コラム
タイムスタンプとは:電子帳簿保存法への対応や取得方法を解説
2022年の電子帳簿保存法改正により、国税関係帳簿や国税関係書類の電子保存の要件が緩和されました。一方、領収書・請求書等を電子データとして受領した場合は、電子データとしての保存が義務化されました。これにより保存コストが軽減し、省スペース化、業務効率化が可能になりましたが、書面と比べて改ざんが容易で履歴が残らないというデメリットもあります。
電子データの改ざんリスクに対応するため、近年ではタイムスタンプの活用により、電子データの信頼性を確保することも可能になっています。しかし、電子帳簿保存法改正により、タイムスタンプの必要性に疑問を感じている方もいらっしゃるでしょう。この記事では、電子帳簿保存法におけるタイムスタンプの役割・取得方法などについて解説します。
目次
- 1 タイムスタンプとは
- (1)タイムスタンプの仕組み
- (2)タイムスタンプと電子署名の違い
- 2 電子帳簿保存法におけるタイムスタンプの役割
- (1)電子データの改ざん防止
- (2)インターネット上の取引における時刻認証
- (3)電子帳簿保存法の改正でタイムスタンプは不要になった?
- 3 タイムスタンプの取得方法
- 4 タイムスタンプを導入するには?
- (1)インターネット環境を整備する
- (2)タイムスタンプ対応のシステムを導入する
- (3)時刻認証業務認定事業者と契約する
- 5 タイムスタンプを付与する際の注意点
- (1)タイムスタンプの付与期限
- (2)社内における原本の取り扱い
- (3)タイムスタンプの利用料
- 6 タイムスタンプを使うならクラウドERP「ProActive C4」がおすすめ!
- 7 タイムスタンプについてよくある質問
- (1)タイムスタンプが付与されるまでの流れは?
- (2)電子帳簿保存法でタイムスタンプを導入するにはいくらかかる?
- (3)電子帳簿保存法でタイムスタンプなしでPDFにするにはどうすればいい?
- 8 まとめ
1. タイムスタンプとは
タイムスタンプとは、電子書類の作成・更新した時刻を記録する技術のことです。紙の書類であれば、筆跡や印影から改ざんなどが比較的容易にわかります。紙の劣化から、時間の経過もある程度判断できる場合もあるでしょう。
しかし電子書類は文書の複製や編集が容易にできる上、劣化することがないため、その書類が原本であることを証明するのは困難です。
タイムスタンプを電子書類が作成や更新されるたびに付与すれば、その文書が改ざんのない原本であることが証明できるようになります。タイムスタンプは、電子書類の信頼性を確保するために重要な役割を果たしているのです。
(1)タイムスタンプの仕組み
タイムスタンプは大きく「要求」「発行」「検証」の3つの流れがあります。各工程について詳しく解説します。
• 要求
まず利用者が電子書類を作成または受領した後、作成した電子書類をタイムスタンプ付与機能があるシステムを通じてハッシュ値に変換し、TSA(時刻認証業務認定事業者)に送信することで、その時点での日付や時刻状況を表した、タイムスタンプの発行を要求します。ハッシュ値とは、ハッシュ関数を使って決まった長さに変換した、一見ランダムに見える文字列のことです。ちなみにハッシュとは「切り刻む、めちゃくちゃにする」という意味があります。
• 発行
TSAは利用者から受け取ったハッシュ値に、時刻情報を偽造できないように結合したタイムスタンプトークンを発行し、利用者に発行します。
• 検証
電子書類と、TSAから発行されたタイムスタンプトークンのハッシュ値を比較して検証を行います。電子書類とタイムスタンプトークンのハッシュ値が一致すれば改ざんなし、不一致なら改ざんが行われたことになります。
(2)タイムスタンプと電子署名の違い
電子署名とは、電子契約書など電子書類の内容に合意したことを証明する署名です。
電子署名は「電子契約書に誰が契約をしたのか」を証明するものですが、一方でタイムスタンプは「合意した契約書の内容が、タイムスタンプの付与以降改ざんされていないこと」を証明するもの、という違いがあります。
タイムスタンプと電子署名はお互いに補完し合う関係にあり、両者を掛け合わせることで、より電子書類の信頼性や完全性を確保できます。
2. 電子帳簿保存法におけるタイムスタンプの役割
電子帳簿保存法とは、国税関係帳簿や国税関係書類のデータ保存を可能とする法律です。
<電子帳簿保存法の対象となる文書>
- • 帳簿関連書類:仕訳帳、総勘定元帳、売掛帳、買掛帳、現金出納帳、固定資産台帳など
- • 決算関係書類:貸借対照表、損益計算書、合計残高試算表、棚卸表など
- • 重要書類(資金や物の流れに直接関連した書類):契約書、請求書、納品書、領収書など(自己が作成した写し、相手方が作成した書類など)
- • 一般書類(資金や物の流れに直接関連しない書類):見積書、注文書、検収書など
取引先より電子取引として受領した書類を、電子データとして保存する際のタイムスタンプの役割について見ていきましょう。
(1)電子データの改ざん防止
タイムスタンプは、電子書類とTSAから発行されたタイムスタンプトークンのハッシュ値を比較すれば、電子データが改ざんされたかどうかがすぐにわかる仕組みです。
タイムスタンプの活用により、電子データの改ざんを防止することができます。
(2)インターネット上の取引における時刻認証
電子帳簿保存法では電子データ保存をする際、可視性と真実性の確保が求められています。可視性とは、電子データを必要に応じて速やかに検索・表示できる状態にしておくこと、真実性とは電子データの改ざんを防ぎ、訂正・削除された内容を確認できる状態にしておくことです。
タイムスタンプを付与すると、それ以降電子書類の内容が改ざんされていないことが証明できるため、真実性の確保に有効です。
(3)電子帳簿保存法の改正でタイムスタンプは不要になった?
2022年1月1日に電子帳簿保存法が改正され、対象となる文書のデータ保存について、抜本的な見直しが行われました。
電子帳簿保存法の改正に伴い、スキャナ保存時のタイムスタンプに関する要件が緩和されています。一定の要件を満たすクラウドシステムを利用すればタイムスタンプが不要になりました。
一方、PDF・メールなどの電子取引については、タイムスタンプの付与が必要となる場合があります。
タイムスタンプ要件を整理すると以下のようになります。
3. タイムスタンプの取得方法
タイムスタンプを発行するには、事前にTSAと契約し、認定タイムスタンプが付与できるシステムの導入が必要です。
まず、タイムスタンプの対象となる書類を用意し、スキャンやスマートフォンによる撮影で電子データ化します。電子化したデータを会計システムにアップロードするとTSAからタイムスタンプが付与されます。
4. タイムスタンプを導入するには?
タイムスタンプを導入するためには、以下の3点が必要です。
- ①インターネット環境
- ②タイムスタンプに対応したシステムの導入
- ③時刻認証業務認定事業者(TSA)との契約
各項目について、詳しく解説します。
(1)インターネット環境を整備する
取引先と電子データをやりとりするため、インターネット環境は必須です。
タイムスタンプのやりとりで、業務に支障が出ない程度の通信環境が確保されているか、改めて確認しておきましょう。
(2)タイムスタンプ対応のシステムを導入する
タイムスタンプを利用するには、タイムスタンプ対応のシステムの導入が必要です。
タイムスタンプ対応の会計システムは、インターネットなどネットワーク経由で利用できる「クラウド型」と、自社のサーバーやデータセンターにシステムを構築し保守まで行う「オンプレミス型」があります。
クラウド型と比べるとオンプレミス型は初期費用が高額になり、導入から運用開始まで時間がかかりますが、自社の状況に合わせてカスタマイズしやすい点が特徴です。
自社の状況に合ったものを選びましょう。
(3)時刻認証業務認定事業者と契約する
タイムスタンプは、総務大臣の認定を受けたTSA(時刻認証業務認定事業者)しか発行できません。そのため、タイムスタンプを利用するときは、TSAとの契約が必要です。
2024年4月1日時点で、総務大臣の認定を受けているTSAは、以下のとおりです。
- • セイコーソリューションズ株式会社
- • 三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社
- • アマノ株式会社
- • GMOグローバルサイン株式会社
5. タイムスタンプを付与する際の注意点
タイムスタンプには付与期限がある、利用料がかかるなど注意点もあります。事前に確認して留意しておきましょう。
(1)タイムスタンプの付与期限
タイムスタンプは緩和されたとはいえ、スキャナ保存の場合は書類の受け取りから最長2か月とおおむね7営業日以内にタイムスタンプを付与しなければなりません。
期限を過ぎると、タイムスタンプを付与しても認められないため、注意が必要です。
(2)社内における原本の取り扱い
2022年に改正された電子帳簿保存法では、スキャナ保存した原本はすぐに破棄できます。しかし、社内ルールや業務フローといった社内の都合上、一定期間保存が必要なケースもあるでしょう。
「原本の保管期間を決めておく」「管理者が保存データを確認したら破棄する」など、スキャナ保存後の原本の取り扱いについて従業員が迷わないように、規則を定めることが大切です。
(3)タイムスタンプの利用料
タイムスタンプを利用するためには、TSAに利用料を支払わなければなりません。
利用料については、以下のように様々なタイプがあります。
- • 初期費用に加えて月額料金がかかる
- • 初期費用は不要だが月額料金が比較的高い
- • 一定数までは定額でそれ以上は追加料金が発生する など
複数の利用料を比較して、データ数などを考慮した上で自社に合ったものを選びましょう。
6. タイムスタンプを使うならクラウドERP「ProActive C4」がおすすめ!
ProActive C4は、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が認定する、電子帳簿保存法要件を満たすソフトウェアとしての認証を、5つ全て取得・保持しているERPシステムです。
単一のシステムで5つの認証を全て保有する製品は数少なく、ProActive C4の導入により、国税関係帳簿・書類(決算関係書類・取引関係書類)のデータ保存・国税関係書類のスキャナ保存・電子取引の保存をワンストップで完結することが可能です。
また、高精度なAI-OCRにより、交通費や出張旅費、接待費といった領収書を瞬時に素早くデータ化します。手書きの領収書も高精度で読み取り、登録まで自動で処理するため、手入力の手間やミスを削減可能です。読み取り精度は、AIの学習により継続的に向上していきます。
従業員が入手した領収書をスマートフォンで撮影し、ProActive C4に登録するだけなので、紙ベースの処理のためにテレワーク中の担当者が出社する必要はありません。
保管コストが低減できるスキャナ保存制度にも対応しており、領収書の画像データを添付して決済されると、電子帳票システムに連携され、タイムスタンプの付与およびデータ保管が行われます。クラウドサービスなので、法改正の度にかかるシステム改修のコストや業務負担の軽減も期待できます。
三重県信用農業協同組合連合会では、従来オンプレミスのERPを運用しており、システムの複雑化や、電子帳簿保存法改正への対応に課題を抱えていました。しかしProActive C4を導入後、システムの集約・データ連携による運用効率の向上、クラウド化による法改正へのシステム対応が不要になり、業務効率の向上やコスト削減を実現しています。
7. タイムスタンプについてよくある質問
(1)タイムスタンプが付与されるまでの流れは?
タイムスタンプはまず対象となる書類を用意し、スキャナ保存やスマートフォン撮影で画像データを用意した後、システムにアップロードして取得します。(詳細は3. タイムスタンプの取得方法を参照)
(2)電子帳簿保存法でタイムスタンプを導入するにはいくらかかる?
タイムスタンプの利用料は、大きく定額制と従量制の2つがあります。定額制は1か月ごとのタイムスタンプ付与上限数に応じて、利用料が定額でかかるプラン、従量制はタイムスタンプを1回利用するごとに料金がかかるプランです。
利用料の目安は初期費用が5,000円~100,000円程度、システムを導入した場合は100,000~300,000円程度かかります。通常の利用料は従量制が1回あたり10円程度、定額制の場合、付与上限数に応じて100,000~3000,000円など幅広く設定されます。
(3)電子帳簿保存法でタイムスタンプなしでPDFにするにはどうすればいい?
電子帳簿保存法の対象となる文書をタイムスタンプなしでPDFにするには、以下の要件を満たしたクラウドシステムを利用する必要があります。
- • 電子データの修正や削除の履歴が残る、あるいは修正や削除ができない
また要件ではないものの、正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行うことも重要です。
8. まとめ
タイムスタンプは、電子書類の信頼性を確保する上で重要な役割を果たします。2022年1月に改正された電子帳簿保存法により、スキャナ保存時のタイムスタンプに関する要件が緩和されましたが、すべての書類に適用されるわけではありません。またデータの修正や削除ができるシステムを導入している場合は、タイムスタンプが必要です。
タイムスタンプを導入するには、TSAと契約をし、タイムスタンプに対応している会計システムを利用しなければなりません。データ数や法改正への対応を考慮して、自社に合ったものを選びましょう。
税理士
菊池 典明
2012年辻・本郷税理士法人大阪支部に入社。株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人などの税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングも担当。2015年より経営企画室に所属し、クライアントのクラウド会計の導入やDXの推進などに携わる。2021年よりDX事業推進室担当。同年12月辻・本郷 ITコンサルティング株式会社 取締役就任。多くのセミナー講師も務める。
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