コラム
ハイブリッドワークの実現に向けて企業がやるべきこととは?
メリットや課題を解説
ハイブリッドワークとは、従来のオフィスワークと自宅などでのテレワークを組み合わせた働き方のことです。企業の情報システム担当者のなかには、「効果的なハイブリッドワークの実現に向けて何をすればよいのかわからない」という方もいるでしょう。
この記事では、ハイブリッドワークの導入によるメリット・デメリットおよび効果的な実現に向けた取り組みについて、成功事例とともに解説します。
目次
- 1 ハイブリッドワークとは テレワークとオフィスワークを組み合わせた働き方
- 2 多くの企業がハイブリッドワークを導入している
- 3 コロナ禍前後における働き方の変化
- (1)従業員の働き方の変化
- (2)ITシステムの変化
- 4 企業がハイブリッドワークを導入するメリット
- (1)生産性の向上
- (2)従業員満足度の向上
- (3)コストの削減
- 5 企業がハイブリッドワークを導入するデメリット
- (1)セキュリティリスクがある
- (2)コンプライアンス違反のリスクがある
- (3)従業員間のコミュニケーションが不足する
- 6 効果的なハイブリッドワークの実現に向けて企業がやるべきこと
- (1)適切なITツールの選定と人材育成への投資
- (2)組織体制の整備
- 7 ハイブリッドワークの成功事例
- (1)Google
- (2)日本マイクロソフト株式会社
- (3)株式会社サイバーエージェント
- 8 持続可能なハイブリッドワークの未来へ
1. ハイブリッドワークとは テレワークとオフィスワークを組み合わせた働き方
ハイブリッドワークとは、オフィスワークとテレワークを組み合わせた働き方のことです。従業員は業務内容や状況に応じてオフィスに出社したり、自宅やシェアオフィスなどオフィスと離れた場所で働いたりすることができます。
オフィスワークとテレワークのそれぞれのメリット・デメリットは、下表のとおりです。
テレワークとオフィスワークを組み合わせて働くことで、通勤時間などを削減できるテレワークのメリットと、対面でしっかりとコミュニケーションを取れるオフィスワークのメリットの両方を享受できます。
2. 多くの企業がハイブリッドワークを導入している
現在、すでに多くの企業がハイブリッドワークを導入しており、従来の完全オフィス出社を採用している企業よりも上回っているというデータも出ているほどです。
内閣府の調査によると、コロナ禍初期はテレワークを中心とした働き方が主流だったものの、2023年以降はオフィス出社を中心にテレワークも併用した働き方が増えてきています。
3. コロナ禍前後における働き方の変化
続いて、コロナ禍前後における働き方の変化について、従業員の働き方の変化とITシステムの変化の2つの観点から解説していきます。
(1)従業員の働き方の変化
従業員の働き方の変化については、コロナ禍によってハイブリッドワークでの働き方が急速に広まりました。
従来のオフィス出社だけでなく自宅やシェアオフィスでも働けるようになるなど、従業員の働き方は多様化しています。コロナ禍以後でも、ハイブリッドワークを継続している企業は多くなっています。
(2)ITシステムの変化
コロナ禍前後における従業員の働き方の変化に伴い、ITシステムも変化しています。
たとえば、オンライン会議システムやクラウド型のアプリケーションの普及などが代表例です。ハイブリットワークの環境下では、オフィスや自宅、シェアオフィスなど物理的に離れた場所にいる従業員間で会議などを行う必要があります。そのため、ZoomやTeamsといったオンライン会議システムが不可欠であり、多くの企業がコロナ禍に伴いオンライン会議システムを導入しています。TeamsやSlackなど、チャットツールを活用したテキストによる同期および非同期のコミュニケーションも定着してきました。
また、様々な場所からファイルの共有や閲覧、更新などを行うために、新たにクラウド型のアプリケーションを導入した企業も多いでしょう。コロナ禍によって場所の制約のない働き方が求められるようになり、それに伴って企業のITシステムも進化しています。
4. 企業がハイブリッドワークを導入するメリット
ここでは、企業がハイブリッドワークを導入するメリットとして、以下の項目について解説していきます。
(1)生産性の向上
ハイブリッドワークを導入することで、生産性の向上も期待できます。
- •上司や同僚と対話をしながら、アイディア出しや課題解決したいときはオフィスに集まる
- •個人作業や調べものなどに集中したいときは、突然の声掛けや電話などに邪魔されない自宅の自室で仕事をする
- •繁忙時期は、通勤にかかるストレスやリスク(鉄道の遅延や運休など)を軽減するために自宅で仕事をする
このように、仕事の種類や自分のコンディション、あるいはプライベートを含む状況に応じて成果を出しやすい「勝ちパターン」を見極め、実践することで生産性は総合的に高まります。
ハイブリッドワークとは、何もオフィスか自宅かいずれかの場所で仕事をする行為にとどまりません。たとえば、ワーケーションなど、オフィスでも自宅でもない地方都市の風光明媚なコワーキングスペースや宿泊施設で、都市部の喧騒から離れて作業に集中する、あるいはチームの業務合宿やキックオフミーティングなどに集中する企業も増えつつあります。普段とは異なる景色で気分や関係性が変わり、自己開示や相互理解が深まるメリットもあります。
ハイブリッドワークの幅を広げ、様々な「勝ちパターン」を実践していきましょう。実際にハイブリッドワークによって「生産性が向上した」と実感する人の声もデータとして出ており、自宅など1人で作業に集中できる環境で働けることが、生産性の向上につながっているといえます。
(2)従業員満足度の向上
従来の完全オフィス出社では、往復の通勤時間や満員電車のストレスなど、仕事以外の負担もかかっていました。一方で、ハイブリットワークではオフィスだけではなく自宅やシェアオフィスなど働く場所を自由に選べることで、従業員の満足度向上につながっています。
意欲の高い人ほど、自分で選択肢を選べる状況にあると「リスペクトされている」と思うものです。そして自分がリスペクトされていると感じると、仕事に対する主体性も組織に対する帰属意識や愛着、すなわちエンゲージメントも高まります。
自分がパフォーマンスを発揮しやすい「勝ちパターン」を実践することができる環境に置かれていることは、従業員へのリスペクトを示しており、結果的に主体性やエンゲージメントを高める効果があるのです。
(3)コストの削減
もちろん、コスト削減効果も企業にとって見逃せないメリットです。
オフィスに出社する従業員の人数を絞れるため、オフィススペースの縮小などによるコスト削減が期待できます。オフィス賃料などの固定費を削減することで、企業の利益率の改善や新規事業への積極的な投資などを行えるようになるでしょう。
ただし、オフィス面積の削減を求めるかどうかはその企業の考え方にもよります。反対にオフィス面積を拡大し、一人当たりの有効スペースを増やして快適に仕事をできるようにしたり、コミュニケーションスペースを設けて出社時の対話やグループワークなどがしやすい環境整備に投資したりする企業もあります。
また、オンプレミスからクラウドサービスを中心としたITサービスの構成に変えることで、サーバーやネットワーク機器などの購入費用や保守費用、運用費用といったITコストの削減にもつながります。
とはいえコスト削減だけを追求するのではなく、従業員や組織にかかわる人たちが良い成果を出すための環境づくりに正しく投資していきたいものです。
5. 企業がハイブリッドワークを導入するデメリット
企業がハイブリッドワークを導入することでメリットを得られる一方で、以下のようなデメリットも考えられます。
(1)セキュリティリスクがある
企業がハイブリッドワークを導入する際は、セキュリティリスクに注意が必要です。たとえば、業務に関係のないWebサイトへのアクセスによるウイルス感染や、パソコン端末・USB媒体の紛失などが考えられます。
セキュリティリスクに対応していくためには、最新のセキュリティリスクに対する理解と適切な対策が重要です。総務省のテレワークセキュリティガイドラインなどを参照しながら、情報セキュリティ関連規程の整備やソフトウェアの脆弱性対策などに取り組んでいきましょう。
(2)コンプライアンス違反のリスクがある
企業がハイブリッドワークを導入することで、コンプライアンス違反のリスクがある点もデメリットです。たとえば、シャドーIT(従業員が独断でITシステムを利用すること)や機密情報の持ち出しなどが懸念されます。
ハイブリットワーク環境においてもコンプライアンスを遵守していく上では、テレワーク時も含めた就業規則や行動規範などを明確にしていくことが重要です。
また、内部通報窓口・監視委員会などの体制の整備や従業員への継続的な研修・啓蒙も大事なポイントとなるでしょう。
(3)従業員間のコミュニケーションが不足する
ハイブリッドワークでは各従業員の働く場所が異なるため、従業員間のコミュニケーションが不足しがちな点もデメリットです。たとえば、上司や先輩に相談する機会が減少し、スムーズに業務を進められなくなるケースも考えられます。
リモートワーク環境でも定期的に相談の機会を設ける、チャットツールなどを活用し雑談や相談をしやすくするなど、コミュニケーションを減らさない工夫が求められるでしょう。
また前述のとおりワーケーションなどを活用し、都会の混雑した場所にあるオフィスでも自宅でもない、第三の場所でチームのコミュニケーションを図るような発想も取り入れていきたいものです。
6. 効果的なハイブリッドワークの実現に向けて企業がやるべきこと
ここでは、効果的なハイブリッドワークの実現に向けて企業がやるべきこととして、以下の項目について解説していきます。
- •適切なITツールの選定と人材育成への投資
- •組織体制の整備
(1)適切なITツールの選定と人材育成への投資
適切なITツールを選定することがポイントです。テレワークを導入している企業の多くは、オンライン会議サービスやチャットサービス、ファイル共有サービス、メールサービスを利用しています。
ハイブリッドワークでは各従業員が異なる場所で働くことになるため、上記のようなオンライン上で会議やチャット、ファイル共有などを行えるITツールを導入していくことが有効です。ITツールの機能や操作性、費用などを総合的に踏まえて、自社に合ったITツールを選定していきましょう。
ハイブリットワーク環境においては、基本的にはオンライン上でスムーズに情報共有を行えるクラウドサービスの利用が効果的といえます。一方で、社内の機密情報の保護においてはオンプレミス環境のほうが適切な場合も多いため、クラウドとオンプレミスをうまく使い分けていくことも重要です。
加えて、ITツールを適切に使いこなしてコミュニケーションを活性化させたり、成果を出すために従業員およびマネジメント陣の能力開発(能力のアップデート)を行ったりすることも不可欠です。人事部門などと連携し、人材育成にも積極的に投資しましょう。
(2)組織体制の整備
ITツールの選定に加えて組織体制の整備も大切です。たとえば、シャドーITや機密情報の不正な持ち出しなどを防止するためには、社内のセキュリティ管理を統括するセキュリティ部門やIT担当役員などの人材配置が求められるでしょう。
また、リモートワーク環境でも組織的に高いパフォーマンスを発揮していくために、各部門にてリモートワークに精通したリーダー人材の育成を行っていくことも効果的です。
7. ハイブリッドワークの成功事例
ここでは、ハイブリッドワークの成功事例として、以下の国内外の企業事例を紹介していきます。
- •日本マイクロソフト株式会社
- •株式会社サイバーエージェント
(1)Google
Googleは、コロナ禍の2021年5月よりハイブリッドワークを導入し、約14万人のGoogle社員がハイブリッドワークでの勤務を行っています。ハイブリッドワークに伴う課題としてセキュリティの確保、従業員間のコミュニケーション、生産性の3つに着目し、それぞれに対して対策を実施しています。
たとえば、ゼロトラストネットワーク「BeyondCorp」を用いたセキュリティの確保や、オンライン上での定期的なミーティングや雑談、イベントの実施などです。また、休暇の付与やテレワークで必要な備品購入代の援助などを通じて、従業員の生産性を維持・向上を図っています。
(2)日本マイクロソフト株式会社
日本マイクロソフト株式会社では、オフィス出社した従業員同士が気軽にコミュニケーションを取れるエリアの設置やMicrosoft Teamsを活用したオンライン会議の仕組みの整備などを行っています。たとえばMicrosoft Teamsのオーバーレイ機能を使うことで、プレゼンテーション資料と発表者の顔を重ねて表示でき、オンラインでも臨場感のあるプレゼンが可能です。
また、Teamsではオンライン上のホワイトボードを使った参加者全員での書き込み・画面共有などもできます。ハイブリットワークで課題となるデバイス管理においても、「Microsoft Intune」によってパソコンやスマホ、タブレットの一括管理を行うなど、場所を問わず働きやすい環境の整備を実現しています。
(3)株式会社サイバーエージェント
株式会社サイバーエージェントは、心身の健康のための施策の一環として、2020年6月より全従業員を対象に特定の曜日はリモートワークとする「リモデイ」の運用を開始しました。これにより、オフィス出社とテレワーク勤務を併用するハイブリッドワークを導入しています。
セキュリティの堅牢な経路を使ったVPN回線を提供することで、ハイブリットワークにおいて課題となるセキュリティの確保に努めています。また、VPN回線の遅延回避対策や業務用フォルダのクラウド化などを通じて、従業員が場所を問わず高い生産性を維持できる環境を提供しています。
8. 持続可能なハイブリッドワークの未来へ
ハイブリッドワークとは、従来のオフィスワークと自宅などでのテレワークを組み合わせた働き方であり、業務に合わせて最適な場所で働くことが可能です。ハイブリッドワークの導入により、オフィススペースの縮小などによるコストの削減や従業員満足度の向上などのメリットが生まれます。
一方で、セキュリティリスク・コンプライアンス違反リスクがある点や従業員間のコミュニケーションが不足しがちな点などは課題となります。
効果的なハイブリットワークの実現に向けては、ITツールと組織体制の両面から環境整備を行っていくことが大切です。また、テクノロジーは今後も年々進化していくため、テクノロジーの進化に合わせて柔軟に働き方をアップデートしていくことも重要なポイントとなるでしょう。
その積み重ねが、時間や場所の制約にとらわれず、社内外ひいては社会の様々な組織、様々な人たちと共創できる体質に組織を変化させます。ハイブリッドワークは、多様性を味方につけて組織とそこで働く個が共創体質にアップデートするための試金石でありプロセスなのです。
あまねキャリア株式会社
CEO
沢渡 あまね
作家・企業顧問/ワークスタイル&組織開発。『組織変革Lab』『あいしずHR』主宰。あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/大手企業人事部門・デザイン部門ほか顧問。プロティアン・キャリア協会アンバサダー。DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。
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