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2023.12.04
ITトピックス

M&Aに伴うシステム統合の重要性:統合の手順と成功させるためのポイントを紹介

日本での企業合併や買収、いわゆるM&Aの現場では、システム統合の優先順位が低くなりがちです。しかしながら、システム統合がうまくいかないと、M&A後の事業運営に重大な影響を及ぼす可能性があります。この記事では、M&Aにおけるシステム統合の重要性、メリットとデメリット、そしてスムーズに統合を進める方法や成功させるためのポイントについて解説します。

1. M&Aにおけるシステム統合の重要性

M&A(Mergers & Acquisitions)とは、企業の合併・買収を表す用語であり、主に経営リソースの集約・取り込みによって事業規模の拡大を図るために行われます。
M&Aでは、企業の合併・買収に伴い、それぞれの企業で運用しているシステムを統合することが必要です。

しかし、日本のM&Aの現場においては、システム統合に十分な重要性が置かれていないのが実情です。これを軽視すると、M&A後の業務運営に大きな問題が発生するリスクがあります。

そのため、M&Aにおいては、企業間のシステム統合についてもしっかりと考えることが重要です。システム統合が適切に進行できれば、顧客情報などの経営リソースを適切に集約でき、より幅広く経営戦略や事業展開に活用できるでしょう。

2. M&A時にシステム統合を行うメリット

M&A時にシステム統合を行うメリットとしては、主に以下の事項が挙げられます。

• 情報共有が容易になる
• 情報管理コスト・業務負荷の軽減が見込める
• 迅速に戦略立案ができるようになる

(1)情報共有が容易になる

M&A時にシステム統合を行うことで、スムーズな情報共有が可能です。

システム統合を実施することで、M&A後に企業全体でデータの形式やフォーマットを統一できます。これにより、情報共有の効率化や生産性の向上を実現できるでしょう。また、業務データが特定の部門や担当者だけに把握されている属人的な管理状況の解消にもつながります。

システム統合を行わないと、各部門によってバラバラなデータの形式やフォーマットで管理されたままとなり、部門を跨いだ情報共有は困難となってしまいます。

(2)情報管理コスト・業務負荷の軽減が見込める

情報管理コストや業務負荷の軽減が見込める点もシステム統合のメリットです。
各部門で別々にシステムを運用している場合、多大な保守・運用コストや、それぞれの部門で同じデータを重複して入力する手間などが発生します。

システムを一元化することで、保守・運用コストを最小限に抑えることができ、データ入力作業なども効率化することが可能です。このように情報管理コストや業務負荷を軽減できるため、空いた時間やコストを新たな事業企画などに充てることができるようになります。

(3)迅速に戦略立案ができるようになる

M&A時にシステム統合を行うことにより、迅速な戦略立案につなげることも可能です。
システム統合を行えば、これまでバラバラに存在していた販売データや顧客データ、製造データなどを一括で管理できるようになります。

企業活動において重要な顧客データや基幹業務のデータなどを一元化することで、情報を簡単に俯瞰できるようになり、スピーディーな戦略立案や意思決定を実現できるでしょう。

その結果、市場トレンドを的確に捉えた市場予測や迅速な新商品・サービスの開発なども可能になります。

3. M&A時にシステム統合を行うデメリット

M&A時のシステム統合で発生すると考えられる、主なデメリットは以下のとおりです。

• 統合のための工数・コストが発生する
• データ損失のリスクがある
• 不具合が起きる恐れがある

上記のデメリットは、事前に計画・準備すれば解消できる場合がほとんどです。そのため、総合的に見ればメリットの方が大きいと言えるでしょう。

(1)統合のための工数・コストが発生する

まず、統合のための工数・コストが発生することがデメリットの1つです。
M&Aの際は新しい組織に合わせてシステムを統合することになるため、新たにシステムの要件定義や設計、開発、テストなどの工数・コストが生じます。また、運用開始直後は、業務現場の混乱も想定されるため、丁寧なサポート対応や現場教育が必要となるでしょう。

あらかじめシステム統合にかかる工数・コストを見積もり、予算やスケジュールを確保しておくことが大切です。

(2)データ損失のリスクがある

旧システムから新システムにデータを移行する際に、移行ミスや考慮漏れなどによってデータの一部が損失してしまう可能性があります。重要な業務データが損失してしまい、システム統合後の業務運用に支障をきたすといったことも考えられます。

システム統合の前に旧システムのバックアップを取るなどして、万が一の事態に備えておくことが重要です。

(3)不具合が起きる恐れがある

システム統合後の業務で不具合が起きる恐れがある点もデメリットです。複数の旧システムを1つの新システムに統合する際、さまざまな機能や処理、データをうまく整合させる必要があります。

システム統合によって各機能や処理、データの整合が十分に取れていない場合、処理の途中でシステムが異常終了し、業務が一時停止するリスクが考えられます。事前に移行リハーサルなどを実施し、システム統合後の運用に問題がないかを慎重に確認することが必要です。

4. M&Aにおけるシステム統合の方法は3つ

M&Aにおけるシステム統合は、以下の3つの方法があります。

M&Aにおけるシステム統合の方法

(1)新規システムを構築する

はじめに、新規システムを構築する方法が挙げられます。新規システムを構築するメリットは、M&A後の新しい組織に合わせたシステムを構築できる点です。M&A後の新たな経営戦略や事業展開に最も合わせやすい方法であると言えるでしょう。

一方で、システム構築をゼロベースから行うことになるため、多大なシステム構築費用がかかる点やデータ移行の不具合が発生しやすい点がデメリットです。

新規システムを構築する際は、クラウド型のシステムを検討することがおすすめです。クラウド型であれば、時間や場所を問わずに利用できるとともに、社内の保守業務が不要になるといったメリットがあります。クラウド型システムは、社内でシステムを保守・運用する手間をできるだけ省きたい企業や、リモートワークを促進している企業に向いています。

(2)片方のシステムに統合する

2つ以上の旧システムがある場合、いずれか1つ(片方)のシステムに統合する方法です。
片方のシステムに統合するメリットは、存続する方のシステムはそのまま利用するため、システム統合にかかる費用を抑えられる点です。また、新規システムを構築する場合よりも、データ移行時の手間や不具合を軽減できます。

デメリットは、廃止する側のシステムで運用していた業務を存続する側のシステムに移行することになるため、業務上の仕様がうまく合わない可能性がある点です。

片方のシステムで業務の大部分を吸収できそうな場合や、なるべくシステム統合のコストや手間を抑えたい企業におすすめの方法です。

(3)既存システムを利用して、データだけ連携する

3つ目は、既存システムは残したままで、システム間でデータだけを連携する方法です。
これまでのシステムを活用し続けるため、3つの方法のなかで最もシステム統合に伴う業務への影響を小さくできる点がメリットです。

一方、システム間のデータ連携で不具合が生じる可能性がある点や、システム構造が複雑になる点がデメリットとなります。

現行業務への影響を抑えることを優先事項としている企業には、この方法がおすすめできます。

5. M&A時のシステム統合を成功させるポイント

ここでは、M&A時のシステム統合を成功させるポイントとして、以下の点を解説します。

M&A時のシステム統合を成功させるポイント

(1)システム統合を重視してM&Aを行う

そもそもM&Aの際に、システム統合の観点からも十分に考えておくことが重要です。システム統合によって実現したい目標や目指すビジョンをしっかりと持ち、自社に合ったシステム統合の方法を選択しましょう。また、ITシステムに詳しい各部門の担当者と密にコミュニケーションを取ることも大切です。

(2)スムーズに導入できるシステムを選ぶ

M&A時のシステム統合では、スムーズに導入できるシステムを選定することがポイントです。M&Aは短期間のスケジュールで実施される場合もあり、システム導入が遅延するとM&A後の業務運用に大きな影響を与える恐れがあります。そのため、導入段階からシステム操作などを十分に理解し、作業遅延や後戻りの発生を防止することが重要です。

(3)社内の意識改革を図る

M&A時のシステム統合を成功させるためには、社内の意識改革を図ることもポイントです。システム統合を円滑に推進する上では、各部門・各組織がシステム統合への関心・意識を高め、協力して推進していくことが重要です。また、社内のシステム統合を経験する機会は多くないため、社内全体のITリテラシーを向上させる良いきっかけにもなるでしょう。

6. M&Aに伴うシステム統合の成功事例

M&Aに伴うシステム統合の成功事例として、ミナトホールディングス株式会社の事例を紹介します。同社は、エレクトロニクス技術を強みとし、M&Aによるシナジーで成長を続けているエレクトロニクスメーカーです。

同社では、グループ各社で会計システムがバラバラだったため、四半期決算・本決算において連結財務諸表の作成に多くの時間や手間がかかっていました。また、各社の会計システムに直接アクセスすることができず、各社の経理担当者とのやり取りが必要な点も課題でした。

そこで同社は、グループ管理とクラウド活用を軸に、国内グループ9社の会計システムの統合を実施しました。クラウドを採用した大きな理由は、グループ間でネットワークの制約を受けないスムーズなアクセスを可能にするためです。システム統合の結果、3カ月分のグループ間取引の集計に2日かかっていた作業がボタン1つで完了するようになり、大幅な業務効率化を実現しました。

また、各種帳票のレイアウトをグループ間で揃えられたことで、各社の比較がしやすくなり、役員向けの報告資料の準備作業なども効率化しています。

7. まとめ

多くの日本の企業におけるM&Aでは、システム統合の重要性が見落とされがちです。これが、M&A後に深刻なシステムトラブルを引き起こす原因になっています。M&Aを成功に導くためには、事前にシステム統合を念入りに計画することが不可欠です。

適切なシステム統合によって、部門間のスムーズな情報共有や情報管理のコストと業務の負担が減少し、戦略的な意思決定が迅速に行えるようになります。ただし、このシステム統合にあたっては、工数やコストが発生すること、データの損失やシステムの不具合のリスクも伴うため、十分な注意が必要です。

M&Aに伴うシステム統合を成功させるため、この記事で紹介したシステム統合のメリットやデメリット、ポイントなどを参考にしてみてください。

杉浦システムコンサルティング・インク代表取締役 杉浦司

杉浦システムコンサルティング・インク
代表取締役
杉浦 司

立命館大学経済学部・法学部卒、関西学院大学大学院商学研究科修了(経営学修士)、信州大学大学院工学研究科修了(工学修士)。
京都府警、大和総研を経て独立したIT専門家。ソフトバンクのIT事業の戦略策定やマーケティング支援、客先コンサルティングなどを支援する他、上場企業から中堅中小企業まで、経営戦略や業務見直し、DX推進、AI、IoT、ブロックチェーンなど先進IT、Webマーケティング、データサイエンス・AI、情報セキュリティ、IT法務といった支援を行っている。『消費を見抜くマーケティング実践講座』『ITマネジメント』など著書多数。

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