コラム
労働保険の法改正について、社労士が解説
2021年10月11日に公開したコラムに引き続き、今回は労働保険の法改正について解説します。今年は、従業員に影響のある給付金についての改正がありました。人事・総務のご担当者様は、改正のポイントをしっかりと抑えましょう。
今回の記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、今年の労働保険の法改正ポイントについて解説します。
1. はじめに
今回取り上げる労働保険の法改正は、いずれも社会保険の法改正と関連した内容となっております。男性の育児休業取得率向上、65歳以上の高年齢労働者の雇用促進といった国の政策の背景を意識して、ポイントを一つずつ押えていきましょう。
2. 法改正ポイント① 出生時育児休業給付金の創設
【2022年10月1日施行】
育児・介護休業法の改正により、子の出生後8週間以内に4週間まで取得することが出来る「出生時育児休業(産後パパ育休)制度」が創設されます。それに伴い、出生時育児休業を取得した時に受給できる出生時育児休業給付金が生まれました。
育児休業給付金の支給要件並びに支給額は従来の育児休業給付金と同様ですが、申請方法に注意が必要です。育児休業を分割取得した場合には、1回にまとめての申請となることも覚えておきましょう。
3. 法改正ポイント② 雇用保険マルチジョブホルダー制度の新設
【2022年1月1日施行】
現状の雇用保険では、主たる事業所での1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ雇用の見込みが31日以上あること等の要件を満たすことで被保険者となることが出来ます。
雇用保険マルチジョブホルダー制度とは、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して下記要件を満たした場合に、特例的に雇用保険の被保険者となることができる制度です。
- 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること。
- 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
- 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること。
- 本人からハローワークに申出を行うこと。
また、当制度を利用する際の注意点として、下記のようなものがあります。
労働者側
- 本人の申出による任意加入制度であること。
- 加入は申出のあった日からであり、遡っての加入はできないこと。
- 加入後の取り扱いは通常の雇用保険と同様であり、任意脱退はできないこと。
- 3つ以上の事業所で就労する労働者の場合、要件を満たす2つの事業所を選択して届出を行うこと。
事業主側
- 事業主は労働者からの依頼に基づき、手続きに必要な証明を行う必要があること。
- マルチジョブホルダーの申出を行ったことを理由とした労働者の不利益な取り扱いを行うことは法律上禁止されていること。
- 労働者が雇用保険被保険者(マルチ高年齢被保険者)の資格を取得した日から、雇用保険料の納付義務が発生すること。
マルチジョブホルダー制度に該当する労働者はあまり多くはならないと見込まれてはおりますが、事業主・労働者双方に注意点が多数ありますので、今一度確認しておきましょう。
4. 法改正ポイント③ 高年齢雇用継続給付金の給付率縮小
【2025年4月1日施行】
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律による高年齢者雇用確保措置の進展等を鑑みて、高年齢雇用継続給付の給付率が縮小されることが決まりました。改正前は、60歳時点の賃金からの減少率に応じて最大15%が支給されておりましたが、改正により給付率が最大10%に縮小されます。なお、2025年3月31日までに60歳になっている方は、従前どおりの給付率で支給されます。
また、見直しに当たり、高年齢労働者の処遇改善に向けて先行して取り組む事業主への支援策や給付率縮小の緩和措置も講じられています。例えば、60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇改善に向けて、賃金規程または賃金テーブルの増額改定に取り組む事業主を対象とした、高年齢労働者処遇改善促進助成金が2021年4月1日に新設されました。助成金を活用し、高年齢者の雇用継続に努めましょう。
5. おわりに
今回取り上げた法改正は、いずれも対象となる労働者が限られるものですが、対象者への影響は非常に大きなものです。特に給付金に関わるところは、会社として労働者への周知が求められますので、忘れないように気を付けていただきたいです。それぞれの施行日や内容に注意して、しっかりと確認しておきましょう。
株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
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