コラム
年次有給休暇の取得促進について、社労士が解説
すべての企業は、年次有給休暇が年10日以上付与される労働者に対し、最低でも年5日の有給休暇の取得を保証しなければなりません。今回の記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、年次有給休暇の取得促進について、詳しく解説します。
目次
- 1 年次有給休暇とは
- (1)年次有給休暇とは
- (2)年次有給休暇の取得義務・促進の背景
- (3)年次有給休暇の取得条件と付与日数
- 2 社員に年次有給休暇を取得させるメリット
- (1)生産性の向上
- (2)人材の確保
- 3 企業が実践すべき年次有給休暇取得促進の方法とは
- (1)計画的付与制度の活用
- (2)年次有給休暇取得奨励日の設定
- 4 10月の「年次有給休暇促進期間」について
- 5 おわりに
1. 年次有給休暇とは
(1)年次有給休暇とは
年次有給休暇は労働者の権利であり、心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を確保するための制度です。1日単位での取得はもちろん、半日単位や時間単位(労使協定の締結が必要)での取得が可能です。
(2)年次有給休暇の取得義務・促進の背景
下図を見て分かるとおり、全体の約4割の労働者は、年次有給休暇の取得にためらいを感じています。
年次有給休暇の取得にためらいを感じる理由としては、半数の労働者が「周囲に迷惑がかかること」と回答しています。
長時間労働に起因する過労死の問題を契機として、2019年4月1日に、年10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者には、年5日以上取得させることが労働基準法で明文化されました。
(3)年次有給休暇の取得条件と付与日数
年次有給休暇は、以下の2点を満たしていれば取得することができます。
- ①雇入れの日から6か月継続して働いていること
- 「継続して」とは、労働契約の存続期間を指すとされています。
育児休業や休職など、実際に働いていなくても、継続して働いていると判断されます。 - ②全労働日の出勤率が8割以上であること
- 「全労働日」とは、1年間(雇入れ時だけは6か月)の暦日数から、会社が定める休日数を除いた日数になります。
一方で、業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間、産前産後の休業期間、育児・介護の休業期間は出勤したものとされています。
また、所定労働日数が少ない短時間労働者(パートタイマーやアルバイトなど)の年次有給休暇の日数は、所定労働日数に応じて付与されます。
付与の対象となるのは、所定労働時間が30時間未満、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者になります。
出典: 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 | 年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説
表中太枠で囲った部分に該当する労働者は、2019年4月から義務付けられた「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象となります。
2. 社員に年次有給休暇を取得させるメリット
(1)生産性の向上
しっかり休むことにより生産性の向上が期待され、労働時間が削減し、結果としてワークライフバランスに繋がることが考えられます。
また、企業においても、対外的に働きやすさをアピールすることができます。
(2)人材の確保
求人募集をする上で年次有給休暇の取得率は一つのアピールとなるため、優秀な人材を確保できる可能性が高くなります。
また、人材が定着することにより、エンゲージメントの向上にも繋がります。
3. 企業が実践すべき年次有給休暇取得促進の方法とは
(1)計画的付与制度の活用
年次有給休暇は、原則として労働者が取得するときに与えなければなりませんが、労使協定によって与える時季に関する定めをしたときは、計画的付与を行うことができます。
計画的付与は、各労働者の年次有給休暇のうち5日を超える日数において、事前に日にちを決めることができる制度です。
計画的付与を導入するには、就業規則に規定した労使協定を締結する必要がありますが、企業は年次有給休暇を管理しやすくなり、労働者も周りに配慮することなく休むことができるというメリットがあります。
(2)年次有給休暇取得奨励日の設定
計画的付与とは違い、任意で年次有給休暇の取得を促します。
あくまで任意なので、取得するかどうかは労働者の裁量に任せられますが、上長・所属長等が積極的に取得することで年次有給休暇の取得促進に繋がりやすくなります。
4. 10月の「年次有給休暇促進期間」について
厚生労働省は、毎年10月を年次有給休暇取得促進期間として広報活動を行っています。
下図のとおり、令和4年の年次有給休暇の取得率は、過去最高の58.3%ですが、政府は、令和7年までに年次有給休暇の取得率を70%とすることを目標としているため、まだ乖離がある状況です。
そのため企業は、計画的付与や年次有給休暇の取得奨励日を積極的に活用し、取得率を上げていくことが求められます。
5. おわりに
年次有給休暇の取得をするのに、多くの労働者はためらいを感じています。労働者が積極的に年次有給休暇を取得できる環境を整備することは、企業の責務になります。企業に合った年次有給休暇取得促進の方法を取り入れることを考えましょう。
また、企業は誰が何日取得したのかを管理する必要があります。基本的な知識を身につけることはもちろん、適切に把握することができる勤怠管理システムを導入することも視野に入れると良いでしょう。
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株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
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