コラム
請求書業務の電子化によるペーパーレス化推進のポイント
請求書を作成して相手先に送ったり、受け取った請求書を処理したりする「請求書業務」は、一定期間内に正確かつ確実に処理する必要があるため、経理部門にとって大きな負担となっています。この負担を軽減する意味でも、請求書の電子化はペーパーレス化の推進のなかでも効果的な業務改革と言えるでしょう。今回は、請求書業務の電子化のポイントと進め方について解説します。
1. 請求書の電子化とは
「得意先へ請求書を発行する」「仕入先から請求書を受け取る」ときには、まだまだ「紙の請求書」が数多く存在しています。たとえ、PDF化された請求書がメール添付で届いたとしても、実際にはプリンタでいったん紙に出力して作業するケースがほとんどです。結局のところ、請求書の印刷、封入、送付などの「紙」を処理する作業は残っていて、ペーパーレス化が進んでいないというのが実情です。
ペーパーレス化を推進するという観点から請求書の電子化を考えると、請求書を単にPDF化するというのではなく、請求書に記載されている情報をデータ化し、企業間・部門間・システム間でやり取りしやすくする、保管しやすくすることが重要だと言えるでしょう。
また、請求書の電子化は、法律の面からも後押しされてきました。
1998年に施行された「電子帳簿保存法」では、自社が発行する請求書を電子データのまま保存できるようになりました。このときにはまだ、取引相手から受け取った請求書のスキャナ保存は認められていませんでしたが、2005年に施行された「e-文書法」の流れを受けて、スキャナ保存が認められました。
ただし、これらの制度の適用を受けるためには、保存を開始する日の3カ月前までに、税務署長に承認申請書のほか添付書類(システムの概要、操作説明書、電子計算処理に関する事務手続きの概要など)を提出して事前承認を受けなければなりません。
なお、スキャナ保存の適用を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 入力期間の制限(受領後、速やかに入力する など)
- 一定水準以上の解像度及びカラー画像による読み取り
- タイムスタンプの付与
- 読取情報の保存
- ヴァージョン管理(訂正や削除を行った場合の管理)
- 入力者等情報の確認
- 適正事務処理要件(相互けんせい、定期的な検査、不備の究明や再発防止にかかわる規程や体制)
- 帳簿との相互関連性の確保
- 見読可能装置の備付け等(14インチ以上のカラーディスプレイ、カラープリンタ、操作説明書)
- 電子計算機処理システムの開発関係書類等の備付け
- 検索機能の確保
2. 請求書の電子化のメリット
請求書には、得意先へ発行する請求書と、仕入先から受領する請求書があります。
得意先へ発行する請求書に関しては、自社が専用の会計システムを使っている場合であれ、Excelなどで作成している場合であれ、電子データやPDFとして送付することで、印刷、紙、封入、郵送などのコストや手間が削減できます。
また、請求書を受け取る得意先側にとっても、受け取った担当者から経理担当者への受け渡しが楽になる、データの再利用が可能になる、法令に基づいた保管ができるなどのメリットが生まれます。
一方、仕入先から受け取る請求書については、相手の事情もあるため、紙の請求書で届く場合も依然として大多数というのが実情でしょう。近年では、紙による請求書の受領を電子化して効率化するクラウド型の専用サービスもでてきていますが、従来の業務プロセスを大きく変更せずに導入できるのが、OCRによるスキャニング(読み取り)によってデータ化する方法です。これによって、請求書が届いた段階でペーパーレス化するわけです。
スキャニングしてデータ化し、それを会計システムと連動することによる最大のメリットは、紙の請求書を見ながら会計システムに入力する場合と比較して、入力もチェック作業も大幅に軽減され、経理部門の負荷を低減できることです。入力ミスなどによる、業務の停滞を防ぐことにもつながります。
また、請求データをスピーディーに会計システムに取り込めることで、月末・期末処理が短期間で行えることも経営層にとっては大きなメリットと言えます。紙の請求書を保管するための物理的な空間が必要なくなりコストを削減できることや、人が介在しないことで改ざんのリスクが減るといったコンプライアンス強化も期待できます。
さらに、請求業務の電子化・ペーパーレス化は、働き方改革や新型コロナウイルス対策で導入企業が増えているテレワークにも有効です。紙の請求書が届いても関係者全員が出社して処理する必要がなくなり、最少人数がスキャニングだけを行い、他のメンバーはスキャニングされたデータを利用して自宅の端末で作業をする、といったことも可能になるでしょう。
3. 請求書の電子化のデメリット
請求書に限らず、電子化のデメリットとして一般的に挙げられるのが、万が一障害が起きた場合、データを閲覧できなくなり処理も滞る懸念があることです。また、大きな障害が起きた場合、保存していたデータがすべて消えてしまう可能性もゼロではありません。こうした最悪のケースを避けるために、データのバックアップやシステムの冗長化、クラウドサービスの利用が重要です。
また、スキャニングのシステムや会計システム、専用サービスの使い勝手をよく確認せず導入してしまうと、せっかく電子化しようとしても、あまり効率化につながらず、問題改善に大きな時間とコストを負担することになってしまった、ということにもなりかねません。
例えば、仕入先からの請求書のフォーマットは各社固有のものです。スキャニングしてデータ化するときに、読み取りデータの照合に手間がかかっていては、仕事が進まなくなります。また読み取ったデータを会計システムや専用サービスなどに取り込む際にうまく連携されないと、自動化の障壁となることも考えられます。
4. 請求書電子化の進め方
請求書の発行を電子化するにあたっては、得意先(受取側)の理解、同意が必要です。
郵送より早い、明細データの活用、ペーパーレス推進など、受取側のメリットを説明します。
また、仕入先から受け取る請求書の電子化にあたっては、計画性が必要です。費用対効果を明らかにしながら計画的に導入することで、無駄や無理のない投資が可能となります。
例えば、スキャニングシステムを導入するにしても、実際の業務で使う請求書を使ってテストを行い、どの程度の精度でデータ化できるかを確認しておくことで、スキャニング後のデータ確認の作業にどれくらいの人手をかけるかが決められます。
また、電子化の次のステップとなる自動化についても検討し、取り込んだデータを自動的に会計システムなどに取り込み、伝票作成業務、支払い業務などを省力化できるかを計画しておくことも必要です。紙の請求書の電子化にとどまらず、将来を見据えて、経理・会計業務全般の効率化・自動化の青写真を描いておくことが大切です。
5. 請求書電子化に役立つツールやサービス
スキャニングシステムでは、AI-OCRによるデータ化が注目されています。AI-OCRは従来のOCR(光学文字認識)にAIの機能を付与することで、読み取り精度を大幅に向上させたものです。
その一例が、SCSKの「AI請求書読み取りソリューション」です。AI-OCRにより請求書フォーマットが異なっていても事前定義が不要で、請求書情報をデータ化できます。また、データ化した情報はERPと連携し、請求書情報をもとにした支払伝票データの作成、支払予定情報との自動照合や自動確定が可能になります。
請求書の電子化を検討する際は、こうしたツールやサービスをチェックして参考にしてみてください。
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