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2024.02.05
ITトピックス

システム移行とは:作業手順や注意点・失敗しないためのポイントを解説

システム移行とは、現行のシステムやソフトウェアを新たな環境へ移行することです。特に、ERPなど基幹系のシステムの移行は、影響範囲が自システム内に限らず、連携先に影響することも多くあります。万が一失敗した場合には、事業や業務に甚大な影響を与えるおそれがあるため、あらかじめ十分な調査を行い、しっかりと準備を整えた上で、余裕のある計画を立てて進めていくことが重要です。
この記事では、システム移行の概要や主な方式、作業手順、注意点、失敗しないためのポイントについて解説します。

1. システム移行とは

システム移行とは、現在使っているシステムやソフトウェアを新たな環境へ移行する作業のことです。
システム移行を行う理由としては、以下のようなものが考えられます。

  • • ハードウェアの保守期限切れやリソース不足に伴うアップグレード
  • • OSやミドルウェアの開発終了やサポート終了に伴う移行
  • • データセンターなど設置場所の移転
  • • 組織の再編や合併に伴うシステム統合や移行
  • • 新たなセキュリティ脅威への対応に伴う移行
  • • 利用数の増加に伴う処理性能向上のための移行
  • • オンプレミスからクラウドへの移行

たとえば、社内の古い基幹業務システムを廃止してクラウド型のERPを新たに導入する際などに、システム移行を実施することになります。

2. システム移行の主な方式

システム移行の際、重要なのは「どのようにリスクを管理し、回避するか」です。
そのため、不測の事態が発生することや、その際の事業や顧客への影響も考慮した上で、予算に応じて最適な移行方式を検討する必要があります。
ここでは、主なシステム移行の方式とそのメリット、デメリットについて解説します。

名称 内容
一斉移行方式 現行システムから新システムへ一斉に移行する
順次移行方式 業務単位や機能単位などに区切って段階的に移行する
並行運用移行方式 現行システムと新システムをしばらく並行運用する
パイロット移行方式 一部の業務などを先行的に移行してから本格的に移行する

(1)一斉移行方式

一斉移行方式とは、現行システムから新システムへ一斉に移行する方式です。現行システムと新システムを並行運用する必要がないため、問題が発生しない場合には、コストや手間を抑えられる点がメリットです。
この方式の場合、万が一システム移行で問題が発生した際には、一旦全ての機能を現行システムへ切り戻します。
移行のために停止期間を設け、その間に全てのテストを終了しなければならないため、十分な移行作業とテストシミュレーションを行い、手順および連絡体制を確認しておく必要があります。
移行に失敗した際には、大きな影響が発生するリスクの大きい方式となるため、余裕がある計画を立て十分なシステム停止期間を設定する必要があります。

移行終了後の運用で新システムに不測の問題が発生することも考慮すると、万が一のために現行システムはしばらく切り戻しができるように停止の状態で残しておく必要があります。
その際の作業は、データ移行も含め非常に複雑になるため、手順などを確認しておきましょう。

向いている会社 向いていない会社
• システム移行のコストや手間を抑えたい
• 連休などを使ってシステム移行を行いたい
• 移行後にトラブルが生じるリスクを重視する
• システム停止期間を十分に確保できない

(2)順次移行方式

順次移行方式は、業務単位や機能単位などに区切って段階的に移行する方式です。段階的に移行するため、まとまった移行期間を取れなくても移行を行える点などがメリットです。また、移行後にトラブルが生じた場合でも、業務影響を局所化できます。
複数の業務や機能が共有するデータやプログラムが多数存在する場合は、データの不整合が発生しないように、段階の切り分けは慎重に行う必要があります。

デメリットとしては、複数回にわたってシステム移行を行うため、移行の手間やコストがかかる点です。

向いている会社 向いていない会社
• まとまった移行期間を取れない
• 移行後のトラブル影響を局所化したい
• システム移行のコストや手間を抑えたい
• 移行するデータの種類や量が少ない

(3)並行運用移行方式

並行運用移行方式は、現行システムと新システムをしばらく並行運用しながら検証を行い、新システムに問題がないことがわかった時点で現行システムを停止する方式です。現行システムと新システムを並行運用するため、新システムにトラブルが発生した際のリスクを低減できる点がメリットです。

一方、現行システムと新システムの両方へのデータ入力を行う場合、データ不整合が発生しやすく影響のシミュレーションを十分に行うと同時に、高速にデータ同期を行う仕組みの構築が必要となり、手間・コストが大きくなる場合があります。

向いている会社 向いていない会社
• システム移行後のリスクを最小限に留めたい
• 予算や人員などに余力がある
• システム移行の手間やコストを抑えたい
• 並行運用するための人員リソースなどがない

(4)パイロット移行方式

パイロット移行方式は、一部の業務などを先行して移行・検証した後、本格的に移行する方式です。パイロット移行を行う業務や機能、拠点の移行後の状況を確認してから全体へ導入するため、会社全体としての移行リスクを抑えられる点がメリットです。

ただし、パイロット移行後の検証期間などが生じるため、会社全体のシステム移行が完了するまでに長期間を要する点がデメリットとなります。

向いている会社 向いていない会社
• 会社全体としての移行リスクを抑えたい
• システム移行期間を十分に確保できる
• 業務や拠点の数が多くない
• 短期間でシステム移行を完了させたい

3. システム移行の作業手順

システム移行の際は、以下の作業手順に沿って実施するのが一般的です。

システム移行の作業手順

システム移行の作業手順

(1)現行システムを調査する

はじめに、移行対象となる現行システムの調査を行います。調査する主な内容としては、以下が挙げられます。

【主な調査内容】

  • • 設計書および仕様書の有無
  • • 使用しているOS種別およびバージョン
  • • 定期的に動作しているバッチ処理
  • • データやファイルの形式
  • • データの量
  • • 運用体制
  • • 最新のバックアップデータ
  • • 検証環境の有無
  • • これまでのトラブル対応状況など

現行システムを調査する際は、必ず現行システムの運用に詳しい担当者もメンバーに加え、現行システムの仕様や運用状況などを網羅的に洗い出すことが重要です。

特に、現状抱えている問題に関しては、些細な事項に関しても懸念点も含めて全て洗い出す必要があります。これを怠ると、移行後に問題が発生する確率が跳ね上がるでしょう。
設計書や仕様書に記載されていない事項に関しても、可能な限りヒアリングしてください。

また、場合によっては、現行環境を調査するためのツールを作って情報収集を行います。
現行システムが稼働している状況を保存するために、調査前にシステム全体のバックアップをとっておきましょう。

(2)移行するデータを整理する

次に、現行システムの調査結果を踏まえて、移行するデータを整理します。現行システムに存在するデータは必ずしも全てを移行する必要はなく、新システムの運用に必要なデータに絞ることがポイントです。たとえば、「5年以上前の不要なデータは削除する」など、社内で一定のルールを設けてデータの整理をしていきましょう。

必要なデータに絞ることで、移行の手間やコストを抑えることにつながります。

ただし、現行システムのデータやシステム設定ファイルのバックアップやログは、基本的には全て外部ディスクに一定期間残すようにしましょう。

(3)移行計画書を作成する

続いて、移行計画書を作成します。移行計画書では、主に以下に挙げる項目について整理し、関係者間で合意形成を図りましょう。

項目 内容
移行概要・方針 全体的な移行方針や前提条件など
移行スケジュール 移行開始から完了までのスケジュール、タスク順序など
移行対象 移行するデータや機能などの一覧
移行方式 システム移行にあたって採用する移行方式
使用するツール データ移行などにおいて使用するツール
移行による影響・対処 考えられる移行時のリスクと対処方法
移行体制 システム移行を推進する社内の人員体制
移行テスト 移行テストの実施範囲や実施環境など

(4)移行リハーサルを行う

移行計画書の作成後は、実際の移行作業を行う前に、移行リハーサルを実施します。移行リハーサルでは、本番の移行作業時の影響を抑えるために、本番に近い環境ほどリスクが低減できます。可能な限り本番相当の環境で事前に移行作業の確認・検証を行いましょう。

移行リハーサルを行う際は、なるべく本番と同じ時間帯や体制、作業手順で臨み、トラブルが発生した場合はしっかりと事象や原因を書き留めておくことが重要です。移行リハーサルで何らかのトラブルが発生する事態をあらかじめ想定し、移行リハーサルを複数回行えるよう予備のスケジュールを組んでおくこともポイントとなります。

また、問題が発生した際の、切り戻し作業についてもリハーサルで確認しておきましょう。

(5)移行作業を実施する

移行リハーサルの確認・検証ができたら、本番の移行作業を実施していきます。
まず、作業完了報告や不明点の確認、問題発生時の連絡体制について実施前に確認し、移行作業に入ります。
しっかりと移行リハーサルができていれば、本番の移行作業も基本的には手順通りに進めていけば問題ありません。

ただし、本番稼働しているサーバーとの接続などは移行リハーサルでは確認できないこともあるので、移行リハーサルとの差分となる箇所は特に注意が必要です。
移行作業でのミスを防ぐため、作業は複数名で行い、作業ログを記録しましょう。
また、移行作業の途中でも、失敗のリスクを低減するため、可能な限り確認を行ってください。

(6)新システムのテストをする

移行作業を終えたら、新システムのテストを行います。たとえば、新システムを使用して1日の業務運用サイクルの確認を行い、問題なく業務運用ができるかなどを確認します。

正常時の機能だけではなく、負荷がかかった場合の動き、リソース状況、問題発生時の切り替えなどに関しても確認が必要です。
また、新システムへ移行したデータの種類や形式に不備がないかを確認することもポイントです。
特にデータが完全な形で移行できていない場合、そのまま稼働させると大きな問題が発生するため、完全に移行できているかどうか、独自にスクリプトを作成するなどして確認できるよう準備しておくことが重要です。

(7)現場担当者を教育する

最後に、現場担当者の教育です。教育に関しては、リソースに余裕があるなら、移行計画の立案と並行して行っても問題ありません。
教育では主に新システムの利用方法や現行システムと異なる箇所、トラブル時の問い合わせ先などを伝えます。

新システムのOSやハードウェアに対して、全体的に知識が不足している場合は、あらかじめシステム移行前に仕様書などを読む、検証環境でのシミュレーションを行うなど中長期の教育を計画しておきましょう。

現場担当者への教育を効率的に進めるためには、新システムの利用マニュアルを整備することがポイントです。現場担当者の目線でわかりやすいマニュアルを作成し、新システムの活用を促進していきましょう。

4. システム移行のリスク・注意点

システム移行を行う際は、以下のようなリスク・注意点に気をつけることが必要です。

  • • データの移行漏れや不一致が生じる恐れがある
  • • トラブル発生時に業務がストップする恐れがある
  • • 新旧のシステムで扱えるデータが異なる場合がある
  • • 処理能力の違いによるトラブル発生の恐れがある

(1)データの移行漏れや不一致が生じる恐れがある

システム移行において注意すべき点のひとつは、データの移行漏れや不一致が生じる恐れがあることです。
移行計画を基に問題なく作業を進めているつもりでも、移行を実施したタイミングで移行すべきデータの漏れや不一致が発覚するケースもあります。

移行データの漏れや不一致が生じる主な原因としては、移行計画を策定する際に業務現場の有識者の意見を十分に吸い上げられていないことなどが考えられます。

そのため、移行計画の段階から業務現場の有識者を交えて移行データの要件定義をしっかりと行い、移行データを網羅的に洗い出すことが重要です。

(2)新旧のシステムで扱えるデータが異なる場合がある

現行システムと新システムの間でデータの形式などが異なる可能性がある点も注意すべきポイントです。新システムでは現行システムとは別のデータベースシステムなどを導入している場合もあり、これまでとは扱うデータ構造や形式が異なるケースも珍しくありません。

新旧のシステムで扱えるデータが異なる場合、データのマッピング処理などを行う必要があり、多くの作業工数がかかってしまうこともあるでしょう。移行計画の段階で新旧のシステムのデータ構造の違いなども確認し、必要な場合はデータのマッピング処理などにかかる作業工数を事前に見積もっておくことが大切です。

(3)トラブル発生時に業務がストップする恐れがある

移行時にトラブルが発生し、業務がストップする恐れがある点もリスク・注意点として挙げられます。
移行中に不測のトラブルが発生し、スケジュール通りに移行を完了させることができないと、新システムでの業務運用に支障が生じることになります。特に、一斉移行方式の場合は、社内の基幹業務をはじめ会社全体への業務影響が出てしまうリスクがあります。

あらかじめトラブル発生によって考えられる業務影響を洗い出し、システムが一時的にストップした場合の臨時的な業務運用方法などを策定しておくことが求められます。

(4)処理能力の違いによるトラブル発生の恐れがある

多くの場合、新システムへ移行することで、全体の処理能力は向上するでしょう。
しかし、それによって未経験のトラブルが発生することがあります。

たとえば、ネットワーク関係の性能が向上することによって短時間で受信するデータ量が多くなれば、その影響でメモリ不足が発生する場合があります。

そのようなトラブルを防ぐために、あらかじめ検証の段階において実環境を想定した負荷テストを行います。
また、移行直後は各リソースの状況を監視し、使用率が上昇し続ける場合は直ちに原因をつきとめ対応する必要があります。場合によっては、障害発生を防ぐためにリクエスト数などを制限する必要が発生する可能性もあるため、あらかじめシナリオに組み込んでおきましょう。

5. システム移行で失敗しないためのポイント

システム移行で失敗しないためには、以下に挙げるポイントを押さえておくことが重要です。

システム移行で失敗しないためのポイント

システム移行で失敗しないためのポイント

(1)バックアップを必ず取っておく

システム移行の失敗を防ぐためには、バックアップを取っておくことが不可欠です。バックアップを取っていない場合、万が一移行作業中にデータを消失してしまうと復旧させることができず、業務に甚大な影響を与えてしまう可能性もあります。

あらかじめバックアップ用のシステム環境を準備し、移行作業を開始する前に販売データや会計データ、生産データなど各種データのバックアップを取っておくことがポイントです。
また、業務データ以外のデータも必要に応じてバックアップを行います。
データベースのデータのみならず、各ノードのファイルシステムをそのままイメージバックアップしておくことが理想です。

稼働中にバックアップを取る場合は、ディスクへのアクセスが頻繁に発生し、パフォーマンスが落ちる可能性があるので十分に注意しましょう。

バックアップ先に関しては、予想外の問題にも対応できるように十分な容量を用意しておきましょう。
また、テープドライブなどの場合、想定外にバックアップの時間がかかる可能性もあるので、あらかじめ検証した上で十分な時間を確保することも重要です。

(2)余裕を持たせた移行計画を立てる

どんなに念入りに計画を立て、検証を行ったとしても、システム移行には不測の事態が付きものです。

よって、予定以上の期間を要するという前提で余裕を持たせた移行計画を立てることもポイントとなります。
もし、移行リハーサルで何らかの不備が発覚した場合、2回目以降の移行リハーサルを実施するための日程確保などが必要です。

移行計画を策定する段階から、各作業工程での手戻りなどを想定した余裕のあるスケジュールを組むようにしましょう。

不測の事態が発生した場合は、冷静に対処しましょう。誰かを責めるのではなく、冷静に原因を分析することを優先することが、最終的に安全に移行を成功させるための重要なポイントです。

(3)現行システムの仕様を入念にチェックする

現行システムの仕様を入念にチェックすることも大事なポイントです。現行システムの仕様を十分に確認しない状態で移行計画を策定すると、後からデータの考慮漏れなどの問題が発覚することになり、移行スケジュールの遅延や移行後の業務トラブルなどにつながります。
現行システムの設計書や仕様書は、必ずしも最新の状況が反映されているとは限りません。
それらのドキュメントがどのようにメンテナンスされていたのか確認してください。

現行システムの調査や移行データの整理を行う際は、現行システムの仕様や業務運用に詳しい担当者にも必ず参加してもらいましょう。

(4)コンティンジェンシープランを立てておく

システム移行で失敗しないためには、コンティンジェンシープランを立てておくこともポイントです。コンティンジェンシープランとは、想定外の事態が発生した場合に、事業や業務への影響を最小化するために定めた対応策や行動手順などを指します。

システム移行において特に避けるべきことは、移行トラブルによって事業や業務に甚大な影響を及ぼしてしまうことです。コンティンジェンシープランを立てておくことで、万が一システム移行において問題が発生した場合でも適切な対応・行動を迅速に取ることができ、事業や業務への影響を低減することができるでしょう。

6. まとめ

システム移行とは、現行システムから新システムへデータなどを移行する作業のことです。主にハードウェアの保守切れやOSのサポート終了、基幹業務システムのクラウド化などを契機に実施します。システム移行では、調査・計画策定、移行リハーサル、移行作業、移行後の検証・現場教育の手順を踏むことが一般的です。

システム移行を行う際は、データの移行漏れや新旧システム間のデータ構造の違い、トラブル発生時の業務影響などに注意することが重要です。事前のバックアップや余裕を持たせた移行計画の立案、コンティンジェンシープランの策定などを行い、システム移行を着実に進めていきましょう。

メディアスケッチ株式会社 代表取締役 伊本貴士

メディアスケッチ株式会社 代表取締役
サイバー大学 准教授
江戸川大学 講師
公益財団法人 ふくい産業支援センター DXアドバイザー
伊本 貴士

大学卒業後、大手SIerにてオープンソースシステムの構築に従事。ITコンサル企業を経て、AI・IoTの開発を主とする技術コンサルティング企業 メディアスケッチ株式会社を設立。エバンジェリストとして全国での講演活動や大学講師の他、AI・IoT評論家として、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」などメディア出演多数。地方自治体のDX支援も積極的に行い、福井県など全国各地でアドバイザーとして活動している。

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