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2024.12.02
ERPノート

ERPとは:導入メリットや種類、選び方のポイントを解説【入門ガイド】

企業の業務効率化や競争力強化が求められるなか、ERPの導入を検討する企業が増えています。しかし、ERPの選定や導入は複雑で、失敗するケースも少なくありません。そのため、導入に不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。

この記事では、ERP初心者の方向けに、ERPの基本概念から導入メリット・種類・選び方のポイントまでをわかりやすく解説します。ERPの導入に成功し、効率よく活用して業務改善や生産性の向上を図りたい方は、ぜひ最後まで記事をご覧ください。

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1. ERPとは?わかりやすく解説

ERPとは:わかりやすく解説

ERP(Enterprise Resource Planning)は、エンタープライズ・リソース・プランニングの略称で、企業の経営資源を統合的に管理し、業務効率を最大化するための統合基幹業務システムです。

ERPの主な特徴は下表のとおりです。

統合データベース 経理・財務、人事、製造、販売、在庫管理などのデータを一つのデータベースで管理する
リアルタイム処理 データの更新や共有がリアルタイムで行われるため、最新の情報に基づいた意思決定が可能になる
業務プロセスの標準化 業界のベストプラクティスに基づいた標準的な業務プロセスが組み込まれているため、業務の効率化と品質向上が期待できる
全社的な可視化 企業全体の業務状況やパフォーマンスを可視化することで、経営者は迅速かつ的確な意思決定ができるようになる
拡張性と柔軟性 企業の成長や状況の変化に合わせて、必要な機能の追加や縮小、カスタマイズができる

ERPを適切に導入・運用することで、企業内のデータが一元管理可能です。そのことにより業務間の連携が強化され、企業全体の業務効率化や生産性の向上が期待できます。

(1)ERPと基幹システムの違い

ERPと似たようなシステムに「基幹システム」があります。それぞれの違いは次のとおりです。

基幹システム 企業の中核となる個別の業務(会計、人事、生産管理など)を処理する独立したシステム
ERP 企業の業務を統合的に管理し、データを一元化して経営の効率化を図るシステム

基幹システムやERPについては、下記の記事でも詳しく紹介しています。ぜひ、あわせてご覧ください。

2. ERPを導入するメリット

ERPを導入するメリットを3つ紹介します。

  • • 業務効率化によって生産性が向上する
  • • コスト削減につながる
  • • 経営の見える化によって意思決定のサポートになる

(1)業務効率化によって生産性が向上する

ERPの導入により、業務効率化を通じて生産性が大幅に向上します。主な理由は次のとおりです。

データの一元管理
  • 各部門のデータと一元管理することで、情報共有が円滑にできるようになる
  • • 各部門の連携が強化され、業務プロセス全体の効率が向上する
作業の自動化
  • • データ入力や集計作業を自動化できることにより、ヒューマンエラーの軽減や作業時間の短縮が可能になる
情報へのリアルタイムアクセス
  • • 最新のデータに常にアクセスできることにより、迅速な判断ができるようになる

上表のとおり、ERPの導入でデータの一元管理や従業員の工数の削減が可能になります。そのため、今まで属人的な作業を担当していた従業員はコア業務に専念できるようになり、生産性の向上が期待できます。

(2)コスト削減につながる

ERP導入で業務効率化が実現することで、業務工数が減り人件費の削減につながります。また、データの一元管理によって、在庫や人員の最適化が可能になります。

(3)経営の見える化によって意思決定のサポートになる

経営の見える化が実現するため、ERPの導入は意思決定のサポートとなります。一例として、次のようなことが挙げられます。

企業のさまざまな経営指標をリアルタイムで可視化 販売実績や在庫状況などの重要データが即時に更新されるため、企業の現状を正確かつタイムリーに把握することが可能になる
蓄積されたデータ分析 ERPに蓄積されたデータから、過去のトレンドや相関関係から将来の予測や潜在的なリスク特定ができるようになる

3. ERPの主な機能

ERPは、企業のあらゆる業務領域を統合的に管理する包括的なシステムです。それぞれの機能は以下のとおりです。

ERPの主な機能

4. ERPの種類

ERPは、導入形態や機能などによりさまざまな違いがあります。

  • • 導入形態別のタイプ
  • • 機能性別のタイプ
  • • 対象範囲別のタイプ

それぞれの違いについて、詳しく紹介します。

(1)導入形態別のタイプ

ERPは、まず「どこに作るか」の選択肢があります。

  • • クラウド型ERP:クラウド上にERPを構築し、インターネット経由で利用
  • • オンプレミス型ERP:自社内のサーバーにERPを構築し、社内ネットワーク経由で利用
  クラウド型ERP オンプレミス型ERP
メリット
  • • 自社でサーバーを保持する必要がない
  • • 初期費用やランニングコストを削減できる
  • • 自社環境にシステムを構築するためカスタマイズがしやすい
  • • 外部に接続しないため、データを自社で完全に管理できる
デメリット
  • 基幹業務の情報がクラウド上にあるため、サイバー攻撃を受けるリスクがある
  • • インターネット環境がない場所では利用できないほか、環境に不具合が発生したときに影響を受ける
  • • 初期費用や導入コストが高額になりやすい
  • • 運用・保守を自社で行うため、専門的な知識を持つ人材が必要になる

このように、クラウド型ERPとオンプレミス型ERPにはそれぞれメリット・デメリットがあるため、自社の状況を十分把握した上で、導入を検討しましょう。

なお、クラウドERPの詳細はこちらで詳しく解説しています、ぜひ、あわせてご覧ください。

(2)機能性別のタイプ

ERPシステムには、「どこに構築するか」の選択肢のほかに「どのように構築するか」の選択肢があります。

  • • パッケージ型ERP:基本的な機能があらかじめパッケージ化されたERP
  • • フルスクラッチ型ERP:すべての機能をオーダーメイドで構築し運用するERP
  パッケージ型ERP フルスクラッチ型ERP
メリット
  • • 短期間かつ低コストで導入できる
  • • 保守・運用を開発会社やベンダーに任せられる
  • • 自社の業務プロセスや業界特有の要件に適したシステムを構築できる
  • • ビジネスの変化や拡大に応じて柔軟に機能の追加や変更に対応できる
デメリット
  • • 自社の業務に合わせた運用が難しいケースがある
  • • 初期費用が高額になりやすい
  • • システム開発期間が長期間におよぶことが多い

このように、パッケージ型とフルスクラッチ型にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、自社の状況としてどちらが適切かよく検討することが重要です。

また、ERPの運用においては、フルスクラッチ型のように独自のカスタマイズを行うと、保守や運用が複雑化するという課題があります。このため、近年では業務プロセスをシステムの標準機能に適合させる「Fit to Standard」のアプローチが注目されています。これにより、システムの効率的な運用と維持管理が可能となり、コスト削減や迅速なアップデートの実現が期待されています。

(3)対象範囲別のタイプ

ERPは導入形態や機能別の他に、対象範囲別でも分類されます。

  • • 統合型ERP:企業の全業務領域を一つのパッケージで統合的に管理するシステム
  • • コンポーネント型ERP:必要な機能(コンポーネント)のみを選択して導入できるシステム
  • • 業界特化型ERP:特定の業界や業種に特化した機能や業務プロセスを備えたシステム
  統合型ERP コンポーネント型ERP 業界特化型ERP
メリット
  • • 全社的な情報の一元管理が可能
  • • リアルタイムに自社の経営状況が把握できるため、迅速な判断が可能になる
  • • 必要な機能のみを選択できるため、コスト効率が良い
  • • 柔軟にカスタマイズができる
  • • 特定分野に限定するため、導入費用や手間が抑えられる
  • • 業界特有の要件に最適化されている
デメリット
  • • 多くの機能を搭載することになるため、導入コストや時間がかかる
  • システムの柔軟性にかける
  • • 機能を追加していくなかでシステムが複雑化しやすい
  • • 機能の一部分を利用するため、データの一元管理ができなくなるリスクがある
  • • 特定の業務に特化しているため、適用範囲や用途が限定される
  • • 導入コストが高額になるケースがある
  • システムを提供できるベンダーが少ない傾向がある

ERPを導入するときには、業務全体を一元管理するのか、特定の機能や業務のみに活用するのかも検討する必要があります。

5. ERPの選び方のポイント

ERPの選び方のポイントを3つ紹介します。

  • • 自社の事業や目的とマッチしているか
  • • 導入予算とTCOは見合っているか
  • • ベンダーのサポート体制は整っているか

(1)自社の事業や目的とマッチしているか

ERPを選ぶ際には、自社の事業や目的との適合性を慎重に検討することが重要です。

まず、現状の課題や将来のビジョンを明確にし、それらを解決・実現するために必要な機能を洗い出します。たとえば、業務効率化が課題であれば、ワークフロー機能や自動化機能があるか確認します。事業拡大を視野に入れている場合は、柔軟性や拡張性の高いERPを選ぶとよいでしょう。

必要な機能を見極める際には、各部門の要望を集約し、優先順位をつけることが大切です。ただし、短期的な視点で選ばないよう注意が必要です。現在の課題解決だけでなく、例えば将来事業規模拡大に伴って社員数が多くなっても耐えられるシステムか、海外展開した際に海外通貨の対応が可能であるかなど、将来の事業展開も見据えた選択をすることで、ERPを最大限に活用できるようになります。

(2)導入予算とTCOは見合っているか

ERPの導入を検討する際には、初期費用、運用費用、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)を慎重に評価することが重要です。

【ERP導入および運用にかかる主な費用(一例)】

• 初期費用

  • ライセンス料
  • ERPを利用するためのライセンス費用
  • カスタマイズ費用
  • ERPを自社に合わせてカスタマイズするための費用
  • 初期導入費
  • コンサル代、オンプレミスの場合はハードウェア代など、ERP導入時にかかるライセンス料やカスタマイズ費用以外の費用

※ クラウド型・オンプレミス型共通で発生する

• 運用費用

  • 主にクラウド型ERPを利用する場合の費用
  • 初期費用に含まれているものは、メンテナンスやサポート・アップグレード費用など
  • 主にオンプレミス型のERPを利用するためにかかる費用
  • システムの保守や運用、バージョンアップ時に必要

• TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)

  • トレーニング費用
  • 従業員がシステムを使えるようにするための教育費用
  • 業務プロセス変更に伴う間接的な費用
  • 従業員の人件費や管理コストなど
  • システムの導入から廃棄までにかかる諸費用
  • サーバー導入する際の設置費や、現システムがオンプレミスだった場合はサーバーの廃棄費など

注意すべき点は、価格だけでなく機能やサポート体制を総合的に比較することです。価格の安いERPでも、必要な機能が不足している・サポートが不十分な場合、長期的には高コストになるおそれがあります。

ERPは将来を見据えた長期的な視点でコストや機能・サポート体制のバランスを評価することが重要です。

(3)ベンダーのサポート体制は整っているか

ベンダーのサポート体制が整っていることもERPを選ぶ際の重要なポイントです。具体的には、導入支援やカスタマイズ対応、保守サポートの3点に注目する必要があります。

導入支援では、要件定義から本稼働までの一貫したサポートが受けられるか確認しましょう。カスタマイズ対応では、自社の業務プロセスに合わせた調整が可能か、その範囲と費用を確認します。保守サポートでは、稼働後の問題解決や法改正に伴ったアップデートに素早く対応できるか、サポートの質は十分であるかに注目しましょう。

注意すべき点は、自社の規模や業種など状況に合わせたサポート体制を選ぶことです。大企業向けの手厚いサポートが中小企業には過剰な場合もあります。逆に、成長を見据えた場合、将来的なニーズにも対応できるサポート体制を選ぶことが重要です。

ベンダーの実績や評判も含めて総合的に判断しましょう。

6. ERPを導入するまでの流れ

ERPシステム導入手順

ERPを導入する流れは次のとおりです。

【ERP導入手順】

1.導入の目的を明確にする:経営課題や業務改善点を特定
2.自社にあう製品を選ぶ:機能や価格を比較検討
3.契約を結ぶ:ベンダーと詳細な条件を取り決め
4.要件定義:業務プロセスの分析と必要機能の洗い出し
5.設計・開発:システムのカスタマイズと構築
6.テスト:機能や操作性の確認と調整
7.リリースに向けた準備:データ移行とユーザートレーニング
8.リリースおよび運用:本稼働開始と継続的な改善

ERPの導入は、その影響が広範囲におよぶこともあり、長期間の検討と大規模な投資が必要です。ERP導入の流れは、下記の記事で詳しく解説していますので、効率よくERPを導入して業務効率化や生産性の向上を図りたい方は、ぜひ、あわせてご覧ください。

7. ERPの導入事例

ERPの導入事例を2つ紹介します。

• ほけんの窓口グループ株式会社
• ミナトホールディングス株式会社

ERPの導入効果について詳しく知りたい方にとって、参考になれば幸いです。

(1)ほけんの窓口グループ株式会社

会計・販売・購買システムをProActiveで統合し刷新
保険代理店の会計関連業務の標準化と効率化を実現

ほけんの窓口グループ株式会社は、スピードを重視するあまり個別最適でシステムが構築されたことによる、業務効率の低下や属人化スクラッチ開発システムの複雑化を解決するため、ERPパッケージ「ProActive E²」を導入しました。

課題
  • 販売管理や購買管理のシステムが会計システムと異なることによる、マスターデータ管理の煩雑化や二重入力の発生
  • 管理会計の予実管理におけるExcelベースの手作業集計
導入効果
  • パッケージ標準機能で業務標準化とマスター統一を実現。マスターデータの自動連携により、管理工数やミスの削減
  • 約8営業日程度かかっていた管理会計の予実集計作業が、1営業日程度で完了

部署異動が多い同社ですが、ProActiveの導入により業務標準化が実現したことで、どこの部署に異動しても同じやり方が通用するようになりました。今後は、管理会計のより高度な分析や、経理業務のさらなる効率化に向けた取り組みが期待されています。

関連記事:導入事例|ほけんの窓口グループ株式会社

(2)ミナトホールディングス株式会社

国内グループ9社の会計システムをProActive C4で統一して連結決算業務を効率化

エレクトロニクス技術を強みとし、近年はM&Aによるシナジーで成長を続けるミナトホールディングスは、グループ各社の会計システムを統一し、決算業務の効率化を実現するため、クラウドERP「ProActive C4」を導入しました。

課題
  • グループ各社で会計システムが統一されていないため、四半期および本決算での連結財務諸表の作成が非効率
  • 各社の会計システムに直接アクセスすることができず、各社の経理担当者とのやり取りに時間がかかる
効果
  • 3カ月分のグループ間取引の集計に2日かかっていた作業が、ボタン1つで完了
  • クラウドでの利用により、グループ間でネットワークの制約を受けないスムーズなアクセスを実現

導入には約7カ月がかかりましたが、グループ各社のシステムが統一されたことで連結決算のための作業が大幅に効率化されました。画面や各種帳票のレイアウトが揃えられたことで、各担当者とのコミュニケーションにかかる時間やコストも削減されました。

関連記事:導入事例|ミナトホールディングス株式会社

8. まとめ

ERPは、企業のさまざまな業務をひとつのシステムで管理する仕組みです。人事・経理・販売・在庫などの情報を一元管理し、リアルタイムで共有できる特徴があります。これにより、業務の効率化やコスト削減、迅速な意思決定が可能です。

ERPには、インターネット経由で利用するクラウド型と、自社で管理するオンプレミス型があります。また、機能性や対象範囲によって導入に適したERPが異なります。

導入時は、自社の目的との適合性や費用対効果・サポート体制を十分に検討しましょう。

小野 光

株式会社オムニオン
代表取締役
小野光

大手コンサルティングファームPwCにてSCMや会計などの大規模ERPパッケージ(SAP)導入プロジェクトに深く携わり、SAPのスキルを磨き独立。
独立後も、SAPコンサルとして、製造・販売・商社・小売・エネルギー・機械メーカーと様々な業界で大手クライアントのプロジェクトを多数経験。

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