの利便性を高め、保守運用コストを抑制する「IT基盤の共通化」は、ITに関わる誰もが目標とするものだが、成し遂げることは非常に難しい。複数事業を営む企業グループでは、業務の種類が増えるので、それぞれの業務特性に合うIT基盤が求められる。また、ユーザー別に閲覧できる情報をコントロールしたいとか、レスポンスを向上させたいという理由で、IT基盤を分けるケースも出てくる。このようなとき、ITをさまざまな側面から捉え直し、「どの側面を共通化すべきか?」を考え抜く必要がある。

さらに、グループ経営の観点から目指すべき共通化は、売上金の入金管理、購買品の支払管理といった「業務」を、IT基盤とセットでビジネス部門に提供することではないだろうか。業務代行の仕組みには、アウトソーシング、シェアードサービスだけでなく、RPAやAI活用による自動化も含めたい。ここで高度化された業務プロセスの仕組みを、ビジネス部門が手掛けるイノベーティブな業務にも横展開するサイクルまで作れれば理想だ。

グループ各社が行う様々な業務をいろいろな角度から捉え、ビジネス変革の対象とする業務領域を切り取り、それらに優先順位を付けていくのがグループIT投資戦略の要である。これらの旗振り役が、グループIT部門ではないだろうか。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 マネージャー 小山善隆

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
マネージャー
小山善隆

日本証券アナリスト協会 検定会員(CMA)、公認情報システム監査人(CISA)、経済産業省認定 ITストラテジスト。証券会社、シンクタンクを経て、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社に2015年入社。事業戦略立案、財務データ分析、IT導入を専門に活動。基幹システム刷新や業務変革といった組織を横断する課題に対し、政府系機関や金融機関にも助言している。

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