コラム

企業のハラスメント防止について、社労士が解説
厚生労働省では、12月をハラスメント撲滅月間と定めています。2020年6月には、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下、労働施策総合推進法)が施行されました。中小企業においては、2022年4月から施行されます。人事・総務ご担当の方は、自社のハラスメント対策について今一度確認しましょう。
今回の記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、企業のハラスメント問題について解説します。
1. はじめに〜ハラスメントについて〜
ハラスメントとは、色々な場面での『嫌がらせ、いじめ』を言います。その種類は様々ですが、他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えることを指します。重要なことは、どのように感じ、捉えるかは個人によって違うということであり、この点を十分意識して行動することが必要です。
2. 職場におけるハラスメントの種類と概要
企業内で起こりうるハラスメントは色々な種類があります。最も発生件数が多いとみられているものが、パワーハラスメントです。厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」において提案されたパワーハラスメントの定義は以下の通りです。
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
(参考)厚生労働省 | 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告
以上から、パワーハラスメントは、①優越的な関係に基づき、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③労働者の就業環境を害すること(身体的・精神的な苦痛を与えること)、と整理することができます。
「職場の優位性」という言葉で表現されている通り、パワーハラスメントは、一般的に上司から部下への行為が多いと考えられていますが、それ以外にも、先輩・後輩間、同僚間、さらには、部下から上司、パート社員から正社員の行為も該当しますので注意しましょう。例えば、職務遂行のための知識や経験も優位性の1つと言えます。
また、他のハラスメントに、セクシュアルハラスメントがあります。男女雇用機会均等法において、職場におけるセクシュアルハラスメントとは、以下のことをいいます。
- 1. 職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)
- 2. 性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること(環境型セクシュアルハラスメント)
(参考)厚生労働省 | 職場におけるハラスメントの防止のために
判断基準としては、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされています。当事者の主観性や労働者間の関係性には重きが置かれませんので十分気を付けましょう。
さらに、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントもあります。男女雇用機会均等法、育児・介護休業法において、以下のことをいいます。
- 1. 産前休業、育児休業などの制度や措置の利用に関する言動により就業環境が害されるもの
(制度等の利用への嫌がらせ型) - 2. 女性労働者が妊娠したこと、出産したことなどに関する言動により就業環境が害されるもの
(状態への嫌がらせ型)
(参考)厚生労働省 | 職場におけるハラスメントの防止のために
女性の妊娠・出産・育児に限らず、育児のための休暇・短時間勤務を申し出る男性に対する嫌がらせや、介護のための休暇・短時間勤務を申し出る者に対する嫌がらせも含まれます。
制度等の利用を希望する労働者に対する変更の依頼や相談は、強要しない場合に限り業務上の必要性に基づく言動となり、ハラスメントに該当しませんが、労働者の意を汲まない一方的な通告はハラスメントとなる可能性があります。
最後に、コロナ禍において注目を集めているテレワークハラスメント・リモートハラスメントというものがあります。これは、ウェブカメラを通して見える相手のプライベート(部屋の様子や同居人の生活音、服装等)に関わる事項の指摘、業務遂行に必要な範囲を超えた干渉、そして性的な言動といったハラスメント行為を指します。また、相手の通信インフラへの苦情や私費での改善の強要、過度の監視等、業務時間内外問わず、精神的に過度の圧迫感を与える行為もリモ-トハラスメントに含まれます。
多岐に渡るハラスメント行為ですが、その発生件数は近年増加傾向にあります。
3. 人事が知っておくべき法改正の内容とハラスメント対策
労働施策総合推進法の改正に伴い、企業に義務化された内容は以下の通りです。
- ① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- ② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- ③ 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- ④ その他併せて講ずべき措置
ハラスメント防止のために、企業は講ずべき措置を行わなければなりません。一方で、労働者も、ハラスメントについて適切な知識を身につけることが重要です。なぜなら、妊娠・出産・育児休業におけるハラスメント等、社内の休暇制度を知らないが故に発生してしまうケースもあるためです。12月はハラスメント撲滅月間に指定されておりますので、労働者に対する啓発を積極的に行っていきましょう。
また、ハラスメントの防止には、コミュニケーションが非常に大切です。適切な報告、困ったことがあれば相談できる環境は、仕事の負担具合の共有に繋がり、過重状態を避けることができます。さらに、思い込みや必要以上の我慢が人間関係を壊すこともありますので、アサーティブなコミュニケーションを心掛け、意識のギャップや誤解・思い違いをなくしましょう。
ほかにも、自分自身の性格を理解したうえで、単に行動を気を付けるだけでなく、怒りの感情をコントロールし、相手に対して心を開いて話を聴く、相手の立場になって考えてみる等、心の内側から気を付けることも大切です。状況や相手によっては、良かれと思ってした指導がハラスメントと誤解されてしまう場合もありますので、時々振り返ってみると良いでしょう。
そして、もしハラスメントが発生してしまった場合の対応についてもあらかじめ決めておくと良いでしょう。下記は一般的な相談の流れです。
相談対応を受ける上で重要なことは、決して私情を持ち込まず、中立な立場の人間として話を聞くことです。公正中立な態度で受け入れ、同意を得てからメモ等の記録を残すようにしましょう。ハラスメントと感じるかどうかは、個人の主観により変わることがありますので、相談者からのヒアリングを受けた後は、事実確認のため行為者や周囲からヒアリングが必要になります。この際にもプライバシーの保護には十分に配慮しましょう。中立な立場を意識して「相互の誤解をなくすこと」をポイントにヒアリングすると良いでしょう。
4. おわりに
労働施策総合推進法が改正され、中小企業は2022年4月から、パワーハラスメントの防止のために必要な措置を講じることが義務化されます。人事・総務担当者の方は、義務化された措置はもちろんのこと、対策について検討してください。積極的なコミュニケーションを通じて、ハラスメントのない企業を実現しましょう。

株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2016年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
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