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2023.07.10
人事労務トピックス

リスキリングとは:企業が取り組むメリットや取り組む時のポイントを紹介

リスキリングという言葉は、2022年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、一度は耳にしたことがあるかもしれません。現代社会では産業構造の大きな変化が進む中、リスキリングが重要視されるようになり、多くの企業がリスキリングの導入に取り組んでいます。

この記事ではそもそもリスキリングとはどういうものか、導入するメリット・デメリット、およびリスキリングに取り組む際のポイントを紹介します。また、リスキリングを導入しうまく活用している企業の事例も併せて紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

1. リスキリングとは

リスキリングは英語でRe-Skill+ingです。直訳するとスキルの再取得や職業能力の再開発といった表現で、職業に直結するスキルを得ることを意味します。

経済産業省は、企業が従業員のリスキリングを推進することを奨励しており、IT化により失われる雇用から新たに生まれる雇用へと労働力を円滑に移動させることを目的としています。また、2021年2月26日に開催された「第2回 デジタル時代の人材政策に関する検討会」では、リスキリングを以下のように定義しています。

新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること

※引用元:経済産業省|第2回 デジタル時代の人材政策に関する検討会

(1) リカレント教育との違い

リスキリングと混同されやすいものに、リカレント教育があります。
リカレント教育は個人が主体的に学び直しを行い、新たな仕事のスキルや知識を習得することをいいます。個人のタイミングで教育を受けるため、就労しながら、または離職中に学習することが想定されています。

一方、リスキリングは企業が事業戦略の一環として従業員に学びの機会を与えることが特徴です。基本的に企業に在籍しながら学び直しを行う、つまり離職せずに学習することが一般的です。

2. 近年注目されている理由

なぜリスキリングが近年注目されるようになったのでしょうか。

それはデジタル技術の発展が急速に進んでいることが要因として挙げられます。
象徴的な言葉として、2020年の世界経済フォーラムの年次総会ダボス会議で打ち出された「第四次産業革命により、数年で8,000万件の仕事が消失する一方で9,700万件の新たな仕事が生まれる」という予測があります。

グローバル社会で企業間競争が激化しており、日本もあらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められています。三菱総合研究所の推計によると、向こう10年以内に、国内では事務職や生産職に数百万人規模の大幅な余剰が生じる一方、デジタル人材をはじめとした専門・技術職は同程度以上の不足が予測されています。

そしてDX推進のためには、デジタルスキルを保有した人材確保が必要です。しかし、デジタル人材が不足している日本では、企業自ら人材育成することが求められるようになりました。

こうした流れの中でリスキリングは、DX化に適応できる人材を育成するにあたり、メリットが大きい手法として注目されているのです。

3. 企業がリスキリングに取り組むメリット

リスキリングによって人材を育成することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。企業がリスキリングに取り組むことで得られる4つのメリットを紹介します。

【企業がリスキリングに取り組むメリット】

• 業務が効率化する
• 新しいビジネスチャンスが生まれる
• 採用コストを抑えることができる
• 従業員のモチベーション向上につながる

リスキリングに取り組むことは、必要な人材を育成する以外にも多くのメリットに結び付きます。将来的な企業の成長や変革に大きく関わることになるでしょう。それぞれのメリットについて詳しく解説してきます。

(1) 業務が効率化する

企業はDX推進のためのデジタルスキルを持った人材を育成することで、新たな技術を導入しやすくなります。これにより、以下のような業務効率化のメリットが得られるでしょう。

  • ・業務フローの改善
  • ・業務の自動化、スピードアップ
  • ・ビッグデータの取り扱いや正確なデータ分析
  • ・データの一元化で情報管理や情報共有がしやすくなる

世界中でDX化が進み、企業はスピード感を持ってサービスを開発・提供する必要があります。そのためにはできる限り業務を効率化させることは、ビジネスを推進する上で非常に重要だといえるでしょう。
更には、業務効率化によりできた時間や人材を使って、新たな事業に挑戦するなど、スキルや能力を有益に活用することにもつながります。

(2) 新しいビジネスチャンスが生まれる

リスキリングで従業員がスキルや知識をアップデートすることは、時流に合わせた最新の知識や技術の獲得につながります。それにより新たなアイディアが生まれやすくなるでしょう。新しいアイディアの創出は、変化の激しい時代においても企業が生き残り、成長する鍵ともなります。

そして新規事業の立ち上げや事業拡大による売上の向上、既存事業のマンネリ化の抑制が可能になります。
リスキリングによる従業員の学び直しは、企業に新風を吹き込み、企業を成長させることにつながるのです。

(3) 採用コストを抑えることができる

業務に必要なスキルを保有した人材を新たに採用すると、採用コストが増大してしまうというデメリットがあります。しかし社内の従業員をリスキリングできれば、社内異動で充足させることができます。
つまり、採用コストを削減することにもつながるのです。

リスキリングを活用し既存の従業員を新しい事業のために戦力化することが、企業の利益を生み出す1つの方法といえるでしょう。

(4) 従業員のモチベーション向上につながる

企業主体で新しいスキル・知識を習得できるため、自分の市場価値を上げることができます。

それは従業員自身の自信にもつながり、キャリアを広げるきっかけにもなります。そして従業員のスキルの向上を会社側が正しく評価することで従業員のモチベーションが向上し、離職率の低下にもつながるでしょう。

4. 企業がリスキリングに取り組むデメリット

次に企業がリスキリングに取り組むことで起こりうる2つのデメリットを紹介します。

【企業がリスキリングに取り組むデメリット】

• スキル取得によって転職の可能性が生じる
• 成果が現れるまでに時間と労力がかかる

企業はこれらのデメリットを理解し、対策を考慮した上で導入を検討する必要があります。

(1) スキル取得によって転職の可能性が生じる

従業員がIT・デジタル技術など、多くの企業から求められるスキルを習得した結果、せっかく育てた従業員が他社へ転職してしまう可能性があります。

長く働いてもらうためには、スキル獲得後の配属や待遇の見直しをしっかり行って、不満が出ないようにする必要があります。リスキリングは、スキルを習得させたら終わりというわけではないのです。

(2) 成果が現れるまでに時間と労力がかかる

人材の育成は短期間で完了するものではありません。

コツコツと日々勉強を続けて資格を取得後、業務に使えるレベルになるまで実践の中で失敗と成功を繰り返していくことになります。リスキリングによる人材育成は、長期的に取り組む必要があることを知っておきましょう。

また仕事で使えるような技術を習得してもらうために、学習環境を整える必要があります。意欲を高める制度の確立をはじめ、専門スキルをもつ講師への依頼、資格取得支援、書籍購入支援、教材の提供など、リスキリングを始める前に入念な準備を行う必要があります。また、日々の学習習慣の定着に向けてラーニングプラットフォームの構築なども効果的でしょう。

人材を新たに採用するよりはコストは抑えられますが、教育コストもタダではないため、対象を考えた上でなるべく多くの従業員に参加してもらうようにしましょう。

5. リスキリングの導入手順

企業がリスキリングを促進していくためには、既存事業の課題や今後の成長戦略に基づいて、ステップや方針を定めることが必要です。以下にリスキリングの導入手順を紹介します。

【リスキリングの導入手順】

1.会社に必要なスキル・能力は何か考える
2.習得対象のスキルに適した教育プログラムを検討する
3.従業員への学習を実施
4.習得したスキルによる効果を検証・評価

それでは、詳細を見ていきましょう。

(1) 会社に必要なスキル・能力は何か考える

まず目指すべき方向性を定める必要があります。

スキル習得といっても内容は様々であり、企業ごとに必要な要素は異なります。
自社の経営戦略や事業戦略に基づいて、課題は何か、その課題を解決するためにどのようなスキルが必要なのかを洗い出します。できる限り具体化しておくことで、その後の導入がスムーズになるでしょう。

(2) 習得対象のスキルに適した教育プログラムを検討する

必要なスキルが特定できたら、それに合わせた教育プログラムの開発や選択を行います。

eラーニングや座学研修だけでなく、従業員による勉強会などもコンテンツとして挙げられます。日本の企業は教育カリキュラムも自社開発しようとする傾向にあります。

しかし、リスキリングでの学習内容はより専門性が求められるものが多く、実践的な教育が望まれます。外部の専門家への相談や、外部の教育コンテンツの利用も視野に入れるとよいでしょう。

(3) 従業員への学習を実施

リスキリングは基本的に働きながら学習することを想定しているため、リスキリングも業務の一環として就業時間内に組み込むなど、従業員の負荷になりすぎない学習時間の確保が必要です。また、従業員が離脱せずに学習に取り組めるように、企業が伴走することも大切です。

学習に取りかかりやすくするための工夫として、普段業務で使用しているアプリケーションから学習プログラムへアクセスできるラーニングプラットフォームなどの仕組みづくりや、スムーズな進捗管理のために、個々の従業員の理解度や獲得スキルが確認できる学習管理システムの導入が推奨されます。

(4) 習得したスキルによる効果を検証・評価

学んで終了では意味がありません。学習後の現場経験が何よりも重要です。実践に活かすことでスキルの強化も期待できます。
また、リスキリングを行った従業員を対象に、必ず業務の振り返りを行い、改善点を把握することも重要です。
業務に活用できた部分はシェアするなど、全社で知見を貯めていくとより効果的です。

6. リスキリングに取り組む時のポイント

リスキリングの導入や実施を担当する部署のみが単独で動くだけでは、効率よくリスキリング施策を進めるのは難しいでしょう。そこで、リスキリングに取り組む時のポイントを紹介します。

【リスキリングに取り組む時のポイント】

• リスキリングを行う目的をしっかり共有する
• 従業員の頑張りを評価する仕組みを整える
• 人材マネジメントツールを活用する

社内でのリスキリング認知度向上のためにも経営者が率先して啓発活動を行うなど、リスキリングをサポートする体制づくりが大切です。

(1) リスキリングを行う目的をしっかり共有する

リスキリングは全社において目的や旨趣を理解してもらう必要があり、社内のサポート体制を構築することで導入・実施の成功へとつながります。

また、学ぶ機会がいくら用意されていても、従業員がそのスキルを習得することの必要性を理解していないと、実務に活かせません。目的を理解させ、どのような状態になっていることがベストなのか、そのスキルを習得することでどのようなキャリアにつながるのかなどの目標設定を行うことが重要です。

(2) 従業員の頑張りを評価する仕組みを整える

従業員は日頃の業務を行いながら、新たなスキルの習得を目指すことになるため、負担に感じる人もいるでしょう。技術を習得することによって生まれるメリットを伝え、モチベーションを維持させることも重要です。

そのためにはキャリアの透明性やスキルの見える化が必要です。社内でのキャリアパスを明確にし、異動は社内公募中心にするなど、従業員のモチベーションを維持する仕組みを整える必要があります。

また人事データベースなどを活用し、人材評価や習得スキルを可視化しておけば、異動・任命もスムーズに行うことができるでしょう。

(3) 人材マネジメントツールを活用する

従業員の人事情報管理や人材評価の仕組み、タレントマネジメントには人材マネジメントツールを活用しましょう。

従来ではエクセルやスプレッドシート等を使用した管理が一般的でしたが、一元管理が困難であったり権限の設定が面倒だったりなど、管理に限界が来てしまいます。そこで人材マネジメントツールがあればこれらの管理を大幅に効率化できます。

例えば、人事評価やモチベーション管理など、人材データの管理・分析をワンストップで管理できるものや、人事情報のデータベースや人事異動などのバックオフィス業務の効率改善を可能にするツールなどがあります。

こうしたツールを使いこなすことで、人材の評価を適切に行いながらリスキリングの進捗管理などが行えるようになるでしょう。

ProActiveなら、会計や人事給与、勤怠管理など基幹業務全般の効率化をサポートします。人材マネジメントに関する基本的な機能をご用意します。また、人材データを一元管理できるHRBrainと連携することにより、蓄積した人材データを分析できるようになり、育成や配置など人事の意思決定の際にデータを有効活用できるようになります。

参考:HRBrain 公式HPProActive 人材マネジメント

7. リスキリング導入事例

ここでは実際にリスキリングを取り入れ、運用している企業の事例を紹介します。成功例を参考にしながら、自社でどのように導入するか検討すると良いでしょう。

(1) リスキリングの事例1:マイクロソフト

日本マイクロソフトでは、DX化に対応できる人材育成のため、オンラインサービスを利用したリスキリングに取り組みました。2023年までに15万人、2025年までに20万人がDX関連の認定資格を取得するという具体的な目標を掲げています。

様々な人を対象にしたリスキリングの支援の実施、求職者向けの学習プラットフォームの提供、自社マイクロソフト製品のオンラインコンテンツを活用した学習の機会提供などを行なっています。

社内だけでなく今後入社するかもしれない潜在的な人材までも対象にした大規模なリスキリング支援が特徴的です。

(2) リスキリングの事例2:富士通

富士通では、「ITカンパニーからDXカンパニーへ」を経営戦略として掲げ、これに伴い社内の人材育成に大きく予算をかけ、積極的に取り組んでいます。

最先端のテクノロジースキルを習得するための教育プログラムを開発し、国内に留まらず世界中の社員に対して、オンラインで学べる環境を提供しています。2022年4月には、従来日本では幹部社員のみに適用していたジョブ型人材マネジメントを国内グループの一般社員45,000人向けに拡大しました。これはグローバルに統一された人事制度の確立に向けた大きな一歩となりました。

また、社員が自らの意思で別の仕事にチャレンジできるポスティング(社内公募)制度を拡大。その結果、2022年3月末までに約2,700人の異動・再配置が実施され、グループ内の人材流動性が高まっています。

(3) リスキリングの事例3:メルカリ

メルカリでは希望者を対象に、博士課程への進学を支援する制度を展開しています。学費など金銭的なサポートだけではなく、勉強と仕事をしっかりと両立できる勤務時間の調整ができるような環境を整えました。

リスキリングで博士課程など高度な専門知識を習得することで、新しいアイデアや新しい領域への事業展開など、ビジネスチャンスの創出につながることを期待した取り組みです。

この事例から、リスキリングは必ずしもDX関連である必要はなく、自社にとって必要だと考える知識やスキルの見極めがポイントであることが分かるでしょう。

8. まとめ

世界でデジタル新技術の発展に伴い、日本でもDXの推進が強く求められています。そこで政府は企業へリスキリングを推奨し、多様な支援体制を整備しています。リスキリングにより企業の目的に合わせて従業員のスキルアップを図り、それにより業務の効率化や新しいビジネスチャンスの獲得などが見込まれます。

より効率よく従業員の人材マネジメントを行うためには、人材マネジメントツールの活用がおすすめです。

森本千賀子

森本千賀子

獨協大学外国語学部卒業後、現リクルートキャリア入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、CxOクラスの採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に株式会社morich設立、複業を実践し2017年に独立。現在もNPO理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数、日経電子版の連載など各種メディアにも執筆。2男の母の顔も持つ。

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