コラム

【2023年春解禁予定】給与のデジタル払いについて、社労士が解説
厚生労働省は、2022年9月13日に開催された労働政策審議会労働条件分科会において、スマートフォン決済アプリ口座等を使用した給与のデジタルマネーでの振り込みを2023年春に導入する方針を示しました。
今回は、給与のデジタル払いの導入にあたり、企業や労働者のメリット、デメリットについて、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が解説します。
1. 給与のデジタル払いとは
給与のデジタル払いとは、スマートフォン等の資金移動業者※のアプリを通じて給与を支払うことです。
※資金決済に関する法律に基づき、内閣総理大臣(財務局長に委任)の登録を受けて、銀行その他の金融機関以外の者で、為替取引を業として営む者(2022年7月末時点:85事業者)
給与のデジタル払いについては、キャッシュレス社会の推進や銀行口座の開設が難しい外国人労働者の受け入れに貢献するものとされています。
ただし、給与のデジタル払いには懸念点がいくつかあります。そのうちの一つが、労働基準法で定められている賃金の「通貨払い」の原則です。賃金は通貨で支払うことが原則ですので、給与のデジタル払いを実現するためには、現行の労働基準法では法令違反となってしまいます。しかし、この「通貨払い」の原則の例外として、労働基準法施行規則で「賃金について確実な支払い方法による場合」が認められています。これは、使用者が労働者の同意を得た場合に、賃金の支払いを次の方法で行うことができるというものです。
Ⅰ 労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み
Ⅱ 労働者が指定する金融商品取引業者に対する当該労働者の預り金への振込み
今後は、上述の2つの方法以外に給与のデジタル払いという第3の方法について、労働基準法施行規則が改正されると考えられます。
資金移動業者については、個人情報の観点から、決済情報など、把握する情報の内容や量が異なるため、個人情報保護法に加えて何かしら上乗せして規制を考えるべきとされています。次に、技術的能力や社会的信用の観点から、資金移動業者が、賃金支払いにあたって入金できない場合の振込エラー対策を行うことが必要であるとされています。
以下の図のように、労働基準法は厚生労働省、資金移動業者は金融庁と所管がまたがっているため、給与のデジタル払いを実現するためには、お互いに連携して課題解決しなければなりません。
2. 給与のデジタル払いを導入するメリット
労働者は、振り込まれた給与をチャージすることが不要になり、キャッシュレス決済が利用しやすくなります。また、口座開設することが難しいと感じる外国人労働者にとっては、大きなメリットとなるでしょう。特に、母国に送金している外国人労働者にとっては、手数料を減らすことができます。
企業は、「給与のデジタル払いを行っている」ということが、社内外へアピールする一つの手段となり、社員のモチベーションやエンゲージメントを高め、人材確保にも繋がるのではないでしょうか。
3. 給与のデジタル払いを導入するデメリット
給与のデジタル払いを導入するにあたって行うべきことは、社内規程の整備や給与システムの改修、仕様変更などが挙げられます。第1章でも触れた通り、労働基準法では賃金は通貨払いが原則ですが、現行の労働基準法施行規則では、その例外として労働者の同意を得た場合、銀行口座への振込みと証券総合口座への払込みによる賃金支払いが認められています。以上のことを給与規程や賃金規程に定めている場合は、デジタル払いを含む旨を追記する必要があります。給与システムの改修・仕様変更については、現在使用中のシステムが対応するかどうかを確認することがよいでしょう。もし対応しないことが分かれば、対応するシステムの選定作業も必要となります。
給与のデジタル払いが来年の春から解禁予定とはいえ、直前になってから社内体制を整備しても遅いので、導入を考えている企業は、今から対応を行う必要があります。
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4. おわりに
給与のデジタル払いは、2019年6月に開かれた国家戦略特別区域諮問会議において議論が行われてから注目を集めていましたが、それが本格的に動き出したと感じています。
給与のデジタル払いは、企業側が行わなければならないことがたくさんあります。しかし、政府の考えや諸外国でも導入されていることを考えると、今後、給与のデジタル払いは避けることはできないでしょう。また、社員にとっては十分メリットのある制度ですので、来年の春に向けて導入を試みる企業は、政府の動向に注視しながら早めに対策を講じるようにしましょう。

株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2016年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
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