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2023.12.11
経理財務トピックス

経理・会計業務を標準化する流れ:メリットや成功のポイントを説明

多くの企業では、経理・会計業務が長年変わらぬ方法で続けられている場合が多いのではないかと思います。これは一見安定しているように見えますが、専門的な知識やスキルが求められるため、業務が特定の人に依存し、非効率的でミスが発生しやすい状況に陥っている可能性があります。

この記事では、経理・会計業務の標準化の重要性や標準化する流れ、ポイントを解説します。また、経理・会計における業務標準化の成功事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

1. 経理・会計業務の標準化が重要な理由

経理や会計業務の標準化が必要な理由として、業務が属人化しやすい点が挙げられます。

経理や会計は専門的な知識やスキルが必要な業務です。そのため、スキルを持った担当者だけに任せており、業務の手順や方法を担当者しか分かっていないという状況が生まれやすくなります。また、長年同じ従業員が担当しているケースも少なくありません。その人でしか把握できない業務が増えると、管理が行き届かなくなり業務がブラックボックス化してしまいます。その結果、引継ぎが難しくなったり、トラブルが起きた際に原因や経緯を検証することが難しくなったりすることがあります。他には不正に繋がってしまうケースもあるかもしれません。

経理や会計業務は、会社の経営判断に関わる重要な情報であり、高い精度が求められます。そのため、経理・会計業務の標準化を行うことで、担当者が変わっても高い品質で業務を遂行できるよう環境を整えることが重要です。

2. 経理・会計業務を標準化するメリット

経理・会計業務の標準化により、属人化を防ぐ以外にも以下のようなメリットがあります。

• 生産性が向上する
• 業務品質が向上する
• 人材育成の負担を軽減できる
• 成果目標が設定しやすい

標準化する際には手間がかかりますが、それ以降は担当者と会社の双方にとって良い効果があるでしょう。
ここでは、上で挙げた4つのメリットを詳しく解説します。

(1)生産性が向上する

業務の標準化を行うことで、効率的な業務運営が実現し、企業全体の生産性が向上します。これまで見えにくかった業務プロセスを明確にし、業務フローやタスクの最適化を図ることで、不必要な作業や非効率な部分を減らすことができます。
その結果、処理スピードが上がり、作業時間の削減が可能となります。これにより、より価値の高い業務に時間を割くことが可能になるのです。

(2)業務品質が向上する

業務の標準化によって、担当者の能力や経験に依存せずに、一定の品質で業務を遂行することが可能になります。標準化されたプロセスを通じて、ミスが起きやすい箇所や重要なチェックポイントを共有できるため、誤りが少なくなります。これにより、業務品質の均一化が達成され、組織全体のパフォーマンスが向上します。
さらに、マニュアルに従った業務遂行は、不正防止やコンプライアンスの強化にも寄与します。業務品質の向上は、最終的に企業の利益につながる重要な要素です。

(3)人材育成の負担を軽減できる

業務を標準化することで、人材育成の負担を大きく軽減できます。
経理や会計のように定型業務が多い部門では、作業マニュアルの整備が特に効果的です。マニュアルがあれば、新人は基本的な業務スキルを容易に身につけることができます。また、標準化された業務フローは、先輩社員が新人に指導する際も役立ちます。
これにより、社員は自身のスキルアップにより多くの時間を割くことが可能になります。特に経理や会計の分野では、実務経験だけでなく、資格取得や勉強も重要です。新人が日常業務を効率よく学べることで、中堅社員のさらなるスキル向上にも貢献します。

(4)成果目標が設定しやすい

業務を標準化することで、成果目標の設定が容易になります。
特に経理や会計業務のように、「利益の増加」という直接的な指標で評価しづらい分野では、このアプローチが有効です。
標準化によって業務フローが明確になると、上司は各従業員がどれだけの仕事をしているかを具体的に把握できるようになります。例えば、「定めたスケジュールで業務を達成する」や「特定の業務を指揮する」といった目標を設定することが可能です。これにより、会社全体として人事評価を行いやすくなります。

3. 経理・会計業務を標準化する流れ

経理・会計業務を標準化する際には、以下の流れで行います。

経理・会計業務を標準化する流れ

ここでは標準化のプロセスについて、詳しく解説します。

(1)既存の業務の洗い出し

まずは、既存業務でどのようなことをしているのか、洗い出しを行います。
業務を標準化するには、どの業務がどのタイミングで必要なのか全て把握しておかなければなりません。

また、現状の経理・会計業務の内容やプロセスを調べることで、最適なやり方ができていない点や、無駄な業務フローなど、課題が見えてきます。今まで認識できていなかった課題を明確にするためにも、最初に既存業務を洗い出すことは重要です。

現場の担当者にしっかりとヒアリングし、以下をセットで洗い出しましょう。

• 業務内容
• 発生頻度・タイミング
• 工数
• 必要なスキル

既に作業フローをまとめた資料やチェックリストがあれば、業務の洗い出しに活用できます。既存の資料やチェックリストは、業務の標準化の際には新しいフローやルールに沿ったものに作り直しましょう。

(2)優先順位の設定

業務の洗い出しを行なった後は、標準化の優先順位をつけていきます。優先順位をつけておくと、重要な業務からスムーズに標準化を行えます。

優先的に標準化すべき業務は以下のようなものです。

• 課題がある業務
• 人によりやり方が異なっている業務
• 現状の担当者しか対応できないと支障が出る業務
• 経営面への影響が大きい業務

(3)課題の発見と改善案の策定

次に、業務の優先順位を考慮しながら、課題を見つけ、改善策を練る段階に移ります。

このプロセスでは、「ECRSの原則」というフレームワークが役立ちます。これは業務効率化の際に活用される手法で、以下の4つの要素で構成されています。

E(Eliminate)排除 不要な業務は削除できないか?
C(Combine)統合 複数の業務を一つにまとめられないか?
R(Rearrange)再配置 業務の順序を変更できないか?
S(Simplify)単純化 業務をよりシンプルにできないか?

たとえば、経理業務の効率化を目指す場合、ECRSの原則に従って以下のような改善が考えられます。

E(Eliminate)排除 不必要な資料確認や手順を省く
C(Combine)統合 小口現金の経費精算を給与振込に統合する
R(Rearrange)再配置 経理業務の担当者や順序を変更する
S(Simplify)単純化 ペーパーレス化を進めて書類処理を簡素化する

このようにECRSの原則を用いることで、課題の特定から改善策の創出までを効率的に行うことが可能です。

(4)マニュアルの作成

業務改善の方法が決まったら、次は実際の業務をスムーズに運用するためのマニュアル作成が重要です。

マニュアルがない場合、業務の実施において担当者による手順のばらつきが生じ、業務の標準化を達成することが困難になります。したがって、誰が担当しても同じ品質を保てるよう、業務手順や重要ポイントを網羅したマニュアルが必須です。

マニュアルには、以下の内容を含めることをおすすめします。

• 業務の手順:具体的な作業手順を明確にする
• 業務の位置づけ:全体の中で担う役割や関連性を説明する
• 業務の目的:なぜこの業務が重要なのかを明確にする

業務の全体像を理解し、その目的を把握することで、従業員はより意識を持って業務に取り組むことができます。さらに、マニュアルは紙ベースではなく、デジタル形式で作成することが推奨されます。テキストだけでなく、画像や動画を活用することで、業務の手順や方法をより直感的かつわかりやすく伝えることが可能です。

(5)PDCAで業務の見直し

マニュアルの作成後は、PDCAサイクルに基づいて業務の定期的な見直しを行います。

マニュアルを一度作成したからといって、業務の標準化が完全に終わるわけではありません。実際に現場で適用してみると、思わぬ支障が生じることもあります。運用していく中で新たな問題が見つかった場合は、その都度改善策を考え、新しい方法での運用に移行していくことが重要です。業務を常にアップデートし、最適化していく姿勢が大切です。

また、現状に満足してしまわないことも重要です。新しいツールや仕事効率化のトレンドは日々更新されています。より効率的な方法があるかもしれないという意識で、新しいアプローチを試してみることが推奨されます。例えば、「月に一度」など一定の間隔で、標準化されたマニュアルの見直しを行い、各業務について現状維持、改善、新たな試みなどを検討しましょう。

4. 経理・会計業務の標準化を成功させるポイント

経理・会計業務の標準化を成功させるポイントは、以下の3つです。

• 経理業務の標準化の目的を共有する
• 社員の意見を反映する
• ITツールやアウトソーシングを活用する

単にマニュアルを作成して業務手順を指定するだけでは、社員の仕事の質向上には限界があります。また、実際の業務を行う現場社員の声を反映させない標準化マニュアルは、使われない可能性が高いです。業務プロセスの見直しにとどまらず、ITツールの導入やアウトソーシングなど、より大胆な変更を検討することが、時には必要となるでしょう。

以下では、これらのポイントをどのように実現していくかについて、具体的に解説していきます。

(1)経理業務の標準化の目的を共有する

経理業務を標準化する際には、その理由や目的を現場の社員と共有することが不可欠です。
標準化により業務の効率は向上しますが、新しいやり方への移行は初期段階での負担増につながることがあります。特に、導入の初期には作業効率の低下が見込まれます。

社員が標準化の目的を把握していないと、新たな手法の導入に対して反発や不満が生じる恐れがあります。一方で、標準化が将来にわたって企業や部署、そして社員自身にメリットをもたらすということを理解してもらえば、チーム全体で積極的に取り組むことが可能です。

(2)社員の意見を反映する

業務を標準化する際には、現場の社員からの意見を積極的に取り入れることが重要です。
理論上は効率的でも、実際の作業現場では従来のフローよりも実施が難しい場合があります。現場で働く従業員は、日々の業務を通じて様々な改善案を思いつくことがあります。これら実用的なアイデアを標準化プロセスに反映させることで、実際に使いやすい効率的な業務フローを構築することが可能になります。

さらに、社員が自分たちの意見が反映されていると感じることで、仕事に対するモチベーションが高まります。これは、業務の質を向上させる副次的な効果も生み出します。

業務標準化を成功させるためには、現場の声を聞き、それを積極的に取り入れることが欠かせません。このように社員の参加を促すことで、より効率的かつ働きやすい職場環境を作り出すことができるでしょう。

(3)ITツールやアウトソーシングを活用する

業務プロセスの改善においては、手順の見直しに加えて、ITツールやアウトソーシングの活用もおすすめです。

例えば、SCSKが提供する「ProActive」は、国産初のERPとして、30年間、6,600社、300の企業グループを超える導入実績を持つERPパッケージです。豊富な機能と多彩な連携ソリューションで経理DX推進を支援します。
さらに、ProActiveではシステム提供だけでなく、株式会社ビジネスブレイン太田昭和(BBS)との共同で「経理・財務BPOサービス」も提供しています。SCSKのクラウドERP「ProActive」を利用、400社以上の大企業を中心にBPOの川上から川下までワンストップでサービスを展開してきたノウハウを活かし、高品質なサービスを提供します。

このように、ITツールやアウトソーシングサービスを活用することで、経理・会計業務の標準化と効率化を実現できる可能性が高まります。

経理・会計業務の標準化を成功させるポイントのひとつとしてITツールやアウトソーシングを活用する

5. 経理・会計業務の標準化に成功した事例

実際に経理・会計業務の標準化に取り組み、成功した事例を紹介しましょう。

ほけんの窓口グループ株式会社

ほけんの窓口グループ株式会社は、会社が事業拡大する過程で、スピードを重視して経理・会計のシステムを構築してしまい、会計業務の効率が悪く、属人化してしまっていました。

具体的には、販売・購買管理のシステムが会計システムと異なっていたため、入力の二度手間が生じていたうえ、どれがマスターデータなのかの管理も煩雑になっていました。また、管理会計ではExcelベースの手作業集計をしていたのも課題でした。

そこで、ERP「ProActive」を導入したところ、パッケージ標準機能で業務の標準化とマスター統一を実現し、マスターデータの自動連携によって管理工数の削減やミスの減少につながりました。
これまでは約8営業日かかっていた管理会計の予実の集計も、ProActiveで必要な項目を必要な単位で入手できるようになり、今では1営業日程度で完了します。

関連記事:導入事例|ほけんの窓口グループ株式会社

6. まとめ

経理・会計業務は、ブラックボックス化しやすい部門です。そのため、業務の標準化を行って、ミスや不正を防ぎつつ生産性と業務の質を高めることが非常に重要です。

業務効率化を行う際には、まず既存の業務を洗い出し、優先順位を定めます。次に、課題の発見と改善策の策定を行い、最適化された業務フローをマニュアル化して社員に共有します。マニュアル配布後も、運用中に新たに発見される問題点や改善の余地を定期的に見直し、マニュアルを更新していくことが重要です。

また、業務効率化のためには、ITツールの導入や業務のアウトソーシングを検討することも有効です。これらの方法を活用することで、業務プロセスをさらにスムーズにし、全体の効率を高めることができます。

TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士 藤間 秋男

TOMAコンサルタンツグループ株式会社(https://toma.co.jp/
代表取締役会長 公認会計士 税理士
藤間 秋男

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。
経営、税務会計、人事労務などの総合コンサルティング会社へと成長させた。
100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。
自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。
著書に、『即戦力仕訳例330:実用・実践仕訳 毎日経理で使える仕訳』(相立出版)、 『中小企業の「事業承継」 はじめに読む本』(すばる舎)などがある。

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