コラム
労働時間管理について、社労士が解説
労働時間とは何か、どういう時間が労働時間に該当するのか、明確に考えたことはありますか?労働時間の管理は、企業にとって最も重要な責務といえます。
今回の記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、労働時間管理の重要性について解説します。
目次
1. 労働時間管理の必要性
(1)労働時間とは
「労働時間とは何か」と聞かれたときに、どのようなイメージをするでしょうか。働いている時間だけでしょうか。それとも手待ち時間も含めて労働時間と認識されるでしょうか。労使の労働条件について拘束力を持って規律する労働基準法においては、労働時間について具体的には定義されていません。労働基準法32条において、「使用者は、労働者に休憩時間を除き1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならない。」と就労可能な時間を示すにとどまっています。この就労可能な時間を、以降、労働時間としますが、どのような時間が労働時間とされるかは、裁判例やガイドラインによって示されており、以下のようにまとめることができます。
つまり、労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、就業規則等に定められている時間であるかによって決定されるべきものではありません。いわば、所定労働時間に限らないということです。この「使用者の指揮命令下に置かれた時間」とは、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間も含みますので、直接的に業務指示をしていない時間であっても、当然に労働時間となりえる点が重要です。
以上のことから、労働時間には休憩時間を除いた拘束時間はすべて該当してきますので、労働からの解放が完全に保障されていない時間については、労働時間として管理しておくべきでしょう。一般的には、電話当番や、仮眠時間、研修時間といった時間も含まれます。
(2)ガイドラインによる労働時間の適性把握義務
このように労働時間は広く定義されていますが、具体的な把握方法については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」において適性把握義務として下記の通り示されています。
このように、労働時間の把握義務は非常に厳しく策定されています。また、把握する者は、「使用者」とされていますので、労働基準法上の使用者にあたる方は特に責任が求められるといってもよいでしょう。
(3)労働者と使用者の定義 ~労働時間管理は直接雇用者以外にも適用される~
労働基準法にいう労働者とは、職種を問わず、事業又は事業場に使用される者で、賃金を支払われる者を示します。つまり、原則、その職場で就労している場合には派遣労働者や出向社員であっても「労働者」にあたりますので、直接雇用であるかに関わらず、労働時間を適切に把握することが使用者には求められます。
一方で、使用者とは、労働者を使う者ということで、社長や法人そのものを思い浮かべることが多いかと思います。しかしながら、実は、労働基準法において使用者とは、社長に限定されず、下記の3つの立場に該当する者が使用者として定義されています。
ここで特に注目したいのは、③に該当する人です。
勤怠管理の承認権限を有している労働者は、勤怠管理に限っては労働基準法上の使用者として位置付けられると考えられます。そのため、労働者でありながらも使用者としての役割もあるため、勤怠管理が曖昧になり、結果として36協定違反に及んでしまった場合には、労働基準法上の罰則を受けるほか、労働基準監督署における臨検に際しては、書類送検対象となりえる点も忘れないでいただきたいところです。例えば、静岡三島労働監督署事件では、法人と課長が送検対象としてあげられている点も注目できます。
2. サービス残業のリスクと弊害
(1)サービス残業とは
所定労働時間外に労働時間の一部又は全部に対して所定の賃金又は割増賃金を支払うことなく労働を行わせることをサービス残業と呼びます。このサービス残業は厄介で、本来は労働時間であるはずなのに賃金を支払うことなく就労させているため、賃金の未払い問題はもちろんのこと、適切な労働時間の把握義務にも影響を及ぼします。
サービス残業が生じる原因には、労働者側の要因として、
①自己申告が不正確であること
②労働時間を過少申告していること
③打刻・申告漏れ、打刻しない(故意に打刻をしない)
といった行為があげられます。使用者側の原因としては、
①給与計算時の端数処理の誤り
②黙示の残業命令
といった行為があげられます。
(2)黙示の残業命令の危険性
サービス残業が発生する要因の一つである「黙示の残業命令」とは、使用者が行う言動で、明確に残業命令や業務命令を与えていないものの、労働者が業務命令であると認識し得る言動が該当します。つまり、使用者にその気がなくても、労働者が残業命令であると受け取ってしまえば、それは黙示の残業命令に繋がると解釈できます。ここで生じた残業は、使用者の指揮命令下に置かれたものなのか(=労働時間に該当するのか)判断することは困難であり、多くの場合、「勝手に残業したのだから、自己責任だ」といった使用者の言い分は通じず、事案を詳細に検討したうえで、黙示の残業命令を肯定している裁判例が多い点に気を付ける必要があります。
このような事情からも、明示の指示を行うことで労働時間を明確にし、適切な勤怠管理につなげていく工夫が求められると言えます。
(3)時間外労働・休日労働に関する協定(通称36協定)の遵守
法定労働時間を超えて労働が生じる場合には、36協定の締結が必要です。この36協定の内容に違反することや、届出をせずに残業を行わせてしまうと、労働基準法違反の疑いで書類送検されることもあり得ます。送検された事実は公表されるため、企業にとっては大きな打撃に繋がることもあります。まずは、各事業場で締結している36協定の内容を確認し、残業時間が協定に定める範囲に対して適正かどうか、いま一度確認しておくことをお勧めいたします。
3. 適切な労働時間の管理のために企業が行うべきこと
(1)使用者としてできること
適正に労働時間を管理するには、まずは黙示の残業命令をなくし、サービス残業をなくすことが挙げられます。そのためには、あいまいな指示を避け、残業を許可制にすることや、許可なく残業を行う社員には声をかけるなど、上司としての配慮が求められるでしょう。また、労働者ごとの性格を鑑みて、黙示の残業命令と受け止められないように適切な指示をすることも重要です。
(2)勤怠管理システムの導入
ガイドラインでも挙げているように、使用者には、適切に勤怠を管理する義務があります。始業・就業の時刻を客観的に把握する方法として、信頼できる勤怠管理システムの導入は心強いものではないでしょうか。勤怠管理システムは数多くありますが、その中でも自分たちに一番合ったシステムを見つけることで、使用者による労働時間の適性把握を助けることはもちろんのこと、給与システムとの連携で業務効率化が期待できるなどメリットも多くあげられます。
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4. おわりに
使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる時間とは、客観的に定まるものであって、就業規則や雇用契約書によって決定されるわけではないということを忘れないでいただければと思います。労働時間の概念は広く、その管理が複雑となることも想定できます。特に36協定違反による送検は毎年見受けられていますので、特に気にかけてみると良いでしょう。勤怠管理システムの導入も視野に入れながら、適切な勤怠管理を実行できる環境を整えることも重要です。
株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
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