
目次
1. 国際会計基準「IFRS」とは
まず、IFRSの策定事情について見てみましょう。IFRSはロンドン拠点の民間団体IASB(国際会計基準審議会)が策定する会計基準「国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)」のことを指しています。もともと「世界共通の会計基準づくり」を目標に開始し、2005年にEU域内上場企業に適用が義務化されました。現在、主要国の中で米国と日本には強制適用されておらず、動向に注目が集まっています。
IFRSの主な特徴として、詳細な規定や数値基準があまり示されていない「原則主義」、将来キャッシュフローの現在価値を重視する「貸借対照表重視」、各国の税務上の問題などを考慮せず、議論や定義を英語で実施する「グローバル基準」の3つが挙げられます。
2. IFRSと日本基準の違い
会計基準とは、貸借対照表や損益計算書など、財務諸表を作成する際のルールです。国際的に統一されておらず、日本企業は日本で認められている会計基準の中から、任意の基準を選択します。主な選択肢となるIFRSと日本会計基準の違いを見てみましょう。
IFRS
世界共通の会計基準を目指して策定されたものです。海外での資金調達がしやすくなる一方、適用に時間や労力がかかることなど難しさもあります。海外に多くの子会社を持つ国際的企業などが採用しています。
日本会計基準
企業会計原則をベースに、企業会計基準委員会が設定した会計基準を合わせたものです。なじみやすい反面、国際的に通用しないのが難点です。一般的な日本企業が採用しています。
3. IFRS適用のメリット/デメリット
IFRSのメリットには、次のようなものが挙げられます。総じて、実態のより正確な把握と海外対応のしやすさが挙げられます。
海外子会社管理のしやすさ
IFRSに対応することで、国外の子会社を同じ基準で管理できます。業績をより正確に把握できることに加え、個別の子会社間の違いを浮き彫りにできます。
業績の正確な把握
例えばのれん代について、IFRSではのれんの価値が毀損した場合にだけ、減損処理を実施します。また収益認識や有給休暇の引当金など、日本会計基準よりIFRSの方がより正確に実態を説明できると言われています。
海外での資金調達や投資家への説明のしやすさ
海外での資金調達において、財務諸表をそのまま使えるため、資金調達の選択肢が拡大します。また、海外の投資家に日本の会計基準とIFRSの差異を説明する必要などがなくなります。
特にグローバル企業にとってメリットの多いIFRSですが、デメリットも指摘されています。煩雑であることがネックになることが多いようです。
事務負担が増加する
会社法上はいまも日本基準での開示が求められるため、IFRS用と日本の会計基準用という複数帳簿を準備することになります。また、IFRSでは注記情報が膨大になるため、事務負担が増えます。
費用が増加する
IFRSへの移行に際して、アドバイザーへの相談費用、監査報酬の追加、IFRS向けシステム対応など、IFRS適用には多額の費用がかかります。
適用に時間と労力がかかる
現状の会計基準から変更するため、運用に関わる担当者の教育や研修などの時間と労力が必要になります。また、IFRSは会計基準が難解であることに加え、頻繁に改正されるため適用が難しい面があります。
4. IFRSに関する最近の動向
2021年4月以降の事業年度から「収益認識に関する新しい会計基準」(IFRS-15)の強制適用が始まりました。売り上げを「いつ」「どのように」計上するかという日本の会計基準で従来はバラバラだった基準を包括的に定めたものです。
新ルールでは、企業が商品やサービスを提供する「本人」なら総額を、別の企業が提供するのを手配する「代理人」なら手数料部分だけを、売上高に計上するという考え方をとります。これにより、例えば百貨店で採用されている「消化仕入れ」(百貨店が在庫リスクを負わない)では、店頭価格が1万円の商品でも、仕入れ価格が6000円なら売上高は4000円になります。利益には影響はありません。この変更により、小売りや電力業界などで、売上高が小さくなる企業が相次ぐのではないかと言われています。
このほか、2019年からIFRSの新しいリース基準「IFRS16」の適用が開始されました。IFRS16は、オペレーティングリースかファイナンスリースかといった区分を廃止、基本はすべてオンバランス処理にするといった変更点があります。リースとしてオンバランスが必要な範囲を大きく広げており、不動産賃借や業務委託などの契約についても影響がある基準です。システムや運用面での対応が必要な場合も多いため、早めの検討をお勧めします。
5. IFRSを導入すべき企業
現在、IFRSを導入している企業はどれくらいあるのでしょうか。日本取引所グループによると、2021年5月現在で、IFRS適用済み会社数は220社、IFRS適用決定会社数は12社、合計で232社に上り※1、2016年8月時点の86社から大幅に増加しています。直近の2021年3月期決算企業の第1四半期には、東レ、三井化学、トヨタ自動車、日本航空のほか、SCSKもIFRSを適用しています。
これを見ると、全体としては海外売上比率が高く、IFRSのコスト負担がまかなえるだけの営業利益を獲得している企業が、適用の候補と言えるでしょう。
6. IFRSを適用、運用を支援するツール
ここまで見てきたように、IFRSの適用には多くのメリットある一方で、準備が大がかりになるなどのデメリットがあります。そのため、取り組み全体をサポートするアプリケーションを導入するのが近道と言えます。
SCSKが提供するERPパッケージ「PROACTIVE」は、日本基準とIFRS、さらに日本版IFRSと呼ばれる「J-MIS(修正国際基準)」といった複数の会計基準別に、元帳管理を実現する「複数帳簿管理」をはじめ、包括利益計算書の作成や過年度遡及修正などに対応しています。
ERPを選択する際には、会計基準についても考慮しておくとよいでしょう。