コラム
ERP活用におけるFit to Standardとは:必要性やメリット、進め方を解説
Fit to Standardとは、ERPの導入・刷新を行う際に、ERPの標準機能に業務プロセスを合わせていく方式を指します。「ERPの刷新を検討しているが、現行システムのカスタマイズが多く、どうにかしたい」「ERP刷新に向けて動いており、近年主流のFit to Standardについて改めて理解を深めたい」という企業担当者も多いのではないでしょうか。
この記事では、Fit to Standardの概要やFit & Gapとの違い、メリット、注意点、進め方について解説していきます。
目次
- 1 Fit to Standardとは
- 2 Fit to StandardとFit & Gapの違い
- 3 DXの推進にあたってFit to Standardが必要とされる理由
- 4 Fit to Standardのメリット
- (1)低コストかつ短期間で導入できる
- (2)標準機能を活用して業務の効率化を図れる
- (3)常に最新の機能を利用できる
- 5 Fit to Standardの注意点
- (1)業務プロセスの見直しが必要になる
- (2)標準機能でカバーできない業務もある
- 6 失敗しないFit to Standardの進め方
- (1)ERPの標準機能を充分に理解する
- (2)既存業務を分析して業務プロセスを見直す
- (3)プロジェクトを適切に管理する
- 7 DX時代にはクラウドERPがおすすめ
- 8 まとめ
1. Fit to Standardとは
Fit to Standardとは、ERPの導入・刷新において、アドオン開発(追加開発)を行わずにERPの標準機能に業務プロセスを合わせていく方式です。また、単一のERP機能だけでなく、複数のクラウドを組み合わせながら機能の不足分を補完する場合もあります。
Fit to Standardの方式を採用することで、ERPの導入期間を短縮したり、ERPパッケージのバージョンアップに伴い常に最新の機能を利用したりできる魅力があります。
2. Fit to StandardとFit & Gapの違い
ERPの導入・刷新においては、Fit to Standard の他にFit & Gapの方式があります。Fit & Gapとは、ERPを導入・刷新する際に、業務プロセスとERPの標準機能がどの程度適合(Fit)し、どの程度ズレ(Gap)があるかを分析しながら導入していく方式です。
Fit to Standard とFit & Gapの主な違いについて、下表に示します。
3. DXの推進にあたってFit to Standardが必要とされる理由
近年、多くの企業においてDXの推進が重要なテーマとなっています。そしてDXの推進にあたっては、Fit to Standardが必要とされています。その理由は、Fit to StandardであればDXの実現に不可欠な業務プロセスの標準化を効率的に実現できるためです。
DXの実現に向けては、業務プロセスの抜本的な見直しが必要となるケースも少なくありません。Fit & GapによりERPを導入・刷新する場合、現行の業務プロセスありきでシステムを考えることになるため、業務プロセスの抜本的な見直しを行うことは難しいでしょう。
一方で、Fit to Standardの場合はERPの標準機能に業務プロセスを合わせていくことになるため、ERPの導入・刷新を進めていくなかで業務プロセスを大きく見直すことが可能です。
4. Fit to Standardのメリット
Fit to Standardを採用することで、主に以下のようなメリットを享受できます。
- • 低コストかつ短期間で導入できる
- • 標準機能を活用して業務の効率化を図れる
- • 常に最新の機能を利用できる
(1)低コストかつ短期間で導入できる
Fit to Standardを採用することで、低コストかつ短期間でERPを導入することができます。ERPの標準機能をそのまま業務に適用していくことになるため、アドオン開発を行う必要がありません。
また、Fit & Gapでは、業務プロセスの適合度やアドオン開発の要否を一つひとつ検証する必要がありますが、Fit to Standardの場合はそのような手間・時間のかかる作業も削減できます。そのため、Fit to Standardを採用することで、少ないコストでスピーディーなERPの導入を実現できるのです。
(2)標準機能を活用して業務の効率化を図れる
Fit to Standardのメリットには、標準機能の活用による業務の効率化も挙げられます。ERPに搭載されている標準機能は、業界のベストプラクティスを反映した優れた機能となっているケースが多く、標準機能に合わせることで効率的な業務推進の実現につながります。
現在の業務プロセスとERPの標準機能が適合していない場合、ERPの標準機能に物足りなさを感じることもあるでしょう。しかし、発想を変えてERPの標準機能をベースに業務プロセスを組み立て直すことで、従来では実現できなかったような大幅な業務効率化を図れる可能性があります。
(3)常に最新の機能を利用できる
Fit to Standardを採用することで、常に最新の機能を利用できる点もメリットです。クラウドERPであれば、定期的にバージョンアップされ、標準機能も業界の動向などに合わせて常に改善されていきます。Fit to Standardであればすぐに最新の機能を利用することが可能です。
Fit & Gapの場合、ERPの標準機能がアップデートされても追加アドオン機能との調整などが求められるため、すぐに最新の機能を活用することは難しいでしょう。しかし、Fit to Standardであれば、Fit & Gapにあるような調整の時間や手間を解消できます。
5. Fit to Standardの注意点
Fit to Standardには前述のようなメリットがある一方で、以下に挙げるような注意点も存在します。
- • 業務プロセスの見直しが必要になる
- • 標準機能でカバーできない業務もある
(1)業務プロセスの見直しが必要になる
Fit to Standardの注意点のひとつは、業務プロセスの見直しが必要になることです。Fit to StandardではERPの標準機能に合わせることになるため、現行の業務プロセスをそのまま継続することは困難です。ERPの導入・刷新に伴って大幅な業務プロセスの変更が必要となる場合、多くの期間が必要となる可能性もあるでしょう。
また、業務プロセスの大幅な見直しを行う場合、関係者で集まって業務プロセスの見直しに向けた検討会を行うことも必要です。現行業務と並行しながら新しい業務プロセスの検討会を行うことになるため、業務担当者の負担が増加するリスクも想定されます。
(2)標準機能でカバーできない業務もある
Fit to Standardを採用する場合、ERPの標準機能ではカバーできない業務が生じる可能性があります。基本的には業務プロセスをERPの標準機能に合わせていくことになりますが、業界や企業の慣習などによっては、標準機能ではどうしても業務運用が難しくなるケースも出てくるでしょう。
ERPの標準機能ではカバーが難しい場合、一部機能のアドオン開発が必要になってきます。
6. 失敗しないFit to Standardの進め方
ここでは、失敗しないFit to Standardの進め方について、以下の流れで解説していきます。
(1)ERPの標準機能を充分に理解する
Fit to StandardによるERPの導入・刷新を成功させるためには、まずはERPの標準機能を充分に理解することが重要です。
業務プロセスを的確にフィットさせるために必要な工程となるため、多少時間がかかったとしてもERPの標準機能を理解するための期間を設けるようにしましょう。
(2)既存業務を分析して業務プロセスを見直す
ERPの標準機能の理解に加えて、既存業務を分析して業務プロセスを見直すこともポイントです。多くの場合、既存の業務プロセスをそのままERPの標準機能に当てはめることはできず、業務プロセスの見直しが必要となります。
これまで長年にわたって検討を積み重ねた結果、既存業務が複雑なプロセスとなっているケースも少なくありません。ERPの標準機能にフィットさせるためには、なるべく既存業務をシンプルに整理していくことが必要です。「もっと単純にできないか?」「他のやり方はないか?」など、フラットな視点で既存業務を見直していくようにしましょう。
(3)プロジェクトを適切に管理する
Fit to StandardによるERPの導入・刷新の失敗を防ぐためには、プロジェクトを適切に管理することも大切です。注意点でも述べたように、Fit to Standardでは業務プロセスの大幅な見直しが必要になる可能性があります。また、業務プロセスの見直しの結果、場合によってはどうしても標準機能では対応が難しい業務も出てくるでしょう。
これらのリスクをあらかじめ想定した上で、プロジェクトのスケジュール管理やリスク管理を適切に行い、プロジェクトを計画的に進めていくことが重要です。
7. DX時代にはクラウドERPがおすすめ
DX時代と呼ばれる近年では、多くの企業がERPなどのシステムの導入や刷新を検討しています。DX時代においても企業の競争力を維持していくためには、クラウドERPの活用がおすすめです。
ここでクラウドERPの導入事例として、株式会社毎日新聞社の事例を紹介します。デジタルシフトと業務効率化の実現に向けて、同社は会計領域の基幹システムにSCSKのERP「ProActive E²」のオンプレミス版を2007年から導入しています。2023年10月開始のインボイス制度にあたり、システムの改修が必要になりましたが、既存システムにかなりカスタマイズを加えていたため、その改修も大掛かりになることが判明しました。そこで、会計システムそのもののリプレイスを選択し、運用保守やコストの観点からSaaS製品への移行を前提として、新シリーズであるSCSKのクラウドERP「ProActive C4」の導入を決めました。運用に関しては、カスタマイズを入れるとメンテナンスが必要になるため、極力パッケージ標準機能に業務を合わせるアプローチを行うべく、業務の標準化を進めました。
本事例の詳細については、以下のページも併せてご確認ください。
関連記事: 導入事例|株式会社毎日新聞社
8. まとめ
Fit to Standardは、ERPの導入・刷新を行う際に、ERPの標準機能に業務プロセスを合わせていく方式です。Fit to Standardを採用することで、低コスト・短期間でのERP導入や標準機能の活用による業務効率化、最新機能の利用といったメリットを享受できます。
一方で、Fit to Standardでは既存の業務プロセスの見直しが必要になったり、標準機能ではカバーできない業務が生じたりする点には注意が必要です。
Fit to StandardによるERPの導入・刷新を進める際は、ERPの標準機能を充分に理解した上で、既存業務を分析して業務プロセスを見直していくことが重要です。また、標準機能の理解や業務プロセスの見直しに時間がかかることも想定しながら適切にプロジェクト管理を行っていくこともポイントとなります。
Fit to Standardによって業務プロセスを効率的に標準化し、DXの実現につなげていきましょう。
株式会社RICE CLOUD (https://www.rice-cloud.info/)
代表取締役
立原 圭
MBA、業務コンサルティング、SaaS事業者等を経て2019年株式会社ストラテジットを設立。SaaSに適した導入手法とAPI連携に特化した事業を開発し外資系SaaSのパートナー企業としてアジア地区2位の実績をつくる。2022年8月にストラテジットを売却。株式会社RICE CLOUDを設立し、業務システムのクラウド化とアジャイル導入手法の普及に取り組んでいる。
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