コラム

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2020.05.08
コンサルタントコラム

コンサルタントコラム①
基幹システム刷新前にIT部門が合意しておくべき3つのポイント

1. 新基幹システム稼働後にITを嫌いになるとき

新基幹システムの稼働後、IT部門に集まる問い合わせのメールや電話。画面が固まったとか、ログインパスワードが受け付けられないとか。これらの苦情であればまだましだ。技術的な考慮不足や運用ルールの周知不足ならば、仲間と力を合わせれば解決できる。ようやく普通に新システムが動くようになったあと、「前のが良かった」とか「誰が決めたんだ?」とか「あれはやらなかったのか?」とか言われたら、もう、ITを嫌いになるしかない。

ITを嫌いにならないために、基幹システム刷新を進める前にやるべきことは何か。

2. マスターデータの整備

ほとんどのERPパッケージは、データをトランザクションデータとマスターデータに分けて管理する。研修受講履歴や受注履歴など、活動が発生するたびに記録してゆく情報がトランザクションデータであり、社員情報や商品情報などトランザクションデータの中から再利用されやすいデータ項目を抜き出して事前に揃えておいたのがマスターデータである。

CFOが「人件費の推移をみたい」と言っても、人件費は販売費だの製造原価だの様々な勘定科目に散らばって計上される。親会社と子会社で勘定科目名が違うことも多い。こうなると人件費データはすぐには集まってこない。マスターデータは、データをスムーズに取り出すためのラベルの役割を持っている。全部署、全グループ会社で共有できるマスターデータを揃えることが理想だ。

基幹システムはデータを入れるための器である。新しく綺麗な器を用意してもデータが不揃いであれば何もならない。マスターデータの整備は各ユーザー部門が責任をもって行うべきだ。IT部門は、各ユーザー部門への対応依頼の際に、この仕事の重要性もきちんと伝えなければならない。マスターデータの整備なく新基幹システムの稼働を迎えると、操作に慣れた前システムと単純に比較されてしまい「前のが良かった」と言われかねない。

3. 指揮命令系統

広い業務範囲を対象に基幹システムを入れ替える場合、利害関係の調整は非常に難航する。製品選びの際にそれは顕著に表れ、あちらの部署にとってはあの製品が良いが、こちらの部署にとってはこの製品の方が良いといったことが多々ある。こういう状態になってから、IT部門が調整のために右往左往するのは精神的に参ってしまう。指揮命令系統に従って責任者がジャッジする仕組みを予め用意しておくべきだ。

この指揮命令系は、ERPパッケージ選定中や導入中だけでなく、新システム稼働後も継続する前提で、合意しておくべきだ。さらに、この指揮命令系統は、職務分掌を所管する部署が素案を作成し、経営層が承認しておくとなお良いだろう。

IT部門の責任感が強すぎると、業務ルールやシステム要件も良かれと思って決めてしまう。これをやってしまうと、「誰が決めたんだ?」とかの苦情がIT部門に来てしまう。それを防ぐ意味でも、指揮命令系統は守らなければならない。

4. 基幹システム刷新の目的

新システム稼働後に、「あれはやらなかったのか?」と痛いところを突かれるのは避けたい。よくある痛いところとしては、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)、コスト削減、情報セキュリティ対策、BCP(事業継続計画)、CRMやECとの他システム連携、グループでのIT標準化がある。

「あれはやらなかったのか?」と問われる前に、先手を打って「経営における優先順位は?」と経営層や経営企画に聞くほうがよい。ただし、この質問の次には、「各テーマを実施した際の概算コストは?」という質問がブーメランとなって戻ってくることは覚悟しておくべきだ。IT部門としては、さらに先手を打って、各テーマに対して真摯に取り組んでくれるERPパッケージベンダーや導入ベンダーとの相談を済ませておきたい。

5. 新基幹システム稼働後にITをさらに好きになるには?

経営層からの「基幹システム刷新を検討しろ!」という指示がIT部門に降りてくる。それをIT部門が生真面目に抱え込んでしまっては、いくら努力しても「前のが良かった」とか「誰が決めたんだ?」とか「あれはやらなかったのか?」とか言われてしまう。幅広いユーザー部門とコミュニケーションを深めることで、切り替え後に「ありがとう!」と言ってもらえるはずだ。そのときは、きっとITをさらに好きになっているだろう。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 マネージャー 小山善隆

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
マネージャー
小山善隆

日本証券アナリスト協会 検定会員(CMA)、公認情報システム監査人(CISA)、経済産業省認定 ITストラテジスト。証券会社、シンクタンクを経て、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社に2015年入社。事業戦略立案、財務データ分析、IT導入を専門に活動。基幹システム刷新や業務変革といった組織を横断する課題に対し、政府系機関や金融機関にも助言している。

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